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第1回公演
第3惑星(3)マザーミイ
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「もう、それを言うならせめてリトルマザーとかでしょう……誰に教わったの?」
ケイちゃんが苦笑気味に尋ねる。
「マザーに!」
「まったく……」
子供たちの元気の良い答えにケイちゃんが呆れる。
「お久しぶりね、ケイ」
建物から黒い修道服を着た女性が出てくる。両手を小さい子たちにグイグイと引っ張られている。俺はその顔を見て驚く。ケイちゃんによく似ているからだ。
「久しぶりね、マザー」
「貴女からそう呼ばれるとなんだか照れちゃうわ。今日はどうしたの?」
「近くに来たから寄っただけよ……お願い」
促された俺は車から大量の荷物を建物に運び込む。マザーと呼ばれた女性は驚く。
「まあ、これは……」
「皆、良い子にしてた? お姉さんからプレゼントよ」
「わあ……!」
「新品のサッカーボールだ!」
「かわいいぬいぐるみ!」
子供たちが歓声を上げる。妙な買い物が多いなと思ったらそういうことだったのかと、今更俺は納得する。マザーが喜ぶ子供たちを見ながら目を細め、ケイちゃんに礼を言う。
「ありがとう、ケイ」
「こういうことくらいしか、私には出来ないから……」
ケイちゃんは前髪をかき上げる。マザーと俺の目が合う。
「それでこちらは? ケイの良い人?」
「ぶっ! な、なんでそうなるのよ!」
「だって誰か連れてくるなんて珍しいじゃない? アユミちゃんとコウちゃん以外で」
「マネージャーよ、荷物持ちを頼んだの」
「ああ、マネージャーさんでしたか。妹がいつも世話になっております」
「い、いえ、こちらこそ……」
マザーが恭しく頭を下げてきたため、俺もつられて頭を下げる。ん? 妹?
「そうよ、ミイ=ハイジャ、私の姉」
視線を向けてきた俺にケイちゃんが答える。
「お姉さん?」
「そう、ここで孤児院を営んでいるの」
「周囲の方々に助けられてばかりですが……」
「はあ……ひょっとして、ハイジャさん……」
「そうよ、私たち姉妹もここの孤児院出身」
「す、すみません……」
無神経なことを聞いてしまったと思った俺は謝る。ケイちゃんがため息をつく。
「別にいいわよ……」
「この金星が故郷ということなんですね?」
「いいえ、生まれは木星よ」
「え?」
「……木星の第2衛星、『エウロパ』……地球の2倍の水を持つこの星から氷を切り出して、金星に運び、水不足を解決する……数百年がかりで行われているこのテラフォーミング計画の一端に、私たちの両親も携わっていた……だけど……」
「私たちがまだ幼い頃に作業中の不慮の事故で両親は命を落としたのです……」
「す、すみません!」
俺は頭をこれでもかと下げる。ケイちゃんが呆れる。
「だから別に謝らなくていいから……」
「身寄りのなくなった私たちを、この孤児院の前経営者であるグランドマザーが引き取って下さったのです」
「そうだったんですか……」
「貴方が暗い顔になる必要はないでしょう」
ケイちゃんが俯き加減の俺に突っ込んでくる。いや、ここで明るい表情だったら、サイコパスじゃん? ミイさんが両手を合わせる。
「大したおもてなしも出来ませんが、お茶でもどうですか。えっと……」
「ああ、タスマ=ドラキンです」
俺は自分の名前を名乗る。
「タスマさん、金星のお菓子なんかいかがです?」
「悪いけど、時間が無いの。今日はこれでお暇するわ」
「あら、残念ね……」
「そりゃあ、俺たちも残念だな~」
「!」
