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『ケース2:フラグをガンガンへし折りまくって、ハッピーエンドを目指す悪役令嬢志望のティエラの場合』
第6話(3)人は見かけによらない(例外もある)
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「それでは皆様お待ちかね! 『レボリューション・チャンピオンシップ』決勝、1回戦Dブロック先鋒戦、選手の入場です‼」
「おおおおおっ!」
「まずは北口ゲートから入場は、チーム『龍と虎と鳳凰』、遥か東方の大国からやってきた、ウンガンだ! リポーターのマールさん、お願いします」
「はい、こちらマールです……。ウンガン選手、意気込みをお願いします……」
「ほほほっ……オデは勝つだけだで」
リポーターさんの問いに、短髪でまだ少年と言ってもいいほどのあどけなさを残しながら、やたら恰幅の良い青年が自信たっぷりに答えます。
「ウンガン選手は大丈夫なのですか?」
「なにがだで?」
「東の大国の大商人の息子さんでいらっしゃるとか……今回のこの大会への参戦は周囲の方はご承知なのですか?」
「息子って言っても末っ子だでな……まあ、ある意味これも商機だで……」
「商機ですか?」
「そう、この大会で目立てば、この国の人たちに名が知られる良い機会になる。商売を始める上で重要なことこの上ないだで」
「成程……それと申し上げにくいのですが……」
「なんだで……?」
「その体格で戦えるのでしょうか?」
あらためて拡声器を向けられたその方は良く言えば恰幅の良い、悪く言えばだらしない体つきをしています。はっきり言ってしまうとかなりお太りになっています。これで速さのある相手と渡り合えるのでしょうか?他人事ながら不安になります。
「ほほほっ……この体格が合理的なんだで」
ウンガンさんは太っちょ扱いされたことに怒るでもなく、笑顔で答えます。
「……ご協力ありがとうございます。お返しします……」
「では、次は東口ゲートから入場の、チーム『魔法>科学』、目下売り出し中の魔法使いマイク!……のメイド、ヴァレンティナだ! リポーターのシャクさん、お願いします」
「はい! こちらシャクです! ヴァレンティナ選手、意気込みをお願いします!」
「……」
「ヴァレンティナ選手?」
「……質問を把握……もっとも無難な、この場が丸く収まる回答パターンを検索……」
「なにか計算を行っているようですね……」
リポーターの方も何故か小声になります。ヴァレンティナさんが口を開きます。
「検索結果終了……」
「お、ではお答えをお聞かせ願いますか?」
「先鋒と中堅の我々は適当な科学でお茶を濁し、大将のマイクお坊ちゃまが華麗なる魔法を披露し、会場中の度肝を抜く! と、そういう魂胆です」
リポーターさんに拡声器を向けられた髪色がエメラルドグリーンの女性が淡々と答えます。その後方でなにやら不満気に叫ぶ声が聞こえてきます。
「? なにか聞こえてきましたね?」
「ご主人様……マイクお坊ちゃまのヒステリーでしょう。特に問題はありません」
「チーム名は『魔法>科学』とありますが、マイクさんは北北東の大企業の御曹司だというお話を聞きましたが、これは本当ですか?」
「本当です……かくいう私もその企業で製造されたメイド型ロボットです」
「ええっ⁉ ロボットなのですか? まるで本当の人間のような……」
「極めて人間に近い行動を取るようにと設定されています」
「す、すごい科学力ですね……」
「ありがとうございます……アルバートエレクトロニクス、ご贔屓下さい」
ヴァレンティナさんがきちんと姿勢を正して、一礼しました。
「続いて、南口ゲートから入場は、チーム『怒髪天』、リーゼントが印象的な美女! ワンダだ! リポーターのヌーブさん、よろしくお願いします」
