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『ケース1:Dランク異世界でのまったりとしたスローライフを希望するCランク勇者ショー=ロークの場合』

第7話(2)魔族の実情

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 アリンの予想外の返答に俺は困惑する。

「い、いや、戦いましたよね⁉ 貴方と私! 直接的ではなかったですけど!」

「そんなに大声でわめかなくても聞こえるから……」

「な、ならば! 私は転生者の勇者、ショー=ロークです!」

「転生者……? 残念だけど部分的な記憶喪失のようでね……さっぱり覚えていないわ」

「そ、そんな……で、ではご自分が魔族だということは?」

「勿論、それは覚えている。というか、このフードで覆った角やローブに隠された翼を見れば否が応でも認識するわ……」

「転生者の勇者、アザマたちとパーティーを組んでいたことは?」

「アザマ? 誰、それ?」

 俺は驚きながらアリンの表情をよく確認する。嘘をついているようには見えないし、何よりこの質問で俺に対して嘘をついたり、しらばっくれたりする意味が無い。部分的な記憶喪失だというのはどうやら本当のことであるらしい。俺は更に質問を変える。

「ど、どうしてここに?」

「こっちが聞きたいわ……気が付いたらこの島で、ぼんやりとした頭でフラフラとしていたら、単純な罠にかかってこの有様よ……」

 アリンはウンザリしたように呟く。俺は気になった点に突っ込む。

「島? ここがどこだか分かるのですか?」

「大体ね……メニークランズの南海に浮かぶ島でしょ。島名までは忘れちゃったけど、見て分かるようにゴブリンどもの縄張りよ」

「メニークランズ本土とは離れているのですか?」

「正確な距離までは分からないけど、結構離れていた記憶があるわね」

「そ、そうですか……」

 俺は落胆する。アリンが尋ねてくる。

「逆に聞きたいけど、なんでこんなに暗雲が立ち込めているの?」

「え? それも覚えていないのですか?」

「何? 私が関係しているの?」

 アリンがキョトンとした顔を浮かべる。

「魔王ザシンが復活したのです。まあ、それがこの暗雲とどこまで因果関係があるのかは私には分かりませんが……」

「なんですって⁉」

 急に大声を上げたアリンに俺は驚く。

「そ、そんなに驚くことですか? 魔王ザシンの復活は貴女たち魔族にとって悲願のようなものなのでしょう?」

「はっ、悲願? 冗談も休み休み言ってよ!」

 見張りのゴブリンがこちらに振り返ったので、俺はとにかくアリンを落ち着かせる。

「ちょ、ちょっと声のボリュームを落として……」

「……貴方がいきなりわけのわからないことを言うからでしょう?」

「わけのわからないことって……」

「だってそうじゃないの」

 俺は混乱しながら、自分の見てきたことをそのままアリンに伝える。

「と、とにかく聞いて下さい、私たちは魔王の復活を阻止するため、古代神殿へと向かいました。メニークランズの南端に位置する神殿です。そこで魔族の妨害に遭いました。魔族のプリンス、トレイルとその配下のモンスターが私たちの前に立ちはだかったのです」

「ああ、あいつ……自称プリンスね」

「自称だったのですか⁉」

「魔王の血縁は途絶えているはずだし……何を以ってプリンスだと思えるのかって話よ」

「そ、そうだったのですか……」

「で? そこでどうして私が絡んでくるのよ?」

「あ、ああ……私たちとともに魔王復活に向かった勇者アザマのパーティーに所属していた貴女が突如としてトレイル側に寝返ったのです」

「はあ⁉ 意味が分からないんだけど⁉」

「お、起こった出来事を正確に伝えているだけです……」

「あいつと行動をともにしていることがまずあり得ないんだけど……」

 アリンは首を傾げる。俺はやや間を置いて尋ねる。

「つまり……貴女とトレイルは志を同じくするものではないということですか?」

「ええ、全く真逆の考えよ。言ってみれば、あいつは魔王復活推進派で私は反対派ね」

「反対派なのですか! 何故に?」

「転生してからどれ位経ったかは知らないけど、大体このメニークランズという地方がどういう場所なのかは分かるでしょ?」

「ええ、多種族が概ね平和に共生していますね」

「そう……私たち魔族の大部分もそんなこの地方の在り方に共鳴し、この百年近くをかけて徐々に融和をはかってきたの」

「融和……」

「ところが、それを良しとしない魔族の一部が魔王ザシンの復活を画策してね……魔王ザシンは数百年前派手に暴れ回って、メニークランズを恐怖のどん底に陥れた張本人よ。そんな奴が復活なんてしたら、また魔族と他の種族の間で溝が深まってしまう……大体、平和が大いに乱れてしまう」

「つまり貴女は……?」

「その復活を阻止するべく動いていたはずなんだけどね……」

 アリンが再び首を傾げる。俺も考え込む。

「妙な話ですね……」

「……その転生者たちはどうなったの?」

「え? ああ、トレイルを後一歩まで追い詰めたのですが、残念ながら……」

 俺は黙って首を振る。

「そう、悪いことをしたわね……」

「話を戻しますが、貴女は……」

「アリンで良いわよ」

「あ、ああ……えっと、アリンはここ最近の記憶が無いということですね?」

「すっぽりと抜け落ちているような感じね」

「どうしてでしょうか?」

「それが分かったら貴方にあれこれと質問しないわよ」

「ですよね……」

 俺はため息をつく。

「きゃあああ!」

「「!」」

 女ゴブリンの悲鳴が聞こえてくる。見張りのゴブリンも慌ててその場から走る。

「な、なんだ⁉」

「このパニックぶり……モンスターでも襲ってきたのかしらね。ここのゴブリンはお世辞にも戦闘に長けた種族ではない……ちょうど良い、脱出のチャンスだわ……!」

 アリンが力を込め、自身をきつく縛っていた縄を引き千切って立ち上がる。

「だ、脱出って、もしかして逃げるのですか⁉」

「? それ以外に何があるのよ?」

「か、彼らを助けないと! 戦闘に不向きな種族なのでしょう⁉」

「なんでそんなことしないといけないの? 私たち、問答無用で囚われたのよ?」

「困っている者は助ける! それが勇者です!」

「!」

 俺は体をもぞもぞとさせながら、見得を切る。アリンが笑う。

「ご立派なことを言っているけど、その状態で何が出来るというの?」

「『理想の大樹』!」

「なっ⁉」

 俺は股間の部分に大樹を生やし、その勢いで縄を千切る。そしてアリンに頼む。

「魔王打倒の志は同じはず! ここはどうか協力してもらえませんか?」

「ず、随分とご立派なことで……」

「え?」

「な、なんでもないわよ! こうなったら行きがけのなんとやらよ! さっさとモンスターを倒すわよ!」

 俺とアリンは共同戦線を組むこととなった。
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