俺たちが視線を向けると、孤児院の玄関にナスビに手足が生えた異星人が3人立っていた。ミイさんが若干顔をしかめながらナスビに尋ねる。
「期日はまだのはずですが……?」
「気が変わったんだよ」
「そんな……」
「見張りから連絡があってな、あの有名なケイ=ハイジャちゃんが来ているっていうじゃないか、俺たちアンタの大ファンなんだよ」
「それはどうも……」
ケイちゃんが会釈する。
「つうわけで、今回の分、耳揃って払ってもらおうかね」
「い、いや、そんな、無茶苦茶です!」
「無茶苦茶な借金をした先代のババアを恨めよ」
「くっ……」
「どうした? 払えねえのか?」
「まだお金は用意出来ていません……」
「マジかよ、それならガキを何人か連れていくか?」
ナスビの1人が子供の腕を掴む。ミイさんが叫ぶ。
「や、やめて!」
「じゃあ、どうする? マザーがなんとかしてくれるか? むしろそっちの方が俺たちも良いんだぜ?」
ナスビがいやらしい視線をミイさんに向ける。ミイさんが唇を噛む。
「くっ……し、仕方がありま……」
「ちょっと待って」
「ケイ?」
「見たことのない顔だけど……貴方たち誰?」
「あ? 俺たちは『ナスビファミリー』だ。知らないか?」
「話だけならなんとなくは」
「ほう、それは光栄だね」
「この孤児院が貴方たちに借金をした認識は無いのだけど」
「別の連中から債権を引き継いだ、それだけのことだ」
「その別の連中は?」
「ガキに聞かせても良いんなら、事細かに話すぜ?」
ナスビは子供たちを見回す。ケイちゃんが手を上げて制す。
「それは結構……借金の件、私が聞くわ」
「ケイ!」
「心配しないで。マザーは子供たちを見ていてちょうだい」
「ほう……話を聞いてくれるのかい?」
「ええ……場所を変えましょう」
ケイちゃんは俺に目配せする。俺も立ち上がり、孤児院の外に出る。ケイちゃんの運転で、孤児院から離れたところで車を降りる。後をついてきたナスビが不思議そうに尋ねる。
「なんだい、金の受け渡しなら、あそこの近くでもいいだろう?」
「生憎、持ち合わせがないの……体で払うわ」
「へえ、それはそれは……⁉」
ケイちゃんがナスビの足元に発砲して叫ぶ。
「……もとい、貴方たちの賞金でね!」
ケイちゃんが苦笑気味に尋ねる。
「マザーに!」
「まったく……」
子供たちの元気の良い答えにケイちゃんが呆れる。
「お久しぶりね、ケイ」
建物から黒い修道服を着た女性が出てくる。両手を小さい子たちにグイグイと引っ張られている。俺はその顔を見て驚く。ケイちゃんによく似ているからだ。
「久しぶりね、マザー」
「貴女からそう呼ばれるとなんだか照れちゃうわ。今日はどうしたの?」
「近くに来たから寄っただけよ……お願い」
促された俺は車から大量の荷物を建物に運び込む。マザーと呼ばれた女性は驚く。
「まあ、これは……」
「皆、良い子にしてた? お姉さんからプレゼントよ」
「わあ……!」
「新品のサッカーボールだ!」
「かわいいぬいぐるみ!」
子供たちが歓声を上げる。妙な買い物が多いなと思ったらそういうことだったのかと、今更俺は納得する。マザーが喜ぶ子供たちを見ながら目を細め、ケイちゃんに礼を言う。
「ありがとう、ケイ」
「こういうことくらいしか、私には出来ないから……」
ケイちゃんは前髪をかき上げる。マザーと俺の目が合う。
「それでこちらは? ケイの良い人?」
「ぶっ! な、なんでそうなるのよ!」
「だって誰か連れてくるなんて珍しいじゃない? アユミちゃんとコウちゃん以外で」
「マネージャーよ、荷物持ちを頼んだの」
「ああ、マネージャーさんでしたか。妹がいつも世話になっております」
「い、いえ、こちらこそ……」
マザーが恭しく頭を下げてきたため、俺もつられて頭を下げる。ん? 妹?
