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第1回公演
第5惑星(1)ちょっと特殊な案件
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5
「……前から思っていたんですが、マクルビさんのソロナンバー……」
「ん?」
「わりとベッタベタなポップスですよね」
「なに? ダメなの?」
レッスンルームでの俺の呟きに、コウちゃんが首を傾げる。俺は慌てて首を振る。
「い、いえ、ダメというわけではないですけど。意外と……」
「意外と?」
「可愛らしい声だなと」
「か、可愛らしい⁉」
「ん?」
俺は首を傾げる。コウちゃんが何故だか妙に顔を赤らめている。なにか怒らせるようなことを言ってしまったのか? ああ、やっぱりコウちゃんの性格的には『カッコいい』、『クール』とか言った方が喜ばれたか? どうする? 今更言い直しても遅いよな? とかなんとか思っていると、コウちゃんが小声で呟く。
「か、可愛らしいなんて、初めて言われたかも……」
「え?」
「な、なんでもないよ! 冗談うまいね、マネージャー!」
「? いえ、冗談ではありません、本心から言っています」
「ええっ?」
「いつもその歌声をよく聴かせてもらっていますから」
「い、いつも⁉」
「ええ、もちろん業務はきちんとこなしているつもりですよ?」
「そう……なんだ、いつも聴いてくれているんだ……へへっ」
コウちゃんは俯きながら鼻の頭をこする。
「そういえば、おばあさんから歌を習ったと聞きましたが……」
「うん、体術からなにから、おばあちゃん仕込みだね」
「おばあさん子なんですね」
「というか、実の両親を知らないからね」
「ええっ⁉」
「あの人は孤児だったアタシを拾ってくれたの」
「そ、そうだったんですか、すみません……」
またやってしまった。俺は頭を下げる。コウちゃんは笑って、手を左右に振る。
「いやいや、別に謝らなくていいから」
「は、はい……」
「でも、まあご覧の通り、本当の家族みたいなもんだよ、あの町の人たちを含めてね♪」
「そ、そうですね……」
個人情報ダダ漏れみたいな状況はどうかと思うが、俺は頷いておく。
「まあ、それはいいとしてさ……」
「はい」
「アタシのプライベートも知ってしまったわけじゃん……」
「え、ええ……」
コウちゃんはどこか照れくさそうに告げる。
「ア、アタシのことはこれからコウって呼んでいいよ……」
「は、はい……って、ええっ⁉」
俺は驚きの目線でコウちゃんを見つめる。コウちゃんは苦笑する。
「そんなに驚くこと? 初めはそう呼んでいたじゃん」
「そ、それは……し、しかし、今は正式にアイドルとマネージャーの関係なわけですから、その辺はしっかりとわきまえないとならないかと……」
「マクルビさんって呼ばれるの、なんか学校とか思い出して、窮屈に感じるんだよ。アタシはファーストネームで呼ばれる方がなんかこう……良い感じなんだよ」
「そうは言われても……そこまでの仲を築き上げてきたとはまだ言い難いですし……」
「親も紹介した仲じゃん!」
「いや、あれはある意味不意打ちというか……」
「ダメ?」
コウちゃんが小首を傾げる。か、かわいい……。ちょっとボーイッシュな面もある子がこうして女の子っぽい素振りをするだけでもう抵抗出来ないな。だが、待てよ……賞金首の異星人どころか俺のことをためらいなく撃ったり、槍で貫いたり……そういうことを躊躇なく行える子なんだよな、この子も……。やっぱり深入りするのは危険だ。俺は首を撫でながら適当に話をはぐらかそうとする。
「う~ん、それよりもですね……」
「マネージャー……!」
コウちゃんが俺のネクタイをグイっと引っ張ってくる。か、顔が近い! 力も強い! 返答次第ではこのまま絞め落とされてしまうかも……。
「えっと……よ、よろしくな、コウ」
「う、うん……」
「……じゃあ、俺のこともタスマって呼んでくれないか」
「え?」
「親も紹介してくれた仲なんだろう?」
「そ、それは、まあ、そうだけど……」
「じゃあほら、タスマって呼んでごらん、ほらほら、どうぞ」
「……タ、タマスダレ!」
「植物扱い⁉!」
「や、やっぱり恥ずかしいよ! アタシはマネージャーって呼ぶからね! じゃ、じゃあ、失礼! 練習に付き合ってくれてありがと!」
コウちゃんが、レッスンルームから足早に出ていく。う~ん、悪乗りし過ぎたかな?
