上 下
37 / 50
第1章

第9話(4)嫌い棍棒

しおりを挟む
「へっ、やるじゃねえか、ジロー」

「これくらい造作もない……」

「近接戦もイケるアーチャーってのはなかなか反則だぜ」

「戦いに反則もなにもないだろう……」

「まあ、それはそうだな」

「さて……」

「待て、ジロー、ここは下がれ」

「何故だ?」

「残りはこいつに片付けさせるんだよ」

「……」

「な、なんだよ?」

「お前に指図されるのは、やはり気に食わんな……」

「だ、だから、言っているだろうが、俺の言葉はあの御方の言葉だ!」

「ふん……」



 ジローがどこか不満そうに下がる。それよりも不満そうな顔でエリーが前に進み出て、ジャックに声をかける。



「……ちょっと禿げ頭さん?」

「は、禿げ頭だあ⁉」

「……お禿げ頭さん」

「おを付ければ良いってもんじゃねえよ!」

「まあ、そのへんはどうでもよろしい……」

「よろしくねえよ!」

「さきほど、なんと言いんした?」

「あ?」

「残りは片付けさせるとかなんとか……」

「あ、ああ、そう言ったっけな……」

「……気に入らねえでありんすね」

「あん?」

「やれるものならやってみなんし!」



 エリーが声を荒げる。ジャックが笑みを浮かべながら呟く。



「ふん、なかなか気が強そうだな……だが、こいつを見てもその態度が保てるかな?」

「なにを……⁉」

「う~ん……」



 やや大柄で太った男が前に出てきて、エリーが悲鳴を上げる。



「きゃ、きゃああああっ⁉」

「うん?」

「なんだ、どうかしたか?」



 太った男が首を傾げ、ジャックがさらに悪い笑みを浮かべる。



「そ、それ……」



 エリーが太った男の股間を指差す。指を差した先には、一応服を着ているとはいえ、膨らんだというか、長くなったものがあったからである。ジャックが口を開く。



「ああ、あまり気にしなさんな」

「き、気になりんすえ‼」

「そんなところを見つめるだなんて、魔族の女って言うのは……アレなのか?」

「べ、別に見つめているわけではありんせん! 嫌でも目に入るのでありんす!」

「まあ、そんな下手な言い訳はしなくても良いって……」

「い、言い訳ではありんせん!」

「おい、さっさと片付けちまいな」

「……飯は出るのか?」

「てめえはそればっかだな……あいつらを片付けたらなんでも食わせてやるよ」

「なんでも……うん、なんだかやる気が出てきたぞ……」



 太った男がエリーの方にゆっくりと迫る。エリーが思わずたじろぐ。



「くっ……」

「大人しくやられてくれ~」

「! だ、誰が⁉ 出て来なさい! 『ポイズンスネーク』!」



 エリーが本を開き、ポイズンスネークを呼び出す。ジャックが声を上げる。



「モンスターを使役する魔族か! 気をつけろ! 厄介だぞ!」

「関係ないんだな~!」

「なっ⁉」



 太った男が股間のものを振りかざし、ポイズンスネークを殴りつける。鋭く強烈な一撃を食らったポイズンスネークは地面にうずくまって動かなくなる。ジャックが笑う。



「へへっ、相変わらず器用に扱うもんだ……」

「なっ……武器?」

「ああ、こいつは『棍棒のゴロー』だ!」

「なにもそんなところに仕込まなくても! って、ゴロー⁉ そこはサブローじゃないでありんすか⁉」

「いやあ~」



 ゴローと呼ばれた太った男が自らの後頭部をポリポリと掻く。エリーが声を上げる。



「別に褒めてないでありんす!」

「そ、そうなのか……」

「ゴロー! 落ち込んでいる暇があるなら、さっさとやっちまえ!」

「ああ!」

「!」

「それ~!」

「ごはっ⁉」



 ゴローが股間の棍棒を横に薙ぐ。頬を思い切り張られた形になったエリーが倒れ込む。



「ふん……後は裏切り者のこいつか……」

「新参者に言われたくないんだけど……」



 ジャックがイオに視線を向ける。イオが睨みつける。



「お~怖っ……なあ、イオよ。戻ってこねえか?」

「は?」

「あの御方には俺から上手く言っておく……この国を盗る為にはお前の力も……」

「断る!」

「! ひ、人の話は最後まで聞けよ……」

「断る‼」

「! ちっ……手駒は多い方が良いんだが……まあいい、ゴロー、やっちまえ!」

「ああ、分かった~」

「やられるか!」



 イオが体勢を低くして、斜め下からゴローに突っ込む。ジャックが驚く。



「む⁉」

