上 下
87 / 109
『ケース2:フラグをガンガンへし折りまくって、ハッピーエンドを目指す悪役令嬢志望のティエラの場合』

第10話(2)四戦士との戦い

しおりを挟む
                  ♢

「!」

 マッシブな肉体をした男がチーム『覆面と兄弟』の三人に詰め寄る。イフテラム卿が叫ぶ。

「コマンダー・ペンギン、任せたぞ!」

「卿の娘さんと有力貴族の兄弟か……あいにく手加減などが出来ない性質でね。少々痛い目をみてもらうよ……」

「なにがなんだか分からないけど、やる気なら相手になるぜ! 『雷電脚』!」

 ブリッツが先手を取って、男にキックを喰らわせる。

「痛っ⁉」

「へっ! 自分が痛い目みてんじゃん! ん⁉」

「ん……?」

 コマンダー・ペンギンと呼ばれた男性は顔の半分をマスクで覆っており、口元しか見えないが、ブリッツのキックを無防備に喰らったわりには平気そうである。

「ら、『雷迅脚』!」

「うおっと⁉」

 またもブリッツのキックが決まるが、コマンダー・ペンギンは少し体をのけ反らせただけで、これも平気そうである。ブリッツが首を傾げる。

「き、効いてないのか?」

「いいや、効いているぞ。なかなかのキックだな、少年」

「そうじゃなくて! 電撃を帯びたキックだぞ⁉ 痺れないのかよ!」

「電撃……もしかして魔法か?」

「ああ! 俺は雷系統の魔法を使える!」

「そう言われると……少しビリッときたような……」

「そう言われると⁉」

「魔法ってものは、存在しないと思えばその者にとってはないものとなる!」

「い、いや、そうはならないだろう!」

「要はハートの問題だよ、少年!」

 コマンダー・ペンギンが自分の左胸を指して、ニヤッと笑う。

「い、意味が分からん!」

「その内に分かるさ! ふん!」

「ぐはっ!」

 コマンダー・ペンギンの強烈なビンタが炸裂し、ブリッツが吹き飛ばされる。

「ブリッツ!」

 エイスが声を上げる。コマンダー・ペンギンがエイスの方に向き直る。

「さて……お次は君かな?」

「くっ、『氷結』!」

 エイスが片手を振りかざすが、コマンダー・ペンギンの肉体は凍り付かない。

「うん? ちょっと涼しかったかな?」

 コマンダー・ペンギンが首を傾げながら、エイスに近づく。

「そ、そんな! 魔法が通じないなんて⁉ どはっ!」

 コマンダー・ペンギンの強烈なビンタを喰らい、エイスが吹き飛ばされる。

「通じないわけでもないのだが……鍛錬で案外どうにかなるものだよ」

「ならないだろう⁉」

「はっ!」

「のおっ⁉」

「え⁉」

 コマンダー・ペンギンとエイスが驚く。リリアンがコマンダー・ペンギンに突如抱き付いたからである。リリアンが叫ぶ。

「エイスさん! 下半身だけ凍らせて!」

「あ、ああ!」

「ぐっ⁉」

 リリアンとエイスの体が半分凍り付く。リリアンが間髪入れず叫ぶ。

「ブリッツ! わたくしたちを目がけて雷を落として!」

「え、ええ……?」

「早く!」

「ど、どうなっても知らないよ!」

「うぎゃあ⁉」

 ブリッツが雷を落とすと、コマンダー・ペンギンが叫び声を上げて倒れ込む。

「う、上手く行った……」

 氷が砕け、リリアンが膝をつく。エイスが尋ねる。

「ど、どういうことだい?」

「わたくしには魔法が通じるのですから、わたくしと密着していれば、意識がわたくしに向き、凍って動けなくなります」

「わ、分かったような分からないような……しかし、雷はどういう理屈だい?」

「避雷針と同じ理屈です。より高い方に雷が落ちるということ……これもわたくしが抱き付いたことにより、わたくしに意識を集中してしまい、無防備になったのでしょう」

「な、なるほど……しかし、自らに向かって雷を落とせとはなかなか無茶なことを……」

「ある程度のリスクを冒さないと勝てない相手だと判断しました」

 リリアンがため息をついて寝転がる。

                  ♢

「!」

 ハサンがチーム『悪役令嬢』の三人との距離を詰める。イフテラム卿が声を上げる。

