令和ちゃんと平成くん~新たな時代、創りあげます~

阿弥陀乃トンマージ

文字の大きさ
上 下
48 / 51
第一章

第12話(3) 雅な破壊工作

しおりを挟む
「来てくれたのね!」

 弥生が声を上げる。平安は微笑む。

「お姉さま方はどうぞご無理をなさらず……」

「ここは気鋭の私たちに任せて頂きますわ!」

「なにかまた引っかかる物言いね……」

 平安と国風の言葉に縄文の顔がやや引きつる。奈良もやや顔をしかめて呟く。

「大して年代も変わらないのに気鋭とは……」

「まるで私たちに勢いが感じられないとでも言いたげね?」

 天平も苦笑を浮かべる。平安は小首を傾げる。

「あら? 気遣ったつもりでしたのに……お気に障ったのならば偉うすいまへん」

「貴女心から謝っていないでしょう……」

 奈良が冷ややかな視線で平安を見つめる。平安は肩をすくめる。

「国風、どうやらお見通しみたいやわ。年の功というものもなかなか侮れまへんな……」

「なんですって?」

「聞き捨てならないわね……」

 平安の言葉に対し、弥生と縄文の顔つきも変わる。国風が呆れ気味にため息をつく。

「平安姉さま、余計なヘイトを溜めすぎですわ……」

「ちょっと待った……つまり私たちに対しては容赦なくディスっているということね?」

 天平が笑顔を浮かべながらもやや低い声で尋ねる。平安が笑う。

「いえいえ、誤解を招いたのなら申し訳ありまへん……もちろん、“かつての都”のお二方には所謂“リスペクト”の精神を抱いております……」

「かつての都?」

「はて……なにか間違っておりますか?」

 奈良の問いに平安はわざとらしく首を傾げる。天平が乾いた笑い声を上げる。

「ふふ……相変わらず虚勢を張るのは大したものね」

「虚勢かどうか……確かめてみますか?」

 天平に対し、国風が尋ねる。

「ああ~! なんだかよく分かりませんが、今はここで争っている場合ではありません!」

「「!」」

 令和が声を張り上げる。奈良や平安たちの視線が集中する。

「奈良さんと天平さんは大仏さまを召喚して、疲労が溜まっているようです。平安さんと国風さん、皆さんの代わりにお力を貸して下さい!」

「嫌どすわ、令和はん。もとよりそのつもりでした」

「今のはほんの挨拶代わりです」

「あ、挨拶って……傍から見たら一触即発の雰囲気でしたけど……」

 平安と国風の言葉に令和が困惑する。空が苛立ったように声を上げる。

「ちょ、ちょっと! こちらをまるで無視したみたいにならないでちょうだい!」

「みたいではなくて無視したんどす」

「案外察しの悪いお方ですわね」

 平安と国風が長い髪をかき上げながら答える。

「なっ⁉ くっ、まあいいわ、影を強くした、『空妖』が貴女たちを懲らしめてあげるから」

「空妖? よう分かりまへんが、やはり妖の類ですか……」

「人の形を留めていませんわね、獣かなにかのようです……」

 数体の空妖の前に平安と国風が並び立つ。令和が困惑気味に平安に問う。

「だ、大丈夫ですか?」

「なにか?」

「い、いえ、その装束では動きにくいのでは?」

「なんの少しくらい動きにくい方がかえって都合が良いんどす」

「! 舐めるのもいい加減にしなさい!」

 空が手を掲げると、一体の空妖が平安に迫る。

「せい!」

「!」

 平安が刀を振り、迫る空妖を退ける。

「そ、それは刀? 平安さんも剣の心得が?」

「多少ですが。この刀は『征夷大将軍(せいいたいしょうぐん)』である『坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)』はんが奥州の『蝦夷(えみし)』征討や鬼神退治に用いたとされる大刀『騒早(そはや)』どす……しかし、紙一重でかわされてしまいましたな。思った以上に素早いこと……」

