Live or Die?

阿弥陀乃トンマージ

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第1回公演

第11惑星(1)現状確認

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「まさか、この星に戻ってくることになるとはな……」

 俺は窓からよく見慣れた空を見て呟く。

「お~い♪」

「おわっ! な、なんだよ、コウ、起きていたのか……」

 俺は自分の後頭部に当たって落ちた枕を拾い、コウのベッドに戻す。

「ついさっき目が覚めたよ、そしたらマネージャー君、切なげな雰囲気漂わせていたからなんだか面白くなっちゃってさ」

「切なげって……」

「え、切なくないの~?」

 コウが首を傾げる。

「切ないよ、それが分かっているなら茶化さないでくれ」

「……よくこんな医療施設を見つけられたわね」

「おっ、ケイ、起きたか……」

 コウの隣のベッドで寝ていたケイがゆっくりと半身を起こす。

「それ以前によく私たちのことを回収出来たわね?」

「それはこいつのお陰だ」

「キュイ?」

 テュロンが俺の肩から顔を覗かせる。ケイが頷く。

「ああ、なるほど……」

「倒れている3人を見たときは驚いたよ」

「アタシ、ホテルをフロアごと吹っ飛ばしちゃったけど……」

 コウが言い辛そうに口を開く。ケイが呆れ顔を向ける。

「貴女、何をやっているのよ……」

「しょうがないじゃん、物の弾みというか、成り行き上そうなったというか……」

「……それの後始末は?」

「さすがにどうしたものかと頭を抱えたんだが……」

 その時、部屋のドアが開く。

「おっ、起きたみたいね」

「タフだね~憎らしいくらい……」

 ネラとビアンカが入ってきた。俺は彼女たちを指し示す。

「彼女らが色々と手を回してくれてさ……」

「なるほどね、密航者の貴方が何のお咎めもなく、地球に戻れたのも合点がいったわ」

「え⁉ ここ、地球なの⁉」

 コウが驚く。ケイの隣のベッドから声がする。

「へえ、ここが地球なんですね……」

「アユミも起きたか、良かった。調子はどうだ?」

「ええ、大丈夫です……」

 アユミは窓から見える地球の景色に気を取られているようだ。ケイが笑う。

「念願の地球ですものね。まさかこんな形で訪れることになるとは思わなかったけど……」

「ケイちゃん、なんでここが地球だって分かっているのさ?」

「以前に公演で来たことあるもの」

 コウの問いにケイが答える。

「え⁉ 初耳なんだけど」

「言ってなかったかしら? まあ、それよりも……マネージャー?」

「え?」

「私たちの抜けた穴はどうなったの?」

「あ、ああ、それなんだが……」

「ラジオはピンチヒッターのロハが務め、大バズり。グラビアもアズールに変わって、これまた大バズり……」

「ストアイベントは急遽中止になって、SNSでは批判の声が続々……」

「!」

 言い淀んだ俺の代わりに、ネラたちがあっさりと説明してしまった。ケイたちが驚く。

「このご時世、人気が落ちるとあっという間だからね……ビアンカ、どうぞ」

「えっとね……『ギャラクシーフェアリーズはもうオワコン、これからはクワトロ=コローレスしか勝たん』……だってさ」

 ネラに促され、ビアンカが端末に表示されたネット上の書き込みを淡々と読み上げる。

「……」

 ケイたちの顔が曇る。俺が頭を下げる。

「すまん、俺の力不足だ……」

「マネージャーさんが謝ることじゃありませんよ」

 アユミが声をかけてくれる。ケイがため息交じりで呟く。

「世間というのは勝手なものね。まあ、結局、不覚を取った私たちの責任なのだけど……」

「……さらに悪いお知らせがあるわ」

「え? 何? ひょっとして、アタシの裏垢がバレて炎上した⁉」

 ネラの言葉にコウが自分の胸を両手で抑える。ケイが睨みつける。

「貴女、そんなものを持っていたの⁉」

「ははっ、残念ながら、そういう面白ニュースじゃないね~」

 ビアンカが笑いながら首を振る。コウはホッと胸を撫で下ろす。

「なんだ、違うのか、良かった……」

「良くないわ、さっさと消しなさい、そんなアカウント!」

「いや、ケイちゃん、そればっかりは出来ない」

「なんでよ⁉」

「裏垢と言ってもあれだよ? いかがわしいものじゃなくて、靴の裏とか、皿の裏とか、そういう画像を集めたアカウントだよ? 問題になるような画像はないよ?」

「別の意味で問題になるわよ!」

「裏垢ってそういうことですか……」

 アユミが苦笑する。ケイが声を上げる。

「いいから消しなさい!」

「いやだ! フォロワー数十億のアカウントはそうそう消せないよ!」

「なんで本業よりも多いのよ⁉」

「そんなの知らないよ、フェチは全宇宙に通じるってことじゃない?」

 コウが不思議そうに首を傾げる。ネラが俺を見て口を開く。

「……続けても?」

「あ、ああ、すまない、続けてくれ」

「クワトロ=コローレス……いえ、クワトロ=ゲレーラがあなたたちにとどめを刺そうと動き回っているわ」

「‼」

「とりあえず月面から近場の地球に降りたけど、見つかるのは時間の問題ね」

「そ、そうか……」

「それよりもさ……」

「え?」

 ビアンカがゆっくりと口を開く。

「アタシら、ジェメッレ=アンジェラを無視してるのが、無茶苦茶気に障るんですけど⁉」

「お、おう……」

「舐めた連中には、お仕置きが必要っしょ、ネラ?」

「それはそうだけど、順番としてはこの子たちが先よ……どうする?」

 ネラがケイたちに問う。コウが威勢よく返事する。

「決まっているでしょ! ぶっ飛ばす!」

「……バカね」

「ああん⁉ 何よ、ケイちゃん!」

「そんな単純な話じゃないのよ、賞金稼ぎとしての力比べ云々じゃないの」

「アイドルとしての信頼回復……」

「そういうこと」

 アユミの呟きにケイが頷く。アユミが首を傾げる。

「どうすれば良いでしょうか……」

「……俺に考えがある」

 全員の視線が俺に集まる。
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