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『ケース2:フラグをガンガンへし折りまくって、ハッピーエンドを目指す悪役令嬢志望のティエラの場合』

第10話(1)四戦士との争い

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「!」

 空飛ぶ絨毯に乗った褐色の少年がチーム『武士と戦士と騎士』の三人に迫る。イフテラム卿が叫ぶ。

「行け! ジリーパ!」

「恨みはないけど……倒させてもらうよ♪」

「空飛ぶ絨毯! 魔法使いか! 先手必勝!」

「おっと!」

 セリーヌが斬りかかるが、ジリーパと呼ばれた少年は絨毯を浮かせ、この攻撃を躱す。

「くっ!」

「ふふっ! 良い剣さばきだけど届かなきゃ意味ないよね?」

「……届いたぞ」

「はっ⁉」

 テュロンに跨ったウヌカルが絨毯と同じ高さに達する。

「テュロン!」

「キュイ!」

「どわっ⁉」

 テュロンがジリーパに噛み付こうとする。それをはねのけようとしてバランスを崩したジリーパは地上に落下する。対照的に軽やかに地上に着地したウヌカルは持っていた短刀で絨毯を突き刺す。

「……これで貴様は空を飛べないな?」

「覚悟!」

「もう一度だ! テュロン!」

 セリーヌとテュロンがジリーパに襲いかかる。

「しゃあないな……♪~」

 ジリーパが笛を取り出してそれを吹き始める。

「⁉」

「キュイ⁉」

「こ、これは……⁉」

 セリーヌとテュロン、そしてウヌカルが体勢を崩す。

「ぐっ……か、体が痺れる……? こ、これはなんだ、セリーヌ?」

「お、恐らくは麻痺の魔法使い……あの笛の音を聞いたことによって、その魔法にかかってしまったと思われる……」

「~♪ ……さて、これくらいで良いかな? 自分で言うのもなんだけど、俺、状態異常の魔法を使わせれば、ちょっとしたものだからさ。力を吸収させてもらうよ」

「お、おのれ……」

「……ウヌカル、借りるぞ」

「モ、モンジュウロウ……?」

「ふん!」

 モンジュウロウが落ちていたウヌカルの短刀を拾い、自らの手の甲に思い切り突き刺す。ジリーパさんが目を丸くする。

「なっ⁉」

「ふむ……これで元通りに動けるでござる!」

「い、痛みで無理矢理麻痺状態から抜け出した⁉ む、無茶苦茶な!」

「こちらに言わせれば、魔法の方が無茶苦茶でござる。それに対抗するためには、こちらも無茶苦茶な手段を講じなくてはならぬ……無茶苦茶なことは百も承知でござるが……」

「む、無茶苦茶を連呼するな! こっちの頭が無茶苦茶になる!」

「隙あり!」

「がはっ……」

 モンジュウロウが振るった刀を喰らい、ジリーパが倒れ込みます。

「峰打ちだ。許されよ、少年」

 モンジュウロウが刀を鞘に納めて呟きます。

                  ♢

「!」

 禿頭で豊かな顎ひげを生やした老人が軽快な足取りでチーム『剛腕』の三人に接近する。イフテラム卿が声を上げる。

「タルカス! やってしまえ!」

「若造たちよ……恨みはないが……眠ってもらうぞ……」

「若造だと⁉ ジジイ、誰に向かって言ってやがる!」

 ガルシアがムッとする。タルカスと呼ばれた老人が笑う。

「かっかっか! 気に障ったか? この老いぼれから見れば、十分若いからのう……」

「まあ、それはいい……後、何て言った? 『眠ってもらう』だと? どういう意味だ?」

「良い子はおネンネする時間ということじゃよ」

「喧嘩売ってんのか……良い度胸だ……な!」

 ガルシアがタルカスに向かって拳を振り下ろします。

「ほっ!」

「なっ⁉」

 ガルシアの攻撃をタルカスが躱す。

「ふむ、なかなかの拳じゃな……」

 タルカスが顎ひげをさすりながら呟きます。

「面白え……今度は手加減しねえぞ、ジジイ……」

 ガルシアが両手の指をポキポキと鳴らしながら、タルカスに歩み寄る。

「おっ、かかってくるかね?」

「あの世に逝っても恨むなよ! ⁉」

「……」

 タルカスに勢いよく殴りかかろうとしたガルシアだったが、タルカスが右手をそっとかざすと、強い力で地面に押さえつけられたようになってしまう。

「がはっ⁉ こ、これは魔法か⁉」

「……長年の修行で編み出した超能力じゃ。伊達に歳をとってはおらんということじゃ」

「ウホッ!」

 フランソワがタルカスに飛びかかろうとする。

「お嬢さんの熱烈なスキンシップはこの老体にはちと応える……そら!」

「ウホッ⁉」

 タルカスが左手をかざすと、フランソワの巨体がふわっと浮かび上がり、しばらく空中をぐるぐると浮遊したかと思うと、地面に叩き付けられる。

「少し手荒だったかの、すまんな……」

「ジ、ジジイ!」

「む、こっちは手温かったか……ほれ!」

「ぐはっ……!」

 タルカスが右手を下ろすと、ガルシアの体が地面にめり込み、ガルシアは黙る。

「大人しくなったか……まあ、タフそうじゃからの、くたばってはおらんだろう」

「なるほど……重力を自在に操る超能力か……」

 ラティウスがゆっくりと前に歩み出る。

「お主も力自慢のようだが、ワシの前では力など無意味じゃぞ……」

「これならどうかな!」

 ラティウスが地面の破片を拾い、タルカスの右腕にぶつける。

「ぐっ⁉」

「もらった!」

 ラティウスがタルカスの懐に入る。タルカスは左手をかざす。

「なんの! 何⁉」

 ラティウスがタルカスの顎ひげを引っ張りながら浮かび上がる。

「思った通りだ、右手で重力を増し、左手で重力を減らすからくりだな!」

「は、離せ! 長年丹念に手入れしてきたひげが千切れる!」

「お望みとあらば!」

「ぐおっ⁉」

 ラティウスが手を離すと、そのまま落下し、タルカスを殴りつける形になる。剛腕をもろに喰らったタルカスは動かなくなる。ラティウスが呟く。

「ひげを気にするあまり重力操作を怠りましたな。集中を欠いた時点で負けです……」
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