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『ケース2:フラグをガンガンへし折りまくって、ハッピーエンドを目指す悪役令嬢志望のティエラの場合』
第3話(1)相談ヒートアップ
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「お嬢様……」
部屋のドアをノックして、メアリの声がします。わたくしはため息をついてから、ややウンザリしたようにメアリに尋ねます。
「……今日はどちら?」
「……御二方ともいらっしゃっています」
「はあっ⁉」
「……ルッカ=ムビラン様、シルヴァン=アフダル様、ご両名が揃ってお越しです」
「……そうですか」
わたくしは力なく返事をして、部屋にある鏡台の前で軽く頭を抱えます。そして、心の中で『ポーズ』と唱え、続けて『ヘルプ』と唱えます。
♢
「はい、こちら転生者派遣センターのアヤコ=ダテニです。なにかお困りですか?」
「わたくし、大変困っております」
「差支えない範囲で理由をお聞かせ下さい」
「ええと、なんと言えばよろしいでしょうか……」
「なにか異常でも?」
「異常と言えば、なにからなにまで異常なことだらけなのですが……」
「……そういう場合はその世界にとってはほとんど平常通りで、転生者ご自身が異常だと考える方が自然ですね」
「淡々と酷いことをおっしゃいますね」
「そんなつもりは無かったのですが、お気に触ったのなら申し訳ありません」
アヤコさんは機械端末をカタカタと操作しながら謝ってきます。
「まあ、それはいいとして……困っていることですが……」
「伺いましょう」
「イケメン二人に懐かれて困っております」
「……は?」
端末を操作する音がピタッと止まり、アヤコさんは聞き返してきます。わたくしはよく聞こえなかったのかと思い、言い直します。
「ですから、二人のイケメン男性がですね……」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
「ああ、イケメンというのは、容姿端麗な男性のことを指す俗語です」
「そ、それは分かります」
「そうですか」
「私が聞きたいのは後半部分です」
「え?」
「懐かれて……とおっしゃいましたね」
「ええ」
「それはどういうことでしょうか?」
「毎日、どちらかが屋敷に押しかけてくるのです」
「ほ、ほう……」
「今日に至っては二人揃ってですよ!」
「ふ、ふむ……」
アヤコさんはしばらく沈黙なさります。やや間が空いたので、わたくしは通信が切れたのかと思い、声をかけます。
「もしもし?」
「え、えっとですね……ティエラ様、よろしいでしょうか?」
「なにか?」
「業務上、多くの異世界に携わる者が、これまた多くの異世界を体験されてきた方に対し、こういったことを申し上げるのもなんなのですが……」
「はあ……」
「それはどちらかと言えば嬉しい悲鳴を上げるべき事態なのでは?」
「何故?」
「な、何故って……」
わたくしの言葉にアヤコさんは戸惑われます。
「お考えをもっと詳しくお聞かせ下さい」
「い、一般論としてですよ?」
「数多の異世界があるというのに、一般論というのもいささかナンセンスでは?」
「そ、それは重々承知しています! ただ、往々にして、複数の容姿端麗な男性に言い寄られて困惑するというのは、少々理解に苦しみます」
「ご理解頂けませんか……」
「むしろ贅沢な悩みだなと……」
「……二人ともこの国では有力貴族の御子息だそうです」
「羨ましい限りですよ!」
「そうですか?」
「変わって欲しいくらいです! こっちは毎度毎度外れの合コンばっかりなんですよ!」
「す、少し落ち着いて下さい」
わたくしはアヤコさんを宥めます。こちらが酒場でタチの悪い酔っ払いに絡まれたり、山賊退治をしている時に合コンとか行っていらっしゃるのね……と思わないでもなかったのですが、ここは黙っておきます。
「……失礼しました。取り乱してしまいました」
「アヤコさん……貴女は令嬢界のことを少し知らないようですね……」
