Live or Die?

阿弥陀乃トンマージ

文字の大きさ
上 下
18 / 51
第1回公演

第5惑星(1)ちょっと特殊な案件

しおりを挟む
                  5

「……前から思っていたんですが、マクルビさんのソロナンバー……」

「ん?」

「わりとベッタベタなポップスですよね」

「なに? ダメなの?」

 レッスンルームでの俺の呟きに、コウちゃんが首を傾げる。俺は慌てて首を振る。

「い、いえ、ダメというわけではないですけど。意外と……」

「意外と?」

「可愛らしい声だなと」

「か、可愛らしい⁉」

「ん?」

 俺は首を傾げる。コウちゃんが何故だか妙に顔を赤らめている。なにか怒らせるようなことを言ってしまったのか? ああ、やっぱりコウちゃんの性格的には『カッコいい』、『クール』とか言った方が喜ばれたか? どうする? 今更言い直しても遅いよな? とかなんとか思っていると、コウちゃんが小声で呟く。

「か、可愛らしいなんて、初めて言われたかも……」

「え?」

「な、なんでもないよ! 冗談うまいね、マネージャー!」

「? いえ、冗談ではありません、本心から言っています」

「ええっ?」

「いつもその歌声をよく聴かせてもらっていますから」

「い、いつも⁉」

「ええ、もちろん業務はきちんとこなしているつもりですよ?」

「そう……なんだ、いつも聴いてくれているんだ……へへっ」

 コウちゃんは俯きながら鼻の頭をこする。

「そういえば、おばあさんから歌を習ったと聞きましたが……」

「うん、体術からなにから、おばあちゃん仕込みだね」

「おばあさん子なんですね」

「というか、実の両親を知らないからね」

「ええっ⁉」

「あの人は孤児だったアタシを拾ってくれたの」

「そ、そうだったんですか、すみません……」

 またやってしまった。俺は頭を下げる。コウちゃんは笑って、手を左右に振る。

「いやいや、別に謝らなくていいから」

「は、はい……」

「でも、まあご覧の通り、本当の家族みたいなもんだよ、あの町の人たちを含めてね♪」

「そ、そうですね……」

 個人情報ダダ漏れみたいな状況はどうかと思うが、俺は頷いておく。

「まあ、それはいいとしてさ……」

「はい」

「アタシのプライベートも知ってしまったわけじゃん……」

「え、ええ……」

 コウちゃんはどこか照れくさそうに告げる。

「ア、アタシのことはこれからコウって呼んでいいよ……」

「は、はい……って、ええっ⁉」

 俺は驚きの目線でコウちゃんを見つめる。コウちゃんは苦笑する。

「そんなに驚くこと? 初めはそう呼んでいたじゃん」

「そ、それは……し、しかし、今は正式にアイドルとマネージャーの関係なわけですから、その辺はしっかりとわきまえないとならないかと……」

「マクルビさんって呼ばれるの、なんか学校とか思い出して、窮屈に感じるんだよ。アタシはファーストネームで呼ばれる方がなんかこう……良い感じなんだよ」

「そうは言われても……そこまでの仲を築き上げてきたとはまだ言い難いですし……」

「親も紹介した仲じゃん!」

「いや、あれはある意味不意打ちというか……」

「ダメ?」

 コウちゃんが小首を傾げる。か、かわいい……。ちょっとボーイッシュな面もある子がこうして女の子っぽい素振りをするだけでもう抵抗出来ないな。だが、待てよ……賞金首の異星人どころか俺のことをためらいなく撃ったり、槍で貫いたり……そういうことを躊躇なく行える子なんだよな、この子も……。やっぱり深入りするのは危険だ。俺は首を撫でながら適当に話をはぐらかそうとする。

「う~ん、それよりもですね……」

「マネージャー……!」

 コウちゃんが俺のネクタイをグイっと引っ張ってくる。か、顔が近い! 力も強い! 返答次第ではこのまま絞め落とされてしまうかも……。

「えっと……よ、よろしくな、コウ」

「う、うん……」

「……じゃあ、俺のこともタスマって呼んでくれないか」

「え?」

「親も紹介してくれた仲なんだろう?」

「そ、それは、まあ、そうだけど……」

「じゃあほら、タスマって呼んでごらん、ほらほら、どうぞ」

「……タ、タマスダレ!」

「植物扱い⁉!」

「や、やっぱり恥ずかしいよ! アタシはマネージャーって呼ぶからね! じゃ、じゃあ、失礼! 練習に付き合ってくれてありがと!」

 コウちゃんが、レッスンルームから足早に出ていく。う~ん、悪乗りし過ぎたかな?

「随分と楽しそうだったわね……」

「コウさん、顔が真っ赤でした……」

「あ、ケイ、アユミ……」

 ケイとアユミがレッスンルームに入ってくる。あれ? 二人とも、なんか機嫌悪そうだな? なにかあったのか? ケイが尋ねてくる。

「そういえば、あの子のプライベートは少しでも掴めたのかしら?」

「えっと……故郷と、馴染みのお店と、お身内を紹介してもらったよ」

「なっ⁉」

 ケイが驚いた様子を見せる。俺が尋ねる。

「どうかしたか?」

「い、いえ、まさかそこまで接近するとは……」

「お身内を紹介……コウさん、油断も隙もありませんね……」

 ケイとアユミがなにやらブツブツと呟く。俺が首を傾げる。

「何を言っているんだよ?」

「ま、まあ、いいわ。この先の針路なのだけど……」

「あ、ああ……」

 針路について教えてくれるのか、ようやっと信頼を得られてきたかな?

「これから木星の衛星群に向かうわ」

「へえ、衛星群か……そこでライブをするのかい?」

「いいえ」

「あら? スケジュール真っ白? っていうことはまずは営業か。任せてくれ、新しい靴も買ったからな、どこでも行ってやるぜ」

「そういうことではないのよ」

「え?」

「ちょっと特殊な案件でね……」

「特殊?」

「衛星群で質の悪いテロリストが暴れ回っているらしいのよ」

「テ、テロリスト?」

「当然、賞金首よ。そいつらを先に始末した賞金稼ぎに衛星群で一番立派なライブ会場でライブをさせてくれるっていう話よ」

「つまり他の賞金稼ぎ兼アイドルと競争か……って、そんな連中他にもいんの⁉」

 俺は驚く。キャラ被りってレベルじゃねえだろ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

処理中です...