「ふん、だからその重い装束では空妖を完全に捉えることなど不可能よ!」

「ふむ……ではどうすればよろしおすか?」

 平安は空に尋ねる。空は戸惑う。

「え……それを私に聞く?」

「是非ともご教授賜りたいどす」

「そ、そうね……その装束を脱げば良いんじゃないの?」

「却下」

「そ、即答⁉」

「この装束はいわばうちらにとっての“アイデンティティ”……簡単に脱ぐわけには参りません。なあ、国風?」

「ええ、全く問題外だわ。お話にならないお答えね」

 国風はやれやれといった風に首を振る。

「馬鹿にして! 空妖の餌食になりなさい!」

 空が再び手を掲げると、体勢を立て直した空妖が平安たちに突っ込む。平安が国風に囁く。

「国風……」

「ええ。『邸宅展開』!」

「⁉」

 国風が声を上げると、周囲一帯が住居空間となる。令和が周りを見まわして驚く。

「こ、これは⁉」

「国風文化の象徴、『寝殿造(しんでんづくり)』ですわ!」

「い、いや、ですわ!っておっしゃられても……」

「私たちにとっては慣れ親しんだ空間! 空妖とやら! 貴方たちはおしまいですわ!」

「た、たかが建物でしょう⁉」

 空が若干面喰いながらも言い返す。平安と国風が微笑みをたたえながら呟く。

「雅に……かつ優美に倒して差し上げましょう」

「……なおかつ華麗に」

「や、やれるものならやってみなさい! かかれ、空妖たち!」

 空が空妖たちに対して指図する。令和が戸惑う。

「だ、大丈夫でしょうか……」

「ここは素直にお手並み拝見と参りましょう」

「そうね。雅かつ優美かつ華麗な戦い方とやら……楽しみだわ」

 奈良と天平が見守る。

「ふふ……捕まえてみてごらんなさい♪」

「鬼さんこちら、手の鳴る方へ♪」

「!」

「『几帳(きちょう)』や『屏風(びょうぶ)』、さらに『御簾(みす)』などに隠れて、空妖たちを翻弄している!」

 令和が感嘆とする。

「家の中を走り回って……雅ってああいうことなのかしら?」

「絶対違うと思うわ……」

 首を傾げる縄文に弥生が答える。

「くっ、なにをやっているの⁉ なにも狭いところに馬鹿正直に突っ込まなくていいのよ! 南側に広がる庭に出なさい!」

 業を煮やした空の指示に従い、数体の空妖が庭に出る。平安が声を上げる。

「国風!」

「ええ、『袖ひちて むすびし水の こほれるを 春立つけふの 風やとくらむ』!」

「なっ⁉」

 国風が歌を詠むと、庭に広がる池の水が空妖たちにかかり凍ったかと思うと、風が吹き、氷を解かすととともに、空妖たちの体勢を崩す。令和が驚く。

「そ、それは紀貫之の歌! 『古今和歌集(こきんわかしゅう)』ですか⁉」

「ええ、天皇や上皇の命によって編纂された日本最初の勅撰和歌集よ!」

「和歌を具現化させるとは……」

「な、なんの、まだよ! 早く体勢を立て直しなさい!」

「そうはさせまへん!」

「⁉」

 平安が右手を掲げると、牛車数台が勢いよく突っ込んできて、空妖たちは邸宅の中に思い切り吹っ飛ばされる。空が驚愕する。

「なっ……」

「立場が逆転どすな……さて、国風、あれをやりますえ」

「ええ、よくってよ」

「えーい‼」

「「『後妻打(うわなりう)ち』‼」」

 平安と国風が声を揃えて高らかに叫ぶと、どこからともなく十数人の女性が現れて、邸宅を破壊し尽くす。邸宅の中にいた空妖たちも霧消する。空だけでなく令和も絶句する。

「ば、馬鹿な……」

「り、立派な邸宅が……」

「少々やり過ぎたやろか? ここまで破壊してしまうとは……」

「あくまで仮の邸宅ですから、お気になさらず」

「それもそうですな」

 国風の言葉に平安は笑う。令和が恐る恐る尋ねる。

「う、後妻打ちとは、前妻が予告をした上で後妻宅を襲うものだったと思いますが……」

「令和はんは物知りですな」

「こ、この場合は単なる破壊工作なのでは?」

「う~ん、細かいことはこの際いいんとちゃいます?」

「平安姉さまの言う通りですわ」

「ええ⁉」

 平安と国風のあっけらかんとした物言いに令和は困惑する。

「牛を突っ込ませたり、家を壊したり、一体どの辺が雅だったのかしらね……」

「分からないけど……空妖とやらは全て片付いたわ。結果オーライじゃないの」

「大人しそうでなかなかやるわね、彼女たち」

「彼女たちっていうか、あの現れた女たちは何者だったのよ……」

 平安たちの戦いぶりに奈良と天平、縄文と弥生は四者四様の反応を示す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鎌倉最後の日

もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

密会の森で

鶏林書笈
歴史・時代
王妃に従って木槿国に来た女官・朴尚宮。最愛の妻を亡くして寂しい日々を送る王弟・岐城君。 偶然の出会いから互いに惹かれあっていきます。

不屈の葵

ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む! これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。 幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。 本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。 家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。 今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。 家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。 笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。 戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。 愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目! 歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』 ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜

かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。 徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。 堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる…… 豊臣家に味方する者はいない。 西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。 しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。 全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。

拾われ子だって、姫なのです!

田古みゆう
歴史・時代
南蛮人、南蛮人って。わたくしはれっきとした倭人よ! お江戸の町で与力をしている井上正道と、部下の高山小十郎は、二人の赤子をそれぞれ引き取り、千代と太郎と名付け育てることに。 月日は流れ、二人の赤子はすくすくと成長した。見目麗しい姿と珍しい青眼を持つため、周囲からは奇異の眼で見られる。こそこそと噂をされるたび、千代は自分は一体何者なのだろうかと、自身の出自について悩んでいた。唯一同じ青眼を持つ太郎と悩みを分かち合おうにも、何かを知っていそうな太郎はあまり多くを語らない。それがまた千代を悶々とさせていた。 そんな千代を周囲の者は遠巻きに見ながらも、その麗しさに心奪われる者は多く、やがて年頃の千代にも縁談話が持ち上がる。 しかし、当の千代はそんなことには興味がなく。寄ってくる男を、口八丁手八丁で退けてばかり。 果たして勝気な姫様の心を射止める者が、このお江戸にいるのかっ!? 痛快求婚譚、これよりはじまりはじまり〜♪

処理中です...