「それが上下左右の方向にしか振れないというのは分かっている! 斜めからの動きには対応出来ないだろう……ぶはっ⁉」



 イオが吹き飛ばされる。股間から取り出した棍棒を持ったゴローの姿があった。



「そういう相手には、単純に棍棒を持って振り回せば良いんだな~」

「ば、馬鹿な……それ、取り外せるのか⁉」

「うん。さすがにここには仕込まないんだな~」

「し、知らなかった……三本足の種族かと思った……」



 イオが体勢を立て直しながら呟く。ジャックが呆れる。



「馬鹿かてめえは……ゴロー、とどめを刺してやれ」

「おお~!」



 ゴローがイオとの距離を素早く詰め、棍棒を振り下ろす。動きが鈍くなっていたところを突かれたイオは思わず目をつむる。



「くっ……⁉」



 イオが目を開くと、棍棒を右手の人差し指と中指で防ぐキョウの姿があった。



「……人の入浴中になにをやっている……」

「むう……⁉」

「やっと出て来やがったな! キョウ!」



 キョウの姿を見て、ジャックが叫ぶ。



「………」

「ど、どうした?」

「……えっと、誰だっけ?」

「なっ⁉ ジャックだ! こないだ会ったばっかりだろうが!」

「ああ、『野蛮のジャック』か……」

「だれが野蛮だ! い、いや、案外悪くねえか……?」



 ジャックは顎を手でさする。キョウが尋ねる。



「それよりもなんだ、この珍妙な集団は?」

「誰よりも珍妙なてめえに言われたくねえよ!」

「それもそう……だな!」

「うおっ⁉」



 キョウが棍棒ごとゴローを投げ飛ばす。



「お前らまとめてぶっ飛ばしてやるよ……!」

「それはこちらの台詞だ……!」

「む……?」

「はあっ!」

「⁉」



 いきなり現れた大柄な男の攻撃を食らい、キョウが吹っ飛ばされる。ジャックが驚く。



「や、山の王⁉ ど、どうされたのです⁉」

「ようやっとだが力が戻ってきた……よって山から降りてきた。戯れだがな」

「は、はあ……」

「ジャック、お前の言っていたほぼ全裸の男……大したものではないではないか」

「ふ、不意を突いたくらいで良い気になるなよ……」

「! ほう、今の一撃を食らってなお立ち上がるとは……」

「こ、こやつは倒すべき男、キョウです! この国を盗る上で邪魔になります!」

「ふむ……キョウか……さらに力を回復させてから、ケリをつける。一旦山に戻るぞ」

「ええっ⁉ は、はい……」



 大柄な男はジャックたちを連れて山に戻っていく。キョウは舌打ちしながら呟く。



「ちっ……この借りは必ず返すぜ……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

異世界でいきなり経験値2億ポイント手に入れました

雪華慧太
ファンタジー
会社が倒産し無職になった俺は再就職が決まりかけたその日、あっけなく昇天した。 女神の手違いで死亡した俺は、無理やり異世界に飛ばされる。 強引な女神の加護に包まれて凄まじい勢いで異世界に飛ばされた結果、俺はとある王国を滅ぼしかけていた凶悪な邪竜に激突しそれを倒した。 くっころ系姫騎士、少し天然な聖女、ツンデレ魔法使い! アニメ顔負けの世界の中で、無職のままカンストした俺は思わぬ最強スキルを手にすることになったのだが……。

スキルが全ての世界で無能力者と蔑まれた俺が、《殺奪》のスキルを駆使して世界最強になるまで 〜堕天使の美少女と共に十の塔を巡る冒険譚〜

石八
ファンタジー
スキルが全ての世界で、主人公──レイは、スキルを持たない無能力者であった。 そのせいでレイは周りから蔑まされ、挙句の果てにはパーティーメンバーに見限られ、パーティーを追放させられる。 そんなレイの元にある依頼が届き、その依頼を達成するべくレイは世界に十本ある塔の一本である始まりの塔に挑む。 そこで待っていた魔物に危うく殺されかけるレイだが、なんとかその魔物の討伐に成功する。 そして、そこでレイの中に眠っていた《殺奪》という『スキルを持つ者を殺すとそのスキルを自分のものにできる』という最強のスキルが開花し、レイは始まりの塔で数多のスキルを手にしていく。 この物語は、そんな《殺奪》のスキルによって最強へと駆け上がるレイと、始まりの塔の最上階で出会った謎の堕天使の美少女が力を合わせて十本の塔を巡る冒険譚である。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

処理中です...