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第一章

第5話(4) 進撃の埴輪

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「こ、これは……⁉」

 住居の外に出て令和が改めて驚く。人型と馬型の埴輪が複数巨大化し、集落の周辺で暴れ回っていたからである。古墳が報告に来た男に尋ねる。

「ど、どういう状況やねん⁉」

「わ、分からない! 突然埴輪が大きくなって……」

「な、なんということや……このままだと集落に危険が及ぶ! なんとか倒さんと!」

「いやいや! 人も馬もかなりの大きさだぜ! 10mくらいあるんじゃねえか⁉」

「埴輪というのは大体大きいものでも1mくらいだったと聞いていますが……つまり十倍以上に巨大化したということですね」

「どうしてだ⁉」

「そこまでは分かりませんが……」

 平成の問いに令和が首を傾げる。

「原因究明は後や! とにかく迎撃や!」

「古墳さん⁉」

 古墳が馬に颯爽と跨って、巨大埴輪の群れに向かう。平成が叫ぶ。

「危ない! 踏み潰されちまうぞ!」

「その前に駆逐してやるで!」

「!」

「おっと! そら!」

 古墳が馬を巧みに操り、踏み潰そうとしてくる埴輪の足を次々とかわす。平成が感嘆する。

「す、すげえ!」

「しかし、あれでは防戦一方です!」

「距離というか高さを克服できれば! 令和もん! 『立体機動装置』とか無いのかよ⁉」

「ネコ型ロボットみたいに呼ばれても、色んな意味で無いです!」

「……『讃(さん)・珍(ちん)・斉(せい)・興(こう)・武(ぶ)』!」

 馬上で古墳が叫ぶ。

「な、なんだ⁉ 『臨・兵・闘・者~』みたいなこと唱えたぞ、令和ちゃん⁉」

「あの名は『倭(わ)の五王(ごおう)』! 中国大陸の歴史書にその名を残す5世紀頃の大王たち!」

「おおっ! その大王たちの力を借りるってわけか!」

「……」

「あ、あれ? どうした、古墳さん?」

「言ってみただけや! なんとなく雰囲気出たやろ!」

「雰囲気重視⁉」

 古墳の言葉に平成が驚く。

「ふざけている場合ではありませんよ! そういうのは平成さんで間に合っています!」

「おふざけ担当かよ⁉」

 令和の声に平成が戸惑う。

「距離があるならこれや!」

 古墳が筒型のものを取り出す。平成が尋ねる。

「そ、それは⁉」

「『円筒埴輪(えんとうはにわ)』や! 埴輪の中でも歴史が古いで!」

「そ、それをどうするつもりですか⁉」

 令和が問う。古墳が答える。

「こうするんや! 『葬送』!」

「⁉」

 古墳は円筒の口を巨大埴輪に向け、円筒の両側面をポンと叩く。すると衝撃波が放たれ、巨大化した埴輪のほとんどが破壊される。古墳が胸を張る。

「どうや、見たか!」

「でんじろう先生の段ボールを使った『空気砲』みたいなもんか……」

「た、確かに葬送儀礼に用いられたと考えられていますが……あのような使い方が……!」

 令和が視線をやると、残った五体の人型埴輪が合体して、五倍の大きさになる。

「が、合体だと⁉ そんなのありかよ⁉」

「な、なんて大きさ……50mはあります!」

「ちっ! 『葬送』!」

「!」

「くっ、少し体勢を崩すだけに留まった!」

「ど、どうするんだ⁉ 古墳さん!」

 平成が古墳に尋ねる。古墳はふっと笑う。

「なんの! まだ手はある! 『高層化』!」

「ええっ⁉」

 平成が驚く。長く大きな階段が出現したからである。令和が困惑気味に声を上げる。

「た、確かにこの時期の『出雲大社(いずもたいしゃ)』社殿は48mの高さを誇る高層建築だったそうですが!」

「平成、馬を貸すで! わは足元を狙うから、頭を狙え! それとこれを!」

 古墳は剣状のものを渡す。それは左右に段違いに三本ずつ計六本の枝刃をもっている。

「こ、このヘンテコなものは……剣?」

「せや! 友好国の朝鮮半島の百済(くだら)からもろうた『七支刀(しちしとう)』や! レアアイテムやで!」

「レアアイテム! 俄然燃えてきたぜ!」

 馬に跨った平成は凄まじい勢いで階段を駆け上がり、階段から埴輪に飛び掛かる。

「!」

「喰らえ! 『セブンフォークス』!」

「⁉」

 平成の振るった刀の攻撃を喰らい、巨大埴輪は崩れ落ちる。平成は階段に着地する。

「どうだ! 令和ちゃん!」

「どうだと言われても……セブンフォークス、七つの分かれ道……逆にダサいですね」

「ええっ⁉ 酷くない⁉」

「率直な感想を述べたまでです……むっ⁉」

 地面が揺れたかと思うと、今度は巨大な家型の埴輪が現れた。平成が驚きの声を上げる。

「い、家型の埴輪⁉ あんなのまであんのかよ!」

「『形象埴輪(けいしょうはにわ)』の一種や! 家型は古墳の墳頂の中心に置かれる埴輪やで!」

「ど、どうやって戦えば?」

「分からん!」

「わ、分からんって……」

 古墳の答えに平成は戸惑う。令和が前に進み出る。

「先手必勝です!」

「れ、令和ちゃん、危険だぞ!」

「弥生さんからもらったこれを使います!」

 令和は勾玉を高らかに掲げる。勾玉が黄色く光る。平成が目を丸くする。

「黄色く光った⁉」

「⁉」

 凄まじい雷が落ち、それを受けた巨大な家型埴輪は粉々に砕け散った。平成が叫ぶ。

「や、やった!」

「気象を操ることが出来る勾玉? 使い方をもっと習熟しないと大変ね、これは……」

 令和が勾玉を見つめながら呟く。古墳が笑う。

「なかなか派手な戦い方をしよるな……ん?」

 古墳は集落から少し離れたところに、自らと似たような恰好だが、色は髪の毛を含め、真白い男性が立っていることに気付く。令和と平成もそれに気付く。

「へ、平成さん、あれは……?」

「あの雰囲気……あいつも時代か?」

「……」

「! 消えた……誰なのでしょうか? ひょっとして埴輪の巨大化はあの方の仕業?」

「さあな……」

 落雷の後の煙が立ち込める中、令和と平成は首を傾げる。
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