「随分と楽しそうだったわね……」
「コウさん、顔が真っ赤でした……」
「あ、ケイ、アユミ……」
ケイとアユミがレッスンルームに入ってくる。あれ? 二人とも、なんか機嫌悪そうだな? なにかあったのか? ケイが尋ねてくる。
「そういえば、あの子のプライベートは少しでも掴めたのかしら?」
「えっと……故郷と、馴染みのお店と、お身内を紹介してもらったよ」
「なっ⁉」
ケイが驚いた様子を見せる。俺が尋ねる。
「どうかしたか?」
「い、いえ、まさかそこまで接近するとは……」
「お身内を紹介……コウさん、油断も隙もありませんね……」
ケイとアユミがなにやらブツブツと呟く。俺が首を傾げる。
「何を言っているんだよ?」
「ま、まあ、いいわ。この先の針路なのだけど……」
「あ、ああ……」
針路について教えてくれるのか、ようやっと信頼を得られてきたかな?
「これから木星の衛星群に向かうわ」
「へえ、衛星群か……そこでライブをするのかい?」
「いいえ」
「あら? スケジュール真っ白? っていうことはまずは営業か。任せてくれ、新しい靴も買ったからな、どこでも行ってやるぜ」
「そういうことではないのよ」
「え?」
「ちょっと特殊な案件でね……」
「特殊?」
「衛星群で質の悪いテロリストが暴れ回っているらしいのよ」
「テ、テロリスト?」
「当然、賞金首よ。そいつらを先に始末した賞金稼ぎに衛星群で一番立派なライブ会場でライブをさせてくれるっていう話よ」
「つまり他の賞金稼ぎ兼アイドルと競争か……って、そんな連中他にもいんの⁉」
俺は驚く。キャラ被りってレベルじゃねえだろ。
「……前から思っていたんですが、マクルビさんのソロナンバー……」
「ん?」
「わりとベッタベタなポップスですよね」
「なに? ダメなの?」
レッスンルームでの俺の呟きに、コウちゃんが首を傾げる。俺は慌てて首を振る。
「い、いえ、ダメというわけではないですけど。意外と……」
「意外と?」
「可愛らしい声だなと」
「か、可愛らしい⁉」
「ん?」
俺は首を傾げる。コウちゃんが何故だか妙に顔を赤らめている。なにか怒らせるようなことを言ってしまったのか? ああ、やっぱりコウちゃんの性格的には『カッコいい』、『クール』とか言った方が喜ばれたか? どうする? 今更言い直しても遅いよな? とかなんとか思っていると、コウちゃんが小声で呟く。
「か、可愛らしいなんて、初めて言われたかも……」
「え?」
「な、なんでもないよ! 冗談うまいね、マネージャー!」
「? いえ、冗談ではありません、本心から言っています」
「ええっ?」
「いつもその歌声をよく聴かせてもらっていますから」
「い、いつも⁉」
「ええ、もちろん業務はきちんとこなしているつもりですよ?」
「そう……なんだ、いつも聴いてくれているんだ……へへっ」
コウちゃんは俯きながら鼻の頭をこする。
「そういえば、おばあさんから歌を習ったと聞きましたが……」
「うん、体術からなにから、おばあちゃん仕込みだね」
「おばあさん子なんですね」
「というか、実の両親を知らないからね」
「ええっ⁉」
「あの人は孤児だったアタシを拾ってくれたの」
「そ、そうだったんですか、すみません……」
またやってしまった。俺は頭を下げる。コウちゃんは笑って、手を左右に振る。
「いやいや、別に謝らなくていいから」
「は、はい……」
「でも、まあご覧の通り、本当の家族みたいなもんだよ、あの町の人たちを含めてね♪」
「そ、そうですね……」
個人情報ダダ漏れみたいな状況はどうかと思うが、俺は頷いておく。
「まあ、それはいいとしてさ……」
「はい」
「アタシのプライベートも知ってしまったわけじゃん……」
「え、ええ……」
コウちゃんはどこか照れくさそうに告げる。
