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第三章 九つの州へ
不穏な夜
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序
「はあ、はあ……」
短い灰色の髪、灰色の瞳をした長身の青年が月夜の町を走る。両手に茶髪の少年と少女を連れている。この二人は同じ顔立ち、碧い目をしている。どうやら双子のようである。
「に、兄ちゃん、もう走れないよ……」
「頑張れティム!」
「お兄ちゃん、わたしも苦しい……」
「エマ、もう少しだ! もう少しでここから出られる……!」
青年が双子を元気づける。双子は頷く。
「う、うん……!」
「が、頑張るわ!」
青年は双子に対してシンプルに笑顔を浮かべる。だが、内心では様々に考えを巡らす。
(やはり体力が厳しいか! 連れ出すのは無謀だったか……? しかし、ここくらいしかチャンスは無かった。もう少しだ、もう少しで……!)
(そうはいかないわよ~)
「はっ⁉」
突如現れた二つの黒い影によって、双子の身柄をさらわれてしまう。青年は振り返る。建物の上に、二人の男女が双子を抱えて立っている。
(聞こえる? 今、貴方の脳内に直接語りかけているの……)
(! テレパシー⁉ 組織の者か!)
(察しが良くて助かるわ、後、日本語も出来るのね)
二人の男女の内、艶のある黒髪をおさげにして左肩に垂らした女性が笑う。切れ長の目が印象的で、整った顔立ちをしている。年頃は17~18歳くらいだろうか。
(貴様らは何者だ⁉ 組織に日本人はほとんどいなかったはず!)
(そんなに怒鳴らなくても聞こえているわ、デニス=アッセンブルク……)
(俺のことを知っているのか?)
(そりゃあ有名だもの)
(……いつまでテレパシーで会話している。まだるっこしい真似はよせ)
短い黒髪を後ろで一つにまとめた男性がうんざりしたような顔を浮かべる。髪型が異なる以外は、顔も体格も女性とそっくりである。
(ふふっ、そういう兄さんもテレパシー使っているじゃない)
(揚げ足を取るな!)
(だから、貴様らは何者だ!)
(……そうね)
女性が月を見上げる。デニスと呼ばれた青年が首を傾げる。
「?」
(私はユエ、こちらの気の短い彼がタイヤンよ、以後よろしく)
(中国語で月と太陽だろう、適当なことを……!)
(あら、案外博識よ。この双子ちゃんを連れ出されてもらっては困るの)
(お前らに渡すわけにもいかん!)
「⁉ ぐっ⁉」
氷の矢がユエとタイヤンと名乗った男女の腕に刺さり、男女は双子を離してしまう。
「ティム、エマ!」
デニスが建物の屋根から転がり落ちた双子を時間差で上手く受け止める。
「し、しまった……能力はほぼ使えないと聞いていたのだが……」
「それも組織を油断させる手だったのかもね……ハンサムで長身、力持ちでしかも頭脳明晰なんて素敵じゃない。デニスさん、彼女さんとかいる? 立候補しちゃおうかしら?」
「ふざけている場合か!」
「冗談よ、もう一度取り返すまで!」
「くっ⁉」
「はっ!」
「なっ⁉」
デニスに飛びかかろうとしたユエとタイヤンの前に大きな火が巻き起こる。ユエたちだけでなく、デニスも驚く。そこに少女の声が響く。
「こっちばい! 灰色のお兄さん!」
「えっ⁉」
「早くするたい!」
「あ、ああ!」
デニスは双子を抱えながら、少女の声のする方へ急ぐ。タイヤンが舌打ちする。
「ちっ、見失った。隠れられると厄介だぞ」
「大丈夫よ、ゆっくりと追い詰めましょう……この長崎の『出島』は狭いんだから……」
ユエはそう言って静かに笑う。
「……マジで⁉ ああ、なるほど、あのメイドさんと庭師がグルだったのか~」
一方その頃、長崎から東に遠く離れた大江戸城の自室にて、大江戸幕府第二十五代将軍にして現役JKの若下野葵(もしものあおい)は、呑気に二時間サスペンスドラマを見ていた。
「はあ、はあ……」
短い灰色の髪、灰色の瞳をした長身の青年が月夜の町を走る。両手に茶髪の少年と少女を連れている。この二人は同じ顔立ち、碧い目をしている。どうやら双子のようである。
「に、兄ちゃん、もう走れないよ……」
「頑張れティム!」
「お兄ちゃん、わたしも苦しい……」
「エマ、もう少しだ! もう少しでここから出られる……!」
青年が双子を元気づける。双子は頷く。
「う、うん……!」
「が、頑張るわ!」
青年は双子に対してシンプルに笑顔を浮かべる。だが、内心では様々に考えを巡らす。
(やはり体力が厳しいか! 連れ出すのは無謀だったか……? しかし、ここくらいしかチャンスは無かった。もう少しだ、もう少しで……!)
