85 / 109
『ケース2:フラグをガンガンへし折りまくって、ハッピーエンドを目指す悪役令嬢志望のティエラの場合』
第9話(4)決勝大将戦決着
しおりを挟む
「それっ!」
「ぐおっ⁉」
「ティエラの繰り出したキックがラティウスの顔面をとらえた!」
手応えもとい足応えはありました。しかし、ラティウスさんはニヤッと笑います。
「なかなか鋭いキックだ……意表を突かれて反応出来なかったよ」
「効いていませんか⁉」
わたくしは冗談めかして尋ねます。ラティウスさんも律儀に答えてくれます。
「少しばかり軽いな! ふん!」
「うおっ!」
「ラティウスが剛腕を一閃! ティエラが堪らず吹き飛ばされる!」
「いや、これは……」
「ああ……」
「ど、どうかしましたか、解説のお二方⁉」
「わざと吹き飛ばされたようです」
「わざと?」
「そうだ、反動を利用してな……」
「反動を利用して……! ティエラ、今度はモンジュウロウに襲いかかる!」
「ほう! これは予想外! かかってくるか!」
「『怒土百々』!」
「むう⁉」
模造品とはいえ、剣を持っている方とまともに戦うつもりは毛頭ありません。わたくしはモンジュウロウさんの手前に着地し、それと同時に技を繰り出します。拳を地面に叩きつけると、衝撃波が発生し、その衝撃波に乗って、砕けた土がいくつもの土塊となって、モンジュウロウさんの方に向かっていきます。
「どうです⁉」
「少々効いたでござる……四つの刀が無ければ!」
モンジュウロウさんは既に両手両足に一本ずつ刀を構えており、わたくしが飛ばした土塊はほとんど切り捨てられていました。
「おっと、モンジュウロウの四刀流が早くも飛び出したぞ!」
実況を受け、観客の皆さんは大盛り上がりです。モンジュウロウさんは苦笑されます。
「ふっ、まるで曲芸師のような扱いでござるな……」
「実際、お見事な剣さばきだと思いますよ」
「お褒めに預かり光栄……です! むっ⁉」
わたくしはモンジュウロウさんの振るう剣を後ろに飛んでなんとか躱すと、その勢いのまま反転し、匿名希望さんに向かって技を放ちます。
「『土制覇』!」
「くっ! 『水龍』!」
匿名希望さんの放った水のドラゴンがわたくしの放った土の衝撃波を打ち消します。
「こ、これは予想外の展開! ティエラが試合をかき回している! い、如何でしょうか、解説のお二方⁉」
「ティエラ選手、思いの外健闘されていますが……」
「飛ばしすぎだな」
「飛ばしすぎとは⁉」
「それぞれにもよりますが、大体の場合において魔法を使うことは、イコール体力の消耗です。あの調子ではすぐに息切れしてしまうのではないでしょうか?」
「……いや、狙い通りなのかもしれんぞ」
「……どういうことですか?」
「リングをよく見てみろ」
「え? ! こ、これは⁉」
「えっと、つまり……どういうことでしょうか⁉ こちらにも分かるように解説をお願いしたいのですが! お二方⁉」
「誘ったのだ」
「ええ、まんまと……」
「誘った……ああっとこれは⁉ リング中央に位置するティエラに他の三選手が全く同時に襲いかかろうとしている!」
「誘導、タイミングもろもろ完璧です」
「ああ、ここで強烈な技を放てば思うつぼだな……」
「……『土墾慕』‼」
「「「⁉」」」
これは多対一を想定した技です。土を思い切り叩き割ることによって、衝撃波と大きい土塊を四方八方に飛ばすことが出来るとっておきのものです。攻撃を喰らった御三方がそれぞれ膝を突かれています。
「ま、まさかここまでとは……」
「今出来るありったけの魔力をつぎこみました」
「くっ……やられた……」
匿名希望さんが崩れ落ちます。
「さ、先ほど見せた技よりもより攻撃に特化した技でござるな……」
「そうですね、多対一を想定して編み出した技ですから」
「しっかりと対策を取られていたのでござるな……参った!」
モンジュウロウさんが寝転がります。
