【第三部】『こちら転生者派遣センターです。ご希望の異世界をどうぞ♪』【追放者編】

阿弥陀乃トンマージ

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『ケース3:パーティーを追放されてからチート魔法に目覚めて無双、モテモテハーレムライフを送りたい魔法使いユメナムの場合』

第3話(1)お玉袋の押し付け合い

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「……そのような戦闘でした」

「報告ありがとう、ムツミ。さて……なにか質問がある人は?」

 会議室で支配人が皆を見渡して告げる。

「……よろしいですか?」

「どうぞ、ノインさん」

「推測の域を出ませんが……」

「構いません」

 ノインさんは小さく咳払いをしてから話し出す。

「……テレスは何もない空間を掴んだという話ですが……恐らく水のかたまりを掴んだのではないでしょうか?」

「ふむ……」

「水のかたまり?」

 支配人は顎に手を当て、ムツミさんは首を傾げる。

「実際に確認していないのでなんとも言えませんが……ユメナム氏が体を水にするのがどの程度のものなのかが分かりません」

「程度とは?」

「精度とも言い換えられましょうか。全身全てが水と化して、そっくりそのまま動けるわけではないのではないでしょうか?」

「水滴を飛ばして、テレスを後退させたそうね?」

「は、はい……」

 支配人の問いに僕が頷く。ノインさんが続ける。

「その時に付着したものか、あるいはその辺りに浮かんでいたものかが分かりませんが、テレスはそれを掴んで電撃を発生させたのではないでしょうか?」

「なるほどね……」

 支配人が頷く。エルティさんがおずおずと手を挙げる。

「す、すみません……」

「どうぞ、エルティさん」

「どんな者でも、ユメナム殿を武器として使えるということでしょうか?」

「どうかしら、ノインさん?」

「どんな者でもとまでは言い切れんが……ある程度武器を使いこなせる者ならば可能なのではないだろうか」

「そ、そうですか……」

「あるいは……」

「あるいは?」

「想像力がある者だな」

「そ、想像力?」

「そうだ、ムツミは――一度見たとは言え――カタナをイメージした。対してユメナム氏がそれに応え、そういうことになった」

「ああ……」

「これも推測だが、使い手側にも技量なりなんなりが求められるのだろう……」

「な、なるほど……」

 エルティさんがうんうんと頷く。

「でもさ……」

「アギ、発言の際は挙手しろ……」

 ノインさんが口を開いたアギさんをたしなめる。

「面倒くさいな~はい、支配人」

「どうぞ、アギさん」

「テレスが使えた理由は?」

「武器としてイメージしたのであろう」

「何故、そこまで分かっているの?」

「言っただろう、協力する研究者の言葉に従ったようだ」

 ムツミさんが口をはさむ。

「ここまでギャング・イハタゲとの戦闘では、一度しか見せていないのに?」

「その一度で分析したのだろう……」

「そんなことが出来るの?」

「テレスは出来たな」

「相当優秀な研究者ね、そいつ」

「ふふっ、分析家としてのお株を奪われてしまいましたわね」

 ラジェネさんが笑みを浮かべながら、ノインさんに話しかける。

「……」

「失礼、挙手が先でしたわね……」

「同じことを言うな、時間の無駄だ」

「あらら……」

 ノインさんの言葉にラジェネさんが苦笑する。支配人が口を開く。

「……その研究者はやはり相当優秀なようね」

「ええ、パワードスーツも開発したわけですから……科学的にかなり進んでいる知識と技術を有しているのは間違いありません」

「や、やはり、北方の大企業の関係者ではないでしょうか?」

「ええ、その線でもう少し詳しく調べてみましょう、なにか尻尾が掴めるかもしれません」

 エルティさんの言葉に支配人が頷く。

「あるいは……」

「あるいは?」

 ノインさんに向かって、支配人が首を傾げる。

「魔法にかなり精通している者なのかもしれません」

「それもありえますね。一度で、ユメナムさんの魔法をある程度看破したわけですから……」

「ええ、これも推測の域を出ませんが……」

「……はい」

「どうぞ、ラジェネさん」

「……ノインさん、貴女、さっきから口を開けば推測ばかりではありませんか。お得意の分析は一体どうなされたの?」

「む……」

「さっさとこちらを分析なり分解なさったら?」

 ラジェネさんが僕を指し示す。ぶ、分解は嫌だな……。

「時間がない。色々と忙しいんだ……」

「隊の戦力増強に繋がることですのよ? なによりも最優先すべきではなくて?」

 ラジェネさんがノインさんを見つめる。

「……そんなに興味関心があるのなら、貴様に先を譲ろう……」

「なっ!」

「なに、遠慮することはない」

「い、いや……だって……」

 ラジェネさんが目を逸らす。

「だって?」

「そ、その……つまりこちらのお玉袋を触るということでしょう?」

 お玉袋って。丁寧に言えば良いってもんじゃないと思うが。ムツミさんが提案する。

「私みたいに手袋をつければいい」

「ムツミさん、わたくしは貴女みたいに簡単に割り切れませんの! そ、そりゃあ、殿方のそういう部分に興味が無いと言えば、嘘になってしまいますが……!」

「……貴様は早口で何を言っているんだ?」

 ノインさんが呆れたような視線をラジェネさんに向ける。

「と、とにかく遠慮しますわ! アギさん、貴女がどうぞ!」

「ええ、アタシもちょっと……」

「じゃ、じゃあ、ボクが……なんちゃって」

「ああ、それがいいね」

「名案ですわ」

「適任だな」

「だ、だから、なんでそういう時だけピタッと意見が合うんですか⁉」

 会議室にエルティさんの声が響く。
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