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第一章
第4話(3) 銅鐸で忖度
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「どうかしたの?」
弥生が問う。令和は苦笑する。
「い、いえ……」
「親父の野郎、まだ好景気の頃のことが忘れられないのか? ねずみ取り器の在庫千個も抱えてどうすんだよ……」
「へ、平成さん……」
「いや、悪い……」
屈んでいた平成が立ち上がる。弥生があらためて声をかける。
「アタシの家はこっちだから、どうぞ」
弥生たちは高床の建物が並ぶ辺りに着く。弥生が案内する。
「お邪魔します」
「お邪魔しますよっと」
「倉庫だけでなく、住居としても使うのですね」
「そうね、後は祭祀や儀式用ね」
「祭祀や儀式用?」
「あの一際大きな建物を見たでしょう? あれは祭殿よ」
「佐賀県の吉野ヶ里遺跡(よしのがりいせき)にも同じような巨大な建物があったと聞いたことがあります」
「そう、祭祀は切っても切り離せないものだからね。まあ、適当に座ってちょうだい」
「……炉はないんですね」
令和が建物を見回して呟く。
「ああ、この集落は自分の住処では料理はしないの。近くに煮炊きを行うための共用の建物があるから、皆そこを使っているわ」
「へえ……」
「ちょっと待っていなさい。食事を用意してくるわ」
「ああ、手伝うよ。味見を」
「味見だけじゃなくてちゃんと手伝いなさいよ」
弥生と平成は建物から出る。しばらく間があいて、弥生と平成が器を両手に戻ってくる。令和が声を上げる。
「お米……雑炊ですか!」
「他は肉と魚と豆類ね」
「魚は容器に高い脚を付けた高坏(たかつき)に盛り、他は木の皿やお椀ですね。土器と木器の併用……」
「で? 手づかみで食うんだっけ?」
「……スプーンとフォークあるわよ。火傷したいのなら勝手にどうぞ」
弥生は少々ムッとしながら、木製のスプーンとフォークを平成に差し出す。
「冗談だよ、いただきます」
平成はスプーンを使って雑炊を勢いよくかきこむ。令和がスプーンを見つめながら呟く。
「箸が主流になったのは奈良時代からでしたね……いただきます」
「どうかしら?」
「……うん! 美味しいです! お米がしっかり炊けています!」
「アタシたちの土器は薄くて丈夫なつくりなのよ……熱が早く伝わるようになっているから米を炊くのに適しているわ……」
弥生が令和の反応に満足そうに頷く。平成が話す。
「縄文さんたちの土器は熱が伝わりにくいが、冷めにくいので煮物に向いている……どちらにも良いところがあると思うぜ」
「……別に否定はしていないわよ」
「それなら良いんだが」
「それにしても……自分で作ったお米はやっぱり美味しいわね!」
「ええっ⁉ 弥生さん自ら稲作を⁉」
令和が驚く。弥生が意外そうな顔つきになる。
「そんなに驚くこと?」
「い、いえ、こういう建物にお住まいですから、そういった作業は行わないのかと……」
「他の人はそうだけど、アタシは時代だからね、好きにやらせてもらっているわ」
「そうなのですか……」
令和が頷く。平成が尋ねる。
「大分重労働じゃないのかい?」
「そうでもないわ、あれがあるから」
弥生は壁際を指差す。そこには鎌や鋤(すき)・鍬(くわ)が立て掛けられている。令和は刃先に注目する。
「……刃先が鉄で出来ていますね」
「そう、『鉄器』が段々と普及してきたのよ。石包丁や木製農具に比べると便利よ、作業効率がなんと4倍も向上したんだから」
「4倍も!」
「通常の4倍……『なんとか専用』みたいだな」
「それは通常の3倍でしょう……」
平成の呟きに令和は呆れる。弥生が首を傾げる。
「何の話か分からないけど……」
「ああ、気にしないで下さい。大幅な技術革新があったわけですね」
「さながら『ヤヨイノベーション』ってやつだな」
