上 下
6 / 51
第一章

第2話(1)現状の把握

しおりを挟む
                  2

「ふぁ……」

 日光が小さくあくびをする。嵐のような転校初日が終わり、学園に向かって登校している。そこに照美が声をかける。

「日光君、おはよう」

「ああ、おはよう、照美」

「な、名前呼び⁉」

「なんだ問題あるのか? 友達ではないか」

「い、いや、別にないけど……」

 照美が鼻の頭を指でポリポリとこする。日光が首を傾げる。

「何か問題があるか?」

「ちょ、ちょっと、気恥ずかしいというか……」

「恥ずかしいだと?」

「え、ええ……」

「そうか……やっぱり、ンゴンゴガールの方が良いか?」

「良くないわよ。何よそれ?」

「ニックネームだ」

「金輪際呼ばないでちょうだい」

「親しみを込めたのだがな……」

「込めたからそれで良いってものじゃないのよ」

「そういうものか」

「そういうものよ」

「ふむ……」

 日光は腕を組む。照美が話題を変える。

「それにしても昨日は驚いたわ」

「ああ、どんなに強い風を受けても完全にはめくれ上がらない照美のスカートにはな……」

「って、な、なにを言っているのよ!」

「どういう理屈だ? もしかして本当に鋼鉄で出来ているのか、その制服は?」

「ど、どこを見ているのよ! 普通の制服よ!」

 日光が照美のスカートをガン見する。照美がスカートの裾を抑える。

「どうしても気になるからな」

「正直に言わないで」

「時には正直さも必要だとか言っていただろう?」

「時と場合によるのよ」

「難しいものだな」

 日光が苦笑しながら首を傾げる。照美が軽く頭を抑える。

「えっと、なんの話だったかしら……そうそう、昨日の発言よ」

「発言?」

「ええ、1年生の子に向かって啖呵を切ったでしょう? B組を“落ちこぼれ”から“最高の連中”にしてみせるとかなんとか……」 

「そういえばそんなことも言ったな」

「そういえばって」

「いや、ちゃんと覚えているさ」

「あの……昨日も思ったのだけど……」

 照美が言い辛そうにする。

「ん?」

「本当にそんなことが出来るの?」

「さあな」

「さ、さあなって……」

 日光が首を捻る。照美が呆れ気味の視線を向ける。

「その場の勢いで言ってしまったところもある」

「そんな……」

「まあ、自らの発言には責任を持たないといけないな」

「え?」

「だから出来る限りのことはやってみるつもりだ」

「そ、そう……」

「行動を起こす前に現状を把握しなければならない」

「現状把握?」

「ああ、俺と照美の微能力を確認しなければな」

「え⁉ わ、私も⁉」

「当然だろう」

 日光は何を今更と言った顔を浮かべる。照美は首を傾げる。

「い、いや、私はちょっと……」

「クラスをより良くするためだ、クラス長として当然の責務だろう」

「それもなし崩し的にそうなったというか……」

「なし崩し?」

「ええ、出席番号1番だからとか……そういう理由よ」

「理由になっていないような気がするが」

「昨日も言ったでしょう? モチベーションが低いのよ……ほら見て」

 校舎に入り、階段を上がって、2年B組の教室まできた照美は教室内を指し示す。もうすぐ朝のホームルームだというのに、クラスメイトはまばらにしか登校していない。

「なるほど……」

「皆、おはよう!」

 照美が教室に入って元気よく挨拶をするが、ほとんどまともな返事は返ってこない。照美は日光の方に振り返って、肩をすくめる。日光が腕を組む。

「うむ……」

「昨年度からこういう調子よ」

「よく進級出来たものだな」

「まあ、出席日数などについてはあまりうるさく言わないから。試験などを受ければそれで良し、みたいなね……職員室の皆さまがこのクラスに興味を持っていないとも言えるけど」

「そうか……」

「廊下で話しましょう」

 照美は日光を廊下に連れていく。日光が尋ねる。

「試験の時は、クラス全員が揃うのだな?」

「ええ、そうね、ほとんど出席していたはずだわ」

「……ということは各自進級への意思はあるようだな」

「そ、それは確かにそうかもしれないけど……」

「簡単なことだ。どうせこの能研学園も他の学校と大差ないところがあるのだろう」

「ええ? 例えばどこよ?」

 窓から外を眺めていた照美が尋ねる。同じように外を見ていた日光が教室側に向き直る。

「だいたい、リーダーのような生徒が数人いるものだ……その生徒たちが強権的な態度を取っているか、もっと温和な態度を取っているかは知らん……ただ、リーダーシップを持った生徒とは極めて稀な存在だ。他の大多数……言ってしまえば、『その他大勢』の連中はそういったリーダーの取り巻きになること、またはなんらかのつながりを持つことでクラス内での立場を確保する」

「う、うん……」

 日光の淀みない説明に照美が頷く。日光が尋ねる。

「言いたいことは分かったか?」

「ま、まあ、なんとなくは……え? ちょっと待って?」

「なんだ?」

「そのリーダーたちをどうにかするってこと⁉」

「いるんだな、このクラスにもリーダーたちが……」

「あっ!」

 照美が慌てて口を抑える。

「各々のリーダーにやる気になってもらわないといけない。不登校気味では困るのだ」

「……なにが困るのかしら?」

「⁉」

 日光たちが振り返ると、長身で髪の毛を丸めた女性がそこに立っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

独身男の会社員(32歳)が女子高生と家族になるに至る長い経緯

あさかん
ライト文芸
~以後不定期更新となります~ 両親が他界して引き取られた先で受けた神海恭子の絶望的な半年間。 「……おじさん」 主人公、独身男の会社員(32歳)渡辺純一は、血の繋がりこそはないものの、家族同然に接してきた恭子の惨状をみて、無意識に言葉を発する。 「俺の所に来ないか?」 会社の同僚や学校の先生、親友とか友達などをみんな巻き込んで物語が大きく動く2人のハートフル・コメディ。 2人に訪れる結末は如何に!?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした

黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。 日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。 ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。 人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。 そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。 太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。 青春インターネットラブコメ! ここに開幕! ※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ベスティエンⅢ【改訂版】

花閂
ライト文芸
美少女と強面との美女と野獣っぽい青春恋愛物語。 恋するオトメと武人のプライドの狭間で葛藤するちょっと天然の少女と、モンスターと恐れられるほどの力を持つ強面との、たまにシリアスたまにコメディな学園生活。 名門お嬢様学校に通う少女が、彼氏を追いかけて地元で恐れられる最悪の不良校に入学。 女子生徒数はわずか1%という環境でかなり注目を集めるなか、入学早々に不良をのしてしまったり暴走族にさらわれてしまったり、彼氏の心配をよそに前途多難な学園生活。 不良たちに暴君と恐れられる彼氏に溺愛されながらも、さらに事件に巻き込まれていく。 人間の女に恋をしたモンスターのお話がハッピーエンドだったことはない。 鐵のような両腕を持ち、鋼のような無慈悲さで、鬼と怖れられ獣と罵られ、己のサガを自覚しながらも 恋して焦がれて、愛さずにはいられない。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...