【第三部】『こちら転生者派遣センターです。ご希望の異世界をどうぞ♪』【追放者編】

阿弥陀乃トンマージ

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『ケース1:Dランク異世界でのまったりとしたスローライフを希望するCランク勇者ショー=ロークの場合』

第12話(4)死闘の末に……

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                  ♢

「こ、この! ショーを返せ!」

 アパネがザシンに飛び掛かるが、ザシンがその巨体を翻し、尻尾でアパネを叩き付ける。

「ぐわっ!」

「アパネ殿!」

 モンドがアパネを抱きかかえ、ザシンと距離を取る。

「姿が見えないとは思ったけど、ここで出てくるとはね……」

 メラヌがセントラを睨み付ける。

「ふっ、色々と嗅ぎ回っていたようだな。ただ、気が付くのが少しばかり遅かったがな」

 セントラが嘲笑を浮かべる。アリンが震えながら、声を上げる。

「魔女から聞いてはいたけど……アンタが私を操っていたのね!」

「ふふっ、貴様は思いの外よくやってくれたぞ……転生者どもは厄介だからな」

「くっ……!」

 アリンが唇を噛み締める。代わりにメラヌが話す。

「転生者たちにパーティーを組むように仕向けたのはまとめて始末するためね?」

「そうだ、概ね思惑通りに事は進んでいたのだが……トレイルめがしくじったのと、謎多き魔女である貴様の存在が予想外であったわ」

「ミステリアスさは魔女のたしなみだからね」

「軽口叩いている場合じゃないでしょ……」

 ルドンナがメラヌを嗜める。セントラが笑みを浮かべながら呟く。

「とにもかくにもこれでほぼ全ての懸念材料は片付いた……」

「懸念材料? 転生者の方のことですか?」

 スティラの問いにセントラは頷く。

「そうだ、転生者というものはたった一人でも、その世界の均衡を崩しかねないほどの危険な存在だ……今、ショー=ロークも始末した。強さこそ無かったが、不確定要素が最も大きい転生者だったからな……これで私の計画を邪魔するものは誰もいない」