「ハサン! その忌々しいガーニの娘は徹底的に痛めつけろ!」

「……」

「ハサンさん、どうして……?」

「ふん!」

「危ねえ!」

 ハサンがティエラに襲いかかるが、ルッカが間に入り、攻撃を受け止める。

「む!」

「その風体……枕元のおっちゃんだよな? 味方みたいなもんだと勝手に思っていたが、どうやら思い違いみたいだったな……『火殴(かおう)』!」

「はっ!」

 ルッカの渾身の拳をハサンは簡単に受け流す。

「ちっ! 『火蹴(かしゅう)』!」

「それっ!」

「ぐっ……ぐはっ!」

 ハサンも鋭い蹴りを繰り出し、ルッカの蹴りを吹き飛ばす。さらにハサンはその勢いでルッカに蹴りをくわえる。蹴りを喰らったルッカは倒れる。

「『蔦生える』!」

「ん!」

 シルヴァンが蔦を生やし、ハサンに巻き付ける。

「まずはその動きを封じる!」

「ほおっ!」

「なっ!」

 ハサンが突風を巻き起こした為、蔦が引き千切れる。

「そらっ!」

「がはっ! ……か、風魔法の使い手か……」

 ハサンは一瞬でシルヴァンとの間合いを詰め、シルヴァンに拳を喰らわせる。シルヴァンは成す術なく崩れ落ちる。

「ふう……」

 ハサンはティエラに向き直る。ティエラは戸惑いながらも身構える。

「どういうつもりか分かりませんが、向かってくるのなら仕方ありません……」

「……!」

「速い! 『怒土百々』!」

 ティエラが地面を砕き、土塊をいくつも浮かび上がらせる。

「むん!」

 ハサンが風を吹かせ、土塊を吹き飛ばす。

「まあ、そうなりますわよね!」

「⁉」

 ティエラがハサンとぎりぎりまで接近する。

「迎えうつまでです! 『土制覇』!」

「ぬおっ⁉」

 至近距離から衝撃波を喰らったハサンは仰向けに倒れ込む。

「まさに風のような素早さ……カウンターを合わせる要領でなんとかなりましたわ……」

「むっ……儂は何を……?」

「ハサンさん!」

「! そ、そうか、四戦士として操られてしまったか。己を律していたつもりだったが……」

「正気に戻ったのですね」

「うむ、だが……奴らは我々の比ではないぞ」

「奴ら?」

「各自もう少し技を練らなければならん……さらに倍の数で挑まんと苦戦は必至じゃ……」

「倍の数……三人ではなく六人?」

「そ、そうじゃ……ごふっ!」

「ハ、ハサンさん!」

「ど、どうやらここまでのようじゃ……」

「ハ、ハサンさん! !」

「どおっ⁉」

 屈み込んだティエラの尻を触ろうとしたハサンの腹にティエラは拳を喰らわせる。

「……どうやら心配はなさそうですわね」

「ば、馬鹿な……四戦士が全員敗れただと⁉」

「父上、貴方の企みは破れましたよ……」

 リリアンがイフテラム卿に淡々と告げる。

「ま、まだだ!」

「⁉ こ、これは!」

 激しい地響きがしたと思うと、コロシアムからも見えるくらいの大きな八本の塔が街を包囲するように出現する。イフテラム卿が笑う。

「四戦士を倒したくらいで調子に乗るな! あの八本の塔さえ抑えていればこの国の掌握は成ったも同然! さらに塔を守る『八闘士』には貴様らとて敵わん! さらばだ!」

「⁉」

 強風が吹いたかと思うと、イフテラム卿の姿は既に無かった。

「八本の塔……八闘士……」

 ティエラが塔を見上げながら呟く。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ドラゴンズ・ヴァイス

シノヤン
ファンタジー
前科持ち、無職、低学歴…誰からも忌み嫌われた少年”霧島龍人”は、謎の女性に導かれ未知の世界へと招かれる。現世と黄泉の狭間にある魑魅魍魎が住まう土地…”仁豪町”。そこは妖怪、幽霊、そして未知の怪物「暗逢者」が蠢き、悪意を企てる混沌の街だった。己の生きる意味は何か、答えを見つけようと足掻く一匹の龍の伝説が始まる。 ※小説家になろう及びカクヨムでも連載中の作品です

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

処理中です...