2年微能力組!~微妙な能力で下克上!~

阿弥陀乃トンマージ

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第一章

第3話(1)風紀の乱れ

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「あ~ちょっと、そこの君!」

 ある朝、校門で日光が七三分けの生徒に呼び止められる。

「なんだ? ティッシュならば結構だ」

「誰がティッシュ配りをしている!」

「宗教の勧誘なら間に合っている」

「勧誘でもない! ……間に合っている?」

「そうだ、俺自身が神に近しい存在だからな!」

 日光はポーズをビシっと決める。

「なっ……」

 七三分けが唖然とする。

「ふっ、言葉も出ないか……」

「ま、待て!」

 その場を颯爽と立ち去ろうとする日光を七三分けが慌てて呼び止める。日光はうんざりした様子を見せる。

「……なんだ?」

「なんだはこっちの台詞だ! その服装は一体どういうことだ⁉」

 七三分けは日光の学ランを指差す。日光は首を傾げる。

「学ランというものだが?」

「そんなことは知っている!」

「ならば良いではないか」

「良くない! 何故学園指定の制服を着用していない?」

「……つい先日からこの学園に転校してきたばかりなものでな……」

 日光は肩をすくめる。

「春休みを挟んでいるじゃないか! 急な転校でもないなら、制服を用意する余裕は十分にあったはずだ!」

「まあ、正論だな」

「み、認めるのか⁉」

「……しかし、面白くない」

「は⁉」

 日光の言葉に七三分けの男が戸惑う。

「皆と同じ格好をしていてもしょうがないだろう? 学ランこそが俺のアイデンティティの一部なのだ」

「な、何を訳の分からんことを……!」

「大体なんだ? さっきから因縁をつけてきて……」

「因縁などつけていない! 風紀を正しているのだ!」

「風紀?」

「そうだ!」

「ひょっとしてあれか? 風紀委員というやつか?」

「他になにがある!」

「はあ……」

 日光はため息をつく。

「な、なんだ、そのため息は⁉」

「この学園は少し変わっていると思ったのだが、存外普通なのだな……」

「そ、それの何が悪い!」

「……」

 日光は黙って七三分けを見つめる。

「な、なんだ⁉」

「風紀……社会生活の秩序を保つための規律だな?」

「そ、そうだ!」

「ならば問おう。俺一人が学ラン姿だからと言って、この学園の秩序はそんなにあっけなく乱れてしまうものなのか?」

「な、何を言っている……⁉」

「その程度で乱れる秩序の脆弱性を憂いた方が良いと思うがな……」

「な、何を……!」

「この問答で俺が遅刻する可能性が高まるのだが、それについては? その方がよっぽど問題なのではないのか?」

「む……」

 七三分けは答えに窮する。日光はフッと笑う。

「俺の言いたいこと、主張したいことは述べた。もしなにか反論などが思い付いたら、その時聞かせてくれ。それでは」

「む、むう……」

 日光のよく分からない圧に圧され、七三分けは黙って日光の背中を見送る。

「……まあ、そういうわけで朝から大変だった」

「馬鹿なの、アンタは⁉」

「ば、馬鹿とはなんだ」

 照美の言葉に日光はムっとする。

「仮にも一つのクラスの副クラス長という要職に就いている人間が、風紀委員と言い争いをしているんじゃないわよ!」

「言い争いにもなっていなかったが」

「それはどうでも良いのよ」

「どうでも良いのか」

「ええ、まったくどうでも良いわ。ただでさえこのクラスは目が付けられやすいんだから、少しは大人しくしていてよ……」

 照美が片手で頭を抱える。日光が両手を広げる。

「大人しく対応したつもりだが?」

「屁理屈をこねたんでしょう?」

「俺の中では正論だ」

「アンタの中では正論ということは外に出したら曲論なの」

「随分な言われようだな」

 日光は苦笑する。

「まったく……去り際にそういうことを言ったのなら、その七三分けの風紀委員、この教室までやってくるわよ?」

「そこまで暇ではないだろう」

「風紀委員としての職務を全うにこなすのなら、なによりも優先して解決すべき事項なのよ、アンタの制服問題は」

 日光は腕を組んで首を捻る。

「しかしだな、実際俺一人が学ランだからと言って、風紀が乱れるか?」

「アンタを見て、学園指定の制服を着なくても良いんだ!と感化される生徒が出てきたら問題になるでしょう」

「俺に感化される生徒はなかなか見込みがある奴だ」

「どうしてそうなるのよ……」

「型にはまっていないからな」

「この場合ははまらないと駄目なの!」

「真面目だな、照美は。学級委員長のようだ」

「ようだじゃなくてそうなの! 名義はクラス長だけどね! とにかく制服は明日からでもブレザーに着替えてきた方が良いわよ」

「ネクタイというものは……」

「え?」

「息が詰まる……自由を束縛されている気がしてならない」

「アンタはちょっとくらい束縛された方がちょうど良いのよ」

「おはよう! 諸君‼」

「げっ……」

 教室に全身赤色で統一した制服姿の生徒が入ってきた。ブレザー姿だが、声色からして女子生徒だろう。切り揃えられた赤い短髪と端正なルックスを兼ね備えたこの女の子は教室中央付近に座る、学ラン姿の日光を見て驚く。

「き、君! なんだね、その恰好は⁉」

「い、いや、それはこっちの台詞だ⁉」
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