「は、はい! こ、こちらヌーブです! ワ、ワンダ選手、意気込みを!」
「ハハハッ! とにかく暴れまくりマース!」
ワンダと呼ばれた女性は金髪の大きく先端の尖ったリーゼントを触りながら、テンション高く宣言されます。
「あ、暴れまくられるのはちょっと困るんですが……お、お返しします!」
「最後に、西口ゲートから入場は、チーム『覆面と兄弟』、この国きっての有力貴族サタア家の実力派兄弟の兄、エイスの登場だ! リポーターのフルカさん、お願いします!」
「はい~こちらフルカ~。エイス選手、意気込みとか別に良いから合コンしない~?」
「……興味深いお誘いですが、すみません、先約があるもので……」
エイスさんはご自分の左胸を触ります。
「え~さっきの貴族くんたちといい、誰なの~心を奪っているのは~?」
「ふふっ、それは内緒にしておきましょうか」
「三人とも同じ娘狙いでしょ~?」
「何故そう思うのですか?」
「女の勘かな~」
「ふふっ、残念ながら違いますよ」
「嘘でしょ?」
「え?」
「眼鏡をかけた男性ってね、嘘をつくとき、必ずと言っていいほど眼鏡の蔓を触るの。それも利き腕とは反対の腕で。心の動揺を抑える為にね」
「……まさか、心理学に精通しておられるとは……人は見かけによりませんね……」
「嘘だよ」
「……え?」
「適当に言ってみただけ~そっか~貴族のイケメン三青年は同じ娘にご執心か~誰だろうね~そんな羨ましい娘は~?」
わたくしはなんとなく俯きます。
「い、意気込みですが、目標は優勝です……こんな所で躓いてはいられませんよ……」
「お、誤魔化した、ま、いいや、お返ししま~す」
「さあ、4人がリングに上がりました……審判が今、開始の合図を出しました!」
「さっさと終わらせます! 『氷原一帯』!」
「な、なんと、エイスが両手を交差させた瞬間、リング全体が凍ってしまったぞ!」
「氷の魔法を組み合わせた格闘術……あの予選からたったひと月でここまで練度を向上させてくるなんて……」
わたくしは感嘆してしまいます。エイスさんはフッと笑みを浮かべられます。
「皆凍ってしまい、戦闘不能でしょう……審判さん、コールをお願いします」
「コールって、早々に降参するつもりか~?」
「⁉」
「おおっと~これはウンガンがフェニックスの姿に変化したぞ⁉」
「フェニックス……こちらの地域ではそう呼ぶのか~」
「こ、これは……」
「おでの国では鳳凰と呼ぶんだ~」
「炎を纏った鳥⁉」
「ほほほっ、このくらいの氷なら溶かせるのもわけないだで~」
ウンガンさんは人の姿に戻ってリングに着地します。
「くっ……まあ、1対1ならば!」
「ハハハッ、男二人で勝手に盛り上がらないでクダサーイ!」
「なっ⁉」
「おおっと、氷を砕いて、ワンダが飛び出してきたぞ!」
ワンダさんのリーゼントが高速で回転しています。エイスさんが驚きます。
「な、なにごとですか⁉」
「ワタシの生まれ育った土地は髪の毛がある意味で凶器と化すちょっと変わった体質人間の集まりなのデース!」
「ちょ、ちょっとどころではないでしょう!」
「これくらいの氷塊ならば、このドリルリーゼントで砕くのもわけないデース!」
「くっ……いいでしょう。三つ巴、望むところです」
「……温度コントロール、正常に機能を確認……温度上昇、開始」
「ま、まさか……」
「……体外に付着した氷の融解を確認」
「ああっと、氷が溶けて、ヴァレンティナがその姿を現したぞ!」
「くっ……まさか尽く、氷を破られるとは! いいでしょう、かかってきなさい!」
「アルバートエレクトロニクス……オデの国でも知られている大企業なんだな。もし取引を結べるのなら、親父も喜ぶだで~」
「……私の一存では決められません……私はメイドですから」
