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第一章

第2話(3)陰キャの反動

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「あれは副クラス長の……本荘聡乃とか言ったか?」

「ええ、こんな公園で何をしているのかしら?」

「ダ、ダメです……」

「ああん? お前の所有物じゃないだろう?」

「そ、それはそうですが……」

 聡乃は制服姿の男子たちに囲まれている。

「それなら止める権利はないはずだ」

「は、はい、そうですかという訳にはいきません……」

 聡乃は小声でボソボソと呟く。

「ああん? だから、さっきからほとんど聞き取れねえんだよ! っていうかちゃんと人の目を見て話せよ!」

「ひっ……」

 大声を上げる男子に聡乃が怯む。照美が顔をしかめる。

「もしかして絡まれているのかしら」

「なんらかの問題が発生しているようだな」

「ちょっと止めてくるわ」

「待て」

 日光が照美を制する。

「え?」

「少し様子を見てみよう」

「少しって……」

 男子のうちの一人が声を上げる。

「だから! その木の上にいる鷹のヒナは俺らが貰うって言ってんだ!」

「な、なんでそんなことを……」

「知らねえけど、鷹のヒナは結構高く売れるらしいからな。珍しいしよ!」

「そ、そういう方に渡すわけには……」

「同じことを言わせんな! お前のものじゃないだろうが!」

「そ、そうですけど……ここまで頑張って成長したんですよ」

「そんなこと知るかよ!」

「そ、そんなことって……」

「とにかく、そこをどけよ!」

「き、きゃっ!」

 男子が聡乃を押し退ける。聡乃は転びそうになる。

「おっと」

「!」

 聡乃を日光が受け止める。日光が呆れる。

「女に手を上げるとはな……」

「ああん?」

男子が日光を睨む。日光が苦笑交じりに首を振る。

「見たところ中等部の連中か? まだまだ振る舞いがガキだな」

「なんだてめえは⁉」

「三下に名乗る名前などない」

「なんだと⁉ おい、こいつをやっちまえ!」

 男子たちが日光たちを取り囲む。日光が聡乃に語りかける。

「本荘聡乃……」

「は、はい……!」

「俺と……友達になってくれないか?」

「え、ええ……?」

「駄目か?」

「だ、駄目っていうわけじゃないですけど……わ、私なんかと友達になっても全然面白くないと思いますよ……」

「面白いか面白くないかは友達付き合いをしてみないと判断出来ないことだ」

「‼」

「……どうだ?」

「わ、分かりました」

「決まりだな」

 日光は眼帯をめくって聡乃を見つめる。

「え、え?」

「俺の左眼は何色だ?」

「え、えっと……赤色です……」

「そうか……」

「何をごちゃごちゃと言ってやがる! おい、お前ら! こいつを始末するぞ!」

「はっ! 面白え! おめえらに出来んのかよ!」

「⁉」

 日光の突然の叫びに男子たちが怯む。

「まあいい! せいぜい俺を楽しませてくれよ!」

「くっ、かかれ!」

「おらおらあ!」

「ぐふっ!」

「うごっ!」

「どわっ!」

「どうしたどうした! そんなもんかよ! もっと俺と踊っちまおうぜ!」

「ぐっ……」

「なるほど、左眼が緑色の場合は邪気眼系の中二病で、赤色の場合はDQN系の中二病になるっていうわけね……」

「あ、東さん……」

「大丈夫? 聡乃さん」

「え、ええ……」

「おらおら!」

 日光が男子たちをボコボコにする。男子が叫ぶ。

「くっ! こい! ジョン!」

「ワン!」

「あん?」

 男子の呼びかけに応え、大型犬が現れる。

「あのイカレた野郎にお仕置きしてやれ!」

「ワンワン!」

 大型犬が日光に飛びかかる。

「うおっ⁉」

 日光が成す術もなく覆いかぶさられる。照美が声を上げる。

「日光君、どうしたの⁉」

「ワ、ワン公には手を上げられねえよ……」

「時折見せるヤンキー特有の優しさ!」

「照美! お前の炎上でなんとかしろ!」

「わ、私もワンちゃんにはあまり酷いことはしたくないっていうか……」

「くっ……」

「ふん!」

「なっ⁉」

 いきなり飛んできた鋭い鞭によって、大型犬が怯む。

「犬っころよお! 痛い目遭いたくなかったら、そのアンちゃんから離れな!」

 鞭を振るったのは前髪をかき上げ、両目を出した聡乃であった。日光が驚く。

「ほ、本荘聡乃⁉」

「おらあっ!」

「! ワンワン!」

「あっ! ジョン!」

「てめえらもだよ!」

「ちっ、に、逃げるぞ!」

 男子たちが慌てて逃げだす。

「はっ、口ほどにもねえな! ……はっ!」

「さ、聡乃さん?」

 照美が聡乃に声をかける。聡乃ががっくりと肩を落とす。

「ま、またやってしまいました……」

「またって……」

「……恐らくそれがお前の微能力というわけか」

「あ、日光君、正気に戻ったのね」

「正気って……確かにちょっとイカレていたが……」

「ちょっとどころじゃなかったわよ」

「まあそれはいいだろう」

「そうね。今の鞭が聡乃さんの微能力?」

「鞭というか、あの豹変ぶりだろうな……」

 日光が顎に手を当てて呟く。照美が首を傾げる。

「豹変ぶり?」

「人の目を見て話せない、ボソボソとした話し方……そこから判断するに、本荘聡乃、お前の微能力は『陰キャ』だろう?」

「そ、そんな馬鹿な……」

「せ、正解です……」

「正解なの⁉」

 聡乃の言葉に照美が驚く。

「は、はい……」

「じゃあ、あの鞭は? それに豹変ぶりも……」

「陰キャが間違った方向に弾けてしまった表れだろう」

「そ、それも当たりです……」

 日光の推測に聡乃は頷く。

「当たりなんだ……」

「こ、このような微能力では、やはり副クラス長なんてとてもとても……」

「微妙な能力も使いようだ」

「!」

 日光の言葉に聡乃はハッと顔を上げる。

「本荘聡乃……俺と友達になったからには、お前にも手伝ってもらう」

「て、手伝う? な、何をですか?」

「2年B組をより良いクラスにする為の活動だ」

「え、ええっ⁉ そ、そんなことが……」

「可能だ、お前の助けがあればな、聡乃」

「! わ、分かりました。微力ながらお手伝いさせて頂きます」

 聡乃は差し伸べられた日光の手を取る。
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