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『ケース3:パーティーを追放されてからチート魔法に目覚めて無双、モテモテハーレムライフを送りたい魔法使いユメナムの場合』
第2話(3)演じないこと
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「ちょ、ちょっと! ムツミさんまで除隊というのは厳しくないですか⁉」
エルティさんが声を上げる。うん、僕もそう思う。支配人は笑顔を浮かべたまま答える。
「……これをきっかけに役者として殻を破って欲しい……そう考えてのことです」
親心ってやつかな? いや、それにしても厳しくないか?
「……望むところです」
ムツミさんが口を開く。望んじゃったよ……。ラジェネさんが笑う。
「ふふっ、ムツミさん、その言葉に二言はありませんわね⁉」
「無論だ」
「いいの~? そんなこと言っちゃって……」
「ああ」
アギさんの言葉にムツミさんが頷く。
「お手並み拝見といこうか……」
ノインさんがポツリと呟く。
「……とりあえず、今日のところは解散です。ご苦労様でした」
支配人が告げると、皆が部屋を出ていく。僕とムツミさんだけが残る。
「……」
「はい、ユメナムさん」
支配人が本を渡してくる。僕は首を傾げる。
「こ、これは?」
「台本です。相手役の男性が貴方です」
「ほ、本当に、僕も出るんですか⁉」
「まあ、成り行き上ですが、そうなっちゃいました」
「な、なっちゃいましたって……」
結構出たとこ勝負だな、この人……。
「台詞など確認をお願いしますね」
「い、いや、僕は芝居に関して、全くの素人ですよ?」
「誰でも最初は初めてです」
「そ、それはそうかもしれませんが……」
「私からは一言だけ……」
「え?」
「頑張ってください」
「ええ?」
そう言って、支配人は部屋を後にしてしまった。本当に一言だけとは……。
「……とりあえず稽古場に案内しよう」
「は、はい……」
ムツミさんに続いて、僕は部屋を出る。
♢
「……なるほど、夢の遊撃隊とはお芝居もする集団だったのですね……」
「ああ」
僕は心の中で『ポーズ』と唱え、アヤコさんと通信をしている。
「なかなか興味深いですね」
「まさか、転生して、劇をすることになるとはね……」
「異世界は数あれど、そういうケースはかなり珍しいです。転生というのもどうしてなかなか奥が深いですね」
「なんだか他人事だね」
「それはまあ、他人ですからね」
「おいおい……」
アヤコさんの冷淡とも思える対応に僕は頭を抱える。
「……それでどうなのですか?」
「え?」
「お芝居の出来ですよ」
「大体想像がつくだろう? 同業者から台詞まわしがなってないと言われている役者と役者でもない、演技の『え』の字も知らない勇者パーティーを追放された魔法使いが演じる会話劇だよ? まともなものが出来ると思うかい?」
「到底思えませんね」
「そうだろう? はあ……」
僕はため息をつく。
「相手役……主演の方はどうなのですか?」
「かなり苛立っているようだね」
「ほう……」
「僕の不出来よりも、自分の不甲斐なさに腹が立っているようだけど」
「真面目な方なのですね」
「そうだね」
「会話劇とおっしゃいましたが、ユメナムさんはどのような役柄なのでしょうか?」
「……うだつのあがらない男だよ、仕事も上手くいかず、恋人である主役からも愛想を尽かされそうになっている情けないやつだ」
「……」
「まったく、どう演じてみればいいものか……」
「……素人意見ですが、演じなければ良いのではないのですか?」
「え? どういうことだい?」
「そのままのユメナムさんを表現すれば良いのではないでしょうか」
「そのままって……」
「私から言えるのは、それだけです。それでは定時ですので……」
「あ、ちょっと待って……通信を切ったな」
そのままの僕を出す……そういうアプローチもありなのか?
♢
「……私が言うのもなんだが、大分良くなってきたな」
ある日の稽古場で、ムツミさんが話かけてきた。
「え、そ、そうですか?」
「ああ、なんというか……こちらも台詞を言いやすい」
「それは良かったです」
「しかし、どういうことだ? まったくの素人だったものがこうも変わるか?」
「演じることをやめたんです」
「やめた?」
「もちろん、台詞や話の流れなど、最低限の情報は頭に入れてはいますが、余計な力を込めないようにしたというか……」
「力を込めない……リラックスした状態か」
「まあ、そんな感じですかね」
「……ふむ、参考になった」
ムツミさんがその場から離れる。それからしばらくして、公開リハーサルの日がやってきて、僕たちは芝居に臨んだ。一通り終えると、支配人が拍手してくれた。
「演出家から順調だとは聞いていましたが、良い出来ですね」
「よ、良かったと思います」
客席で見ていたエルティさんが遠慮気味に口を開く。 アギさんが同意する。
「そうだね。二人とも自然な感じだったよ」
「大根役者とど素人のはずでしたのに……一体どういうことですの?」
ラジェネさんがぶつぶつと呟く。もっとも声がよく通るので、ステージ上にも丸聞こえなのだが。ムツミさんが苦笑する。
「聞こえているぞ、ラジェネ……何故、芝居の質が上がったのか知りたいか?」
「……ご教授願いたいですわね」
「ユメナムは演じようと思っていない。何故なら素のままで、この役になりきれるからだ」
「⁉」
「なるほど、それは盲点だった……」
驚くラジェネさんの横でノインさんが頷く。うん? 素のままでなりきれる? それって僕がうだつの上がらない男だってことか? な、なんか複雑……。
「とにかく、この調子なら本番も心配ないですね……!」
ベルが鳴り響く。何事だと思っていると、ムツミさんが僕の方を見て叫ぶ。
「ユメナム、出動だ! 次はお前さんの強さを見せつけるぞ!」
エルティさんが声を上げる。うん、僕もそう思う。支配人は笑顔を浮かべたまま答える。
「……これをきっかけに役者として殻を破って欲しい……そう考えてのことです」
親心ってやつかな? いや、それにしても厳しくないか?