「そこをなんとか口を利いてもらえんかね~」
「当社は今や世界的な大企業です。お取引する相手方にもそれなりの格を求めます……」
「ほう、つまり……」
「たとえば、ここで私を倒せるのなら、ご推薦させて頂くのもやぶさかではありません」
「ほほほっ、分かりやすくて良いな~」
「ぼ、僕を無視しないでもらおうか⁉」
叫ぶエイスさんをよそに、ウンガンさんとヴァレンティナさんがそれぞれ構えをとって対峙します。
「!」
「ヴァレンティナが恐るべきスピードでウンガンとの間合いを一瞬で詰めた!」
「……想定通り、その肥満体では高速戦闘には対応出来ない……⁉」
「ん~なんかしただか?」
「パンチがめり込んだのに、ダメージを与えた感触を得られない⁉」
「だから、この体格は極めて合理的なんだで~」
「⁉」
「おっと、ヴァレンティナ、弾かれた! リングの端まで吹っ飛ばされる! ウンガン、またもフェニックスに変化し、追い打ちをかける!」
「凍らせるのが無理なら、燃やすのはどうだ~」
「! 防御態勢に移行!」
「『鳳凰火炎拳』!」
「! 耐久度を超える温度上昇を感知……エンジンモーターの早期冷却の必要性を確認……スリープモードに移行します」
一瞬炎に包まれたヴァレンティナさんがリング外に倒れ込みます。
「ヴァレンティナ、敗北! 0ポイント!」
「あら、壊れたかな……いんや、どうやら大丈夫そうだで~ん?」
ヴァレンティナさんを心配そうに覗き込むウンガンさんの背後に、エイスさんとワンダさんが迫ります。
「本当に人は見かけによらないね! 君をまず倒す!」
「ドリルでその肉塊を掘削してやりマース!」
「二対一は流石に分が悪いだで……一気に決める! 『鳳凰炎舞』!」
「ぐおっ!」
「ワオ!」
「ウンガンが翼と化した腕を一振り! 炎が巻き上がり、エイスが吹っ飛んだぞ!」
「な、なんという火力……僕の氷魔法で対抗しきれない……」
エイスさんがリング外に倒れ込みます。
「エイス、敗北! 1ポイント!」
「ん? もう一人はどこだで? ……下か⁉」
「さっきみたいにドリルで穴を掘ってかわしたデース! 『ドリルヘッドバット』!」
「ぬおっ⁉」
ワンダさんの頭突きを喰らったウンガンさんはリング外にふらふらと倒れ込みます。
「ウンガン、敗北! 2ポイント! ワンダ勝利! 3ポイント!」
「ハハハッ、頭はどんな達人でもなかなか鍛えらえないデース!」
「ワンダ! ボディへの攻撃を警戒したウンガンの虚を突いて、強烈なヘッドバット! Dブロック先鋒戦はチーム『怒髪天』が勝利! ……さあ、続いては中堅戦です! 各リポーターさん! 選手の意気込みをお願いします!」
「はい……チーム『龍と虎と鳳凰』のゲンシン選手、2番手となりましたが……」
「やることは変わりないっス! 勝つだけっスね!」
痩身かつ長身で、スキンヘッドでぎょろっとした目が特徴的なゲンシンさんはあっけらかんとした様子で答えます。
「ゲンシン選手は東の大国の高名なお寺で修業されていたとか……」
「なかなかの情報網っスね! 修行があまりにもキツいんで、抜け出したっス!」
「そうなのですか……」
「ガキの頃からの悪友のソウリュウに誘われて、ウンガンとともにここまで来たっス!」
「成程……意気込みをお願い出来ますか」
「優勝すれば、なんでも望みは叶うんスよね? 立派な経典の一つでも持って帰れば、寺に戻れるかな? やっぱ財宝の方が話早いっスかね? ……まあ、優勝するっス!」
「なかなかに邪な考えをお持ちのようで……次、お願いします」
「はい! チーム『魔法>科学』のレイ選手! 0ポイントとかなり厳しいスタートとなってしまいましたが……ってレイ選手は……どちらに?」
「……」
全身銀色の姿をした物体が自らを指し示します。リポーターさんが恐る恐る尋ねます。
