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『ケース2:フラグをガンガンへし折りまくって、ハッピーエンドを目指す悪役令嬢志望のティエラの場合』

第9話(4)決勝大将戦決着

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「それっ!」

「ぐおっ⁉」

「ティエラの繰り出したキックがラティウスの顔面をとらえた!」

 手応えもとい足応えはありました。しかし、ラティウスさんはニヤッと笑います。

「なかなか鋭いキックだ……意表を突かれて反応出来なかったよ」

「効いていませんか⁉」

 わたくしは冗談めかして尋ねます。ラティウスさんも律儀に答えてくれます。

「少しばかり軽いな! ふん!」

「うおっ!」

「ラティウスが剛腕を一閃! ティエラが堪らず吹き飛ばされる!」

「いや、これは……」

「ああ……」

「ど、どうかしましたか、解説のお二方⁉」

「わざと吹き飛ばされたようです」

「わざと?」

「そうだ、反動を利用してな……」

「反動を利用して……! ティエラ、今度はモンジュウロウに襲いかかる!」

「ほう! これは予想外! かかってくるか!」

「『怒土百々』!」

「むう⁉」

 模造品とはいえ、剣を持っている方とまともに戦うつもりは毛頭ありません。わたくしはモンジュウロウさんの手前に着地し、それと同時に技を繰り出します。拳を地面に叩きつけると、衝撃波が発生し、その衝撃波に乗って、砕けた土がいくつもの土塊となって、モンジュウロウさんの方に向かっていきます。

「どうです⁉」

「少々効いたでござる……四つの刀が無ければ!」

 モンジュウロウさんは既に両手両足に一本ずつ刀を構えており、わたくしが飛ばした土塊はほとんど切り捨てられていました。

「おっと、モンジュウロウの四刀流が早くも飛び出したぞ!」

 実況を受け、観客の皆さんは大盛り上がりです。モンジュウロウさんは苦笑されます。

「ふっ、まるで曲芸師のような扱いでござるな……」

「実際、お見事な剣さばきだと思いますよ」

「お褒めに預かり光栄……です! むっ⁉」

 わたくしはモンジュウロウさんの振るう剣を後ろに飛んでなんとか躱すと、その勢いのまま反転し、匿名希望さんに向かって技を放ちます。

「『土制覇』!」

「くっ! 『水龍』!」

 匿名希望さんの放った水のドラゴンがわたくしの放った土の衝撃波を打ち消します。

「こ、これは予想外の展開! ティエラが試合をかき回している! い、如何でしょうか、解説のお二方⁉」

「ティエラ選手、思いの外健闘されていますが……」

「飛ばしすぎだな」

「飛ばしすぎとは⁉」

「それぞれにもよりますが、大体の場合において魔法を使うことは、イコール体力の消耗です。あの調子ではすぐに息切れしてしまうのではないでしょうか?」

「……いや、狙い通りなのかもしれんぞ」

「……どういうことですか?」

「リングをよく見てみろ」

「え? ! こ、これは⁉」

「えっと、つまり……どういうことでしょうか⁉ こちらにも分かるように解説をお願いしたいのですが! お二方⁉」

「誘ったのだ」

「ええ、まんまと……」

「誘った……ああっとこれは⁉ リング中央に位置するティエラに他の三選手が全く同時に襲いかかろうとしている!」

「誘導、タイミングもろもろ完璧です」

「ああ、ここで強烈な技を放てば思うつぼだな……」

「……『土墾慕』‼」

「「「⁉」」」

 これは多対一を想定した技です。土を思い切り叩き割ることによって、衝撃波と大きい土塊を四方八方に飛ばすことが出来るとっておきのものです。攻撃を喰らった御三方がそれぞれ膝を突かれています。

「ま、まさかここまでとは……」

「今出来るありったけの魔力をつぎこみました」

「くっ……やられた……」

 匿名希望さんが崩れ落ちます。

「さ、先ほど見せた技よりもより攻撃に特化した技でござるな……」

「そうですね、多対一を想定して編み出した技ですから」

「しっかりと対策を取られていたのでござるな……参った!」

 モンジュウロウさんが寝転がります。

「ちゅ、中央へ誘導したのは偶然でなくもしかして……」

「ダンスのステップを応用しました。わたくしにとっては馴染み深い足さばきなので」

「ははは! コロシアムをダンスパーティー会場にしてしまったのか……恐れ入った!」

 ラティウスさんが倒れ込みます。審判が三人の様子を伺います。

「……ラティウス、モンジュウロウ、匿名希望、敗北! よって、ティエラ、勝利!」

「決勝戦は驚天動地の決着! チーム『悪役令嬢』のティエラが勝利という大番狂わせ‼見三日間に渡って行われた『レボリューション・チャンピオンシップ』決勝大会! 優勝チームはチーム『悪役令嬢』だ!」

「うおおおおお⁉」

 会場中に興奮と驚きが入り混じり、なんとも言えない雰囲気になります。晴れの大会に『悪役』のわたくしが優勝してしまったのだから無理もありません。混乱がなおも続くなか、優勝チームを表彰するセレモニーが行われ、わたくしたちはそれに参加します。セレモニーがひと段落すると、実況の方がリングに上がり、わたくしに拡声器を向けてきます。

「……そ、それでは優勝チームへのインタビューを行いたいと思います! チーム『悪役令嬢』のリーダー、ティエラ選手! 今のお気持ちはいかがでしょう」

「……とても嬉しいです」

「そ、そのわりには笑顔が見られませんが……」

「ふざけんな!」

「悪役が! 空気を読めよ!」

「! ははは……い、一部ヒートアップされているお客様もいるようですが……」

 実況の方が苦笑いを浮かべられます。

「それは別に……そんなことよりも大事なことがありますから」

「だ、大事なことですか? あ、そうですね、この大会には優勝者にはなんでも叶うという謳い文句がありました。富や名声や地位でも思うがままだそうです――実際は限度というものがあるかと思いますが――何をお望みになられますか?」