「少しというか、『令嬢界』という言葉に全く耳馴染みが無いのですが……」
アヤコさんが何やら小声で呟かれましたが、気にせずに話を進めます。
「この令嬢界で悪役令嬢を極める為に最大の障害となってくるのが、『イケメンとのフラグをうっかり立ててしまうこと』なのです」
「それはむしろ良いことではないのですか?」
「ダメです!」
「ダ、ダメですか?」
「もうすっっっごい……ダメダメです!」
「そんなに⁉」
「いいですか? 『イケメンとのフラグはなるべくへし折っておくに限るべし』! 先人の遺してくれた偉大な言葉です!」
「初耳ですよ!」
「大体において、爽やかイケメンと良い雰囲気になったり、ちょい悪イケメンとお近づきになったりして……やがてハッピーエンドに……って、世の中そんな旨い話がそうそう転がっているわけがないのですよ! どうせ全部バットエンドへの壮大な前フリです!」
「か、必ずしもそうとは限らないのでは⁉」
「いーえ、限りますね!」
「そ、それでどうされたいのですか⁉」
「ですからそれを相談しているのです! まったく意図せぬ、予期せぬかたちでフラグが立ってしまっているこの現状! この世界ではわたくしが今まで培ってきた方法論が一切通用しないので困っているのです!」
「わ、私から言えることは……」
「言えることは⁉」
「ご健闘を祈ります」
「貴女そればかりじゃないですか! あ、切れた! ……仕方ありませんね」
♢
ポーズ状態を解除すると、時間が動き出します。
「……お嬢様? いかがいたしましょうか?」
「ああ、そうですね……」
「やはりここはお二人で殴り合って頂いて、敗者には潔く去って頂くのが一番でしょうか? それが良いような気がしてきました。そうしましょう」
「ちょ、ちょっと待って! お二人とも客間にお通しして!」
わたくしは慌ててメアリの暴走する思考を制止します。
(はあ……二人揃っているところに行くなんて、またフラグを立ててしまいそうな気がしまいますが、まさかお会いしないわけにもいきませんし……)
わたくしはため息をつきながら来客応対用のジャージに着替え、部屋を出ました。
部屋のドアをノックして、メアリの声がします。わたくしはため息をついてから、ややウンザリしたようにメアリに尋ねます。
「……今日はどちら?」
「……御二方ともいらっしゃっています」
「はあっ⁉」
「……ルッカ=ムビラン様、シルヴァン=アフダル様、ご両名が揃ってお越しです」
「……そうですか」
わたくしは力なく返事をして、部屋にある鏡台の前で軽く頭を抱えます。そして、心の中で『ポーズ』と唱え、続けて『ヘルプ』と唱えます。
♢
「はい、こちら転生者派遣センターのアヤコ=ダテニです。なにかお困りですか?」
「わたくし、大変困っております」
「差支えない範囲で理由をお聞かせ下さい」
「ええと、なんと言えばよろしいでしょうか……」
「なにか異常でも?」
「異常と言えば、なにからなにまで異常なことだらけなのですが……」
「……そういう場合はその世界にとってはほとんど平常通りで、転生者ご自身が異常だと考える方が自然ですね」
「淡々と酷いことをおっしゃいますね」
「そんなつもりは無かったのですが、お気に触ったのなら申し訳ありません」
アヤコさんは機械端末をカタカタと操作しながら謝ってきます。
「まあ、それはいいとして……困っていることですが……」
「伺いましょう」
「イケメン二人に懐かれて困っております」
「……は?」
端末を操作する音がピタッと止まり、アヤコさんは聞き返してきます。わたくしはよく聞こえなかったのかと思い、言い直します。
「ですから、二人のイケメン男性がですね……」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
「ああ、イケメンというのは、容姿端麗な男性のことを指す俗語です」
「そ、それは分かります」
「そうですか」
「私が聞きたいのは後半部分です」
「え?」
「懐かれて……とおっしゃいましたね」
