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『ケース1:Dランク異世界でのまったりとしたスローライフを希望するCランク勇者ショー=ロークの場合』

第11話(4)巨獣総進撃

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「統率が取れているというのもかえってやりやすいかもね!」

 アリンが糸を駆使して、迫りくる巨人の兵士たちの体や足を引っ張り、互いに衝突させたり、派手に転倒させたりしている。

「陣形を組んでいることがありがたいわ! 狙いがしぼりやすい!」

 ルドンナも巨人たちとの戦い方に、ある程度の手ごたえを掴んだようである。

「召喚士、アタシとアンタの相性も意外といいんじゃない?」

「あまり認めたくないけど同意かも」

「いや、認めたくないって、なによ!」

 段々と余裕が出て来たのか、アリンとルドンナは軽口を叩きあいながら、巨人の兵士たちを自由きままに翻弄する。業を煮やした巨人の一人が荒っぽい行動に出るも、それも二人にとっては想定内のことであり、実に冷静に対応する。

「おっと! その大きな足で踏み潰そうとした? でもね、こちらにとっては格好のカウンターチャンスでしかないのよ」

 アリンが両手から放つ糸が巨人の足に絡み、足が前に振り上げられる。

「ウオオオ⁉」

「……結構高く上がるわね。ここまで上がるということは……」

「―――⁉」

 アリンが糸をスパッと切る。糸により思い切り振り上がった巨人の足はふりこの原理の要領で、自分の後方に振り上がる。

「オワアア⁉」

 巨人の後ろ足が、後方にいた別の巨人にクリーンヒットする。予期せぬ攻撃を受けた別の巨人は倒れる。

「同士討ちを狙うという作戦、上手く行っているわね」

「今のところはね……!」

 ルドンナの言葉にアリンが頷いたところで戦況に変化が起こる。巨人たちも固まった陣形が不利になるということに気付き、距離を取って散開しようとする。アリンが叫ぶ。

「離れられると厄介よ! こちらが囲まれやすくなるからね!」

「分かっている! 来なさい、シューターフェアリーちゃんたち!」

 ルドンナはやや大柄な弓矢を装備したフェアリーを四体召喚する。フェアリーたちはそれぞれ弓矢を構えながら飛んでいる。アパネが首を傾げる。

「どうするつもり?」

「まあ、見てなさい……斉射!」

 ルドンナの号令により、フェアリーたちが放った矢は、巨人たちの足に刺さる。

「当たったのは良いけど、それくらいじゃ大したダメージにならないわよ!」

「ここからよ!」

「ムウ⁉」 

 巨人たちの足に放たれた矢の先から透明な液体が広がる。その液体はあっという間に広がり固まった。それによって、巨人たちが足をとられ、動けなくなる。アリンは驚く。

「こ、これはどういうこと⁉」

「矢の先に『粘着』魔法の効果を付与してみたわ。魔女さんからの薦めだけど、まさかここまで上手く行くとはね……」

「よし、その調子で他の部隊も足止めさせて! 引っかかった獲物の仕上げはアタシがどんどんやるから!」

「分かった!」

 アリンの言葉にルドンナが頷く。

「⁉」

「喰らいなさい、『地獄の業火』!」

 翼を使って浮き上がったアリンが、地面に足が粘着して、満足に動けなくなっている巨人の兵士たちに向かって大きな炎を放つ。巨人たちは成す術もなく、その炎に包まれる。同じ調子で、いくつかの部隊を無力化していく。

「良い感じね―――⁉」

 ルドンナの周囲にシューターフェアリー四体がすごい勢いで落下してきて、地面に激突し、消滅する。ルドンナが視線を上に向けると、そこには周りの巨人よりも頭一つ多い巨人が立っていた。