「あ、あなたがレイ選手ですか……? 変わったお姿をしていらっしゃいますね?」
「トウゼンダ……ウチュウジンダカラナ」
「う、宇宙人⁉」
わたくしを含め、会場中がみたび驚きに包まれます。
「おおおおおっ!」
「まずは北口ゲートから入場は、チーム『龍と虎と鳳凰』、遥か東方の大国からやってきた、ウンガンだ! リポーターのマールさん、お願いします」
「はい、こちらマールです……。ウンガン選手、意気込みをお願いします……」
「ほほほっ……オデは勝つだけだで」
リポーターさんの問いに、短髪でまだ少年と言ってもいいほどのあどけなさを残しながら、やたら恰幅の良い青年が自信たっぷりに答えます。
「ウンガン選手は大丈夫なのですか?」
「なにがだで?」
「東の大国の大商人の息子さんでいらっしゃるとか……今回のこの大会への参戦は周囲の方はご承知なのですか?」
「息子って言っても末っ子だでな……まあ、ある意味これも商機だで……」
「商機ですか?」
「そう、この大会で目立てば、この国の人たちに名が知られる良い機会になる。商売を始める上で重要なことこの上ないだで」
「成程……それと申し上げにくいのですが……」
「なんだで……?」
「その体格で戦えるのでしょうか?」
あらためて拡声器を向けられたその方は良く言えば恰幅の良い、悪く言えばだらしない体つきをしています。はっきり言ってしまうとかなりお太りになっています。これで速さのある相手と渡り合えるのでしょうか?他人事ながら不安になります。
「ほほほっ……この体格が合理的なんだで」
ウンガンさんは太っちょ扱いされたことに怒るでもなく、笑顔で答えます。
「……ご協力ありがとうございます。お返しします……」
「では、次は東口ゲートから入場の、チーム『魔法>科学』、目下売り出し中の魔法使いマイク!……のメイド、ヴァレンティナだ! リポーターのシャクさん、お願いします」
「はい! こちらシャクです! ヴァレンティナ選手、意気込みをお願いします!」
「……」
「ヴァレンティナ選手?」
「……質問を把握……もっとも無難な、この場が丸く収まる回答パターンを検索……」
「なにか計算を行っているようですね……」
リポーターの方も何故か小声になります。ヴァレンティナさんが口を開きます。
「検索結果終了……」
「お、ではお答えをお聞かせ願いますか?」
「先鋒と中堅の我々は適当な科学でお茶を濁し、大将のマイクお坊ちゃまが華麗なる魔法を披露し、会場中の度肝を抜く! と、そういう魂胆です」
リポーターさんに拡声器を向けられた髪色がエメラルドグリーンの女性が淡々と答えます。その後方でなにやら不満気に叫ぶ声が聞こえてきます。
「? なにか聞こえてきましたね?」
「ご主人様……マイクお坊ちゃまのヒステリーでしょう。特に問題はありません」
「チーム名は『魔法>科学』とありますが、マイクさんは北北東の大企業の御曹司だというお話を聞きましたが、これは本当ですか?」
「本当です……かくいう私もその企業で製造されたメイド型ロボットです」
「ええっ⁉ ロボットなのですか? まるで本当の人間のような……」
「極めて人間に近い行動を取るようにと設定されています」
「す、すごい科学力ですね……」
「ありがとうございます……アルバートエレクトロニクス、ご贔屓下さい」
ヴァレンティナさんがきちんと姿勢を正して、一礼しました。
「続いて、南口ゲートから入場は、チーム『怒髪天』、リーゼントが印象的な美女! ワンダだ! リポーターのヌーブさん、よろしくお願いします」
「は、はい! こ、こちらヌーブです! ワ、ワンダ選手、意気込みを!」
「ハハハッ! とにかく暴れまくりマース!」
ワンダと呼ばれた女性は金髪の大きく先端の尖ったリーゼントを触りながら、テンション高く宣言されます。