「……それ、流行らなそうね」
平成の軽口に弥生は冷めた目を向ける。平成は顔をしかめる。
「ぐっ……」
「それに『イノベーション=技術革新』というのは少々古い認識ですね」
「そこもダメ出しかよ⁉」
令和の言葉に平成は声を上げる。弥生が諭すように話す。
「思考や価値観は柔軟に変化出来るようにしておかなきゃいけないわよ」
「弥生ちゃんにそんなこと言われるとは!」
「そりゃあ、鉄器だけじゃなく、こういうのもほぼ一緒に伝来したのよ? 嫌でも価値観が変わるってものだわ」
弥生が金属を取り出す。令和が呟く。
「『青銅器』ですね」
「ええ、そうよ。世界全体でみると、こういう青銅器の使用を経て、鉄器の利用に進むという文化的な変遷があったみたいだけど、今言ったように、日本にはほとんど同時期に伝わったの。だから、青銅器はもっぱら祭りの際に用いる祭器などで発達したわ」
「なるほど……」
弥生の説明に令和は頷く。平成が首を捻る。
「壁に立てかけてある『銅剣』や『銅矛』は分かるが……それは一体何だい?」
「これ? 『銅鐸(どうたく)』よ?」
「何に使うんだ?」
「手で持って鐘のように鳴らすのではないですか?」
平成の問いに令和が答える。弥生が手で持った銅鐸を見つめながら呟く。
「う~ん、それがね……なんだか忘れちゃったのよ……」
「わ、忘れたって……」
平成は唖然とする。
「これくらいの大きさのものから1mを超すものまであるからね~それを持って鳴らすのはね? まあ、何か思い出したら報告するわ」
「1m超のもの……結構な大きさですね」
「こう……転がしたりして……おしはかって相手に配慮して遊んだんじゃないか?」
「それは『忖度』でしょう……どんな遊び方ですか」
「必ず音を鳴らしたわけでもないみたいだし、祭器として飾ったんじゃないかしら?」
平成の言葉を無視し、弥生は自分の考えを述べる。令和は考え込む、
「う~む……⁉」
そこに男が一人、慌てるように入ってきた。
「弥生さん! 隣のクニが攻めてきやがった!」
「「⁉」」
令和と平成は驚く。
弥生が問う。令和は苦笑する。
「い、いえ……」
「親父の野郎、まだ好景気の頃のことが忘れられないのか? ねずみ取り器の在庫千個も抱えてどうすんだよ……」
「へ、平成さん……」
「いや、悪い……」
屈んでいた平成が立ち上がる。弥生があらためて声をかける。
「アタシの家はこっちだから、どうぞ」
弥生たちは高床の建物が並ぶ辺りに着く。弥生が案内する。
「お邪魔します」
「お邪魔しますよっと」
「倉庫だけでなく、住居としても使うのですね」
「そうね、後は祭祀や儀式用ね」
「祭祀や儀式用?」
「あの一際大きな建物を見たでしょう? あれは祭殿よ」
「佐賀県の吉野ヶ里遺跡(よしのがりいせき)にも同じような巨大な建物があったと聞いたことがあります」
「そう、祭祀は切っても切り離せないものだからね。まあ、適当に座ってちょうだい」
「……炉はないんですね」
令和が建物を見回して呟く。
「ああ、この集落は自分の住処では料理はしないの。近くに煮炊きを行うための共用の建物があるから、皆そこを使っているわ」
「へえ……」
「ちょっと待っていなさい。食事を用意してくるわ」
「ああ、手伝うよ。味見を」
「味見だけじゃなくてちゃんと手伝いなさいよ」
弥生と平成は建物から出る。しばらく間があいて、弥生と平成が器を両手に戻ってくる。令和が声を上げる。
「お米……雑炊ですか!」
「他は肉と魚と豆類ね」
「魚は容器に高い脚を付けた高坏(たかつき)に盛り、他は木の皿やお椀ですね。土器と木器の併用……」
「で? 手づかみで食うんだっけ?」
「……スプーンとフォークあるわよ。火傷したいのなら勝手にどうぞ」
弥生は少々ムッとしながら、木製のスプーンとフォークを平成に差し出す。
「冗談だよ、いただきます」
平成はスプーンを使って雑炊を勢いよくかきこむ。令和がスプーンを見つめながら呟く。
