令和ちゃんと平成くん~新たな時代、創りあげます~

阿弥陀乃トンマージ

文字の大きさ
上 下
30 / 51
第一章

第8話(1) 千年の京、平安さん

しおりを挟む
                  8

「……課長はなんと言っていましたか?」

 令和が戻ってきた平成に尋ねる。

「なにが?」

「なにがって、鹿さんの暴れたことについてですよ」

 平成は肩をすくめる。

「ああ……それの原因についてはこちらで調べるってさ」

「こちらってどちらですか?」

「さあね、特殊な調査チームでもいるんじゃないのか?」

「適当ですね……」

「その辺りについてはあまり勝手な行動はしない方がいい」

「そうは言いましても、気になりますよ」

「気持ちは分かるが、こちらはこちらの予定を進めろとのことだ」

「……挨拶まわりですか」

 令和がうんざりしたように呟く。

「それも大事なことだ」

「分かってはいるつもりですが……」

「分かっているなら結構、報告書は出したな?」

「ええ、それはもちろん」

「俺の大事なところが道鏡なみになったっていうのはぼやかしたかい?」

「……そんなことを報告するわけないでしょう」

「それならいいんだ」

 令和がため息をつくと、あることを思い出す。

「そういえば、なにやら平成さん宛に荷物が届いていましたよ」

「え?」

「そこのテーブルの上にとりあえず置いてもらいましたが……段ボールにはなにか文字が書かれていますね」

「ああ、『Shosoin』な」

「正倉院⁉ そんな『Amazon』みたいな……」

「購入すると、宝物のレプリカを送ってくれるんだ」

「そ、そんなシステムが……なにを頼んだのですか?」

「琵琶と『木画紫檀基局(もくがしたんのききょく)』だよ」

「これは碁盤ですか? 何の為に?」

「これで碁を打ったら、それだけで強そうに見えないかなって……」

「形から入り過ぎでしょう……」

「令和ちゃんも何か貰っていなかったか?」

「和同開珎で購入させて頂きましたよ、木簡を」

「そんなの買ってどうする気だよ?」

「文字を書くと、願いが叶うという点に興味を持ちました」

「あの時期……735~737年は天然痘が流行して、藤原不比等の四人の男子で、時の権力者たちである『藤原四子』もあっけなく亡くなってしまったんだよな」

 平成の言葉に令和は頷く。

「ええ、一説によると、その天然痘によって、当時の日本の総人口の25~30%、100~150万人が亡くなってしまったそうです」

「それは大変なことだな……」

「疫病の流行だけでなく、大きな政変や権力闘争が相次ぎ、8世紀前半の日本はかなり不安定な状況でした……時の天皇、『聖武天皇(しょうむてんのう)』は740年から4年半で遷都を5回繰り返します」

「5回⁉ そんなことをしている場合かよ……自分自身が不安定じゃねえか」

 平成が呆れた顔になる。令和は静かに呟く。

「そんな中でも聖武天皇は一つの考えに至ります……仏教によって国家の安定を図ろうと」

「御仏の教えか」

「はい、いわゆる『鎮護国家思想(ちんごこっかしそう)』です。大仏建立もそうした考えの一環です」

「鎮護……俺みたいにあれを大きくするのに通じるな」

「通じません」

「冗談だよ」

「小学生でも言わないような冗談はやめてください」

 令和は心底呆れた声で呟く。平成は謝る。

「悪かったよ。それで、令和ちゃんもそういう不思議な力にすがりたいと……」

「そうですね、色々と事情がありまして……」

「令和ちゃんも大変だからな」

「先輩方に比べれば……まあ比べるものでもないですが……」

「天平さんみたいに木簡を上手く使えるとは限らないぜ?」

「そこは修練を重ねるしかありませんね」

「弥生ちゃんからもらった勾玉みたいになりそうだけどな……」

「あちらはもう少しでコツを掴めそうな気がするのです」

「まあいいや、そろそろ準備は出来たな」

「はい」

「それじゃあ行くぞ」

 平成と令和は部屋を出る。

「これは……」

 令和が周りを見回す。平成が笑う。

「見事な街並みだろう?」

「都市の全体が四角形かつ左右対称で、街路が碁盤の目状に整然と直交するように設けられています。ここはひょっとして……」

「千年王城、『平安京(へいあんきょう)』だ」

「ここが平安京……」

「794年にここに遷都し、そこから約1100年の長きに渡って、日本の首都であり続けた」

「ふむ……平城京と似ている部分がありますね」

「平城京同様に唐の長安をモデルにしたからな」

「この中央を南北に走る朱雀大路も大きいですね……」

「ああ、道幅約84mだ」

「そんなにですか」

「まあ、そんなわけで歩くのも一苦労だ。ヘイ!『牛車(ぎっしゃ)!』」

 平成が片手を挙げて牛車を停めようとする。令和が驚く。

「そ、そんなタクシー感覚で⁉」

「……停まらないな」

「それはそうでしょう、上流階級の方しか利用出来なかったと聞いていますよ」

「ケチ臭いこと言うなよ!」

「私に言われても!」

「……往来の真ん中でそないな大声で話して……はしなたないどすえ」

「⁉」

 平成たちが振り向くと一台の大きな牛車が停まっていた。その牛車は屋形の表面を絹の色糸で覆い、金銅のか文を所々に飾っている。屋形の簾がゆっくりと上がり、雅やかな装束に身を包み、黒く長い髪をなびかせた女性が顔を覗かせる。

