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第一章 JK将軍誕生
大天才の悩み
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「ち……おいお前ら降りろ、今日はもう帰れ。」
「え~そんな~」
「弾ちゃん冷たい~今日は一日遊ぶって言ってたのに~」
馬乗りになっていた二人の女の子が不満気な声を上げる。
「なんだか興が醒めちまった……いいから帰りな」
男の声色が少し厳しいものに変わったことを察した女の子たちはそれから何も言わずに、そそくさと帰り支度を整えて、部屋から出て行こうとした。しかしその前に四つん這いの状態からゆっくりと胡坐をかくような体勢になった男の元にさっと近づき、何やら品を作っている。
「良い娘だ」
ふっと笑顔になった男は女の子たちの頭をそっと撫でてやり、それぞれの頬に口づけをしてやった。
「は、破廉恥ですわ……」
小霧が信じられないといった様子で呟く。そんな彼女をよそに女の子たちは幾分機嫌を取り戻した様子で部屋から出て行った。それから男は改めて部屋の入り口に立つ、葵たちのことをじっと仰ぎ見る。先程の四つん這いで部屋を這い回っていた時の情けないヘラヘラ顔とは打って変わって、真剣な、どこか冷たさを感じさせるような、厳しい目つきである。爽もやや戸惑いつつ、尋ねる。
「貴方が『天才浮世絵師』橙谷弾七さんですね?」
「違うな」
「違う?」
「『大天才浮世絵師』だ、そこん所間違ってもらっちゃあ困る」
「それは失礼……」
「ところでアンタらはどちらさんなんだい。俺様の許可なしにこの二階には上がってこられないはずなんだが」
「私たちは『将軍と愉快な仲間たちが学園生活を大いに盛り上げる会』、通称『将愉会』です!」
葵の自信満々な返答に、弾七はやや唖然とした。しかし、すぐさま平静さを取り戻して、そっけなく返答した。
「……いや、悪いが知らねえなぁ」
「やっぱり知名度はまだまだかぁ……」
葵はガックリと肩を落とす。
「制服から判断するに学園の生徒だな、風紀委員かい?」
「ち、違います!」
「なら話はここまでだな、さっさと帰ってくんな」
「な、何故そうなるんですか⁉」
「風紀委員なら出席日数が足りないだとか、具体的な話し合いの材料をなにかしら持ってくるだろう。俺様も正直そろそろ卒業について考えているからな。だから、そういう訳ではないアンタらと話すつもりはねぇ」
「ち、ちょっと待って!」
背中を向けてごろ寝の体勢に入ろうとした弾七に葵が食い下がる。
「貴方に無くても、私たちにはお話があります!」
「……なんだよ、お話ってのは?」
弾七は寝転がって頬杖を突きながら首だけを葵の方に向けて尋ねる。
「なぜ『新作を描かない』んですか?」
「短刀直入だな」
弾七は葵の率直な物言いに思わず苦笑した。
「今は別に締め切りがある仕事を引き受けている訳じゃない、俺様がいつ描こうが俺様の勝手だろ」
そう言って、弾七は葵から視線を逸らした。爽が横から口を挟む。
「それでは質問の答えになっていませんね。葵様は『なぜ新作を描かないのか?』とお尋ねしているのです」
「答える義務は無いな」
「妙にカッコつけてらっしゃっていますけど、要はアレなのではないですか? 所謂『スランプ』状態に陥っていらっしゃるんじゃないかしら?」
「違うな」
小霧のやや意地の悪い指摘を弾七は即座に否定した。
「そんなものは凡人が陥るもんだ。大天才たる俺様はそんな下らない次元にはいねぇ」
「ではどういった次元にいらっしゃるのですか?」
爽の問いに一瞬間を置いて、弾七は答えた。
「さっき『描かない』って言ったな? それは『新しい絵が描けない』って意味で聞いているのかもしれないが、そうじゃない、俺様はあえて『描かない』んだよ。分かるか?」
「……どうしましょう、伊達仁さん。さっぱり分かりませんわ」
「ご心配なく。わたくしも同じ気持ちです」
「か~! 分からねえかなぁ!」
弾七は体を起こし、胡坐をかいた状態で葵たちの方に向き直る。
「あえて……というのは?」
「描こうと思えば描けんのさ、十枚でも百枚でも。ただ、俺様はもうそういう段階で満足出来ねえんだよ」
「満足出来ない?」
「そうだ……創作意欲が湧かないとでも言えば良いのかね」
弾七の答えを聞いた爽と小霧がヒソヒソ声で話す。
「いやだから、それが『スランプ』というものではないんですの?」
「自尊心の高さ故か、並みの人間と一緒の思考回路では我慢ならないのでしょうね……」
「厄介極まりないですわね……」
「創作に於いては“意欲”と“情熱”! このどちらかが欠けていては、良い作品作りなんて到底出来ねえよ」
弾七は大袈裟に両手を広げてみせる。爽はどうしたものかと腕を組む。ふと葵の方を見てみると、葵は何やら自身の端末を操作していた。