「ちゅ、中央へ誘導したのは偶然でなくもしかして……」
「ダンスのステップを応用しました。わたくしにとっては馴染み深い足さばきなので」
「ははは! コロシアムをダンスパーティー会場にしてしまったのか……恐れ入った!」
ラティウスさんが倒れ込みます。審判が三人の様子を伺います。
「……ラティウス、モンジュウロウ、匿名希望、敗北! よって、ティエラ、勝利!」
「決勝戦は驚天動地の決着! チーム『悪役令嬢』のティエラが勝利という大番狂わせ‼見三日間に渡って行われた『レボリューション・チャンピオンシップ』決勝大会! 優勝チームはチーム『悪役令嬢』だ!」
「うおおおおお⁉」
会場中に興奮と驚きが入り混じり、なんとも言えない雰囲気になります。晴れの大会に『悪役』のわたくしが優勝してしまったのだから無理もありません。混乱がなおも続くなか、優勝チームを表彰するセレモニーが行われ、わたくしたちはそれに参加します。セレモニーがひと段落すると、実況の方がリングに上がり、わたくしに拡声器を向けてきます。
「……そ、それでは優勝チームへのインタビューを行いたいと思います! チーム『悪役令嬢』のリーダー、ティエラ選手! 今のお気持ちはいかがでしょう」
「……とても嬉しいです」
「そ、そのわりには笑顔が見られませんが……」
「ふざけんな!」
「悪役が! 空気を読めよ!」
「! ははは……い、一部ヒートアップされているお客様もいるようですが……」
実況の方が苦笑いを浮かべられます。
「それは別に……そんなことよりも大事なことがありますから」
「だ、大事なことですか? あ、そうですね、この大会には優勝者にはなんでも叶うという謳い文句がありました。富や名声や地位でも思うがままだそうです――実際は限度というものがあるかと思いますが――何をお望みになられますか?」
「わたくし自身の富や名声などはどうでもよろしいのです」
「え? な、ならば一体何を望まれるのですか? あっ!」
わたくしは拡声器を奪い、リング上に設置された表彰ステージから下りながら叫びます。
「わたくしの望みは只一つ、父の名誉回復です! それは即ち父にまんまと濡れ衣を着せた真の犯人を明らかにすること!」
会場がざわつきます。わたくしは構わず話を続けます。
「国を大きく揺るがすような汚職を行っていた者、それは貴方です! イフテラム卿!」
「⁉」
貴賓席からトロフィーの授与の為にリングに下りてきていた、禿頭で左右両端を上にはねあげた八字型の口ひげをした小柄な男性、イフテラム卿に注目が集まります。
「な、なにを根拠にそのようなことを!」
「ここに証拠があります!」
わたくしは書斎から持ち出した書物を掲げます。
「そ、それは⁉」
「父が手に入れた汚職行為のやりとりをまとめたものです。偽造された書類や記録などを一冊の本にカモフラージュしていました」
「そ、それは……」
「これを一目でもご覧頂ければ、誰が汚職事件の真犯人なのかがはっきりとお分かりになるかと思います!」
「失礼……」
黒ずくめの服に身を包んだご老人が近寄ってきます。この方は司法卿、この国の司法を司る方でこの決勝戦を観戦に招かれた来賓の一人です。
「……どうぞ」
わたくしは本を渡します。司法卿はそれに少し目を通すと、はっとした顔になり、禿頭の男性に向き直ります。
「イフテラム卿! 卿はなんということを!」
「で、出鱈目だ! でっち上げに過ぎない!」
「ふむ……では、他の者にも見てもらいましょう」
「や、やめ……!」
司法卿は他の皆さんにもその本を見せて回ります。皆、この国の要人ばかりです。本をご覧になった方々は一様に驚き、イフテラム卿を睨みつけます。
「なにか釈明することがあるというのならば、しかるべき場所でお聞きしましょう。誰か! イフテラム卿をお連れしろ!」
ご老人が叫ぶと、複数の兵士の方がリングに上がります。イフテラム卿が叫びます。
