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『ケース2:フラグをガンガンへし折りまくって、ハッピーエンドを目指す悪役令嬢志望のティエラの場合』

第10話(4)決戦前夜の光景

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                  ♢

「なんだこりゃあ……外にいたと思ったら、いつの間に豪華な宮殿内に……幻覚か?」

 アルフォンが驚いて周囲を見回す。ヴァレンティナが淡々と説明する。

「我がアルバートエレクトロニクス一押しの新商品、『どこでも宮殿気分!』です……テント感覚でお使い出来る、疑似的空間発生装置です」

「どうぞ自分の家だと思ってくつろいで下さい」

 バスローブ姿のマイクが亜人三人に声をかける。ニサが呆れたように尋ねる。

「おい、魔法使いの坊っちゃんよ、『科学に依存し過ぎるのは危険』とか言ってなかったか?」

「今はプライベートの時間ですから。便利な物は使わないと」

「なんだよ、プライベートって……」

「せっかくだからお言葉に甘えるか……おお、この椅子座り心地いいな。ん? どうした?」

 アルフォンは憮然とした態度で突っ立っているシバに声をかける。

「……俺は人間どもと馴れ合うつもりはねえ……」

「ご心配なく、私はロボットです」

「そ、そういう問題じゃ……」

「ワタシハウチュウジンダ、イワユル“ニンゲン”ニハガイトウシナイ……」

「だからそういうことじゃ……ええい! 面倒な連中だな、お前ら!」

 シバが頭を抱える。マイクが尋ねる。

「皆さんも明日の塔攻略に赴くのでしょう? 英気を養っておくことは重要です。一緒に食事でもいかがでしょうか? 色々とお話を伺いたいのです」

「お話だあ?」

「ええ、何分世間知らずなもので……良い意味で『常識外れ』の皆さんに興味があるのです」

「ミギニオナジダ……」

「私もデータを収集させて頂ければ大変ありがたいです」

「お前らの方がよっぽど『常識外れ』だろうが!」

 疑似宮殿にシバの叫び声が響く。

                  ♢

「……三人とも友人なのか。我らと同じだな」

「ええ……気を許せる数少ない友人よ」

 ウェスの言葉にパトラが頷く。セーヴィが尋ねる。

「御三方とも見るからにバラバラなご出身かと思われますが、どこでお知り合いに?」

「『世界美女倶楽部』のパーティーで意気投合したのよ」

「そ、そのような倶楽部があるのですね……下界もなかなか奥が深いですわね」

「下界だ、天界だとか言っているが、下々ではそういうごっこ遊びが流行っているのか?」

「し、下々⁉」

 ユファンの言葉にセーヴィが愕然とする。

「アハハ! ごっこ遊びだって! ウケる~」

「笑い事ではないぞ! アズ! これは由々しき事態だ!」

「ほう? どの辺が由々しいのじゃ?」

 ユファンがニヤニヤしながらウェスに尋ねる。

「我々の天界の者としての威厳がまったく伝わってないことだ」

「……威厳を示すなんて簡単なことよ」

「ほ、本当か⁉」

 パトラの発言にウェスが食い付く。

「例えばここの食事代……代わりに払ってくれるとかね」

 パトラがテーブルに山積みになった空の食器を指差す。ちなみにここはムスタファ首長国連邦一番の高級ホテルのレストランである。アズが驚く。

「え? 奢ってくれるんじゃないの⁉ ウチら手持ちないよ⁉」

「旺盛な 食欲まさに 天を衝く」

「一句詠んでいる場合か、オコマチ……まあいい、ここはわらわらが支払おう」

「「「あ、ありがとう!」」」

「威厳もなにもあったものじゃないわね……」

 揃って頭を下げるウェスたちを見て、パトラが呆れる。

                  ♢

「ふむ……珍しい武器だな」

「そりゃあ元々は髪の毛だからな」

 ゴメスのモヒカン剣をモンジュウロウは手に取ってマジマジと見つめる。

「しかし、なんとも不思議な体質だな、髪の毛が武器になるとは……」

「そういうおっさんも不思議な髪型しているけどな」

「お、おっさん⁉」

「でも、なかなかファンキーで良いと思うぜ」

「ふぁ、ふぁんきー……? よく分からんが褒めてくれているのか?」

「当たり前だろう。もっと自信持ちな!」

「別に自信は失っていないが……ちょんまげが褒められるとはな」

 モンジュウロウは戸惑い気味だが満更でもなさそうに自らの頭をさする。

「テュロン、とってもカワイイデース!」

 ワンダは自らの肩にちょこんと乗ったテュロンを撫でる。

「テュロンがこんなに懐くのは珍しいな、貴女を気に入ったようだ」

 ウヌカルが笑顔を浮かべる。

「テュロンは何が好物なんデスカ? やっぱり木の実とかデスカ?」

