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『ケース2:フラグをガンガンへし折りまくって、ハッピーエンドを目指す悪役令嬢志望のティエラの場合』

第4話(4)出場者、出揃う

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(……怒っている暇はありませんわ。冷静さを欠いたらその時点で負けです)

 わたくしは呼吸を整えるとともに考えをまとめます。

(参加人数ははっきりとは教えてもらいませんでしたが、当初の噂通り100人程とのこと……。この予選会場を勝ち抜けるのは最大で10人くらい……。今、4人倒しましたが、さすがに後90人を1人で倒すのはあまりにも無謀……。ならば……)

 わたくしは物陰に身を隠して、簡単ではありますが、方針を決めます。

(ルッカさんかシルヴァンさん……欲を言えば、二人と合流し、三人一組で行動した方が利口……決勝大会の試合方式を踏まえてもきっとそうするべきなのでしょう……)

「考えはまとまったか?」

 声が聞こえた方を見ると、建物の屋根の上に、ローブを身に纏い、フードで顔を隠した人物が立っておられました。

「あ、あなたは!」

 その人物は屋根からジャンプし、わたくしと対面する位置に降り立ちました。こうして近くで見てみると、わたくしと同じくらいの背丈で大柄というわけではないようです。

「この戦いに挑む資格があるかどうか、確かめてやる……」

 ローブの方は構えを取られました。わたくしは戸惑います。

「なっ⁉ た、確かみる⁉ い、いや、確かめる⁉」

「来ないのなら、こちらからいくぞ……!」

「!」

 ローブの方が鋭いパンチを繰り出してこられました。わたくしはそのパンチをすんでのところで躱します。拳が建物の壁にヒビを入れます。

「ほう……よく躱したな」

「せい!」

「おっと!」

 わたくしが繰り出したキックをローブの方はひらりと躱し、わたくしと距離を取ります。わたくしも壁際から道の中央へ進み出て、あらためてローブの方と向かい合います。

「……貴方も参加者でしたのね……」

「そうだ……」

「わたくしに参加するように促しておいて、何故邪魔をするのですか?」

「こちらにはこちらの目的がある……それだけのことだ」

「目的?」

「教える義理は無いな!」

「くっ!」

 ローブの方は一瞬でわたくしとの間合いを詰め、攻撃を繰り出してきます。わたくしはバックステップを駆使して、それを躱します。

「やるな……ならばこれはどうだ? 『水龍』!」

「ぐっ⁉」

 ローブの方が前方に突き出した両手から、まるでドラゴンのような形状の水の奔流が襲い掛かってきました。わたくしは咄嗟に防御しますが、その勢いには抗え切れず、後方に倒れ込んでしまいます。

(こ、これは……⁉)

「水系統の魔法と武術を組み合わせた……決勝大会はこういうレベルのやつが大勢出てくるぞ? 今の内に逃げた方が賢明じゃないか?」

「⁉ こちらにも退けない理由があるのです!」

 わたくしはすぐさま立ち上がり、構えを取ります。

「『土制覇』!」

「その技は知っている! だが、所詮その程度の練度では……」

「『……二連』!」

「なんだと⁉」

 わたくしは間髪入れず、土制覇を二発立て続けに出しました。ぶっつけ本番に近かったのですが、訓練の成果が出ました。ローブの方は防ぎきれず、膝をつきます。

「恨みはありませんが、倒させてもらいます!」

「ちっ!」

「はっ⁉」

 追い打ちをかけようとしたところ、ローブの方は近くの建物の上に飛び移られました。

「……いつぞやの山賊退治のときよりも、相当腕を上げているのは分かった……決着は決勝大会でつけるとしよう……幸運を祈る」

 そうおっしゃって、ローブの方は姿を消しました。

「幸運……? !」

「ふっ、見たことあるぜ、北西のコロシアムで連勝を続けている元貴族の嬢ちゃんだ」

「ああ、俺も聞いたことがある。客の期待を裏切りまくっている女だろう」

「ここで潰しちまおうぜ!」

「おおっ!」

(また囲まれてしまいましたわ! 四人! いや、それ以上⁉ 流石に一人では……⁉)