「そうよ、ミイ=ハイジャ、私の姉」
視線を向けてきた俺にケイちゃんが答える。
「お姉さん?」
「そう、ここで孤児院を営んでいるの」
「周囲の方々に助けられてばかりですが……」
「はあ……ひょっとして、ハイジャさん……」
「そうよ、私たち姉妹もここの孤児院出身」
「す、すみません……」
無神経なことを聞いてしまったと思った俺は謝る。ケイちゃんがため息をつく。
「別にいいわよ……」
「この金星が故郷ということなんですね?」
「いいえ、生まれは木星よ」
「え?」
「……木星の第2衛星、『エウロパ』……地球の2倍の水を持つこの星から氷を切り出して、金星に運び、水不足を解決する……数百年がかりで行われているこのテラフォーミング計画の一端に、私たちの両親も携わっていた……だけど……」
「私たちがまだ幼い頃に作業中の不慮の事故で両親は命を落としたのです……」
「す、すみません!」
俺は頭をこれでもかと下げる。ケイちゃんが呆れる。
「だから別に謝らなくていいから……」
「身寄りのなくなった私たちを、この孤児院の前経営者であるグランドマザーが引き取って下さったのです」
「そうだったんですか……」
「貴方が暗い顔になる必要はないでしょう」
ケイちゃんが俯き加減の俺に突っ込んでくる。いや、ここで明るい表情だったら、サイコパスじゃん? ミイさんが両手を合わせる。
「大したおもてなしも出来ませんが、お茶でもどうですか。えっと……」
「ああ、タスマ=ドラキンです」
俺は自分の名前を名乗る。
「タスマさん、金星のお菓子なんかいかがです?」
「悪いけど、時間が無いの。今日はこれでお暇するわ」
「あら、残念ね……」
「そりゃあ、俺たちも残念だな~」
「!」
俺たちが視線を向けると、孤児院の玄関にナスビに手足が生えた異星人が3人立っていた。ミイさんが若干顔をしかめながらナスビに尋ねる。
「期日はまだのはずですが……?」
「気が変わったんだよ」
「そんな……」
「見張りから連絡があってな、あの有名なケイ=ハイジャちゃんが来ているっていうじゃないか、俺たちアンタの大ファンなんだよ」
「それはどうも……」
ケイちゃんが会釈する。
「つうわけで、今回の分、耳揃って払ってもらおうかね」
「い、いや、そんな、無茶苦茶です!」
「無茶苦茶な借金をした先代のババアを恨めよ」
「くっ……」
「どうした? 払えねえのか?」
「まだお金は用意出来ていません……」
「マジかよ、それならガキを何人か連れていくか?」
ナスビの1人が子供の腕を掴む。ミイさんが叫ぶ。
「や、やめて!」
「じゃあ、どうする? マザーがなんとかしてくれるか? むしろそっちの方が俺たちも良いんだぜ?」
ナスビがいやらしい視線をミイさんに向ける。ミイさんが唇を噛む。
「くっ……し、仕方がありま……」
「ちょっと待って」
「ケイ?」
「見たことのない顔だけど……貴方たち誰?」
「あ? 俺たちは『ナスビファミリー』だ。知らないか?」
「話だけならなんとなくは」
「ほう、それは光栄だね」
「この孤児院が貴方たちに借金をした認識は無いのだけど」
「別の連中から債権を引き継いだ、それだけのことだ」
「その別の連中は?」
「ガキに聞かせても良いんなら、事細かに話すぜ?」
ナスビは子供たちを見回す。ケイちゃんが手を上げて制す。
「それは結構……借金の件、私が聞くわ」
「ケイ!」
「心配しないで。マザーは子供たちを見ていてちょうだい」
「ほう……話を聞いてくれるのかい?」
「ええ……場所を変えましょう」
ケイちゃんは俺に目配せする。俺も立ち上がり、孤児院の外に出る。ケイちゃんの運転で、孤児院から離れたところで車を降りる。後をついてきたナスビが不思議そうに尋ねる。
「なんだい、金の受け渡しなら、あそこの近くでもいいだろう?」
「生憎、持ち合わせがないの……体で払うわ」
「へえ、それはそれは……⁉」
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