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『ケース1:Dランク異世界でのまったりとしたスローライフを希望するCランク勇者ショー=ロークの場合』

第9話(3)進撃の変な奴

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「ぐっ……」

「ショー様、ご無事だったのですね!」

「! あ、ああ、スティラ」

 俺はロープを解きながら立ち上がり、笑顔で駆け寄ってくるスティラに答える。引き摺られたことによる激しい摩擦熱で頬を少しばかり火傷したが、何事もないように振舞う。

「ホミの方はどうなっているのでしょうか? 情報が錯綜していて……」

「アパネとモンドの活躍もあって、魔王軍を退却させることが出来ました」

「私らの活躍もあったよね~」

 アリンがテントに姿を現す。スティラが怪訝な表情になる。

「貴女は……!」

「どうも。その節はお世話になったわね」

「えっと、詳細は後で説明するとして、彼女、アリンも共に戦ってくれることになりました」

「ダーリンの為に戦うからよろしく~」

 アリンが俺と腕を組んでくる。スティラが露骨に顔をしかめる。

「ダ、ダーリン⁉」

「魔族の娘も手中に収めるとは……勇者様は手当たり次第だね~」

 ルドンナが笑いながら話しかけてくる。俺はルドンナを嗜める。

「ルドンナ、人聞きの悪いことは言わないで下さい」

「え、事実じゃないの?」

 俺はアリンを引き離し、話題を変える。

「スティラ、戦況はどうなっています?」

「え、ええ……現在北東の門を攻略しようとしていますが、苦戦しております。城壁付近に陣取っているあの部隊が厄介で……」

「あの部隊?」

「ええ、ここからも見えます」

 俺はテントを出て、スティラが指し示す方向を見て驚く。一つ目型の巨人が何体も城壁付近に立っていたのである。

「きょ、巨人⁉」

「ええ、巨人族です。争いごとを好まない心優しい種族もいるのですが、粗暴な彼らは魔王の傘下に入ることを選択したようですね」

「な、成程……確かにあれは厄介そうですね」

「中でも厄介なのは、あの一番奥に立っている巨人です」

「額に角が生えている……他とは違うようですね、主将格でしょうか?」

「恐らくそうでしょう。他の巨人とは戦闘力が段違いですから」

「アリン、まさか奴は『四傑』ですか?」

 俺はアリンに尋ねる。アリンは首を振る。

「残念ながら……言ってみれば右腕的な存在ってところね」

「右腕的な存在ですか……」

 肩を落とす俺に対して、ルドンナが声をかけてくる。

「落ち込んでいる暇はないわよ。あの主将格を倒さなければならないのだから。早くしないと被害が拡大する一方だわ」

「ルドンナさん、休んでいたじゃないですか……」

「だから力を蓄えているって言ったでしょ」

 スティラの指摘にルドンナは反論する。俺はルドンナに問う。

「ほ、本当に倒せるのですか? あの巨人を……あんな高い城壁の三分の二くらいの大きさがありますよ」

「全ては無理だけど……あの主将格だけならなんとかなるわ」

「大した自信ね。勝算はあるの? 巨人がうじゃうじゃいるわよ」

 アリンの問いにルドンナは微笑を浮かべて答える。

「誰かが奴らの気を引いて、時間を稼いでくれればね……」

「誰か?」

 ルドンナが俺の肩にポンと手を置く。

「というわけでよろしくね、勇者様♪」

 嫌な予感が的中した俺は天を仰ぐ。

「だ、大丈夫ですよ、ショー様、わたくしたちもフォローしますから!」

「スティラ殿! スティラ殿はこちらか!」

 そこに同盟軍の兵士が駆け込んできた。スティラが答える。

「は、はい! ど、どうかしましたか⁉」

「実は長年使われてなかった地下通路を利用し、都市内部への潜入に成功したのですが、通路の出入り口付近に強力な敵がおり、前に進めないのです! スティラ殿には大至急回復魔法による支援をお願いしたいのです!」