「『雷震』!」

「⁉」

「「ぐええっ!」」

 地面一帯に雷が走り、わたくしに襲い掛かろうとした人たちがバタバタと倒れます。

「あ、貴方は⁉」

「良かった、間に合った♪」

 わたくしの隣に立って、ニコッと微笑むのは、ブリッツ=サタアでした。

「あ、貴方も大会に?」

「うん」

「ど、どうして?」

「はっきりと目覚めちゃったからね~」

「そ、そうですか……なんというかとんでもないことに巻き込んでしまって……」

「気にしないでよ、オレ、結構強いからさ」

「こ、このガキ!」

 周囲の人たちの中でもっとも大柄な人が飛び掛かってきます。

「『雷電脚』!」

「ぐはっ!」

 ブリッツの繰り出したキックが大柄な人を吹き飛ばしました。倒れて痺れています。

「で、電撃を帯びているキック?」

「ご明察♪ オレは雷系統の魔法と武術を組み合わせているんだよ」

「そうなのですか……」

「というわけで姉ちゃんはオレが守るから安心しな!」

「イチャついてんじゃねえぞ!」

「はっ⁉」

 まだ周囲に残っていた人たちがわたくしたちに襲い掛かってきます。 

「『氷結』……!」

「! エ、エイスさん!」

 眼鏡の蔓を抑えながら、エイスさんが片手を振りかざすと、周囲の人々はあっという間に凍りついてしまいました。

「油断し過ぎだぞ、ブリッツ……」

「エイスさん、貴方も大会に?」

「ああ、なんていっても、はっきりと悟ってしまったからね」

「そ、そうですか……氷系統の魔法ですか、皆さん凍ってしまいましたが……」

「しばらくしたら溶けるよ、もっともその頃には予選は終わっているけどね……」

「いたぞ、眼鏡の野郎だ!」

「くそが! 仲間の借りは返す!」

「……おいおい兄貴、だいぶ仕留め損なっているじゃん」

「……ちっ、ちょっと多いな」

 エイスさんの後を追いかけてきた集団は今倒した人数よりもさらに多い人数です。

「おらあっ!」

「はっ!」

「! ルッカさん! シルヴァンさん!」

 左右からルッカさんとシルヴァンさんが集団をはさみうちにします。

「おおっ、無事だったか! 俺が来たからにはもう大丈夫だぜ!」

「フォローする身にもなりなよ!」

 ルッカさんたちは集団を次々と蹴散らしていきます。エイスさんは感心します。

「へえ、粗削りだが、きちんと魔法を使えている……変われば変わるものだね」

「……そこまで! 当会場の予選は終了とする!」

 しばらくすると、男性の叫び声が聞こえてきました。

「お、終わりですの……?」

「96人の戦闘不能を確認! よって当会場の勝ち抜きは6人とする!」

「やったよ、姉ちゃん、決勝だ!」

「ちょっと待てや、どさくさまぎれに抱き付こうとするんじゃねえ!」

「さてと、問題はここからだ……」

「奇遇だね、アフダル君、僕も同じことを考えていたよ」

「問題?」

 わたくしはシルヴァンさんとエイスさんの言葉に首を傾げます。

「約半月後に行われる決勝大会……三人一組のチームを組む必要がある……」

「あ、ああ、そういえばそうでしたわね……」

「そこでだ、ティエラ、君は誰と組んで参加する?」

「え、ええと……」

「当然、オレと兄貴だよね? 連携面ならバッチリだよ!」

「どこがだよ! てんでバラバラに戦っていたじゃねえか!」

「その気になれば合わせられるよ」

「その気になればだろうが! 俺とこいつの方が息は合っていると思うぜ」

 ルッカさんがシルヴァンさんを指し示します。シルヴァンさんは渋々同意します。

「まあ、山賊退治の実績もあるしね……」

「ナンセンスな言い争いをしているね……大会要項をちゃんと読んだのかい?」

「ああん?」

 ため息まじりに呟くエイスさんをルッカさんが睨みつけます。

「決勝もバトルロイヤル方式ではあるが、四チームが対戦し、各チーム一人ずつリングに上がるんだ。連携面がどうとかは関係がない。つまり……」

「つ、つまり……?」

「今、君が誰を選ぶかだよ、ティエラ」

「え、ええと……」

「……お嬢様、新聞にレボチャンの参加チームが出揃ったと記事が出ています!」

 予選から数日後、メアリがリビングに新聞を持って駆け込んできました。

「! 見せて頂戴!」

 そこには派手な見出しとともに出場チームの写真が載っていました。

“東方からの求道者! 三国一の腕自慢!”

「み、見るからに強そうな人ね……」

“人間どもに告ぐ! 亜人の力を思い知れ!”

「わたし、獣人の方を初めて見ました……」

“落第生の逆襲! 北東からやってきた女番長!”

「ら、落第生……?」

“見た目はロリッ娘、頭脳は天才! 近所の孫!”

「き、近所の孫? どういう意味でしょうか?」

“失地回復の時は今! 南西の孤島から帰ってきた剛腕!”

「た、たくましい身体をしている男性ね……」

“家出姉弟漂流記! 南東からの冒険者!”

「ど、どうして家出してこの大会に? どういう経緯でしょう?」

“賞金稼ぎ兄弟が殴り込み! 首を洗って待っていろ!”

「しょ、賞金稼ぎって実在するのですね……」

“龍と獅子と鳳凰を見たことがあるか? 東よりの来訪者!”

「この服装は東の大国のものですね……」

“サムライの剣技に震えろ! 常識外の剣士、見参!”

「は、刃物ってありなのですか、この大会⁉」

“美しさは罪! そこから目を逸らすのは大罪!”

「ど、同性から見ても美しい人たちですね……」

“東方からの刺客! クノイチ三姉妹の狙いは財宝!”

「財宝狙いって公言してしまっていますわ……」

“北北東の科学大国から参戦! 曰はく、科学よりも魔法が優れている!”

「隣に写っているメイドさん、機械人形っぽいですが……」

“死神たちが下界に降臨! 人間どもよ、戯れに遊んでやる!”

「ああ、そういうお年頃なのですね……」

“とにかく暴れたい! 掘って、斬って、爆ぜる!”

「ユ、ユニークな髪型とは裏腹に物騒な方たちですね……」

 わたくしとメアリは交互に率直な感想を述べ合いました。

「さて……」

「あ、お嬢様たちですよ!」

“悪役令嬢の復讐劇! はみ出し貴族と臨む決戦!”

「こ、ここで悪役令嬢ですか……ルッカさんとシルヴァンさんも散々な言われよう……」

「お、お嬢様、こちらを!」

“謎の覆面! VIPサタア兄弟を引き連れ参戦!”

「⁉ フードの方⁉ それにブリッツとエイスさん⁉」

 思わぬ組み合わせにわたくしは唖然としました。
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