【第三部】『こちら転生者派遣センターです。ご希望の異世界をどうぞ♪』【追放者編】

阿弥陀乃トンマージ

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『ケース2:フラグをガンガンへし折りまくって、ハッピーエンドを目指す悪役令嬢志望のティエラの場合』

第4話(1)少しお節介

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「じいやは反対でございます!」

「……もう決めたことです」

 リビングで珍しく声を荒げるじいやに対して内心少し驚きながらも、わたくしはあくまで平静を装って答えました。

「な、なぜせめて一言ご相談下さらなかったのですか?」

「言えばどうせ反対するでしょう」

「そ、それは……このムスタファ首長国連邦全土から参加者が集うという大規模な格闘大会! お嬢様がいくらこの地域のコロシアムで負け知らずとは言っても……」

「……かなり厳しい戦いが予想されるでしょうね」

「そ、そこまでお分かりなのであれば、今からでも出場辞退を!」

「辞退は致しません」

「な、なぜ……?」

「……執事長の心配ももっともだと思います」

「お、おお、メアリよ! お前からも言ってやってくれ!」

「富や名声や地位でも思うがまま……そんな文言に惹かれたのでございますか?」

「……」

「確かに当家の現在の財政はお嬢様の稼ぎ出す多額のファイトマネー頼みです。もしもこの大会を制することが出来たのならば、信じられない程多額の賞金を獲得できることでしょう。数か月どころか、数十年は生活の心配がいらなくなるかもしれません!」

「お、おお……」

 じいやが驚きの声を上げます。

「しかし、私も反対です! まだ噂話の段階ですが、この大会、『レボリューション・チャンピオンシップ』とやらには、この国の腕自慢だけでなく、他国の荒くれ者たちも多数参戦すると言われております。粗野で乱暴な人たち、いや、獣の群れにお嬢様を放り投げるようなことなど到底出来ません!」

「そ、そうですぞ!」

「この地域の大会でも十分稼げるではありませんか! 無理する必要などありません!」

 わたくしはバッと立ち上がり、メアリとじいやの方に振り返って答えます。

「お金の問題ではないのです!」

「な、なんですと⁉」

「それはどういうことなのですか⁉」

「今は貴方たちにも話せません。勿論、貴方たちのことは信頼しています。それでも事は慎重を期さなければなりませんから」

「わ、わかりません!」

「全て終わってからお話しします。約束します」

 わたくしは部屋を出ていこうとします。メアリがなおも食い下がります。

「ひゃ、百歩譲って、大会参加を我々が許したとして……あの大会要項はちゃんとご覧になったのですか?」

「ええ、大会運営組織から取り寄せてね。もちろん熟読しましたわ」

「ムスタファ首長国連邦首都クーゲカのメインコロシアムで行われる決勝大会の前に、各地の会場、全部で十の会場で予選が行われると!」

「知っております」

 わたくしは興奮気味のメアリを落ち着かせるように冷静に答えます。

「その予選方式が100人近くの参加者による『バトルロイヤル』だと!」

「約半日、旧市街地や古戦場跡、今は使われていない古びたコロシアムなどに箱詰めになり、夜明けとともに立っていられた者、約5~10人が決勝大会への参加権利を得ると……しっかり頭に入っていますよ」

 わたくしは右の人差し指で自分の側頭部をトントンと叩きます。

「や、やはりどう考えても危険過ぎます!」

「危険は承知の上です」

「で、では……!」

「予選は今から約ひと月後……トレーニングの負荷を増やさなければなりませんね」

「お、お嬢様……!」

 わたくしは庭に出て、ルーティンワークになった農作業を終えると、ハサンさんから教わった動きや、書物から得た知識を実践してみます。

「……偶然の産物などではなく、コンスタントにああいった技を放てるようにならなければ……予選すら勝ち抜けることも出来ないでしょう」

「ふむ……若干腰の入りが甘いのでは……ぐふっ⁉」

「……ハサンさん、どさくさまぎれにお尻を触ろうとするのをやめて下さいますか? そろそろ出るところに出ますわよ?」

 わたくしは例の如く自らの背後に立ったハサンさんの腹部にひじ打ちをかましました。ハサンさんは悶絶し、その場にうずくまります。

「じょ、冗談じゃ……」

「そういうのは冗談で済むものではありません……」

「い、いや、まことにもって申し訳ない! 悪ノリが過ぎたわ! ご、ごめんなさい!」

 わたくしはふうっとため息をつきます。

「……何か御用ですか?」

「……大会の形式が正式に発表になったな」

「ええ、きちんと把握していますわよ」

「それは結構……ただ、少しばかり気にかかることがあってな……」

「気にかかること?」

「予選を突破した場合じゃ。本戦のことはどう考えておる?」

「ふむ……それは確かにどうすべきかと思案しておりましたが……」

「なんじゃ、決めておらんのか?」

 ハサンさんが驚いた顔で見つめてきます。

「まずは予選をどう勝ち抜くかということで頭が一杯というか……」

「まあそれも致し方ないが……予選も一人で戦い抜くには限界があるぞ」

「それはそうなのですよね……」

「そういうことであろうと思って、少しお節介を焼かせてもらったぞ」

「お節介?」

 わたくしは首を捻ります。

「それは直に分かる。それよりも後一か月、今やっておったように基礎をおろそかにせず、ひたすら反復練習を繰り返すことこそ肝要じゃ」

「他に方法を知らないというのもありますが……これで大丈夫なのでしょうか?」

「不安になるのも無理はない。ただ、そんなときこそ己を信じるのじゃ。積み重ねた努力というものは決して裏切らないからの」

「己を信じる……努力は裏切らない……」

 わたくしは自分に言い聞かせるように呟きます。

「それでは、今日のところはこれで失礼するかの……」

「! ま、また強風とともに……たまには普通にお帰り頂きたいものですわ」

「お、お嬢様!」

「どうしました、メアリ」

「ルッカ様とシルヴァン様がお見えになっていますが、いかが致しましょう?」

「庭にお通しして」

「よ、よろしいのですか?」

「構いません」

 トレーニングに集中したいところですが、ここでお二人と手合わせ出来るならば、それも悪くはないなと思ったからです。今は少しでも経験を積みたいところです。

「おっ、いたな! 俺らも出るぜ! 『イリュージョン・バストウエストヒップ』!」

「はい?」

「『レボリューション・チャンピオンシップ』だ、何ひとつ合っていないぞ……」

「リューとョンとップは合ってるだろうが!」

「そういうのは合っているとは言わない……」

「とにかくだ! 大会に参加するぜ、よろしくな!」

「よろしくお願いするよ」

「ええっ⁉」

 わたくしは驚きのあまり、素っ頓狂な声を上げてしまいました。 
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