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第1回公演
第10惑星(3)水流の凶弾
しおりを挟む「……うん、大丈夫だって~。あのスタジオには前に行ったことがあるしさ~担当スタッフさんの名前と顔を確認した? あ~うん、大体。大丈夫、大丈夫。それじゃあ、切るよ」
コウが通信を切り、独り言を呟く。
「マネージャー君は心配しているみたいだけど、非常に心外だな……アタシは大丈夫……」
コウが頷きながら歩く。ここはある月面都市。コウはスタジオへと向かっている。端末を何度も確認しては歩き出すという動きを繰り返す。
「……」
通りを歩くコウの姿をよく見られるホテルの最上階の部屋をとった青い髪の女の子が、ストレートのロングヘア―をかき上げながらじっと見る。清楚なブラウスに綺麗なロングスカートが彼女の可憐さを掻き立たせている。彼女は黙ってコウを見つめる。
「♪」
部屋の呼び鈴が鳴る。当然無視する。部屋を間違えたのであろう。
「♪……♪……」
「……はあ」
ロングヘアーの子は小さくため息をついて、部屋のドアに向かい、ドアを開ける。
「はい……!」
「ねえ? お姉さんはスタジオの場所分かる?」
「⁉」
ロングヘアーの女性は尻餅をつかんばかりに驚く。何故ならそこにはコウが立っていたからである。何故? ここから狙うつもりだったのに……⁉
「迷っちゃってさ~知らない? このままだとグラビア撮影に間に合わないよ」
「……何故私にそれを聞く?」
ロングヘアーの子は努めて冷静さを保ちながら、コウに問い返す。
「いや~ず~っとこっちを見ているから。アタシに興味あるんじゃないかって思ってさ!」
コウは懐から銃を取り出すと同時に発砲した。ロングヘアーの子は後ろに飛んでかわすが、コウの射撃は止まらない。ロングヘアーの子は動揺しつつ、声をかける。
「ま、待て!」
「待たない、こっちをこの部屋から問答無用で狙撃するつもりだったんでしょ?」
ベランダに逃れたロングヘアーの子は苦笑しながら答える。
「い、いや、コウ=マクルビの写真でも撮れば、メディアに高く売れると思っただけさ……」
「何の変哲もない通勤風景の写真なんて二束三文にしかならないよ……」
「その辺りは交渉次第、『迷子の様子』とキャプションを付ければ価値は上がる」
「ふむ、なるほどね……って言うと思った⁉」
「ぐっ⁉」
ロングヘアーの子はベランダから乗り出して飛ぶ。
「……逃がしたか」
コウがベランダの下を覗く。ロングヘアーの子の姿はない。
「思っていた以上にイカレている……!」
ロングヘアーの子は飛び降りたわけでなく、隣の部屋のベランダに上手く乗り移ったのだ。念の為にこのフロアを全て抑えておいて良かった。ベランダを全速力で突っ切り、先ほどの部屋から一番遠い部屋のベランダまできた。この部屋でひとまず体勢と呼吸を整えよう。ロングヘアーの子はベランダから部屋に入り、ソファーに腰かける。その瞬間……。
「お休みのところ申し訳ないけど……」
「‼」
コウが槍を持ってホテルの壁を一直線に貫いてきたのである。彼女の足元には火がロケットエンジンのように噴き出している。ロングヘアーの子は机を蹴り上げ、槍を防ぐ。
「火星生まれならではの特殊能力! まさかここまでとは……!」
「……多分同業者だよね? 見かけないけど」
「せめて挨拶でもいかがかな?」
「必要ない。ここでお別れだから」
「ぐっ⁉」
コウの槍による突進は凄まじく、ロングヘアーの子はその勢いを止めきれず、部屋の壁ごと吹き飛ばされ、外に飛び出る。コウが呟く。
「恨みはないけど、殺気をビンビンに放っていたお姉さんが悪いんだからね……」
「……まだ遊ぼうじゃないか!」
「⁉」
コウは肩に銃撃を喰らい、不思議そうに首を捻る。目の前で落下するロングヘアーの子は銃を持っていないはずだ。ロングヘアーの子が叫ぶ。
「私たちは……『クワトロ=ゲレーラ』、または『クワトロ=コローレス』!」
「! 知らないけど……」
「銀河制覇を目指しているのだ。その手始めにまずは太陽系で目立つ貴様らを狙った」
「銀河制覇……っていうか、お姉さんの得物は水鉄砲?」
「そう、『水流のアズール』とは私のこと……あ、ダサいのは分かっているからな」
アズールと名乗った子が手で銃のような形をつくる。コウが舌打ちする。
「ちっ、バスルームを壊したのが裏目ったか!」
「大量の水がそこかしこに噴き出している……私にとってはありがたいこと!」
「槍で黙らせる!」
「むん⁉」
「な、なに⁉」
しばらく間が空いて、ホテルの最上階からアズールが濡れた髪を拭きながら降りてくる。
「ここまでやるとは……グラビア撮影なら任されようか? 水も滴るいい女なものでな」
アズールが淡々と冗談を呟く。最上階の部屋には倒れ込んだコウの姿があった。
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