「まるで勝ったような口ぶりね!」

 アリンが叫ぶ。セントラが嘲笑する。

「ようなではない、勝ったのだ」

「まだ私たちが残っているわ!」

「ガアッ‼」

「きゃあ!」

 セントラに飛び掛かろうとしたアリンだったが、ザシンの大きく広げた翼によって、弾き飛ばされてしまう。セントラが玉座に腰掛けて静かに呟く。

「行け、魔王……いや、魔獣ザシンよ、まずはこやつらを始末するのだ……」

「グオオオオッ‼」

 ザシンが咆哮する。その雄叫びに玉座の間どころか、城ごと大きく揺れる。

「さて……どうする?」

 メラヌの問いかけにモンドが答える。

「ここで退くというわけには参らんでござる! ルドンナ殿!」

「なによ⁉」

「以前話した方法をお願いするでござる!」

「ああ、あれね! もう詠唱済みよ! 来なさい、シルフィちゃん!」

 ルドンナが風の妖精、シルフィードを召喚する。

「強風を吹かせなさい!」

 ルドンナの命を受け、シルフィードは強い風を発生させる。モンドがその風の勢いに身を任せて、ザシンに向けて突っ込む。モンドはザシンの懐に入り込む。

「よし! もらっ―――⁉」

 刀を振り下ろそうとしたモンドだったが、それよりも素早く、ザシンの鋭い爪がモンドを襲い、その体をズタズタに切り裂く。

「むう!」

 モンドは致命傷こそなんとか避けたものの、地面に力なく落下する。

「モンド! ぐう⁉」

 モンドを心配するあまり、やや中途半端な立ち位置を取ってしまったルドンナがザシンの繰り出した尻尾に巻き取られ、上に持ち上げられながら締め付けられる。

「ルドンナちゃん! 良い子だからその尻尾を離しなさい!」

 そう言って、メラヌが拳銃を二発発射させる。ザシンはメラヌの方に顔を向けて口を開くと、そこから二つの火の玉が飛び出し、銃弾を燃やす。

「ぬうっ⁉」

 メラヌは残った火の玉を喰らう。なんとか直撃を躱したものの、後方に飛ばされる。

「メラヌさん! ―――⁉」

 僅かに目を離したスティラをザシンが軽く飛び上がり、その大きな足で踏みつける。

「がはっ……」

 直前に障壁魔法を二重三重に張ったスティラだったが、その障壁ごと踏み潰されてしまう。これもまたなんとか致命傷は免れたものの、身動きがとれずに血を吐く。

「ふはははっ! 良いぞ、ザシンよ! その調子で目障りなものたちを片付けてしまえ!」

 セントラが玉座に座りながら、高笑いする。

「くっ……ここまでなの?」

 スティラが悔し気に呟く。自らの身に燃えついた火を消したメラヌがハッと顔を上げる。

「待って、様子がおかしい……」

 その言葉通り、ザシンの動きが止まる。セントラが怪訝そうな顔つきになる。

「? どうしたザシンよ?」

 次の瞬間、場を沈黙が支配する。僅かにザシンの体内から何かが聞こえてくる。

「……! ……生え! ……ちょい生え!」

「……! こ、この声は⁉」

 スティラが目を見開いた瞬間、ザシンの体が内側から緑色に光る。

「どんと生え‼」

「グオアアアッ⁉」

 ザシンの腹部辺りを大きな木が突き破り、ショーがその姿を現した。

「ショ、ショー様!」

                  ♢

「どわっ! ……た、助かった!」

 俺は地面に転がりながら、胸を撫で下ろす。

「僅かながらだけど魔力は感知出来たから、もしかしてとは思ったけど、本当に生きていたとは……よく抜け出せたわね」

 近くに歩み寄ってきたメラヌに俺は答える。

「い、いや、正直訳も分からず……ただ、丸飲みされたのが幸いだったのか、手足が動いたので、後は無我夢中で……」

「成程……しぶといわね」

「最後まで諦めないことが肝心です、勇者ですから!」

「ふふっ、勉強になったわ……」

 メラヌが微笑む。

「グオオ……」

 腹部を俺に貫かれたザシンは苦し気にふらつく。尻尾に締め付けられていたルドンナも、踏み付けられていたスティラもなんとか離れることが出来た。

「そ、その程度の傷で狼狽えるな、ザシン!」

 玉座から立ち上がったセントラが杖を掲げる。メラヌが叫ぶ。

「マズい! 回復させるつもりよ!」

「私の野望は誰にも挫けん! ―――⁉」

「―――挫いたぞ」

 ハーフリングの女性が繰り出した蹴りによって、セントラの杖がポキッと折れる。

「スビナエさん!」

「悪いな勇者、遅くなった!」

 スビナエは軽やかに着地する。セントラは戸惑う。

「だ、誰だ、貴様⁉」

「それはこっちの台詞だ! ドップはどこに行った⁉」

「し、知らぬ!」

「ならば吐かせるまで!」

 スビナエが拳を振り上げる。セントラが両手を胸の前で組む。

「ふん!」

「どわっ⁉」

 セントラが力を込めると、風が巻き起こり、スビナエは玉座から吹っ飛ばされる。

「次から次へと、全く目障りな連中だ! こうなったら私自ら引導を渡してやろう!」

 セントラの周囲に紫色の妖しい光が発生する。何か強力な魔法を放つ気である。

「マ、マズい! ―――スティラ⁉」

 スティラの方を振り向くと、スティラが黒い大きな球体を発生させている。

「見よう見まねですが……! 『漆黒の闇』!」

「⁉ そ、そんな馬鹿な―――⁉」