「あ、暴れまくられるのはちょっと困るんですが……お、お返しします!」
「最後に、西口ゲートから入場は、チーム『覆面と兄弟』、この国きっての有力貴族サタア家の実力派兄弟の兄、エイスの登場だ! リポーターのフルカさん、お願いします!」
「はい~こちらフルカ~。エイス選手、意気込みとか別に良いから合コンしない~?」
「……興味深いお誘いですが、すみません、先約があるもので……」
エイスさんはご自分の左胸を触ります。
「え~さっきの貴族くんたちといい、誰なの~心を奪っているのは~?」
「ふふっ、それは内緒にしておきましょうか」
「三人とも同じ娘狙いでしょ~?」
「何故そう思うのですか?」
「女の勘かな~」
「ふふっ、残念ながら違いますよ」
「嘘でしょ?」
「え?」
「眼鏡をかけた男性ってね、嘘をつくとき、必ずと言っていいほど眼鏡の蔓を触るの。それも利き腕とは反対の腕で。心の動揺を抑える為にね」
「……まさか、心理学に精通しておられるとは……人は見かけによりませんね……」
「嘘だよ」
「……え?」
「適当に言ってみただけ~そっか~貴族のイケメン三青年は同じ娘にご執心か~誰だろうね~そんな羨ましい娘は~?」
わたくしはなんとなく俯きます。
「い、意気込みですが、目標は優勝です……こんな所で躓いてはいられませんよ……」
「お、誤魔化した、ま、いいや、お返ししま~す」
「さあ、4人がリングに上がりました……審判が今、開始の合図を出しました!」
「さっさと終わらせます! 『氷原一帯』!」
「な、なんと、エイスが両手を交差させた瞬間、リング全体が凍ってしまったぞ!」
「氷の魔法を組み合わせた格闘術……あの予選からたったひと月でここまで練度を向上させてくるなんて……」
わたくしは感嘆してしまいます。エイスさんはフッと笑みを浮かべられます。
「皆凍ってしまい、戦闘不能でしょう……審判さん、コールをお願いします」
「コールって、早々に降参するつもりか~?」
「⁉」
「おおっと~これはウンガンがフェニックスの姿に変化したぞ⁉」
「フェニックス……こちらの地域ではそう呼ぶのか~」
「こ、これは……」
「おでの国では鳳凰と呼ぶんだ~」
「炎を纏った鳥⁉」
「ほほほっ、このくらいの氷なら溶かせるのもわけないだで~」
ウンガンさんは人の姿に戻ってリングに着地します。
「くっ……まあ、1対1ならば!」
「ハハハッ、男二人で勝手に盛り上がらないでクダサーイ!」
「なっ⁉」
「おおっと、氷を砕いて、ワンダが飛び出してきたぞ!」
ワンダさんのリーゼントが高速で回転しています。エイスさんが驚きます。
「な、なにごとですか⁉」
「ワタシの生まれ育った土地は髪の毛がある意味で凶器と化すちょっと変わった体質人間の集まりなのデース!」
「ちょ、ちょっとどころではないでしょう!」
「これくらいの氷塊ならば、このドリルリーゼントで砕くのもわけないデース!」
「くっ……いいでしょう。三つ巴、望むところです」
「……温度コントロール、正常に機能を確認……温度上昇、開始」
「ま、まさか……」
「……体外に付着した氷の融解を確認」
「ああっと、氷が溶けて、ヴァレンティナがその姿を現したぞ!」
「くっ……まさか尽く、氷を破られるとは! いいでしょう、かかってきなさい!」
「アルバートエレクトロニクス……オデの国でも知られている大企業なんだな。もし取引を結べるのなら、親父も喜ぶだで~」
「……私の一存では決められません……私はメイドですから」
「そこをなんとか口を利いてもらえんかね~」
「当社は今や世界的な大企業です。お取引する相手方にもそれなりの格を求めます……」
「ほう、つまり……」
「たとえば、ここで私を倒せるのなら、ご推薦させて頂くのもやぶさかではありません」
「ほほほっ、分かりやすくて良いな~」