「何故だ⁉ 関係する書類はほとんど始末したと思っていたのに……どうしてその本の存在を突き止められた⁉ ガーニのやつは今……」
「ええ、獄中で病に臥せっております。信頼していた貴方に裏切られたことがショックでね。どうやらやや失語症の症状も出てしまっているようですね」
わたくしが淡々と呟きます。
「そうだ、とてもまともに面会など出来る状況ではなかったはず! 大体娘の貴様が面会など行えば、その時点で私の耳に入るだろう! それをいつの間に⁉ どうやって⁉」
「それは……」
「わたくしが潜入し、ガーニ卿から筆談で本の存在をお教えいただきました」
「お、お前は⁉」
イフテラム卿だけでなく、会場中が驚きました。匿名希望さんがその覆面を外すと、イフテラム卿の娘であるリリアンが現れたからです。
「それをティエラさんにお教えしました。ティエラさんが父君の名誉回復の為に、この大会を利用するであろうことは想定内でした。流石に優勝までは予想がつきませんでしたが」
リリアンはそう言って笑います。イフテラム卿が戸惑います。
「な、何故お前がそのような恰好をしてまで……」
「汚職などあってはならないことです! この国を愛するものとして、それを糾弾するためにリングに上がりました!」
そう言って、リリアンはイフテラム卿を指差します。卿はその場にへたり込みます。
「ああ……」
「さあ、大人しくお縄につきなさい!」
「ふふふ……」
「なにがおかしいのです?」
「いや、品行方正な人物になるようにと育てたことが仇になるとはな……」
「自らの人生を省みるなら、それもまたしかるべき場所でどうぞ……」
リリアンが冷たい声色で告げます。司法卿が兵士の方々に促します。
「連れていけ」
「はっ……」
「ただ! 少し遅かったな!」
イフテラム卿が叫びます。リリアンが首を傾げます。
「なんですって?」
「私がただ単に私腹を肥やすため、ガーニの奴を失脚させたと思っているのか⁉」
「違うというのですか?」
「違う! 金はあくまでもついでだ! 私が欲しかったのはその地位! ガーニの地位、工部卿! この国の国土開発を司る地位だ!」
「工部卿……」
「そう、開発の名目でこの国を隅々まで調べられる! そして、遂に見つけたのだ! 金や地位どころではなく、この国ごと手に入れられるパワーをな!」
「なっ⁉」
「国ごと手に入れられるパワー……?」
「この大会の成功をその狼煙にしようと思ったのだがな……予定が狂ってしまった……だが、まあいいだろう! いでよ、四戦士!」
「⁉」
四つの影がリングに現れ、イフテラム卿を囲みます。イフテラム卿がゆっくりと立ち上がってリング上やスタンドを見回しながら話を続けます。
「餌に釣られて世界中から名うての猛者がよく集まってくれた……もちろん、ただで返すつもりはない……貴様たちの持つ膨大なエネルギーは私の見つけたパワーを強化する為の礎となるのだ。光栄に思うがいい。四戦士ども、やってしまえ!」
「!」
四つの影が動き出します。その内の一つを見て、わたくしは驚きます。
「ハ、ハサンさん⁉」
「ぐおっ⁉」
「ティエラの繰り出したキックがラティウスの顔面をとらえた!」
手応えもとい足応えはありました。しかし、ラティウスさんはニヤッと笑います。
「なかなか鋭いキックだ……意表を突かれて反応出来なかったよ」
「効いていませんか⁉」
わたくしは冗談めかして尋ねます。ラティウスさんも律儀に答えてくれます。
「少しばかり軽いな! ふん!」
「うおっ!」
「ラティウスが剛腕を一閃! ティエラが堪らず吹き飛ばされる!」
「いや、これは……」
「ああ……」
「ど、どうかしましたか、解説のお二方⁉」
「わざと吹き飛ばされたようです」
「わざと?」
「そうだ、反動を利用してな……」
「反動を利用して……! ティエラ、今度はモンジュウロウに襲いかかる!」
「ほう! これは予想外! かかってくるか!」