「箸が主流になったのは奈良時代からでしたね……いただきます」
「どうかしら?」
「……うん! 美味しいです! お米がしっかり炊けています!」
「アタシたちの土器は薄くて丈夫なつくりなのよ……熱が早く伝わるようになっているから米を炊くのに適しているわ……」
弥生が令和の反応に満足そうに頷く。平成が話す。
「縄文さんたちの土器は熱が伝わりにくいが、冷めにくいので煮物に向いている……どちらにも良いところがあると思うぜ」
「……別に否定はしていないわよ」
「それなら良いんだが」
「それにしても……自分で作ったお米はやっぱり美味しいわね!」
「ええっ⁉ 弥生さん自ら稲作を⁉」
令和が驚く。弥生が意外そうな顔つきになる。
「そんなに驚くこと?」
「い、いえ、こういう建物にお住まいですから、そういった作業は行わないのかと……」
「他の人はそうだけど、アタシは時代だからね、好きにやらせてもらっているわ」
「そうなのですか……」
令和が頷く。平成が尋ねる。
「大分重労働じゃないのかい?」
「そうでもないわ、あれがあるから」
弥生は壁際を指差す。そこには鎌や鋤(すき)・鍬(くわ)が立て掛けられている。令和は刃先に注目する。
「……刃先が鉄で出来ていますね」
「そう、『鉄器』が段々と普及してきたのよ。石包丁や木製農具に比べると便利よ、作業効率がなんと4倍も向上したんだから」
「4倍も!」
「通常の4倍……『なんとか専用』みたいだな」
「それは通常の3倍でしょう……」
平成の呟きに令和は呆れる。弥生が首を傾げる。
「何の話か分からないけど……」
「ああ、気にしないで下さい。大幅な技術革新があったわけですね」
「さながら『ヤヨイノベーション』ってやつだな」
「……それ、流行らなそうね」
平成の軽口に弥生は冷めた目を向ける。平成は顔をしかめる。
「ぐっ……」
「それに『イノベーション=技術革新』というのは少々古い認識ですね」
「そこもダメ出しかよ⁉」
令和の言葉に平成は声を上げる。弥生が諭すように話す。
「思考や価値観は柔軟に変化出来るようにしておかなきゃいけないわよ」
「弥生ちゃんにそんなこと言われるとは!」
「そりゃあ、鉄器だけじゃなく、こういうのもほぼ一緒に伝来したのよ? 嫌でも価値観が変わるってものだわ」
弥生が金属を取り出す。令和が呟く。
「『青銅器』ですね」
「ええ、そうよ。世界全体でみると、こういう青銅器の使用を経て、鉄器の利用に進むという文化的な変遷があったみたいだけど、今言ったように、日本にはほとんど同時期に伝わったの。だから、青銅器はもっぱら祭りの際に用いる祭器などで発達したわ」
「なるほど……」
弥生の説明に令和は頷く。平成が首を捻る。
「壁に立てかけてある『銅剣』や『銅矛』は分かるが……それは一体何だい?」
「これ? 『銅鐸(どうたく)』よ?」
「何に使うんだ?」
「手で持って鐘のように鳴らすのではないですか?」
平成の問いに令和が答える。弥生が手で持った銅鐸を見つめながら呟く。
「う~ん、それがね……なんだか忘れちゃったのよ……」
「わ、忘れたって……」
平成は唖然とする。
「これくらいの大きさのものから1mを超すものまであるからね~それを持って鳴らすのはね? まあ、何か思い出したら報告するわ」
「1m超のもの……結構な大きさですね」
「こう……転がしたりして……おしはかって相手に配慮して遊んだんじゃないか?」
「それは『忖度』でしょう……どんな遊び方ですか」
「必ず音を鳴らしたわけでもないみたいだし、祭器として飾ったんじゃないかしら?」
平成の言葉を無視し、弥生は自分の考えを述べる。令和は考え込む、
「う~む……⁉」
そこに男が一人、慌てるように入ってきた。
「弥生さん! 隣のクニが攻めてきやがった!」
「「⁉」」
令和と平成は驚く。
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