「わたくし自身の富や名声などはどうでもよろしいのです」

「え? な、ならば一体何を望まれるのですか? あっ!」

 わたくしは拡声器を奪い、リング上に設置された表彰ステージから下りながら叫びます。

「わたくしの望みは只一つ、父の名誉回復です! それは即ち父にまんまと濡れ衣を着せた真の犯人を明らかにすること!」

 会場がざわつきます。わたくしは構わず話を続けます。

「国を大きく揺るがすような汚職を行っていた者、それは貴方です! イフテラム卿!」

「⁉」

 貴賓席からトロフィーの授与の為にリングに下りてきていた、禿頭で左右両端を上にはねあげた八字型の口ひげをした小柄な男性、イフテラム卿に注目が集まります。

「な、なにを根拠にそのようなことを!」

「ここに証拠があります!」

 わたくしは書斎から持ち出した書物を掲げます。

「そ、それは⁉」

「父が手に入れた汚職行為のやりとりをまとめたものです。偽造された書類や記録などを一冊の本にカモフラージュしていました」

「そ、それは……」

「これを一目でもご覧頂ければ、誰が汚職事件の真犯人なのかがはっきりとお分かりになるかと思います!」

「失礼……」

 黒ずくめの服に身を包んだご老人が近寄ってきます。この方は司法卿、この国の司法を司る方でこの決勝戦を観戦に招かれた来賓の一人です。

「……どうぞ」

 わたくしは本を渡します。司法卿はそれに少し目を通すと、はっとした顔になり、禿頭の男性に向き直ります。

「イフテラム卿! 卿はなんということを!」

「で、出鱈目だ! でっち上げに過ぎない!」

「ふむ……では、他の者にも見てもらいましょう」

「や、やめ……!」

 司法卿は他の皆さんにもその本を見せて回ります。皆、この国の要人ばかりです。本をご覧になった方々は一様に驚き、イフテラム卿を睨みつけます。

「なにか釈明することがあるというのならば、しかるべき場所でお聞きしましょう。誰か! イフテラム卿をお連れしろ!」

 ご老人が叫ぶと、複数の兵士の方がリングに上がります。イフテラム卿が叫びます。

「何故だ⁉ 関係する書類はほとんど始末したと思っていたのに……どうしてその本の存在を突き止められた⁉ ガーニのやつは今……」

「ええ、獄中で病に臥せっております。信頼していた貴方に裏切られたことがショックでね。どうやらやや失語症の症状も出てしまっているようですね」

 わたくしが淡々と呟きます。

「そうだ、とてもまともに面会など出来る状況ではなかったはず! 大体娘の貴様が面会など行えば、その時点で私の耳に入るだろう! それをいつの間に⁉ どうやって⁉」

「それは……」

「わたくしが潜入し、ガーニ卿から筆談で本の存在をお教えいただきました」

「お、お前は⁉」

 イフテラム卿だけでなく、会場中が驚きました。匿名希望さんがその覆面を外すと、イフテラム卿の娘であるリリアンが現れたからです。

「それをティエラさんにお教えしました。ティエラさんが父君の名誉回復の為に、この大会を利用するであろうことは想定内でした。流石に優勝までは予想がつきませんでしたが」

 リリアンはそう言って笑います。イフテラム卿が戸惑います。

「な、何故お前がそのような恰好をしてまで……」

「汚職などあってはならないことです! この国を愛するものとして、それを糾弾するためにリングに上がりました!」

 そう言って、リリアンはイフテラム卿を指差します。卿はその場にへたり込みます。

「ああ……」

「さあ、大人しくお縄につきなさい!」

「ふふふ……」

「なにがおかしいのです?」

「いや、品行方正な人物になるようにと育てたことが仇になるとはな……」

「自らの人生を省みるなら、それもまたしかるべき場所でどうぞ……」

 リリアンが冷たい声色で告げます。司法卿が兵士の方々に促します。

「連れていけ」

「はっ……」

「ただ! 少し遅かったな!」

 イフテラム卿が叫びます。リリアンが首を傾げます。

「なんですって?」

「私がただ単に私腹を肥やすため、ガーニの奴を失脚させたと思っているのか⁉」

「違うというのですか?」

「違う! 金はあくまでもついでだ! 私が欲しかったのはその地位! ガーニの地位、工部卿! この国の国土開発を司る地位だ!」

「工部卿……」

「そう、開発の名目でこの国を隅々まで調べられる! そして、遂に見つけたのだ! 金や地位どころではなく、この国ごと手に入れられるパワーをな!」

「なっ⁉」

「国ごと手に入れられるパワー……?」

「この大会の成功をその狼煙にしようと思ったのだがな……予定が狂ってしまった……だが、まあいいだろう! いでよ、四戦士!」

「⁉」

 四つの影がリングに現れ、イフテラム卿を囲みます。イフテラム卿がゆっくりと立ち上がってリング上やスタンドを見回しながら話を続けます。

「餌に釣られて世界中から名うての猛者がよく集まってくれた……もちろん、ただで返すつもりはない……貴様たちの持つ膨大なエネルギーは私の見つけたパワーを強化する為の礎となるのだ。光栄に思うがいい。四戦士ども、やってしまえ!」

「!」

 四つの影が動き出します。その内の一つを見て、わたくしは驚きます。

「ハ、ハサンさん⁉」
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