【第三部】『こちら転生者派遣センターです。ご希望の異世界をどうぞ♪』【追放者編】

阿弥陀乃トンマージ

文字の大きさ
上 下
96 / 109
『ケース2:フラグをガンガンへし折りまくって、ハッピーエンドを目指す悪役令嬢志望のティエラの場合』

第12話(3)奥義を使わないわけにはいかない

しおりを挟む
「この北東の塔が俺らの担当っスね!」

「近くで見ると大きな塔だで~」

「なんか宝物とかないっスかね?」

「少しでも持ち帰れたらいい商売が出来そうだで」

「よ~し、いっちょやったるか!」

 ウンガンと言葉をかわし、ゲンシンが気勢を上げる。ソウリュウが呆れる。

「お前らは金の話ばかりだな……」

「ソウリュウはお金の大事さを分かってないだで」

「そうそう、稼げるときに稼いでおかないと!」

「商人はいいとして、坊主がそのようなことを言い出すとは世も末だな……」

 ソウリュウが苦笑する。

「とにかく早く行こうっス!」

「分かったから少し落ち着け……来たか」

「お待たせいたしましたわ」

 セーヴィが上空から降りてくる。ソウリュウが声をかける。

「斥候、ご苦労だったな。褒めてつかわす」

「は⁉ 天界から降り立った“氷の魔女”を捕まえて、その上から目線の物言い……」

「天界だかなんだか知らんが……一応労ってやっただろう」

「労って……や、やった?」

 セーヴィが唖然とする。ウェスが尋ねる。

「ひとまずそれはいい……どうだった?」

「……情報の通り、塔全体が障壁魔法に覆われていますわ。外からの破壊は難しいですわね」

「あちゃ~楽は出来ないか~」

 アズが苦笑する。ウンガンがソウリュウに確認する。

「ソウリュウ、やはり……」

「うむ、予定通り正面から突破だな……」

「よし! “光の悪魔”が派手に暴れるよ~」

「この“炎の死神”が通った先には草木一本残らん……」

 アズとウェスの背中を見てゲンシンが笑う。

「いや~悪魔とか死神とか、俺らもああいう時代があったっスね~」

「ふっ、子供の頃の話だろう……」

 ゲンシンとソウリュウの会話にセーヴィが割って入る。

「貴方がたも信じておりませんの? わたくしたちはれっきとした天界から来た者ですわ」

「ならばこんなところで遊んでいないで、さっさと天界に帰ればいいのではないか?」

 ソウリュウが上を指差す。セーヴィが肩を竦める。

「それが出来ないからこうしてわざわざ塔攻略に赴いているのです」

「こちらでは『龍と虎と鳳凰』、『天界』の二チームが塔に入ろうとしています。健闘をお祈りしております……」

「あの黒髪美人は確か……リポーターのマールさんだったかな?」

「ええ、各地への情報伝達の役割を担って下さるそうですわ」

 ウンガンの疑問にセーヴィが答える。ソウリュウが呟く。

「それもまた、ご苦労な話だな……」

「よし行くぞ! 我に続け!」

「オッケー、ウェスちん、皆もテンション上げて行こう~♪」

「調子が狂うな……」

 アズの気楽な雰囲気にソウリュウは軽く頭を抑える。ウェスが扉を破る。

「それ! む⁉」

 塔の内部に入るとウェスが驚く。内部は黒い影が多数蠢いていたからである。

「人の生命力を吸収したことによって出来上がった黒い人影……ハサンなる方からの情報によると、この塔の警備兵のようなものだそうですわ」

 セーヴィが冷静に説明する。ウェスが問う。

「セーヴィ、こやつらは倒しても構わぬのだな?」

「どうぞ、好き放題暴れて下さいな」

「はあっ!」

 ウェスが鎌を振るうと、斬られた影は次々と霧消していく。

「そーれ!」

「!」

 アズが両手を振りかざすと雷光が周囲に迸る。セーヴィが慌てて声を上げる。

「ア、アズ! 好き放題と言っても限度があります! もっと周りを見て下さい!」

「へへっ、メンゴメンゴ」

「全く……」

 セーヴィが頭を抱える横でウンガンとゲンシンも次々と影を消し飛ばしていく。

「……ふむ、この階層は片付いたな、上に向かうとしよう」

 ソウリュウが他の五人を促して、六人で階段を上っていく。そして、いくつかの階層を経て、幾多の影を撃波し、一番上の階層までたどり着く。ゲンシンが呟く。

「ここが最上階かな? 誰もいないみたいっスけど……うん?」

 ゲンシンが部屋の中央にある黄金色に輝くランプを見つける。ソウリュウが呟く。

「金色のランプ? 嫌な予感が……」

「おお~お宝発見っス! はるばる西の国まで来たかいがあったっスね~」

 ゲンシンが駆け寄り、ランプを手に取る。

「……ごしごしっとこすって頂戴……レッツ、ゴシゴシ!」

「おおっ! どこからともなく声が! これはもしかして天のお告げって奴っスか?」

「ま、待て! ゲンシン!」

 ソウリュウの制止も聞かず、ゲンシンはランプをゴシゴシこすってしまう。

「ふははは! ご苦労さん!」

「どわっ⁉」