「がっつり肉食だな、牛や豚を主に好む」

「オ、オウ……それは聞かない方が良かったデース……」

「ヘイ! セリーヌちゃん! もっと腰を振って!」

「そ、そんなはしたない真似が出来るか!」

 セリーヌがディーディーの言葉に顔を赤くする。

「殻を破りたいと言ったのはユーだろう? ならば恥じらいなんか捨てちゃいなよ!」

「くっ……こうか⁉ これで私も騎士として一段階上に行けるのか⁉」

「HAHAHA! それは知らないよ、そもそも俺はナイトじゃないしね!」

「なっ⁉ 貴様に相談した私が愚かだった!」

 セリーヌは酒の勢いでよく分からない悩み事を話してしまったことを後悔した。

                  ♢

「おらっ!」

「よっと!」

 ルッカのパンチをブリッツが躱す。

「ちっ、すばしっこい奴だな!」

「そっちがいちいち大振り過ぎるんだよ、モーションでバレバレだよ?」

「この方が勢いつくんだよ! 当たればデカいぜ!」

「当たればの話でしょ……」

 ルッカの言葉にブリッツが呆れる。

「蔦を生やすのも悪くはないですが……もっとバリエーションがあっても良いのでは?」

「無くはないんだが……正直精度がね……」

 エイスの提案に対し、シルヴァンが首を左右に振る。

「……それでは自信のある蔦と組み合わせて使ってみるというのは?」

「……なるほど、幅が広がるかもしれないな……参考になったよ、ありがとう」

「どういたしまして」

 シルヴァンのお礼に対しエイスは笑顔を見せる。

「とりあえず喧嘩はしていないみたいね……」

 二組の様子を見て、ティエラは胸を撫で下ろす。

「お子さんたちの面倒を見ないといけないとは、気苦労が絶えませんね」

 リリアンが歩み寄る。ティエラが苦笑する。

「お子さんって……」

「余談ですが……わたくしの覆面が外れたとき、それほど驚かれていませんでしたね?」

「控室ですれ違った時、香水の匂いでピンときました。覚えのある匂いだなと」

「ああ、なるほど……鋭いですね」

「予選などで戦っている時はとてもそんな余裕ありませんでしたけどね」

「ふむ……明日に備えて、手合わせをお願いできますか?」

「こちらこそよろしくお願いします」

 リリアンとティエラはお互いに構えて向き合う。

                 ♢

 わたくしは心の中で『ポーズ』、『ヘルプ』と唱えます。

「……なんでしょうか」

 やや面倒臭そうな声でアヤコさんが答えます。

「最後の局面といったところですから、一応報告しておこうと思いまして」

「……こちらでも確認しました。ふむ、国の危機を救う為、塔に乗り込むと……」

「はい……」

「敵地に乗り込もうというのに覇気がないですね?」

 アヤコさんが不思議そうに尋ねてくる。

「そうですか?」

「ええ、いつもの根拠のない自信が感じられませんので」

「ちょっと待って下さい。それじゃあわたくし、ちょっと痛い人みたいじゃないですか」

「自覚無かったのですか?」

「え?」

 妙な間が空きます。

「ともかく……報告は承りました。もう切ってもよろしいですか?」

「……不安な気持ちで一杯なのです」

「……不安ですか?」

「ええ、悪役令嬢として転生し、自身に降りかかる様々な破滅の運命、所謂フラグを回避し、なんやかんやあって、転生者としては最良の結果にたどりつく……そんなことを申し上げましたが、まさかリアルに命の危機を感じながら日々を過ごすことになるとは予想だにしておりませんでした……それでもどうにかこうにかして最良の結果、所謂ハッピーエンドに近づくことが出来たと思います。しかし、最後の最後にまさか国一つの命運を賭けた戦いに臨むことになるとは……単なる悪役令嬢志望の女にはいささか荷が重すぎます……」

「ティエラ=ガーニ!」

「⁉」

 突然、アヤコさんが大きな声を上げた為に、わたくしは驚きます。

「貴女の悪役令嬢への熱い思いはそんな吹けば消える程度のものだったのですか?」

「そ、そんなことはありません!」

「ならば自信を持って下さい。貴女は初めにこうもおっしゃいました。『強く気高い悪役令嬢として転生したい』と……。強く気高い悪役令嬢ならば己の拳で以て破滅への運命に抗ってみせてください。フラグなど所詮ただの旗です。へし折ってしまえばよろしいのです」

「そうですね……ええ! やってやりますわ! わたくしこそが悪役令嬢ですわ!」

「ふふっ、その意気ですよ。それではそろそろ定時なので失礼します」

 最後の一言は余計な気もしましたが、わたくしは奮い立ち、『ポーズ』を解除します。そして塔攻略への日を迎えました。
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