「え、ええ……?」

 スティラは困惑する。俺はキリッとした顔つきでスティラに告げる。

「行ってあげて下さい、スティラ。こちらは大丈夫です」

「は、はあ……」

「アリン、貴女にはスティラの護衛をお願いします」

「ええ? まあ、ダーリンの頼みなら仕方が無いなあ」

「……では、失礼します。ご武運を!」

 スティラとアリンは兵士と共に地下通路に向かった。ルドンナが呟く。

「魔族の娘は残ってもらった方が良かったんじゃない?」

「スティラの身の安全を確保することも大事です。恐らく、敵の別の主力部隊と相対することになるのでしょうから」

「まあ、それも一理あるわね……スティラさんの回復魔法が無いとこちらの戦力は半減するのと同じようなものだものね」

 ルドンナは納得する。俺は城壁の方を眺めながらルドンナに尋ねる。

「……巨人の群れをかいくぐって、貴女を主将格に近づけさせれば良いのですね? ただ、主将格を倒せば、それで済むのでしょうか?」

「ざっと見たところ、主将格のあの一本角が色々と指示を飛ばしているわ。司令塔を失えば、付け入る隙は十分出来るはずよ」

「そうですか……」

「アイツらの注意を引き付ける方法はある?」

「ぶっつけ本番にはなりますが……考えていた方法はあります」

「そう、ならそれで行きましょう」

 ルドンナは城壁に向かってさっさと歩き出す。俺は慌てる。

「どんな方法か聞かないんですか⁉」

「その時のお楽しみってやつでしょ?」

「お楽しみって……」

 俺たちは城壁付近まで近づいた。巨人たちに同盟軍は苦戦している。ルドンナが呟く。

「それじゃあ、お願いね」

「どれ位時間を稼げば良いのですか?」

「五分稼いでくれれば十分よ」

「分かりました……」

 俺は巨人たちに駆け寄る。わざと剣の鞘をカチャカチャと鳴らす。すると、何体かの巨人が俺に気付く。巨人族を見かけたことが無いわけではないが、流石にこれくらいの数を前にすると緊張感が違う。とはいえ、ここまで来たらやるしかない。俺は覚悟を決めて突っ込む。

「『理想の大樹・上昇気流』!」

「⁉」

 俺は尻の穴に大木を生やす。その反動で俺はあっという間に巨人たちの首の高さ辺りまで到達した。巨人たちがその大きな目を丸くした。俺はその勢いのまま斬り掛かる。

「喰らえ!」

「グワアッ!」

 俺は巨人の顔に斬り付けた。目を狙ったが外してしまった。巨人がその大きな手を使って、俺をはたきおとそうとする。俺は尻を巨人に向ける。

「『理想の大樹・発射』!」

「ヌオオッ!」

 俺は屁をこく要領で、大木を尻から発射した。自分でも何を言っているのか分からないが、他に言葉に表しようがないので仕方がない。俺の尻から放たれた大木は巨人の足の甲に突き刺さる。巨人がたまらず悲鳴を上げる。俺は発射の反動を利用して他の巨人に斬り掛かる。他の巨人たちが俺に群がってくる。俺はすかさず叫ぶ。

「『理想の大樹・大回転』!」

 俺は再び尻に大木を生やし、それを空中で振り回す。巨人たちは容易には近づけなくなる。俺は発射と大回転を駆使し、空中を飛び回って、巨人たちを翻弄する。

「馬鹿どもが! 何をやっている!」

 激しい怒号が鳴り響く。見てみると、一本角の生えた主将格の巨人が怒りの表情を浮かべてこちらに向かってきている。俺は叫ぶ。

「貴様が四傑の右腕か⁉」

「如何にも!」

「私は転生者の勇者、ショー=ロークだ! 貴様の名は?」

 俺は尻に大木を生やしながら丁寧に名乗る。

「魔王ザシン様に仕える四傑が一人、ブライ様の右腕! イラトとはこの俺のことだ!」

 相手もこんなわけの分からない姿の俺に律儀に答えてくれた。何だか申し訳ない。

「イラト! 貴様の相手は私ではない!」

「なんだと⁉」

 イラトが気付いた時には、近くにいたルドンナが詠唱を終えていた。

「出番よ、お願い! メガバハちゃん!」

 ルドンナは赤黒い肌をした幻獣バハムートを召喚する。以前見た個体よりさらに一回り大きい。成程、メガバハムート、略してメガバハちゃんというわけか。

「しまった⁉」

「焼き尽くせ!」

「ゴオオオッ‼」

「グハッ⁉」

 ルドンナの号令を受け、メガバハムートが巨大な炎を吐く。イラトの巨体が一瞬で炎に包まれる。完全には燃やし尽くせなかったが、イラトは黒焦げ状態になった。

「つ、つまらぬものに気をとられている内に……」

 そう言ってイラトは倒れ込む。つまらぬもので悪かったな。ルドンナが叫ぶ。

「さあ、次にこうなりたい奴は⁉」

 ルドンナの叫び声に合わせて、メガバハムートがギロリと睨みをきかせる。残った巨人たちは震え上がり、我先にと退却する。巨人たちがすっかり見えなくなったところで、メガバハムートは消え、ルドンナは倒れ込みそうになる。近くにいた俺が慌てて支える。

「だ、大丈夫ですか?」

「大分消耗しちゃった……またちょっと休ませてもらうわ。勇者様はスティラさんたちを助けに行ってあげて……あの変な術ならひとっ飛びでしょ?」

 変な術とはっきり言われると恥ずかしくなる。とにかく俺は頷き、ルドンナの介抱を他の兵士に頼み、城門に向かって走る。
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