 ランプから巨体で褐色の女性が出現し、ゲンシンを殴り飛ばす。ウェスが叫ぶ。

「だ、誰だ⁉」

「アタシは“ランプの魔女”ディオンヌさ!」

「魔女だと言っているぞ、知り合いか?」

「いいえ! あの禍々しいオーラ、きっと魔界の者でしょう……」

「天界だ魔界だとなにやら忙しいな……」

 セーヴィの答えにソウリュウは軽く額を抑える。ウェスが呟く。

「まさか魔界の者とこんな場所で相見えるとはな……」

「う~ん? 気に食わない気配だね~? 天界の連中かい?」

 ディオンヌが周りを見回し、ウェスたちを確認する。セーヴィが尋ねる。

「何故貴女がここに?」

「ふん、魔界の暮らしにも飽きてね……こっちの世界にちょっと遊びに来たんだよ……そうしたら『古の八闘士』って良い遊び場があるって聞いてね……」

「ちょっと待て! 遊び感覚か⁉」

 驚くソウリュウをよそに、セーヴィが質問を続ける。

「それがどうしてまたランプの中に?」

「せっかく塔の番人として立ちはだかるんだ……ただ待ち構えて、『よく来たね』ではいまひとつ演出が弱いって話になってね……アタシもそれはもっともだと思って……」

「演出が弱いって誰の意見だ⁉」

 ソウリュウが声を上げる。セーヴィが頷く。

「まあ、気持ちは分からないでもないですわね……どうもこの世界の者たちは我々と接しても驚き具合が足りないように思いますから」

「変なところで共感するな!」

 ソウリュウが叫ぶ。ディオンヌが再び口を開く。

「ところがランプに入ってみたは良いが、出られなくなってしまってね……いや~参ったよ、自分の魔力で自分を封印してしまったんだから……ぶははは!」

「馬鹿なのか⁉」

 高笑いするディオンヌにソウリュウが戸惑う。

「まあ、こうして出られたんだ。仕事をしようかね……」

「喰らえ!」

「ふん! 『魔力脚』!」

「がはっ⁉」

 ウェスが飛び上がって鎌を鋭く振るうが、ディオンヌがそれよりも速く蹴りを操り出し、ウェスを壁に向かって吹き飛ばす。アズが叫ぶ。

「ウェスちん! 仇は取るよ!」

「か、勝手に殺すな……」

「雷光をお見舞いしてあげる! えっ⁉」

「無駄口叩く前にさっさと出せば良かったんだよ! 『魔力拳』!」

「ぐっ⁉」

 ディオンヌが素早く間合いを詰め、アズを地面に叩き付ける。セーヴィが呟く。

「圧倒的な魔力……を帯びた拳と蹴り……脅威ですわ」

「それは魔力の意味があるのか⁉」

 ソウリュウが首を傾げる。セーヴィが銃を構え、即座に撃つ。

「氷の弾丸で動きを封じますわ! なっ⁉」

 セーヴィは唖然とする。数発放った弾丸がディオンヌの手前で燃え尽きたからである。

「こっちは地獄の業火を幾度となく浴びてきているんだ、体内に溜まったそれを放出すれば、そんな氷の欠片なんてわけないね……」

「くっ……まさかの相性最悪な相手が二度続くとは……」

 セーヴィが悔しさに唇を噛む。ウンガンが突如走り出す。

「は! ひょっとしたら、ひょっとするだで!」

「ウンガン⁉」

 ウンガンが落ちていたランプを拾い、ディオンヌに向けて蓋を開ける。

「どわっ⁉」

 強い衝撃波がランプから噴き出し、それを受けたディオンヌの巨体のバランスが崩れる。

「思った通りだで! かなりの魔力がランプに残っていた!」

「やるな! ウンガン!」

「『商機』と『勝機』は逃すなって親父にはよく言われていただで!」

「良い教えだ! 一気に決めるぞ! ウンガン! ゲンシン! お前らの火をよこせ!」

「ちょ、ちょっとお待ちを! 貴方たちは皆、火属性でしょう⁉ 相手には通じませんわ!」

「余の野望の火、地獄の業火ごときで覆い尽くせるか!」

「おでの願望の火も同じだで! 世界一の商人になるんだで!」

「俺の欲望の火も一緒っス! 大金稼いで女の子と死ぬまで豪遊したいっス!」

「一人邪な望みを持つ者がいませんこと⁉」

「この奥義を使わないわけにはいかない『龍虎鳳凰拳』!」

「がはあっ!」

 ソウリュウたちの合体攻撃を喰らい、ディオンヌは倒れ込み、ソウリュウたちも倒れる。

「業火すらものともせぬ龍と虎と鳳凰の合体技……下界でこんな技を見られるとは……」

 セーヴィは感嘆としながら、仲良く並んで倒れるソウリュウたちを見つめる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売です!】 早ければ、電子書籍版は2/18から販売開始、紙書籍は2/19に店頭に並ぶことと思います。 皆様どうぞよろしくお願いいたします。 【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

なんでも奪っていく妹とテセウスの船

七辻ゆゆ
ファンタジー
レミアお姉さまがいなくなった。 全部私が奪ったから。お姉さまのものはぜんぶ、ぜんぶ、もう私のもの。

処理中です...