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第一章
第10話(1) あなたたちがわたしにくれたもの
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10
「き、筋肉痛が……」
令和は体を抑える。平成が笑う。
「なんだなんだ、若いのにだらしないな」
「そうは言われましてもね……予期せぬ運動を強いられたのですからそうなりますよ」
「トレーニングが足りないんじゃないか?」
平成は力こぶを作ってみせる。
「……平成さんはなんともないのですか?」
「鍛え方が違うんだよ!」
令和は冷ややかな視線で見つめながら呟く。
「……年数を重ねておられますし、数日後に筋肉痛が来るパターンじゃないですか?」
「おいおい、俺が老いているとでも言いたいのか?」
「はい」
「はいって! 即答かよ!」
「それにしても……」
「うん?」
「あの……IKUZOでしたっけ?」
「IKUSAな、なんで吉幾三を模したアスレチックステージを造らないといけないんだ」
「よくもあのような大がかりなアスレチックステージを造ることが出来ましたね?」
「ああ、大変だったぜ」
「予算はどこから出たのです?」
「プライベートで宝くじが当たったから、そこからだよ」
「も、もったいない使い方じゃないですか⁉」
「皆に源平合戦を身近に感じてもらいたかったからな……」
平成は遠い目をする。
「ああいった意味で身近に感じなくて良いと思いますが……」
「学ぶ機会を設けるのは重要なことじゃないか?」
「それはそうですが……」
「だろう? だから後悔は全くしていない」
「……」
「……嘘。ちょっと後悔している」
「やっぱり……」
「牛や鳥半端ないって、あいつら半端ないって、餌めっちゃ食べるもん、そんなん出来ひんやん普通……」
「なんで関西弁……妙なところを再現しなくても良かったのに……」
うなだれる平成に対して令和が憐れみの視線を向ける。
「……そういや令和ちゃん?」
平成はバッと顔を上げる。
「はい?」
「平くんから何かもらっていたな?」
「ええ……」
「なんだ? ヘイケガニか?」
「食用でないものを頂いても、飼育環境がありませんよ……」
「じゃあ何をもらったんだ?」
「美術品をいくつか……例えばこういう壺など……」
令和はデスクの上に白磁の壺を置く。平成は自らの席を立って令和の席の方へ回り込むと、したり顔で壺の頭を爪弾く。令和はやや面食らう。
「なっ……」
「いい音色だろ?」
「はあ……」
「北宋だな」
「いえ、これは南宋です」
「は?」
「……平氏政権が積極的に『日宋貿易(にっそうぼうえき)』を行っていたころ、北宋は大陸北部から金に追われ、大陸南部へと遷り、南宋として再興したのです……」
「と、とにかくこれはいいものだ! キシリア様に届けてくれよ!」
「どなたですかその方は……」
令和は困惑した表情になる。平成は話題を変える。
「……そういえば平清盛は貿易に本格的に取り組んでいたんだっけ?」
「ええ……瀬戸内海の海上権を掌握すると、摂津国(現在の大阪府北中部の大半と兵庫県の南東部)の福原にある『大輪田泊(おおわだのとまり)』を拡張し、宋の船を直接そこまで来港させました」
「ほお……」
「清盛は『福原京』を造営し、1180年に半ば強引に遷都を強行します」
「へえ……」
「日宋貿易を軸とした海洋国家樹立を目指していたのではないかと言われています。もっとも各地で源氏の反抗が目立った為、この計画は頓挫しますが、海上の安全を祈願する為、『厳島神社』の社殿を造営するなど、力を注いでいたようですね……って、聞いています?」
「そうなんだ、宋だけに」
「聞いてないですね……」
令和は呆れながら視線を逸らす。
「冗談だよ! 聞いていたって! そ、そういえば、源くんからも何かもらっていたよね?」
「ああ……これですね」
令和はデスクの上に大きな袋を置く。
「何これ?」
「……中身をご覧下さい」
「どれどれ……これは⁉」
「奥州(東北地方)平泉からもたらされた『砂金』です」
「袋一杯に金が……」
平成は絶句する。
「当時、奥州では豊富に産出したと言います。『マルコ・ポーロ』の『東方見聞録』に登場する『黄金の国ジパング』のイメージの基となったとも言われています」
「な、なんでこれを源くんが?」
「奥州の地で四代百年の長きに渡って栄えた『奥州藤原氏』は『後三年の役』で源義家の援助を受けて、家中の体制を安定させることが出来ました。若き頃の源義経をその庇護下に置いたことも有名です」
「なるほど、そういう結びつきからね……」
平成は納得する。
「当初は一頭の駿馬を下さるという話でしたが……」
「奥州産の駿馬……『セントライト』か⁉」
「それはサラブレッドでしょう。あの時期にはまだいませんよ……」
「そうか、受け取らなかったのか?」
「謹んで辞退をしました。頂いても正直困りますので……」
「なんだよ、リアル『ウマ娘』になれたのに……」
「あれは馬を美少女化したものでしょう。意味合いが違います」
「しかし、随分と気に入られたものだな。両者から贈り物をもらうなんて……」
「タダでもらったわけではありません」
「え?」
「紅白帽と交換させてもらいました」
「はあ⁉」
「何やらリバーシブルなところがお気に召したようで……」
「いや、用意したのは俺だろう⁉ なんで俺には何も無しなんだ⁉」
「……日頃の行いではないでしょうか?」
「そ、そんな……」
平成がガックリと膝をつく。平成と令和の端末が鳴る。令和がそれを取る。