「『怒土百々』!」
「むう⁉」
模造品とはいえ、剣を持っている方とまともに戦うつもりは毛頭ありません。わたくしはモンジュウロウさんの手前に着地し、それと同時に技を繰り出します。拳を地面に叩きつけると、衝撃波が発生し、その衝撃波に乗って、砕けた土がいくつもの土塊となって、モンジュウロウさんの方に向かっていきます。
「どうです⁉」
「少々効いたでござる……四つの刀が無ければ!」
モンジュウロウさんは既に両手両足に一本ずつ刀を構えており、わたくしが飛ばした土塊はほとんど切り捨てられていました。
「おっと、モンジュウロウの四刀流が早くも飛び出したぞ!」
実況を受け、観客の皆さんは大盛り上がりです。モンジュウロウさんは苦笑されます。
「ふっ、まるで曲芸師のような扱いでござるな……」
「実際、お見事な剣さばきだと思いますよ」
「お褒めに預かり光栄……です! むっ⁉」
わたくしはモンジュウロウさんの振るう剣を後ろに飛んでなんとか躱すと、その勢いのまま反転し、匿名希望さんに向かって技を放ちます。
「『土制覇』!」
「くっ! 『水龍』!」
匿名希望さんの放った水のドラゴンがわたくしの放った土の衝撃波を打ち消します。
「こ、これは予想外の展開! ティエラが試合をかき回している! い、如何でしょうか、解説のお二方⁉」
「ティエラ選手、思いの外健闘されていますが……」
「飛ばしすぎだな」
「飛ばしすぎとは⁉」
「それぞれにもよりますが、大体の場合において魔法を使うことは、イコール体力の消耗です。あの調子ではすぐに息切れしてしまうのではないでしょうか?」
「……いや、狙い通りなのかもしれんぞ」
「……どういうことですか?」
「リングをよく見てみろ」
「え? ! こ、これは⁉」
「えっと、つまり……どういうことでしょうか⁉ こちらにも分かるように解説をお願いしたいのですが! お二方⁉」
「誘ったのだ」
「ええ、まんまと……」
「誘った……ああっとこれは⁉ リング中央に位置するティエラに他の三選手が全く同時に襲いかかろうとしている!」
「誘導、タイミングもろもろ完璧です」
「ああ、ここで強烈な技を放てば思うつぼだな……」
「……『土墾慕』‼」
「「「⁉」」」
これは多対一を想定した技です。土を思い切り叩き割ることによって、衝撃波と大きい土塊を四方八方に飛ばすことが出来るとっておきのものです。攻撃を喰らった御三方がそれぞれ膝を突かれています。
「ま、まさかここまでとは……」
「今出来るありったけの魔力をつぎこみました」
「くっ……やられた……」
匿名希望さんが崩れ落ちます。
「さ、先ほど見せた技よりもより攻撃に特化した技でござるな……」
「そうですね、多対一を想定して編み出した技ですから」
「しっかりと対策を取られていたのでござるな……参った!」
モンジュウロウさんが寝転がります。
「ちゅ、中央へ誘導したのは偶然でなくもしかして……」
「ダンスのステップを応用しました。わたくしにとっては馴染み深い足さばきなので」
「ははは! コロシアムをダンスパーティー会場にしてしまったのか……恐れ入った!」
ラティウスさんが倒れ込みます。審判が三人の様子を伺います。
「……ラティウス、モンジュウロウ、匿名希望、敗北! よって、ティエラ、勝利!」
「決勝戦は驚天動地の決着! チーム『悪役令嬢』のティエラが勝利という大番狂わせ‼見三日間に渡って行われた『レボリューション・チャンピオンシップ』決勝大会! 優勝チームはチーム『悪役令嬢』だ!」
「うおおおおお⁉」
会場中に興奮と驚きが入り混じり、なんとも言えない雰囲気になります。晴れの大会に『悪役』のわたくしが優勝してしまったのだから無理もありません。混乱がなおも続くなか、優勝チームを表彰するセレモニーが行われ、わたくしたちはそれに参加します。セレモニーがひと段落すると、実況の方がリングに上がり、わたくしに拡声器を向けてきます。