「……望むところです」
ムツミさんが口を開く。望んじゃったよ……。ラジェネさんが笑う。
「ふふっ、ムツミさん、その言葉に二言はありませんわね⁉」
「無論だ」
「いいの~? そんなこと言っちゃって……」
「ああ」
アギさんの言葉にムツミさんが頷く。
「お手並み拝見といこうか……」
ノインさんがポツリと呟く。
「……とりあえず、今日のところは解散です。ご苦労様でした」
支配人が告げると、皆が部屋を出ていく。僕とムツミさんだけが残る。
「……」
「はい、ユメナムさん」
支配人が本を渡してくる。僕は首を傾げる。
「こ、これは?」
「台本です。相手役の男性が貴方です」
「ほ、本当に、僕も出るんですか⁉」
「まあ、成り行き上ですが、そうなっちゃいました」
「な、なっちゃいましたって……」
結構出たとこ勝負だな、この人……。
「台詞など確認をお願いしますね」
「い、いや、僕は芝居に関して、全くの素人ですよ?」
「誰でも最初は初めてです」
「そ、それはそうかもしれませんが……」
「私からは一言だけ……」
「え?」
「頑張ってください」
「ええ?」
そう言って、支配人は部屋を後にしてしまった。本当に一言だけとは……。
「……とりあえず稽古場に案内しよう」
「は、はい……」
ムツミさんに続いて、僕は部屋を出る。
♢
「……なるほど、夢の遊撃隊とはお芝居もする集団だったのですね……」
「ああ」
僕は心の中で『ポーズ』と唱え、アヤコさんと通信をしている。
「なかなか興味深いですね」
「まさか、転生して、劇をすることになるとはね……」
「異世界は数あれど、そういうケースはかなり珍しいです。転生というのもどうしてなかなか奥が深いですね」
「なんだか他人事だね」
「それはまあ、他人ですからね」
「おいおい……」
アヤコさんの冷淡とも思える対応に僕は頭を抱える。
「……それでどうなのですか?」
「え?」
「お芝居の出来ですよ」
「大体想像がつくだろう? 同業者から台詞まわしがなってないと言われている役者と役者でもない、演技の『え』の字も知らない勇者パーティーを追放された魔法使いが演じる会話劇だよ? まともなものが出来ると思うかい?」
「到底思えませんね」
「そうだろう? はあ……」
僕はため息をつく。
「相手役……主演の方はどうなのですか?」
「かなり苛立っているようだね」
「ほう……」
「僕の不出来よりも、自分の不甲斐なさに腹が立っているようだけど」
「真面目な方なのですね」
「そうだね」
「会話劇とおっしゃいましたが、ユメナムさんはどのような役柄なのでしょうか?」
「……うだつのあがらない男だよ、仕事も上手くいかず、恋人である主役からも愛想を尽かされそうになっている情けないやつだ」
「……」
「まったく、どう演じてみればいいものか……」
「……素人意見ですが、演じなければ良いのではないのですか?」
「え? どういうことだい?」
「そのままのユメナムさんを表現すれば良いのではないでしょうか」
「そのままって……」
「私から言えるのは、それだけです。それでは定時ですので……」
「あ、ちょっと待って……通信を切ったな」
そのままの僕を出す……そういうアプローチもありなのか?
♢
「……私が言うのもなんだが、大分良くなってきたな」
ある日の稽古場で、ムツミさんが話かけてきた。
「え、そ、そうですか?」
「ああ、なんというか……こちらも台詞を言いやすい」
「それは良かったです」
「しかし、どういうことだ? まったくの素人だったものがこうも変わるか?」
「演じることをやめたんです」
「やめた?」
「もちろん、台詞や話の流れなど、最低限の情報は頭に入れてはいますが、余計な力を込めないようにしたというか……」
「力を込めない……リラックスした状態か」
「まあ、そんな感じですかね」
「……ふむ、参考になった」
ムツミさんがその場から離れる。それからしばらくして、公開リハーサルの日がやってきて、僕たちは芝居に臨んだ。一通り終えると、支配人が拍手してくれた。
「演出家から順調だとは聞いていましたが、良い出来ですね」
「よ、良かったと思います」
客席で見ていたエルティさんが遠慮気味に口を開く。 アギさんが同意する。
「そうだね。二人とも自然な感じだったよ」
「大根役者とど素人のはずでしたのに……一体どういうことですの?」
ラジェネさんがぶつぶつと呟く。もっとも声がよく通るので、ステージ上にも丸聞こえなのだが。ムツミさんが苦笑する。
「聞こえているぞ、ラジェネ……何故、芝居の質が上がったのか知りたいか?」
「……ご教授願いたいですわね」
「ユメナムは演じようと思っていない。何故なら素のままで、この役になりきれるからだ」
「⁉」
「なるほど、それは盲点だった……」
驚くラジェネさんの横でノインさんが頷く。うん? 素のままでなりきれる? それって僕がうだつの上がらない男だってことか? な、なんか複雑……。
「とにかく、この調子なら本番も心配ないですね……!」
ベルが鳴り響く。何事だと思っていると、ムツミさんが僕の方を見て叫ぶ。
「ユメナム、出動だ! 次はお前さんの強さを見せつけるぞ!」
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