「ぼ、僕を無視しないでもらおうか⁉」
叫ぶエイスさんをよそに、ウンガンさんとヴァレンティナさんがそれぞれ構えをとって対峙します。
「!」
「ヴァレンティナが恐るべきスピードでウンガンとの間合いを一瞬で詰めた!」
「……想定通り、その肥満体では高速戦闘には対応出来ない……⁉」
「ん~なんかしただか?」
「パンチがめり込んだのに、ダメージを与えた感触を得られない⁉」
「だから、この体格は極めて合理的なんだで~」
「⁉」
「おっと、ヴァレンティナ、弾かれた! リングの端まで吹っ飛ばされる! ウンガン、またもフェニックスに変化し、追い打ちをかける!」
「凍らせるのが無理なら、燃やすのはどうだ~」
「! 防御態勢に移行!」
「『鳳凰火炎拳』!」
「! 耐久度を超える温度上昇を感知……エンジンモーターの早期冷却の必要性を確認……スリープモードに移行します」
一瞬炎に包まれたヴァレンティナさんがリング外に倒れ込みます。
「ヴァレンティナ、敗北! 0ポイント!」
「あら、壊れたかな……いんや、どうやら大丈夫そうだで~ん?」
ヴァレンティナさんを心配そうに覗き込むウンガンさんの背後に、エイスさんとワンダさんが迫ります。
「本当に人は見かけによらないね! 君をまず倒す!」
「ドリルでその肉塊を掘削してやりマース!」
「二対一は流石に分が悪いだで……一気に決める! 『鳳凰炎舞』!」
「ぐおっ!」
「ワオ!」
「ウンガンが翼と化した腕を一振り! 炎が巻き上がり、エイスが吹っ飛んだぞ!」
「な、なんという火力……僕の氷魔法で対抗しきれない……」
エイスさんがリング外に倒れ込みます。
「エイス、敗北! 1ポイント!」
「ん? もう一人はどこだで? ……下か⁉」
「さっきみたいにドリルで穴を掘ってかわしたデース! 『ドリルヘッドバット』!」
「ぬおっ⁉」
ワンダさんの頭突きを喰らったウンガンさんはリング外にふらふらと倒れ込みます。
「ウンガン、敗北! 2ポイント! ワンダ勝利! 3ポイント!」
「ハハハッ、頭はどんな達人でもなかなか鍛えらえないデース!」
「ワンダ! ボディへの攻撃を警戒したウンガンの虚を突いて、強烈なヘッドバット! Dブロック先鋒戦はチーム『怒髪天』が勝利! ……さあ、続いては中堅戦です! 各リポーターさん! 選手の意気込みをお願いします!」
「はい……チーム『龍と虎と鳳凰』のゲンシン選手、2番手となりましたが……」
「やることは変わりないっス! 勝つだけっスね!」
痩身かつ長身で、スキンヘッドでぎょろっとした目が特徴的なゲンシンさんはあっけらかんとした様子で答えます。
「ゲンシン選手は東の大国の高名なお寺で修業されていたとか……」
「なかなかの情報網っスね! 修行があまりにもキツいんで、抜け出したっス!」
「そうなのですか……」
「ガキの頃からの悪友のソウリュウに誘われて、ウンガンとともにここまで来たっス!」
「成程……意気込みをお願い出来ますか」
「優勝すれば、なんでも望みは叶うんスよね? 立派な経典の一つでも持って帰れば、寺に戻れるかな? やっぱ財宝の方が話早いっスかね? ……まあ、優勝するっス!」
「なかなかに邪な考えをお持ちのようで……次、お願いします」
「はい! チーム『魔法>科学』のレイ選手! 0ポイントとかなり厳しいスタートとなってしまいましたが……ってレイ選手は……どちらに?」
「……」
全身銀色の姿をした物体が自らを指し示します。リポーターさんが恐る恐る尋ねます。
「あ、あなたがレイ選手ですか……? 変わったお姿をしていらっしゃいますね?」
「トウゼンダ……ウチュウジンダカラナ」
「う、宇宙人⁉」
わたくしを含め、会場中がみたび驚きに包まれます。
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