上 下
27 / 109
『ケース1:Dランク異世界でのまったりとしたスローライフを希望するCランク勇者ショー=ロークの場合』

第7話(3)ゴブリン村の激闘

しおりを挟む
「ふん!」

 俺は生やした大樹をやや乱暴に倒して、俺たちを収容していた牢屋を壊して外に出る。

「さて、まずはどうする?」

 アリンの問いに俺は答える。

「まずは非戦闘員を安全な場所まで退避させつつ、私の剣と盾を回収します」

「暗がりと土煙でよく分からないけど、モンスターは村の南部で暴れているようね。北部にいる私たちとはちょうど真反対ね」

「隙を突いて逃げないで下さいね!」

 俺はアリンに釘を刺す。アリンはややムッとして答える。

「今更逃げないわよ」

「結構なことです」

「面倒だからここから魔法をぶっ放してもいい?」

「それは却下です」

「なんでよ」

「被害が広範囲に及びます。村の外に誘導して倒すのが望ましいです」

 アリンは不満気な様子で呟く。

「そう上手く行くかしらね? だって……」

「え? なんです?」

「なんでもない! 早く剣と盾を回収して!」

 俺は周囲を見回して、この村で一番大きいと思われる建物に駆け込む。

「む! お、お前、いつの間に牢屋を⁉」

 俺を捕えたゴブリンの一人が驚いた視線を向けてくる。俺は構わず問う。

「私の剣と盾を返して貰います!」

「そ、そんなこと……!」

「この村の危機なのですよ! 私に任せて下さい!」

「……貴方ならば救えると?」

 腰の曲がった老いたゴブリンが尋ねてくる。恐らくこの村の村長であろう。

「当然です! 勇者ですから!」

「……持ち物を返してやれ」

「い、いいんですか⁉ 村長!」

「いいから急げ!」

「は、はい!」

 村長からの指示を受けたゴブリンが走っていく。村長は俺に話す。

「申し訳ない……村の平和を守るため、過敏過ぎる反応を取ってしまいました……」

「それが最善だと判断したのなら、こちらが言うことは何もありません」

 俺は気にするなという風に答える。

「も、持ってきました!」

 ゴブリンから剣と盾を受け取った俺はその場にいた全員に告げる。

「直ちに避難を! モンスターは私が倒します!」

「頼みます……!」

 村長の懇願を背に受けた俺は建物を出て、村の南部に走る。すぐさま俺は現場にたどり着く。激しく舞う土埃も晴れて、モンスターの姿を確認することが出来た。

「これは⁉ 鳥か⁉」

 俺の目に映ったのは、大きなくちばしに一匹のゴブリンを咥えている巨大な鳥の姿であった。周囲を取り囲むゴブリンたちが小柄だということを差し引いても、かなりの大きさである。俺が到着したことに気付いたアリンが背中越しに話す。

「魔鳥エビルホークよ!」

「あ、あのゴブリンを助けないと!」

「迂闊に近づいたら危険よ!」

 俺はアリンの忠告を無視し、突っ込む。そこに鋭い足の爪が襲い掛かってきた。

「うおっ⁉」

 俺はなんとか横に転がって躱した。巨体に似合わず素早い。確かにこれでは容易に近づくことは出来ない。アリンが俺を諭すように叫ぶ。

「距離をとって攻撃しないと!」

「では、貴女の魔法をお願い出来ませんか⁉ 糸か何か使えるでしょう⁉」

「生憎、魔力切れが近いわ! 糸は使えない!」

「ええっ⁉」

 俺は驚いて振り返る。アリンが忌々し気に呟く。

「断片的にだけど思い出したわ。私、貴方の仲間のエルフに雷魔法を喰らったでしょ?」

「え、ええ……」

「あの魔法は『裁きの雷』と言って相手にダメージを負わせるだけに留まらず、その相手の持つ魔力を一定期間、制限することが出来る高等魔法よ……」

「そ、そんな……」

 スティラの奴、またとんでもない魔法を初見でマスターしたな……。などと感心している場合ではない。アリンに必要以上に頼ることが出来ないということはこの場は俺がなんとかせねばなるまい。俺は一旦周囲を見回す。ゴブリンたちが長い槍を構えている。戦いに慣れていない種族というのはどうやら本当で皆どことなく構えがぎこちない。震えが止まらない者もいる。魔鳥と呼ばれるような大きな鳥と相対すれば無理もないことではあるのだが。俺はゴブリンたちに声を掛ける。

「皆さん! 槍をあの鳥に向かって投げつけて下さい!」

「「「⁉」」」

「早く!」

 俺の迫力に圧されたのか、ゴブリンたちは持っていた槍を魔鳥に向かって投げつける。皆ほとんどへっぴり腰で投げているので、当然当たるはずもなく、槍が飛ぶ方向も目茶苦茶だ。ただ、気を引いてくれればそれで十分であった。俺は魔鳥の隙を突いてその懐に潜り込むことに成功する。

「『登木(のぼりぎ)』!」

 俺は木を地面に生やし、その幹を勢いよく駆け上がって、魔鳥の喉に斬り付ける。喉は太く硬い為、切り裂くことは出来なかったが、魔鳥はくちばしを広げ、くわえていたゴブリンを落とす。標的を俺に切り替えた魔鳥はくちばしを俺に向けて広げてくる。

「『縛蔦(ばくった)』!」

 俺は蔦を生やして、魔鳥の大きなくちばしを縛る。予想外のことに混乱した魔鳥は体勢を立て直そうとしたのか飛び立とうとした為、俺は再び『縛蔦』と唱え、魔鳥の左の翼と左足を縛る。それでも、魔鳥は飛び立ったが、不安定な体勢だった為、満足な高度を取れない。俺はアリンに声を掛ける。

「アリン! 頼みます!」

「『地獄の業火』!」

 アリンの両手から凄まじい勢いの炎が放たれ、魔鳥は一瞬で焼き尽くされ、地上に落下する。ゴブリンたちが歓声を上げる。木から降りた俺はアリンとともに、ゴブリンたちの称賛と感謝を受ける。俺たちは村長のもとに強引に連れていかれ、改めて丁寧な謝辞を受ける。すぐにでも出発したいところであったが、どうやら現在島の周りの海は荒れており、船などを出すのは危険だという。一晩待てば、海も落ち着くだろうということで、俺たちは引き留められ、そのままなし崩し的に宴に参加することになった。俺とアリンはゴブリンたちに薦められるまま酒を大いに飲んだ。俺の隣でアリンがぶつぶつ呟く。

「勢いに乗せられたようなものだけど……困っている者を助けるというのも案外悪くないものね……貴方のお陰で新たな知見を得たわ。か、感謝しているんだからね……そ、そのお礼と言ってはなんだけど……や、やっぱり恥ずかしいわね」

「んえ? ああ! わたひにドーンとお任せ下さしゃい!」

 すっかり酔いの回った俺は、アリンに気前よく返事をする。翌日……

「では……どうぞお気を付けて」

 村長たちに見送られ、俺はゴブリンの村を後にする。気になるのは俺の三歩程後ろを歩くアリンの様子だ。俺は振り向いて彼女に問いかける。

「あ、あの……アリン? どうかしたのですか? もっと近づいても……」

「肩を並べて歩くだなんてとんでもない。後方はどうぞ私にお任せを……ダーリン♡」

 そう言って、アリンはポッと顔を赤らめる。ダ、ダーリン?ひょっとしてまたまたまたまたまたなんかあったパターンか、残念ながら全く記憶に無い。俺は天を仰ぎつつ歩く。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

処理中です...