Live or Die?

阿弥陀乃トンマージ

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第1回公演

第4惑星(3)個人情報ダダ漏れ

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「あははっ、そんなに驚くこと?」

「い、いえ……火星のご出身だったんですね?」

「うん、そうだよ♪」

「は、はあ……で、ここが地元と」

「そう、この町は庭みたいなもんだね♪」

「な、なるほど……はっ!」

「ど、どうしたの?」

「よ、よく見ると、マクルビさん個人のポスターや、『ギャラクシーフェアリーズ』のポスターや広告が町中の至るところに……!」

「ははっ、新曲リリースとかの度にこうしてポスター貼ってくれたりしているんだよね~」

「そ、そうなんですか……あのマクルビさんの顔がアップになっているポスターは?」

「あ、あれは『おらが町のスター、コウ=マクルビちゃんの出身地はこの町です!』って、ポスターだよ。アタシは恥ずかしいから良いって言ってるんだけどさ~」

 恥ずかしいとかそういう問題なんだろうか? 裏の顔である賞金稼ぎとしても表の顔であるアイドルとしてもちょっとマズいんじゃないだろうか? いや、アイドルが裏の顔だったか? ええい、面倒くさいな……って、おいおい……。

「マ、マクルビさん……?」

「ん? どうしたの?」

「あ、あれは……?」

 俺は町の中心部と思われるエリアに立つ銅像を指差す。コウちゃんは苦笑する。

「ああ、あれはアタシの銅像」

「ど、銅像⁉」

 俺は驚きのあまり大声を上げる。コウちゃんがビクッとする。

「そ、そんなに驚くこと?」

「い、いや、驚きますよ。なんでまた銅像が?」

「いやあ、この町が財政難に陥ったとき、アタシに結構なギャラが入ってさ……自分で言うのもなんだけど、アタシはどうせロクなことに使わないだろうと思って、そのギャラを丸々寄付したんだよ」

「は、はあ……」

「そしたら、『その栄誉を讃えたいから~』とかなんとか言っちゃって、あんな銅像が立っちゃったわけ。ウケるよね~♪」

「そ、そうなんですね……」

 その若さにして郷土の名士かよ? い、いや、それよりもいいのか? 個人情報ダダ漏れってレベルじゃねえぞ? コウちゃんもこの町の連中もちょっと呑気過ぎないか?

「どうしたの?」

「い、良いんですか。あの銅像?」

「うん? まあ、立っちゃったもんはしょうがないしね~」

「そ、そうは言っても……」

「待ち合わせ場所とかで役に立っているみたいだから良いんじゃない?」

「は、はあ……」

「そんなことよりこっちだよ」

 コウちゃんは俺を別の通りへと先導する。俺は呼び止める。

「マ、マクルビさん?」

「なに?」

 俺は小声で尋ねる。

「寄付したギャラって……アイドルとしてのライブのってことですよね?」

「ちょっと前だから忘れちゃったな……」

「ええ……」

「あの時の……ジョミール星人とミザール星人のお尋ね者を仕留めた時かな?」

「ええっ⁉」

「まあ、そんなのは別に良いじゃん♪ ほら、こっちこっち♪」

 コウちゃんは鼻歌まじりで再び歩き出す。ち、血生臭い銅像……。俺は銅像を見上げる。なんていうか、世間の闇をうっかり覗いちまったような気分だぜ……。俺は気を取り直して、コウちゃんの後に続く。

「あ、あの、どこに行くんですか?」

「え? 忘れちゃったの? あ、着いた、ほら、ここだよ、ここ」

 コウちゃんはある建物を指差す。看板に靴のイラストが描いてある。

「あ、ああ、靴屋……」

「そう、ここはなんでも揃っているよ。アタシも昔から通っているんだ」

「そうなんですね」

 店頭にデカデカとコウちゃんのポスター貼ってあるし、サイン入りの。

「じゃあ、入ろうか」

「お、コウちゃん! いらっしゃい!」

「どうも~♪」

 お店の主人が笑顔で元気よく声をかけてきて、コウちゃんも愛想よく応える。

「今日はどうしたんだい?」

「うん、この人の靴を見繕って欲しいんだ」

「……どこの馬の骨だい、こいつは?」

 主人は笑顔から一転険しい顔つきになり、俺を睨んでくる。馬の骨ってなんだ、馬の骨って。コウちゃんが笑う。

「ははっ、アタシたちの新しいマネージャーだよ」

「ああ! マネージャーさんでしたか! こいつは失礼!」

 主人は再び笑顔になる。人間不信になりそうな豹変ぶりだな。まあ、それはいい。

「初めまして、マネージャーのタスマ=ドラキンです」

「いや、コウちゃんに近づく悪い輩かと思いましてね……最近なにかと物騒でしょう?」

 主人が小声で囁いてくる。町を挙げてあれだけ喧伝してりゃあ、そりゃあそんな輩も寄ってくるだろうよ。リスク管理チグハグだろ。コウちゃんが主人に声をかける。

「マネージャーだから、営業とかで色々出歩くと思うんだ、整備されたオフィス街からゴツゴツした岩肌の土地まで」

 ちょっと待て、どこに営業へ行かせる気だ。主人が腕を組む。

「ふむ……」

「フォーマルかつスポーティーな靴とかない?」

「ちょうど良いのがあるよ……これだ。見た目は単なるちょっとオシャレな革靴だが、マグマや雪原にも耐えられるほどの素材で出来ている」

 どんな靴だよ。俺は2人に促されて、その靴を試着する……うん、悪くない。

「……良いですね、これ」

「気に入った?」

「ええ」

「じゃあ、これで」

「はいよ。そういえば、コウちゃんの靴、新作が入ったよ」

「ああ、そうなんだ」

「……これなんだけど、試着してみる?」

「うん……へえ、良いね、軽量感が増している。気に入った、これも買っていくよ」

「毎度あり!」

 俺たちは靴を履き替えて、靴屋を後にする。コウちゃんが口を開く。

「……あの店にはずっとお世話になっていてね……大会とかに出る度に靴が必要になったから、安くてなんでも揃っているあの店はありがたいんだ」

「大会?」

「ほら、アタシって運動神経の塊じゃん? 運動部の助っ人を依頼されることが多くてさ」

 なるほど、大会で目立って、アイドル(賞金稼ぎ)としてスカウトされたのかな? ん?

「あ、あの……マクルビさん? バギーを停めているのは向こうでは?」

「え? アタシの育ての親に挨拶してかないの?」

「ええっ⁉ い、いや、それは……」

「もう着いたけど……ん⁉」

「はははっ! 来たな、コウ=マクルビ! お前の育ての親は俺たちが捕らえた!」

 キュウリに手足が生えた異星人が叫ぶ。他の2人に年配の女性が取り押さえられている。

「ア、アンタたちは⁉ くっ、どうしてここが⁉」

 ほら、言わんこっちゃない……。俺は頭を抱える。
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