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第一章
第2話(2)中二病とプチ炎上
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「あ……」
「そろそろホームルームですよ、教室に入って下さい」
「は、はい……」
尼さんのように黒い法衣を着た女性は端正な顔をほころばせ、日光たちに向かって教室に入るよう促す。尼さんは挨拶もそこそこに自らの名を名乗る。
「え~今日から正式にこのクラスの担任になりました北闇尼地山(ほくあんにじざん)と申します。以後、よろしくお願いしますね」
地山は切れ長の美しい目を細めながら、うやうやしく頭を下げる。クラス中が黙ってその綺麗な所作を見つめる。
「……」
「……そういえば、東クラス長?」
「は、はい!」
いきなりの指名に照美は戸惑う。地山はフッと笑う。
「そんなに慌てなくても良いですよ」
「は、はい……」
「ちょっと決めておきたいことがありまして……」
「決めておきたいこと?」
「ええ、副クラス長です」
「! 副クラス長ですか?」
「そうです。東照美さん……貴女は無遅刻無欠席の真面目な生徒さんですが、一応代理を務めてもらう人物を決めておかなければなりません」
「は、はあ……」
「理想は男女一人ずつなのですが……」
地山は教壇からクラスを見回す。照美が言い辛そうに口を開く。
「ご覧のとおり、出席率が良くありませんので……そういった重要事項を決めるのはなるべく全員が揃ってからの方が望ましいかと思います」
「そう言って、結局昨年度は貴女一人に任せきりだったのでしょう?」
「え、ええ、まあ、そうですね……」
「それはとても健全なクラス運営とは言えませんね」
「ご、ごもっとも……」
「というわけで、ここで副クラス長を決めてしまいます」
地山が生徒名簿を開く。照美が慌てる。
「そ、それはいくらなんでも話が早すぎるのでは⁉」
「あくまでも仮にですよ……」
地山が照美に向かってウインクする。
「は、はあ……」
「えっと……ど・れ・に・し・よ・う・か・な・て・ん・の・か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り……」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
照美が思わず声を上げる。地山が驚く。
「ど、どうかしましたか?」
「い、いや、そんな適当な決め方……しかも尼さんが神様のいうとおりなどと……」
「結構細かいのですね、東さん」
地山が笑う。照美がムッとする。
「大事なことなのですよ!」
「分かっています。ほんの冗談です」
「冗談って……」
地山は名簿をパンと音を立てて閉じる。
「実は既に決めてあります」
「え?」
「男子の副クラス長は、出席番号18番、仁子日光君!」
「お、俺か⁉」
日光が戸惑いの声を上げる。照美が口を開く。
「せ、先生! 仁子君は昨日転校してきたばかりです。さすがに急すぎるのでは⁉」
「こういうのは変に先入観を持たない方が良かったりするのです」
「そ、そうは言っても……」
「先ほど、廊下でお話されていたのを耳に挟みましたが、仁子君、なかなかやる気は十分なようなので……」
「やはり聞いていたのか……」
日光が小声で呟く。地山が尋ねる。
「仁子君、引き受けて下さいますね?」
「ああ、分かった……」
日光は頷く。地山は話を続ける。
「それでは、女子の副クラス長ですが……出席番号25番、本荘聡乃(ほんじょうさとの)さん」
「わ、私……?」
クラスで窓から二列目の最後方に座る気弱そうな小柄な女子が首を傾げる。前髪が長く、両目がほとんど隠れている。地山が笑顔で告げる。
「本荘さんは学業優秀ということで選ばせて頂きました」
「い、いや、私にそんな大役はとても……」
聡乃は立ち上がって、両手を振る。
「あくまでも仮ですから、そんなに構えなくても大丈夫ですよ。どうしても無理だということなら、他の方と代わってもらいますから。お試し期間ということでよろしくお願いします」
「は、はあ……」
聡乃はここで何を言っても無駄だということを悟り、大人しく座った。地山が照美の方に改めて視線を向ける。
「……以上の人選ですが、いかがでしょう?」
「……仮なのですよね? それならばとりあえず構いません」
照美も渋々ながらも頷く。地山が告げる。
「二人の副クラス長には就任のご挨拶を頂きたいところですが、さすがに急ですからね、明日のホームルームでお願いしようと思います。お二人とも、考えておいて下さい」
「むう……」
「はあ……」
「それでは本日も授業を頑張りましょう!」
その日の放課後、照美が日光に声をかける。
「どうだった? 初の授業は?」
「能力研究学園だというから身構えていたが、案外普通の授業じゃないか。正直拍子抜けも良い所だぞ」
「それは基本的には普通の学校だからね……」
「まあいい、帰るか」
日光と照美は教室を出る。校門を出た辺りで照美が尋ねる。
「ねえ?」
「なんだ?」
「現状を把握するとかなんとか言ってなかった?」
「そうだったな……俺の微能力は『中二病』、眷属や同志、仲間、または友達を増やすことによってその力を引き出すことが出来る……」
「左眼が緑色だったのは?」
「あれはその日によって変わる」
「え? 変わるの?」
「ああ、それによって、引き出される中二病の能力も変化するのだ」
「そ、そういうものなのね……」
「それで、照美が『プチ炎上』か……スイッチとして語尾に『ンゴ』を付けなければならないのがややネックだな」
「ややじゃなくて、大分ネックよ」
「そういうのも考えようだ。ンゴを上手く活用する方法を模索すれば良い」