「平成はん、お迎えにあがりました」

「あ、これはわざわざすみません……」

「平成はんは大層な大物ですから……動きものんびりとしてはる……」

「大物ですか、いやあ~よく言われます!」

「皮肉を言われているような……こちらは?」

「ああ、時管局古代課の……」

「『平安(へいあん)』です、どうぞよろしゅう……」

 平安と名乗った女性は優雅に頭を下げる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

名残雪に虹を待つ

小林一咲
歴史・時代
「虹は一瞬の美しさとともに消えゆくもの、名残雪は過去の余韻を残しながらもいずれ溶けていくもの」 雪の帳が静かに降り、時代の終わりを告げる。 信州松本藩の老侍・片桐早苗衛門は、幕府の影が薄れゆく中、江戸の喧騒を背に故郷へと踵を返した。 変わりゆく町の姿に、武士の魂が風に溶けるのを聴く。松本の雪深い里にたどり着けば、そこには未亡人となったかつての許嫁、お篠が、過ぎし日の幻のように佇んでいた。 二人は雪の丘に記憶を辿る。幼き日に虹を待ち、夢を語ったあの場所で、お篠の声が静かに響く——「まだあの虹を探しているのか」。早苗衛門は答えを飲み込み、過去と現在が雪片のように交錯する中で、自らの影を見失う。 町では新政府の風が吹き荒れ、藩士たちの誇りが軋む。早苗衛門は若者たちの剣音に耳を傾け、最後の役目を模索する。 やがて、幕府残党狩りの刃が早苗衛門を追い詰める。お篠の庇う手を振り切り、彼は名残雪の丘へ向かう——虹を待ったあの場所へ。 雪がやみ、空に淡い光が差し込むとき、追っ手の足音が近づく。 早苗衛門は剣を手に微笑み、お篠は遠くで呟く——「あなたは、まだ虹を待っていたのですね」 名残雪の中に虹がかすかに輝き、侍の魂は静かに最後の舞を舞った。

帝国夜襲艦隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1921年。すべての始まりはこの会議だった。伏見宮博恭王軍事参議官が将来の日本海軍は夜襲を基本戦術とすべきであるという結論を出したのだ。ここを起点に日本海軍は徐々に変革していく…。 今回もいつものようにこんなことがあれば良いなぁと思いながら書いています。皆さまに楽しくお読みいただければ幸いです!

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜

かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。 徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。 堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる…… 豊臣家に味方する者はいない。 西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。 しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。 全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

【第一章完】からくり始末記~零号と拾参号からの聞書~

阿弥陀乃トンマージ
歴史・時代
 江戸の世に入って、しばらくが経った頃、とある老中のもとに、若い女子が呼び寄せられた。訝しげに見つめる老中だったが、その女子は高い実力を示す。それを目の当たりにした老中は女子に、日本各地に点在している、忌まわしきものの破壊工作を命じる。『藤花』という女子はそれを了承した。  出発の日の早朝、藤花の前に不思議な雰囲気の長身の男が立っていた。杖と盾しか持っていない男の名は『楽土』。自らが役目をこなせるかどうかの監視役かなにかであろうと思った藤花は、あえて楽土が同行することを許す。  藤花と楽土は互いの挨拶もそこそこに、江戸の町を出立する。

源次物語〜未来を生きる君へ〜

OURSKY
歴史・時代
元特攻隊員の主人公が最後に見つけた戦争を繰り返さないために大切な事……「涙なしでは読めない」「後世に伝えたい」との感想を頂いた、戦争を調べる中で見つけた奇跡から生まれた未来への願いと希望の物語……この物語の主人公は『最後の日記』の小説の追憶編に出てくる高田さん。 昔、私にある誕生日プレゼントをくれたおじいさんである高田さんとの出会いをきっかけに、大変な時代を懸命に生きた様々な方や縁のある場所の歴史を調べる中で見つけた『最後の日記』との不思議な共通点…… 様々な奇跡を元に生まれた、戦時中を必死に明るく生きた元特攻隊員達の恋や友情や家族への想いを込めた青春物語 ☆カクヨムより毎日転載予定☆ ※歴史的出来事は公平な資料の史実を元に書いていて、歴史上の人物や実際にある映画や歌などの題名も出てきますが、名前の一部を敢えて変えているものもあります(歌詞は著作権切れのみ掲載)

処理中です...