(そうはいかないわよ~)
「はっ⁉」
突如現れた二つの黒い影によって、双子の身柄をさらわれてしまう。青年は振り返る。建物の上に、二人の男女が双子を抱えて立っている。
(聞こえる? 今、貴方の脳内に直接語りかけているの……)
(! テレパシー⁉ 組織の者か!)
(察しが良くて助かるわ、後、日本語も出来るのね)
二人の男女の内、艶のある黒髪をおさげにして左肩に垂らした女性が笑う。切れ長の目が印象的で、整った顔立ちをしている。年頃は17~18歳くらいだろうか。
(貴様らは何者だ⁉ 組織に日本人はほとんどいなかったはず!)
(そんなに怒鳴らなくても聞こえているわ、デニス=アッセンブルク……)
(俺のことを知っているのか?)
(そりゃあ有名だもの)
(……いつまでテレパシーで会話している。まだるっこしい真似はよせ)
短い黒髪を後ろで一つにまとめた男性がうんざりしたような顔を浮かべる。髪型が異なる以外は、顔も体格も女性とそっくりである。
(ふふっ、そういう兄さんもテレパシー使っているじゃない)
(揚げ足を取るな!)
(だから、貴様らは何者だ!)
(……そうね)
女性が月を見上げる。デニスと呼ばれた青年が首を傾げる。
「?」
(私はユエ、こちらの気の短い彼がタイヤンよ、以後よろしく)
(中国語で月と太陽だろう、適当なことを……!)
(あら、案外博識よ。この双子ちゃんを連れ出されてもらっては困るの)
(お前らに渡すわけにもいかん!)
「⁉ ぐっ⁉」
氷の矢がユエとタイヤンと名乗った男女の腕に刺さり、男女は双子を離してしまう。
「ティム、エマ!」
デニスが建物の屋根から転がり落ちた双子を時間差で上手く受け止める。
「し、しまった……能力はほぼ使えないと聞いていたのだが……」
「それも組織を油断させる手だったのかもね……ハンサムで長身、力持ちでしかも頭脳明晰なんて素敵じゃない。デニスさん、彼女さんとかいる? 立候補しちゃおうかしら?」
「ふざけている場合か!」
「冗談よ、もう一度取り返すまで!」
「くっ⁉」
「はっ!」
「なっ⁉」
デニスに飛びかかろうとしたユエとタイヤンの前に大きな火が巻き起こる。ユエたちだけでなく、デニスも驚く。そこに少女の声が響く。
「こっちばい! 灰色のお兄さん!」
「えっ⁉」
「早くするたい!」
「あ、ああ!」
デニスは双子を抱えながら、少女の声のする方へ急ぐ。タイヤンが舌打ちする。
「ちっ、見失った。隠れられると厄介だぞ」
「大丈夫よ、ゆっくりと追い詰めましょう……この長崎の『出島』は狭いんだから……」
ユエはそう言って静かに笑う。
「……マジで⁉ ああ、なるほど、あのメイドさんと庭師がグルだったのか~」
一方その頃、長崎から東に遠く離れた大江戸城の自室にて、大江戸幕府第二十五代将軍にして現役JKの若下野葵(もしものあおい)は、呑気に二時間サスペンスドラマを見ていた。
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