「……そ、それでは優勝チームへのインタビューを行いたいと思います! チーム『悪役令嬢』のリーダー、ティエラ選手! 今のお気持ちはいかがでしょう」
「……とても嬉しいです」
「そ、そのわりには笑顔が見られませんが……」
「ふざけんな!」
「悪役が! 空気を読めよ!」
「! ははは……い、一部ヒートアップされているお客様もいるようですが……」
実況の方が苦笑いを浮かべられます。
「それは別に……そんなことよりも大事なことがありますから」
「だ、大事なことですか? あ、そうですね、この大会には優勝者にはなんでも叶うという謳い文句がありました。富や名声や地位でも思うがままだそうです――実際は限度というものがあるかと思いますが――何をお望みになられますか?」
「わたくし自身の富や名声などはどうでもよろしいのです」
「え? な、ならば一体何を望まれるのですか? あっ!」
わたくしは拡声器を奪い、リング上に設置された表彰ステージから下りながら叫びます。
「わたくしの望みは只一つ、父の名誉回復です! それは即ち父にまんまと濡れ衣を着せた真の犯人を明らかにすること!」
会場がざわつきます。わたくしは構わず話を続けます。
「国を大きく揺るがすような汚職を行っていた者、それは貴方です! イフテラム卿!」
「⁉」
貴賓席からトロフィーの授与の為にリングに下りてきていた、禿頭で左右両端を上にはねあげた八字型の口ひげをした小柄な男性、イフテラム卿に注目が集まります。
「な、なにを根拠にそのようなことを!」
「ここに証拠があります!」
わたくしは書斎から持ち出した書物を掲げます。
「そ、それは⁉」
「父が手に入れた汚職行為のやりとりをまとめたものです。偽造された書類や記録などを一冊の本にカモフラージュしていました」
「そ、それは……」
「これを一目でもご覧頂ければ、誰が汚職事件の真犯人なのかがはっきりとお分かりになるかと思います!」
「失礼……」
黒ずくめの服に身を包んだご老人が近寄ってきます。この方は司法卿、この国の司法を司る方でこの決勝戦を観戦に招かれた来賓の一人です。
「……どうぞ」
わたくしは本を渡します。司法卿はそれに少し目を通すと、はっとした顔になり、禿頭の男性に向き直ります。
「イフテラム卿! 卿はなんということを!」
「で、出鱈目だ! でっち上げに過ぎない!」
「ふむ……では、他の者にも見てもらいましょう」
「や、やめ……!」
司法卿は他の皆さんにもその本を見せて回ります。皆、この国の要人ばかりです。本をご覧になった方々は一様に驚き、イフテラム卿を睨みつけます。
「なにか釈明することがあるというのならば、しかるべき場所でお聞きしましょう。誰か! イフテラム卿をお連れしろ!」
ご老人が叫ぶと、複数の兵士の方がリングに上がります。イフテラム卿が叫びます。
「何故だ⁉ 関係する書類はほとんど始末したと思っていたのに……どうしてその本の存在を突き止められた⁉ ガーニのやつは今……」
「ええ、獄中で病に臥せっております。信頼していた貴方に裏切られたことがショックでね。どうやらやや失語症の症状も出てしまっているようですね」
わたくしが淡々と呟きます。
「そうだ、とてもまともに面会など出来る状況ではなかったはず! 大体娘の貴様が面会など行えば、その時点で私の耳に入るだろう! それをいつの間に⁉ どうやって⁉」
「それは……」
「わたくしが潜入し、ガーニ卿から筆談で本の存在をお教えいただきました」
「お、お前は⁉」
イフテラム卿だけでなく、会場中が驚きました。匿名希望さんがその覆面を外すと、イフテラム卿の娘であるリリアンが現れたからです。
「それをティエラさんにお教えしました。ティエラさんが父君の名誉回復の為に、この大会を利用するであろうことは想定内でした。流石に優勝までは予想がつきませんでしたが」