「はい。令和です……ええっ! 旧石器さんが会議室で暴れている⁉」
令和は驚きに目を丸くする。
「き、筋肉痛が……」
令和は体を抑える。平成が笑う。
「なんだなんだ、若いのにだらしないな」
「そうは言われましてもね……予期せぬ運動を強いられたのですからそうなりますよ」
「トレーニングが足りないんじゃないか?」
平成は力こぶを作ってみせる。
「……平成さんはなんともないのですか?」
「鍛え方が違うんだよ!」
令和は冷ややかな視線で見つめながら呟く。
「……年数を重ねておられますし、数日後に筋肉痛が来るパターンじゃないですか?」
「おいおい、俺が老いているとでも言いたいのか?」
「はい」
「はいって! 即答かよ!」
「それにしても……」
「うん?」
「あの……IKUZOでしたっけ?」
「IKUSAな、なんで吉幾三を模したアスレチックステージを造らないといけないんだ」
「よくもあのような大がかりなアスレチックステージを造ることが出来ましたね?」
「ああ、大変だったぜ」
「予算はどこから出たのです?」
「プライベートで宝くじが当たったから、そこからだよ」
「も、もったいない使い方じゃないですか⁉」
「皆に源平合戦を身近に感じてもらいたかったからな……」
平成は遠い目をする。
「ああいった意味で身近に感じなくて良いと思いますが……」
「学ぶ機会を設けるのは重要なことじゃないか?」
「それはそうですが……」
「だろう? だから後悔は全くしていない」
「……」
「……嘘。ちょっと後悔している」
「やっぱり……」
「牛や鳥半端ないって、あいつら半端ないって、餌めっちゃ食べるもん、そんなん出来ひんやん普通……」
「なんで関西弁……妙なところを再現しなくても良かったのに……」
うなだれる平成に対して令和が憐れみの視線を向ける。
「……そういや令和ちゃん?」
平成はバッと顔を上げる。
「はい?」
「平くんから何かもらっていたな?」
「ええ……」
「なんだ? ヘイケガニか?」
「食用でないものを頂いても、飼育環境がありませんよ……」
「じゃあ何をもらったんだ?」
「美術品をいくつか……例えばこういう壺など……」
令和はデスクの上に白磁の壺を置く。平成は自らの席を立って令和の席の方へ回り込むと、したり顔で壺の頭を爪弾く。令和はやや面食らう。
「なっ……」
「いい音色だろ?」
「はあ……」
「北宋だな」
「いえ、これは南宋です」
「は?」
「……平氏政権が積極的に『日宋貿易(にっそうぼうえき)』を行っていたころ、北宋は大陸北部から金に追われ、大陸南部へと遷り、南宋として再興したのです……」
「と、とにかくこれはいいものだ! キシリア様に届けてくれよ!」
「どなたですかその方は……」
令和は困惑した表情になる。平成は話題を変える。
「……そういえば平清盛は貿易に本格的に取り組んでいたんだっけ?」
「ええ……瀬戸内海の海上権を掌握すると、摂津国(現在の大阪府北中部の大半と兵庫県の南東部)の福原にある『大輪田泊(おおわだのとまり)』を拡張し、宋の船を直接そこまで来港させました」
「ほお……」
「清盛は『福原京』を造営し、1180年に半ば強引に遷都を強行します」
「へえ……」
「日宋貿易を軸とした海洋国家樹立を目指していたのではないかと言われています。もっとも各地で源氏の反抗が目立った為、この計画は頓挫しますが、海上の安全を祈願する為、『厳島神社』の社殿を造営するなど、力を注いでいたようですね……って、聞いています?」
「そうなんだ、宋だけに」
「聞いてないですね……」
令和は呆れながら視線を逸らす。
「冗談だよ! 聞いていたって! そ、そういえば、源くんからも何かもらっていたよね?」
「ああ……これですね」
令和はデスクの上に大きな袋を置く。
「何これ?」
「……中身をご覧下さい」
「どれどれ……これは⁉」
「奥州(東北地方)平泉からもたらされた『砂金』です」
「袋一杯に金が……」
平成は絶句する。
「当時、奥州では豊富に産出したと言います。『マルコ・ポーロ』の『東方見聞録』に登場する『黄金の国ジパング』のイメージの基となったとも言われています」
「な、なんでこれを源くんが?」
「奥州の地で四代百年の長きに渡って栄えた『奥州藤原氏』は『後三年の役』で源義家の援助を受けて、家中の体制を安定させることが出来ました。若き頃の源義経をその庇護下に置いたことも有名です」
「なるほど、そういう結びつきからね……」
平成は納得する。
「当初は一頭の駿馬を下さるという話でしたが……」
「奥州産の駿馬……『セントライト』か⁉」
「それはサラブレッドでしょう。あの時期にはまだいませんよ……」
「そうか、受け取らなかったのか?」
「謹んで辞退をしました。頂いても正直困りますので……」
「なんだよ、リアル『ウマ娘』になれたのに……」
「あれは馬を美少女化したものでしょう。意味合いが違います」
「しかし、随分と気に入られたものだな。両者から贈り物をもらうなんて……」
「タダでもらったわけではありません」
「え?」
「紅白帽と交換させてもらいました」
「はあ⁉」
「何やらリバーシブルなところがお気に召したようで……」
「いや、用意したのは俺だろう⁉ なんで俺には何も無しなんだ⁉」
「……日頃の行いではないでしょうか?」
「そ、そんな……」
平成がガックリと膝をつく。平成と令和の端末が鳴る。令和がそれを取る。
「はい。令和です……ええっ! 旧石器さんが会議室で暴れている⁉」
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