「ア、アタシのことはこれからコウって呼んでいいよ……」
「は、はい……って、ええっ⁉」
俺は驚きの目線でコウちゃんを見つめる。コウちゃんは苦笑する。
「そんなに驚くこと? 初めはそう呼んでいたじゃん」
「そ、それは……し、しかし、今は正式にアイドルとマネージャーの関係なわけですから、その辺はしっかりとわきまえないとならないかと……」
「マクルビさんって呼ばれるの、なんか学校とか思い出して、窮屈に感じるんだよ。アタシはファーストネームで呼ばれる方がなんかこう……良い感じなんだよ」
「そうは言われても……そこまでの仲を築き上げてきたとはまだ言い難いですし……」
「親も紹介した仲じゃん!」
「いや、あれはある意味不意打ちというか……」
「ダメ?」
コウちゃんが小首を傾げる。か、かわいい……。ちょっとボーイッシュな面もある子がこうして女の子っぽい素振りをするだけでもう抵抗出来ないな。だが、待てよ……賞金首の異星人どころか俺のことをためらいなく撃ったり、槍で貫いたり……そういうことを躊躇なく行える子なんだよな、この子も……。やっぱり深入りするのは危険だ。俺は首を撫でながら適当に話をはぐらかそうとする。
「う~ん、それよりもですね……」
「マネージャー……!」
コウちゃんが俺のネクタイをグイっと引っ張ってくる。か、顔が近い! 力も強い! 返答次第ではこのまま絞め落とされてしまうかも……。
「えっと……よ、よろしくな、コウ」
「う、うん……」
「……じゃあ、俺のこともタスマって呼んでくれないか」
「え?」
「親も紹介してくれた仲なんだろう?」
「そ、それは、まあ、そうだけど……」
「じゃあほら、タスマって呼んでごらん、ほらほら、どうぞ」
「……タ、タマスダレ!」
「植物扱い⁉!」
「や、やっぱり恥ずかしいよ! アタシはマネージャーって呼ぶからね! じゃ、じゃあ、失礼! 練習に付き合ってくれてありがと!」
コウちゃんが、レッスンルームから足早に出ていく。う~ん、悪乗りし過ぎたかな?
「随分と楽しそうだったわね……」
「コウさん、顔が真っ赤でした……」
「あ、ケイ、アユミ……」
ケイとアユミがレッスンルームに入ってくる。あれ? 二人とも、なんか機嫌悪そうだな? なにかあったのか? ケイが尋ねてくる。
「そういえば、あの子のプライベートは少しでも掴めたのかしら?」
「えっと……故郷と、馴染みのお店と、お身内を紹介してもらったよ」
「なっ⁉」
ケイが驚いた様子を見せる。俺が尋ねる。
「どうかしたか?」
「い、いえ、まさかそこまで接近するとは……」
「お身内を紹介……コウさん、油断も隙もありませんね……」
ケイとアユミがなにやらブツブツと呟く。俺が首を傾げる。
「何を言っているんだよ?」
「ま、まあ、いいわ。この先の針路なのだけど……」
「あ、ああ……」
針路について教えてくれるのか、ようやっと信頼を得られてきたかな?
「これから木星の衛星群に向かうわ」
「へえ、衛星群か……そこでライブをするのかい?」
「いいえ」
「あら? スケジュール真っ白? っていうことはまずは営業か。任せてくれ、新しい靴も買ったからな、どこでも行ってやるぜ」
「そういうことではないのよ」
「え?」
「ちょっと特殊な案件でね……」
「特殊?」
「衛星群で質の悪いテロリストが暴れ回っているらしいのよ」
「テ、テロリスト?」
「当然、賞金首よ。そいつらを先に始末した賞金稼ぎに衛星群で一番立派なライブ会場でライブをさせてくれるっていう話よ」
「つまり他の賞金稼ぎ兼アイドルと競争か……って、そんな連中他にもいんの⁉」
俺は驚く。キャラ被りってレベルじゃねえだろ。
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