リリアンはそう言って笑います。イフテラム卿が戸惑います。
「な、何故お前がそのような恰好をしてまで……」
「汚職などあってはならないことです! この国を愛するものとして、それを糾弾するためにリングに上がりました!」
そう言って、リリアンはイフテラム卿を指差します。卿はその場にへたり込みます。
「ああ……」
「さあ、大人しくお縄につきなさい!」
「ふふふ……」
「なにがおかしいのです?」
「いや、品行方正な人物になるようにと育てたことが仇になるとはな……」
「自らの人生を省みるなら、それもまたしかるべき場所でどうぞ……」
リリアンが冷たい声色で告げます。司法卿が兵士の方々に促します。
「連れていけ」
「はっ……」
「ただ! 少し遅かったな!」
イフテラム卿が叫びます。リリアンが首を傾げます。
「なんですって?」
「私がただ単に私腹を肥やすため、ガーニの奴を失脚させたと思っているのか⁉」
「違うというのですか?」
「違う! 金はあくまでもついでだ! 私が欲しかったのはその地位! ガーニの地位、工部卿! この国の国土開発を司る地位だ!」
「工部卿……」
「そう、開発の名目でこの国を隅々まで調べられる! そして、遂に見つけたのだ! 金や地位どころではなく、この国ごと手に入れられるパワーをな!」
「なっ⁉」
「国ごと手に入れられるパワー……?」
「この大会の成功をその狼煙にしようと思ったのだがな……予定が狂ってしまった……だが、まあいいだろう! いでよ、四戦士!」
「⁉」
四つの影がリングに現れ、イフテラム卿を囲みます。イフテラム卿がゆっくりと立ち上がってリング上やスタンドを見回しながら話を続けます。
「餌に釣られて世界中から名うての猛者がよく集まってくれた……もちろん、ただで返すつもりはない……貴様たちの持つ膨大なエネルギーは私の見つけたパワーを強化する為の礎となるのだ。光栄に思うがいい。四戦士ども、やってしまえ!」
「!」
四つの影が動き出します。その内の一つを見て、わたくしは驚きます。
「ハ、ハサンさん⁉」
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
うん、異世界!
ダラックマ
ファンタジー
何故にそんな所からっ!?と叫びたくなるような方法で突然異世界召還され、その世界の神様に出会う主人公。
その神様に特別な能力と使命?を与えられたのだったが・・・・・・、これ完璧にお前の尻拭いじゃねぇかっ!
望んでいた展開のはずだったのに、貰った能力以外、何かこれじゃない感がハンパない!
そんな主人公が繰り広げる、ドタバタ異世界ライフ。
少しでも多くの方々に読んで頂けると嬉しいです。(懇願
この作品は小説家になろう にも投稿しております。
The Outer Myth :Ⅰ ~目覚めの少女と嘆きの神~
とちのとき
SF
少女達が紡ぐのは、絆と神話の続き・・・。
主人公の女子高生、豊受イナホ。彼女は神々と人々が当たり前のように共存する地、秋津国で平凡な生活を送っていた。しかし、そこでは未知なる危険生物・クバンダにより平和が蝕まれつつあった。何の取り柄もない彼女はある事件をきっかけに母の秘密を探る事になり、調査を進めるうち運命の渦へと巻き込まれていく。その最中、ニホンからあらゆる漂流物が流れ着く摩訶不思議な池、霞み池に、記憶を失った人型AGI(汎用人工知能)の少女ツグミが漂着する。彼女との出会いが少年少女達を更なる冒険へと導くのだった。
【アウターミス パート1~目覚めの少女と嘆きの神~】は、近未来和風SFファンタジー・完結保証・挿絵有(生成AI使用無し)・各章間にパロディ漫画付き☆不定期更新なのでお気に入り登録推奨
【作者より】
他サイトで投稿していたフルリメイクになります。イラスト製作と並行して更新しますので、不定期且つノロノロになるかと。完全版が読めるのはアルファポリスだけ!