「ええ」
「それはどういうことでしょうか?」
「毎日、どちらかが屋敷に押しかけてくるのです」
「ほ、ほう……」
「今日に至っては二人揃ってですよ!」
「ふ、ふむ……」
アヤコさんはしばらく沈黙なさります。やや間が空いたので、わたくしは通信が切れたのかと思い、声をかけます。
「もしもし?」
「え、えっとですね……ティエラ様、よろしいでしょうか?」
「なにか?」
「業務上、多くの異世界に携わる者が、これまた多くの異世界を体験されてきた方に対し、こういったことを申し上げるのもなんなのですが……」
「はあ……」
「それはどちらかと言えば嬉しい悲鳴を上げるべき事態なのでは?」
「何故?」
「な、何故って……」
わたくしの言葉にアヤコさんは戸惑われます。
「お考えをもっと詳しくお聞かせ下さい」
「い、一般論としてですよ?」
「数多の異世界があるというのに、一般論というのもいささかナンセンスでは?」
「そ、それは重々承知しています! ただ、往々にして、複数の容姿端麗な男性に言い寄られて困惑するというのは、少々理解に苦しみます」
「ご理解頂けませんか……」
「むしろ贅沢な悩みだなと……」
「……二人ともこの国では有力貴族の御子息だそうです」
「羨ましい限りですよ!」
「そうですか?」
「変わって欲しいくらいです! こっちは毎度毎度外れの合コンばっかりなんですよ!」
「す、少し落ち着いて下さい」
わたくしはアヤコさんを宥めます。こちらが酒場でタチの悪い酔っ払いに絡まれたり、山賊退治をしている時に合コンとか行っていらっしゃるのね……と思わないでもなかったのですが、ここは黙っておきます。
「……失礼しました。取り乱してしまいました」
「アヤコさん……貴女は令嬢界のことを少し知らないようですね……」
「少しというか、『令嬢界』という言葉に全く耳馴染みが無いのですが……」
アヤコさんが何やら小声で呟かれましたが、気にせずに話を進めます。
「この令嬢界で悪役令嬢を極める為に最大の障害となってくるのが、『イケメンとのフラグをうっかり立ててしまうこと』なのです」
「それはむしろ良いことではないのですか?」
「ダメです!」
「ダ、ダメですか?」
「もうすっっっごい……ダメダメです!」
「そんなに⁉」
「いいですか? 『イケメンとのフラグはなるべくへし折っておくに限るべし』! 先人の遺してくれた偉大な言葉です!」
「初耳ですよ!」
「大体において、爽やかイケメンと良い雰囲気になったり、ちょい悪イケメンとお近づきになったりして……やがてハッピーエンドに……って、世の中そんな旨い話がそうそう転がっているわけがないのですよ! どうせ全部バットエンドへの壮大な前フリです!」
「か、必ずしもそうとは限らないのでは⁉」
「いーえ、限りますね!」
「そ、それでどうされたいのですか⁉」
「ですからそれを相談しているのです! まったく意図せぬ、予期せぬかたちでフラグが立ってしまっているこの現状! この世界ではわたくしが今まで培ってきた方法論が一切通用しないので困っているのです!」
「わ、私から言えることは……」
「言えることは⁉」
「ご健闘を祈ります」
「貴女そればかりじゃないですか! あ、切れた! ……仕方ありませんね」
♢
ポーズ状態を解除すると、時間が動き出します。
「……お嬢様? いかがいたしましょうか?」
「ああ、そうですね……」
「やはりここはお二人で殴り合って頂いて、敗者には潔く去って頂くのが一番でしょうか? それが良いような気がしてきました。そうしましょう」
「ちょ、ちょっと待って! お二人とも客間にお通しして!」
わたくしは慌ててメアリの暴走する思考を制止します。
(はあ……二人揃っているところに行くなんて、またフラグを立ててしまいそうな気がしまいますが、まさかお会いしないわけにもいきませんし……)
わたくしはため息をつきながら来客応対用のジャージに着替え、部屋を出ました。
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