「ブライ様だ!」

「おおっ、ブライ様!」

 周りの巨人たちが歓声を上げる。

「あれが四傑のブライ……!」

 ルドンナがブライと呼ばれた巨人をマジマジと見つめる。額に生える角は一つだが、目は二つある。ブライはその双眸でルドンナとアリンを見据え、口を開く。

「同胞が世話になったな……だが、我はそう簡単にはいかんぞ‼」

「‼」

 ブライが咆哮しただけで、大きな振動が起こる。ルドンナは身構える。

「な、なんて迫力……」

「気圧されたら駄目よ! 先手必勝!」

「ちょ、ちょっと!」

 アリンがすぐさま空中を飛んで、ブライの正面に回り、魔法を放とうとする。

「『地獄の……」

「五月蠅いわ!」

「―――⁉ ぐはっ……」

 ブライがその手に持っていた岩の棒のような武器で、アリンをまるで虫を叩き落とすかのように殴りつける。アリンは凄まじい勢いで地面に叩きつけられる。

「だ、大丈夫! ……なわけはないわよね」

 ルドンナがアリンの落下した先に目をやるが、すぐにその目を背ける。あの強烈な一撃を喰らってしまっては無事で済むはずがない。だが、少し間が空いて声がする。

「……ぐっ、巨岩をくり抜いた棍棒とか、スケールデカすぎでしょ……」

「ええっ⁉ 生きてた⁉」

 ルドンナが驚きの声を上げる。

「と、当然、魔族の生命力、あんまりナメないでくれる?」

 アリンがガクガクと震えながら立ち上がる。

「す、凄いボロボロだけど⁉」

「咄嗟に障壁魔法を三重くらい張ったんだけどね……破壊力半端ないわ」

 一度は立ち上がったアリンだったが、すぐに膝を突いてしまう。それを見たブライは視線をルドンナへ向ける。

「さて、これで丸裸も同然になったぞ、召喚士よ……」

「な、なにを!」

「召喚魔法というのは高度なものであればあるほど時間を要する……魔族の女が時間を稼ぎ、その間に詠唱していたのであろうが、その手はもはや通じんぞ」

「ご、ご明察……!」

「ほう、強がりの一つでも言うかと思ったが」

「強がって、ホントに強くなったら誰も苦労しないのよ!」

 ルドンナはアリンに駆け寄り、耳打ちする。ブライが右手に持つ岩の棒を振り上げる。

「何の相談か知らんが、二人まとめて叩き潰す!」

「そうはいかない! 来なさい! ジャイアントフェアリーちゃん!」

 ブライほどではないが、かなり巨大な妖精がその場に現れる。ブライはやや戸惑う。

「既に詠唱を終えていたか! これほど大きな妖精は見たことがない! 見事だ!」

「お褒めに預かり光栄よ!」

「だが、力比べで我に敵うものか!」

「その自信を打ち砕いてやるわ!」

「ふん! ―――な、何!」

「……!」

 ブライの振り下ろした岩の棒をジャイアントフェアリーが拳で受け止めたのである。

「こ、これは糸か⁉」

 ブライの言った通り、フェアリーの右手には糸がこれでもかとグルグル巻きつけられていた。アリンがありったけの力を振り絞り、強い硬度を誇る糸を出していたのだ。

「……‼」

「ぐはあっ!」

 フェアリーが力を込め、岩の棒を砕き、そのままブライの顔を殴りつけた。ブライは尻もちをつく。ルドンナは拳を強く握りしめる。

「よっしゃ!」

「くっ、我に膝を突かせるとは……」

「尻でしょ、さらっと誤魔化すな!」

「本気で行くぞ!」

 ブライが立ち上がり、素手でフェアリーを殴る。フェアリーも負けじと殴り返す。数度殴り合った末、ついにフェアリーが膝から崩れ落ちる。ルドンナが叫ぶ。

「ジャイフェちゃん!」

「どうだ、我の勝ちだ!」

 勝ち誇るブライに対し、悲しげな顔を見せていたルドンナがすぐさま笑みを浮かべる。

「……前哨戦はね。来なさい! メガバハちゃん!」

「何だと⁉」

 ルドンナがメガバハムートを召喚する。ブライは驚く。

「ば、馬鹿な⁉ こんな短時間で、大型召喚獣を立て続けに⁉」

「二重詠唱よ! 同じ意味の呪文は省略しても問題ないのよ!」

「ま、まさか!」

「焼き尽くせ!」

 メガバハムートが吐いた炎がブライの巨体を包みこむ。

「……ガハッ」

 黒焦げになったブライがうつ伏せに倒れ込む。その衝撃で城門も開く。まさかのブライの敗北に混乱に陥った周囲の巨人たちがその場から逃げ惑う。ルドンナは膝をつく。

「勝手に退散してくれて助かるわ……正直限界一歩手前……」

「二重詠唱なんてことが出来たのね……」

 アリンが声をかける。ルドンナが呆れ気味に答える。

「召喚の書の『召喚こぼれ話』ってコラムにさり気なく記してあったのよ、そんなの普通真面目に読まないっての……」

「召喚の書、案外ノリ軽いわね……」

「城内に入って、皆と合流しないと……スティラさんに回復してもらわなきゃ……トランスポートフェアリーちゃんたち、来なさい……」

 ルドンナが四体のやや大きめなフェアリーを召喚する。

「私とあの娘を城内まで運んで頂戴……あ、私より重いだろうから三体で彼女を運んで、私は一体で良いから……」

「ちょっと! 何勝手に重いとか言ってんのよ! 結構だわ、一人で飛べる!」

 アリンが立ち上がって、フラフラしながらも城内に向かって飛んで行く。

「ふふっ、全く大した生命力ね……」

 ルドンナも城内へと運ばれて行く。
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