 スティラが放った黒い球体が玉座の間の壁ごと吹き飛ばした。セントラの姿はない。

「や、やったのか? ⁉」

 ザシンが暴れ出す。その時、俺の右手の甲に緑色の紋章が浮かび上がる。

「こ、これは⁉ ―――!」

 考えるよりも先に勝手に体が動いた俺はザシンの前に進み、叫ぶ。

「封印の大樹よ! 根付け‼」

 今までより一際大きな大樹が地面から生え、ザシンの巨体を丸ごと飲み込んだ。

「き、木に封じ込めた? そんなことが……」

 メラヌが信じられないと言った顔を浮かべる。

「お、終わったのですか?」

 スティラの問いに木の様子を確認したメラヌが首を振る。

「残念ながら……この木だけでは不十分よ。この玉座の間だけでなく、この城、またその周辺に何重にもわたって強力な結界を張らないと……それに……」

「それに?」

 俺が首を傾げると、メラヌは躊躇いがちに口を開く。

「……見張りの様な存在を置かないといけないわね」

「見張りですか……」

「ええ、なにかあった時にザシンの暴走を抑え込むことが出来る存在よ……」

「その役目……俺たちが引き受けよう」

「「「⁉」」」

 俺たちは意外な者たちの登場に驚く。

                  ♢

「……しかし、都市の一等地にも屋敷を貰えたのに、随分と謙虚なことね、勇者さん」

 メラヌの言葉に俺は馬車を走らせながら笑う。

「元々、喧騒から離れて暮らしたかったのです」

「かと言って、廃村に住むなんて……」

「住めば都と言うでしょう」

「大体、畑なんか耕せるの?」

「多少の心得はあります。勿論、近隣の農村に指導を仰ぎにいくつもりですが」

 そうこうしている内に、馬車が目的地に着いた。

「ふむ……ここからカダヒ城がよく見えるわね」

「警戒の意味もあります。一応、甦った四傑の皆さんを信用していますが」

「魔王の復活に貢献した者たちに魔王を見張らせるとはね……」

「彼らの呼びかけによって、その配下たちの投降もスムーズにいきました」

「毒を以て毒を制すね……それにしてもドップは何を企んでいるのやら……」

 メラヌは腕を組んで首を傾げる。

「四傑の復活はその……ドップというものの仕業なのですか?」

「ええ、念の為に残していた使い魔からの情報を総合するとね」

「四傑の皆さんはまるで憑き物が落ちたようです」

「ドップが魔力など力の大半を奪ったようだからね……」

「そんなことが出来るのですか?」

「出来るみたいね。お陰で四傑はあの城に幾重も張った結界から出られないけど」

「そうですか……ああ、この家です」

 俺は廃村の中でもっとも大きな建物を指差す。

「へえ、思ったよりも立派ね」

「代々の村長さんが暮らしていた家だそうですから」

 俺たちは家の中に入り、色々と見て回る。

「……どうやらここが一番広い部屋のようね」

「じゃあ、ここがボクとショーの部屋だね!」

「はあ⁉ 私とダーリンの愛の巣よ! アンタは物置でも使いなさい!」

 アパネの言葉にアリンが噛み付く。睨み合う二人をスティラが仲裁する。

「まあまあ、ここは間を取って、わたくしとショー様が住むということで……」

「なんの間でござるか……しかし、庭も広いでござるな、鍛錬にはもってこいでござる」

 モンドが窓から庭を見て呟く。俺は恐る恐る尋ねる。

「あ、あの、皆さん……ひょっとしてこの家に住むつもりですか?」

 皆が俺を見て揃ってこくりと頷く。俺は仰天する。

「えええっ⁉」

「何を今更……大体、時間外労働の分の給金、まだ払ってもらってないんだからね」

 ルドンナが契約書を俺に突き付ける。た、確かに全然パートタイムでは無かったが。

「ス、スビナエさんまで! 島に戻らなくて良いのですか⁉」

「心配無用だ。緊急事態などそうそう起こらん。メラヌに頼めばすぐに戻れるしな」

 スビナエがメラヌを指差し、メラヌは俺に向かってウィンクする。

「城の見張りも必要だしね、私もそろそろ新しい拠点が欲しいと思っていたの」

「は、はははっ……」

 俺のまったりとしたスローライフが……。俺は精一杯の笑顔を浮かべた。

                  ♢

「……というわけだ、全く参ったよ……ん? 聞いているのか?」

 俺は転生者派遣センターのアヤコに連絡を取る。報告の為だ。

「……聞こえていますよ、のろけ話」

「ど、どこがのろけ話なんだ?」

「自覚なしとは……七人も侍らせて良いご身分ですね。お相手は日替りですか?」

「? 意味が分からんな……まあ、たまに皆で温泉などには行っているが」

「温泉⁉ 私が汗水垂らして働いているというのに⁉」

「い、いや、お前呑気に有給取っていただろうが!」

「紋章は⁉」

「え? あ、ああ、右手の甲に緑色の紋章が浮かんできたのだが……」

「それは結構! では、私は忙しいので! 次の方、どうぞ!」

「あ、ちょ、ちょっと待て!」

 アヤコは会話を打ち切る。俺と話す時とはまるで違う声色で話す声が僅かに聞こえる。

「こちら転生者派遣センターです。ご希望の異世界をどうぞ♪」

                  ~ケース1 完~
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