令和ちゃんと平成くん~新たな時代、創りあげます~

阿弥陀乃トンマージ

文字の大きさ
33 / 51
第一章

第8話(4) ギザギザコインの子守唄

しおりを挟む
「ライバル関係と言えば、むしろあの二人の方じゃないのかしら?」

「え?」

「まあライバルと言うと語弊があるかもしれないけど……」

「どなたたちのことをおっしゃっているのですか?」

 令和が問う。国風が答える。

「804年に同じタイミングで唐に渡った……」

「ああ……」

「それは俺も知っているぜ」

「珍しいですね」

「『ヒカキンとはじめしゃちょー』だろ?」

「『空海(くうかい)と最澄(さいちょう)』です……」

 令和が頭を抑える。平成が首を傾げる。

「あれ? そうだっけ?」

「そうですよ……なんでユーチューバーが遣唐使になっているのですか……」

「『遣唐使船に乗ってみた』って動画上げてなかったっけ?」

「どんな動画ですか……すぐには帰ってこれませんよ」

「そうなの?」

「ええ、最澄は805年、空海は806年に帰国。最澄は『比叡山延暦寺(ひえいざんえんりゃくじ)』を拠点に『天台宗(てんだいしゅう)』を、空海は『高野山金剛峰寺(こうやさんこんごうぶじ)』を拠点に『真言宗(しんごんしゅう)』を、それぞれ開宗しました」

「へえ……」

 令和の説明に平成は頷く。平安が補足する。

「空海……『弘法大師(こうぼうだいし)』さまの学んできた『密教(みっきょう)』が大層流行しましたどすなあ」

「バズっちゃったか……」

「バ、バズ……?」

「空海さんもボイパとか得意だったのかな?」

「ボイパ……?」

 国風が首を傾げる。令和がため息まじりに呟く。

「平成さんの言うことは気にしないで下さい」

「それもそうね」

「まあ元々あまり気には留めてまへんけど」

「酷くない?」

 国風と平安の言葉に平成は悲しそうな顔を見せる。令和が話題を変える。

「ライバルと言うと……この頃は藤原氏の他氏排斥の動きもいよいよ活発化してきますね」

「承和の変、応天門の変を経て、887年から888年にかけて『阿衡(あこう)の紛議(ふんぎ)』が起こりましたな」

 平安が頷く。平成が令和に尋ねる。

「どんなことだっけ?」

「簡単に言えば、『宇多天皇(うだてんのう)』からの命令に容易に従わない姿勢を見せて、藤原氏の権力を誇示したのです」

「へえ、それはまたおそれ多いことだな……」

「その後、藤原氏の専横に反感を抱いた宇多天皇は『菅原道真(すがわらのみちざね)』を抜擢します」

「おおっ! 学問の神様だな!」

「ええ、ですがその道真も901年の『昌泰(しょうたい)の変』で失脚し、『大宰府(だざいふ)』に左遷されます」

「そんな……」

「しばらく間が空きますが、969年に『安和(あんな)の変』で藤原氏はライバルと言える他氏を完全に排斥することに成功します」

「おお、これで怖いものなしだな」

「ですがその後は、藤原氏同士での権力争いに移行します」

「争い好きだな!」

 平成が思わず声を上げる。平安が目を細める。

「摂関の地位を巡っての争いどしたなあ……」

「『鉄拳』? 確かに独特のポジションを築いてはいるが……」

「誰がピン芸人さんの地位を巡って争うのですか……」

 令和がため息をつく。国風が代わって説明する。

「天皇の政務を補佐する役職、『摂政(せっしょう)』と『関白(かんぱく)』略して『摂関(せっかん)』……10世紀後半から11世紀後半にかけて、その役職を藤原氏の方々が独占されましたわ……」

「約100年も……」

「まさにこの世の春を謳歌されておりましたなあ……ねえ、国風?」

「この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば」

「1018年に『藤原道長(ふじわらのみちなが)』が詠んだ『望月の歌』ですね」

「『友達の唄』?」

「それは『ゆず』の曲でしょう……そのようなポップなものではありません」

「ではどのようなものなんだ?」

「この世界は自分のためにあるようなものだ。満月のように欠けたところがない……現代語にざっと訳すとこんな感じですかね」

「ご、傲慢だな……」

 令和の説明に平成が戸惑う。

「それだけ比類なき権勢を手中に収めたということでしょう……これを見て下さい」

 令和は10円硬貨を取り出して平成に渡す。

「うん、タネも仕掛けもないな」

「手品をするわけではありません……裏面をご覧下さい」

「裏面?」

「そこに描かれているのが、国宝の『平等院鳳凰堂(びょうどういんほうおうどう)』……1052年に道長の子、『藤原頼通(ふじわらのよりみち)』が建立した寺院です。厳密に言うと、道長の別荘を作り替えたものですが」

「こ、これを……⁉」

「権力の誇示とは違う意味合いで建立したものですが、それだけの建築物を残すことが出来たということで、当時の藤原氏の権勢ぶりを伺いしれるものでしょう」

「違う意味合いとは?」

「当時はお釈迦さまの没後から約千年が経過し、仏教の教えが廃れて滅び、乱世がやってくるといういわゆる『末法思想(まっぽうしそう)』が流行していました」

「皆さん揃って現世の不安から逃れて来世での幸福を願ったものどすなあ……」

 令和の説明に平安がうんうんと頷く。

「『極楽往生(ごくらくおうじょう)』を望んだものよね……」

 国風がふむふむと頷く。平成が呟く。

「『ノストラダムスの大予言』みたいなものが定期的に流行るんだな」

「少し違うような気もしますが……」

 令和が苦笑する。国風が10円硬貨を手に取ってまじまじと見つめる。

「現代にも伝わっているとは何だか誇らしいことね……」

「まあ、見事な建物どすからなあ」

 国風の呟きに平安が微笑みを浮かべる。国風が令和たちに尋ねる。

「さぞかし、この銭貨は価値のあるものなのでしょう?」

「え? えっと……」

「側面がギザギザしているもの、『ギザ10』は通常の何倍もの価格で取引されています」

(へ、平成さん、珍しく良いことを言う!)

 令和はほっと胸をなで下ろす。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...