「葵様? 何をご覧になっているのですか?」
「……こういうのを見つけたんだけどさ」
葵は端末の画面を弾七に見せる。
「え~そんな~」
「弾ちゃん冷たい~今日は一日遊ぶって言ってたのに~」
馬乗りになっていた二人の女の子が不満気な声を上げる。
「なんだか興が醒めちまった……いいから帰りな」
男の声色が少し厳しいものに変わったことを察した女の子たちはそれから何も言わずに、そそくさと帰り支度を整えて、部屋から出て行こうとした。しかしその前に四つん這いの状態からゆっくりと胡坐をかくような体勢になった男の元にさっと近づき、何やら品を作っている。
「良い娘だ」
ふっと笑顔になった男は女の子たちの頭をそっと撫でてやり、それぞれの頬に口づけをしてやった。
「は、破廉恥ですわ……」
小霧が信じられないといった様子で呟く。そんな彼女をよそに女の子たちは幾分機嫌を取り戻した様子で部屋から出て行った。それから男は改めて部屋の入り口に立つ、葵たちのことをじっと仰ぎ見る。先程の四つん這いで部屋を這い回っていた時の情けないヘラヘラ顔とは打って変わって、真剣な、どこか冷たさを感じさせるような、厳しい目つきである。爽もやや戸惑いつつ、尋ねる。
「貴方が『天才浮世絵師』橙谷弾七さんですね?」
「違うな」
「違う?」
「『大天才浮世絵師』だ、そこん所間違ってもらっちゃあ困る」
「それは失礼……」
「ところでアンタらはどちらさんなんだい。俺様の許可なしにこの二階には上がってこられないはずなんだが」
「私たちは『将軍と愉快な仲間たちが学園生活を大いに盛り上げる会』、通称『将愉会』です!」
葵の自信満々な返答に、弾七はやや唖然とした。しかし、すぐさま平静さを取り戻して、そっけなく返答した。
「……いや、悪いが知らねえなぁ」
「やっぱり知名度はまだまだかぁ……」
葵はガックリと肩を落とす。
「制服から判断するに学園の生徒だな、風紀委員かい?」
「ち、違います!」
「なら話はここまでだな、さっさと帰ってくんな」
「な、何故そうなるんですか⁉」
「風紀委員なら出席日数が足りないだとか、具体的な話し合いの材料をなにかしら持ってくるだろう。俺様も正直そろそろ卒業について考えているからな。だから、そういう訳ではないアンタらと話すつもりはねぇ」
「ち、ちょっと待って!」
背中を向けてごろ寝の体勢に入ろうとした弾七に葵が食い下がる。
「貴方に無くても、私たちにはお話があります!」
「……なんだよ、お話ってのは?」
弾七は寝転がって頬杖を突きながら首だけを葵の方に向けて尋ねる。
「なぜ『新作を描かない』んですか?」
「短刀直入だな」
弾七は葵の率直な物言いに思わず苦笑した。
「今は別に締め切りがある仕事を引き受けている訳じゃない、俺様がいつ描こうが俺様の勝手だろ」
そう言って、弾七は葵から視線を逸らした。爽が横から口を挟む。
「それでは質問の答えになっていませんね。葵様は『なぜ新作を描かないのか?』とお尋ねしているのです」
「答える義務は無いな」
「妙にカッコつけてらっしゃっていますけど、要はアレなのではないですか? 所謂『スランプ』状態に陥っていらっしゃるんじゃないかしら?」
「違うな」
小霧のやや意地の悪い指摘を弾七は即座に否定した。
「そんなものは凡人が陥るもんだ。大天才たる俺様はそんな下らない次元にはいねぇ」
「ではどういった次元にいらっしゃるのですか?」
爽の問いに一瞬間を置いて、弾七は答えた。
「さっき『描かない』って言ったな? それは『新しい絵が描けない』って意味で聞いているのかもしれないが、そうじゃない、俺様はあえて『描かない』んだよ。分かるか?」
「……どうしましょう、伊達仁さん。さっぱり分かりませんわ」
「ご心配なく。わたくしも同じ気持ちです」
「か~! 分からねえかなぁ!」
弾七は体を起こし、胡坐をかいた状態で葵たちの方に向き直る。
「あえて……というのは?」
「描こうと思えば描けんのさ、十枚でも百枚でも。ただ、俺様はもうそういう段階で満足出来ねえんだよ」
「満足出来ない?」
「そうだ……創作意欲が湧かないとでも言えば良いのかね」
弾七の答えを聞いた爽と小霧がヒソヒソ声で話す。
「いやだから、それが『スランプ』というものではないんですの?」
「自尊心の高さ故か、並みの人間と一緒の思考回路では我慢ならないのでしょうね……」
「厄介極まりないですわね……」
「創作に於いては“意欲”と“情熱”! このどちらかが欠けていては、良い作品作りなんて到底出来ねえよ」
弾七は大袈裟に両手を広げてみせる。爽はどうしたものかと腕を組む。ふと葵の方を見てみると、葵は何やら自身の端末を操作していた。
「葵様? 何をご覧になっているのですか?」
「……こういうのを見つけたんだけどさ」
葵は端末の画面を弾七に見せる。
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