「イヤよ、そんな模索……あら?」
照美は聡乃の姿を見つける。
「そろそろホームルームですよ、教室に入って下さい」
「は、はい……」
尼さんのように黒い法衣を着た女性は端正な顔をほころばせ、日光たちに向かって教室に入るよう促す。尼さんは挨拶もそこそこに自らの名を名乗る。
「え~今日から正式にこのクラスの担任になりました北闇尼地山(ほくあんにじざん)と申します。以後、よろしくお願いしますね」
地山は切れ長の美しい目を細めながら、うやうやしく頭を下げる。クラス中が黙ってその綺麗な所作を見つめる。
「……」
「……そういえば、東クラス長?」
「は、はい!」
いきなりの指名に照美は戸惑う。地山はフッと笑う。
「そんなに慌てなくても良いですよ」
「は、はい……」
「ちょっと決めておきたいことがありまして……」
「決めておきたいこと?」
「ええ、副クラス長です」
「! 副クラス長ですか?」
「そうです。東照美さん……貴女は無遅刻無欠席の真面目な生徒さんですが、一応代理を務めてもらう人物を決めておかなければなりません」
「は、はあ……」
「理想は男女一人ずつなのですが……」
地山は教壇からクラスを見回す。照美が言い辛そうに口を開く。
「ご覧のとおり、出席率が良くありませんので……そういった重要事項を決めるのはなるべく全員が揃ってからの方が望ましいかと思います」
「そう言って、結局昨年度は貴女一人に任せきりだったのでしょう?」
「え、ええ、まあ、そうですね……」
「それはとても健全なクラス運営とは言えませんね」
「ご、ごもっとも……」
「というわけで、ここで副クラス長を決めてしまいます」
地山が生徒名簿を開く。照美が慌てる。
「そ、それはいくらなんでも話が早すぎるのでは⁉」
「あくまでも仮にですよ……」
地山が照美に向かってウインクする。
「は、はあ……」
「えっと……ど・れ・に・し・よ・う・か・な・て・ん・の・か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り……」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
照美が思わず声を上げる。地山が驚く。
「ど、どうかしましたか?」
「い、いや、そんな適当な決め方……しかも尼さんが神様のいうとおりなどと……」
「結構細かいのですね、東さん」
地山が笑う。照美がムッとする。
「大事なことなのですよ!」
「分かっています。ほんの冗談です」
「冗談って……」
地山は名簿をパンと音を立てて閉じる。
「実は既に決めてあります」
「え?」
「男子の副クラス長は、出席番号18番、仁子日光君!」
「お、俺か⁉」
日光が戸惑いの声を上げる。照美が口を開く。
「せ、先生! 仁子君は昨日転校してきたばかりです。さすがに急すぎるのでは⁉」
「こういうのは変に先入観を持たない方が良かったりするのです」
「そ、そうは言っても……」
「先ほど、廊下でお話されていたのを耳に挟みましたが、仁子君、なかなかやる気は十分なようなので……」
「やはり聞いていたのか……」
日光が小声で呟く。地山が尋ねる。
「仁子君、引き受けて下さいますね?」
「ああ、分かった……」
日光は頷く。地山は話を続ける。
「それでは、女子の副クラス長ですが……出席番号25番、本荘聡乃(ほんじょうさとの)さん」
「わ、私……?」
クラスで窓から二列目の最後方に座る気弱そうな小柄な女子が首を傾げる。前髪が長く、両目がほとんど隠れている。地山が笑顔で告げる。
「本荘さんは学業優秀ということで選ばせて頂きました」
「い、いや、私にそんな大役はとても……」
聡乃は立ち上がって、両手を振る。
「あくまでも仮ですから、そんなに構えなくても大丈夫ですよ。どうしても無理だということなら、他の方と代わってもらいますから。お試し期間ということでよろしくお願いします」
「は、はあ……」
聡乃はここで何を言っても無駄だということを悟り、大人しく座った。地山が照美の方に改めて視線を向ける。
「……以上の人選ですが、いかがでしょう?」
「……仮なのですよね? それならばとりあえず構いません」
照美も渋々ながらも頷く。地山が告げる。
「二人の副クラス長には就任のご挨拶を頂きたいところですが、さすがに急ですからね、明日のホームルームでお願いしようと思います。お二人とも、考えておいて下さい」
「むう……」
「はあ……」
「それでは本日も授業を頑張りましょう!」
その日の放課後、照美が日光に声をかける。
「どうだった? 初の授業は?」
「能力研究学園だというから身構えていたが、案外普通の授業じゃないか。正直拍子抜けも良い所だぞ」
「それは基本的には普通の学校だからね……」
「まあいい、帰るか」
日光と照美は教室を出る。校門を出た辺りで照美が尋ねる。
「ねえ?」
「なんだ?」
「現状を把握するとかなんとか言ってなかった?」
「そうだったな……俺の微能力は『中二病』、眷属や同志、仲間、または友達を増やすことによってその力を引き出すことが出来る……」
「左眼が緑色だったのは?」
「あれはその日によって変わる」
「え? 変わるの?」
「ああ、それによって、引き出される中二病の能力も変化するのだ」
「そ、そういうものなのね……」
「それで、照美が『プチ炎上』か……スイッチとして語尾に『ンゴ』を付けなければならないのがややネックだな」
「ややじゃなくて、大分ネックよ」
「そういうのも考えようだ。ンゴを上手く活用する方法を模索すれば良い」
「イヤよ、そんな模索……あら?」
照美は聡乃の姿を見つける。
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