本作アウターミスは三部作予定です。現在第二部のプロットも進行中。乞うご期待下さい!
過去に本作をイメージしたBGMも作りました。ブラウザ閲覧の方は目次下部のリンクから。アプリの方はYouTube内で「とちのとき アウターミス」と検索。で、視聴できます
カフェ・ユグドラシル
白雪の雫
ファンタジー
辺境のキルシュブリューテ王国に、美味い料理とデザートを出すカフェ・ユグドラシルという店があった。
この店を経営しているのは、とある準男爵夫妻である。
準男爵の妻である女性は紗雪といい、数年前にウィスティリア王国の王太子であるエドワード、彼女と共に異世界召喚された近藤 茉莉花、王国騎士であるギルバードとラルク、精霊使いのカーラと共に邪神を倒したのだ。
表向きはそう伝わっているが、事実は大いに異なる。
エドワードとギルバード、そして茉莉花は戦いと邪神の恐ろしさにgkbrしながら粗相をしていただけで、紗雪一人で倒したのだ。
邪神を倒しウィスティリア王国に凱旋したその日、紗雪はエドワードから「未来の王太子妃にして聖女である純粋無垢で可憐なマリカに嫉妬して虐めた」という事実無根な言いがかりをつけられた挙句、国外追放を言い渡されてしまう。
(純粋無垢?可憐?プフー。近藤さんってすぐにやらせてくれるから、大学では『ヤリマン』とか『サセコ』って呼ばれていたのですけどね。それが原因で、現在は性病に罹っているのよ?しかも、高校時代に堕胎をしている女を聖女って・・・。性女の間違いではないの?それなのに、お二人はそれを知らずにヤリマン・・・ではなく、近藤さんに手を出しちゃったのね・・・。王太子殿下と騎士さんの婚約者には、国を出る前に真実を伝えた上で婚約を解消する事を勧めておくとしましょうか)
「王太子殿下のお言葉に従います」
羽衣と霊剣・蜉蝣を使って九尾の一族を殲滅させた直後の自分を聖女召喚に巻き込んだウィスティリア王国に恨みを抱えていた紗雪は、その時に付与されたスキル【ネットショップ】を使って異世界で生き抜いていく決意をする。
紗雪は天女の血を引くとも言われている千年以上続く陰陽師の家に生まれた巫女にして最強の退魔師です。
篁家についてや羽衣の力を借りて九尾を倒した辺りは、後に語って行こうかと思っています。
転生して異世界の第7王子に生まれ変わったが、魔力が0で無能者と言われ、僻地に追放されたので自由に生きる。
黒ハット
ファンタジー
ヤクザだった大宅宗一35歳は死んで記憶を持ったまま異世界の第7王子に転生する。魔力が0で魔法を使えないので、無能者と言われて王族の籍を抜かれ僻地の領主に追放される。魔法を使える事が分かって2回目の人生は前世の知識と魔法を使って領地を発展させながら自由に生きるつもりだったが、波乱万丈の人生を送る事になる
退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話
菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。
そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。
超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。
極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。
生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!?
これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。
異世界で等価交換~文明の力で冒険者として生き抜く
りおまる
ファンタジー
交通事故で命を落とし、愛犬ルナと共に異世界に転生したタケル。神から授かった『等価交換』スキルで、現代のアイテムを異世界で取引し、商売人として成功を目指す。商業ギルドとの取引や店舗経営、そして冒険者としての活動を通じて仲間を増やしながら、タケルは異世界での新たな人生を切り開いていく。商売と冒険、二つの顔を持つ異世界ライフを描く、笑いあり、感動ありの成長ファンタジー!
転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す
エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】
転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた!
元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。
相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ!
ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。
お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。
金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる