9 / 51
第一章
第2話(4) 石器グルメ
しおりを挟む
「……」
旧石器が黒曜石の石器を用いて肉を切る。平成が呟く。
「黒曜石使っているじゃないですか、珍しいんじゃなかったんですか?」
「ああ、この辺では取れない石だからな」
「取れないのですか?」
「ああ、いくつかある産地まで取りに行かないとならない。場所によっては舟をこいで、海を渡って取りに行っている奴らもいるぞ」
令和の問いに旧石器が答える。令和は顎に手をやって呟く。
「黒曜石を追い求めて各地から人々が……当時の交易範囲や交通事情の一端も伺いしれますね……」
「交易か……思い出すな、俺もドラゴンの鱗やフェニックスの爪、ユニコーンの角なんかを交易に用いたもんだよ……」
「……だからゲームからいい加減現実に戻ってきて下さい」
令和が平成に冷たい視線を向ける。一方、旧石器が焼いた石の上に草や葉で包んだ肉を置く。平成が呟く。
「蒸し焼きにするのか」
「……焼き上がったな……さあ、食べろ」
旧石器が肉を取り上げ、平成たちに渡す。
「これは何の肉ですか?」
「別の場所で獲れたシカの肉だ。モモの辺りが旨いぞ」
「い、いただきます……おおっ、すごいジューシーな味わい……」
平成はホクホク顔である。令和が問う。
「旧石器さん、こちらは何のお肉でしょう?」
「それも別の場所で獲れたイノシシだ。旨いぞ、脂身の多いバラ肉なんかどうだ?」
「い、いただきます……うん、美味しい。豚肉に似た味わいですね」
令和もホクホク顔である。
「うん、これも旨いぞ、令和ちゃん! 食べてごらんよ」
平成がある肉を指し示す。令和が尋ねる。
「……何のお肉なんですか?」
「知らん」
「知らないのですか……」
「まあ、とにかく食べてみなよ」
「何事も経験、頂きます……うん、しっとりとして甘い味わいですね」
「ああ、それは野ウサギだ」
「⁉」
旧石器の言葉にウサギをもしゃもしゃ食べながら令和は悲しそうな目になる。
「それも自然の摂理だ」
「むう……」
「ちょ、ちょっと口直しって言ったら失礼ですが、肉の他には何かありますか?」
令和の気分を変えるように平成が旧石器に問う。
「まあ、確かに肉ばかりというのもな……ちょっと待っていろ」
旧石器が平たい石器を持ってくる。平成が問う。
「それは?」
「石皿(いしざら)だ」
「そ、そのままのネーミングですね……」
「他に言いようがないだろう」
「それもそうですね……それをどうやって使うんですか?」
「こうやって……!」
「!」
旧石器は石皿に松ぼっくりを何個か置き、別の石器でおもむろに叩き割る。
「この石は敲石(たたきいし)という。大体丸い手ごろな石を使う。石器を作る時にも便利だな」
「石器を作る時も石器を使うんですか……」
「他に道具が無いからな」
「な、なるほど……」
「叩き割ったものをこの磨石(すりいし)というものを使って……磨り潰す」
旧石器は円形状の石器で松ぼっくりをすり潰し、粉状にする。令和が尋ねる。
「その磨石は皆さん同じようなものを使うのですか?」
「いや、球状に近いものもあれば、他にも様々な形状があるな。ほら食べろ」
平成が皿を受けとりながら呟く。
「ふ~ん、肉の他には木の実が主食ですか」
「後は果物だな、ブドウやイチゴなどがあるぞ」
「おおっ、フルーツか」
「地域によって食するものが微妙に異なっているけどな」
「そうなのですか?」
イチゴを口にくわえながら令和が首を傾げる。
「ああ、東日本は針葉樹、西日本は落葉樹が多く生えていたからな」
「なるほど、木の実の種類も変わってきますからね」
「関東と関西でうどんつゆや出汁が違うみたいなもんだな」
「それは微妙に違うと思います」
令和は平成の言葉を切り捨てながら食事を続ける。旧石器が笑う。
「さて、ごちそうといくか」
「ごちそう?」
旧石器が大きい肉を焼き、平成たちに渡す。
「こ、これは……?」
「ナウマンゾウだ」
「こ、こんなに頂いても良いのですか?」
「気にするな。ナウマンゾウ一頭で、集団の食糧が数か月はもつ」
「そりゃ助かるな」
平成は顎をさすりながら呟く。令和が困惑する。
「ほ、本当に頂いてもいいのですか?」
「いいぞ、どうかしたのか?」
「な、なかなかゾウを食べるというのは抵抗があると言いますか……」
「狩ってしまったんだ。食べるのがせめてもの償いだろう」
「そ、そうかもしれませんが……」
「あまり難しいことを考えていたら飢え死にするぞ……うん、美味い」
旧石器はゾウの肉を豪快に食べる。令和もおそるおそる口にする。
「おおっ、令和ちゃん行ったな! どうだ?」
「……うん、なんとも形容しがたいですね」
「なんだよそれ」
「平成さんも食べてみて下さいよ」
「……うむ……なんというか、大味だな」
「なんだ、気に入らなかったか?」
「良い経験にはなりました」
旧石器の問いに平成は無難に答える。旧石器は首を捻る。
「せっかく美味しい部位を分けてやったのに……」
「お、美味しい部位とかあるのですか?」
「そうだぞ、令和が食べたのが、お前が槍を突き刺した臀部だ」
「⁉ そ、そうですか……」
「お、俺が食べているのは?」
「鼻だ」
「は、鼻⁉ 食べられるんですか⁉」
「現に食べているだろう、ちなみに足も美味だぞ、古代ローマ人のお墨付きだ」
「こ、古代ローマ人が言っているなら間違いないか!」
「掌を返しましたね……欧米に弱いんだから……」
令和はナウマンゾウの鼻にかぶりつく平成を冷ややかに見つめる。
旧石器が黒曜石の石器を用いて肉を切る。平成が呟く。
「黒曜石使っているじゃないですか、珍しいんじゃなかったんですか?」
「ああ、この辺では取れない石だからな」
「取れないのですか?」
「ああ、いくつかある産地まで取りに行かないとならない。場所によっては舟をこいで、海を渡って取りに行っている奴らもいるぞ」
令和の問いに旧石器が答える。令和は顎に手をやって呟く。
「黒曜石を追い求めて各地から人々が……当時の交易範囲や交通事情の一端も伺いしれますね……」
「交易か……思い出すな、俺もドラゴンの鱗やフェニックスの爪、ユニコーンの角なんかを交易に用いたもんだよ……」
「……だからゲームからいい加減現実に戻ってきて下さい」
令和が平成に冷たい視線を向ける。一方、旧石器が焼いた石の上に草や葉で包んだ肉を置く。平成が呟く。
「蒸し焼きにするのか」
「……焼き上がったな……さあ、食べろ」
旧石器が肉を取り上げ、平成たちに渡す。
「これは何の肉ですか?」
「別の場所で獲れたシカの肉だ。モモの辺りが旨いぞ」
「い、いただきます……おおっ、すごいジューシーな味わい……」
平成はホクホク顔である。令和が問う。
「旧石器さん、こちらは何のお肉でしょう?」
「それも別の場所で獲れたイノシシだ。旨いぞ、脂身の多いバラ肉なんかどうだ?」
「い、いただきます……うん、美味しい。豚肉に似た味わいですね」
令和もホクホク顔である。
「うん、これも旨いぞ、令和ちゃん! 食べてごらんよ」
平成がある肉を指し示す。令和が尋ねる。
「……何のお肉なんですか?」
「知らん」
「知らないのですか……」
「まあ、とにかく食べてみなよ」
「何事も経験、頂きます……うん、しっとりとして甘い味わいですね」
「ああ、それは野ウサギだ」
「⁉」
旧石器の言葉にウサギをもしゃもしゃ食べながら令和は悲しそうな目になる。
「それも自然の摂理だ」
「むう……」
「ちょ、ちょっと口直しって言ったら失礼ですが、肉の他には何かありますか?」
令和の気分を変えるように平成が旧石器に問う。
「まあ、確かに肉ばかりというのもな……ちょっと待っていろ」
旧石器が平たい石器を持ってくる。平成が問う。
「それは?」
「石皿(いしざら)だ」
「そ、そのままのネーミングですね……」
「他に言いようがないだろう」
「それもそうですね……それをどうやって使うんですか?」
「こうやって……!」
「!」
旧石器は石皿に松ぼっくりを何個か置き、別の石器でおもむろに叩き割る。
「この石は敲石(たたきいし)という。大体丸い手ごろな石を使う。石器を作る時にも便利だな」
「石器を作る時も石器を使うんですか……」
「他に道具が無いからな」
「な、なるほど……」
「叩き割ったものをこの磨石(すりいし)というものを使って……磨り潰す」
旧石器は円形状の石器で松ぼっくりをすり潰し、粉状にする。令和が尋ねる。
「その磨石は皆さん同じようなものを使うのですか?」
「いや、球状に近いものもあれば、他にも様々な形状があるな。ほら食べろ」
平成が皿を受けとりながら呟く。
「ふ~ん、肉の他には木の実が主食ですか」
「後は果物だな、ブドウやイチゴなどがあるぞ」
「おおっ、フルーツか」
「地域によって食するものが微妙に異なっているけどな」
「そうなのですか?」
イチゴを口にくわえながら令和が首を傾げる。
「ああ、東日本は針葉樹、西日本は落葉樹が多く生えていたからな」
「なるほど、木の実の種類も変わってきますからね」
「関東と関西でうどんつゆや出汁が違うみたいなもんだな」
「それは微妙に違うと思います」
令和は平成の言葉を切り捨てながら食事を続ける。旧石器が笑う。
「さて、ごちそうといくか」
「ごちそう?」
旧石器が大きい肉を焼き、平成たちに渡す。
「こ、これは……?」
「ナウマンゾウだ」
「こ、こんなに頂いても良いのですか?」
「気にするな。ナウマンゾウ一頭で、集団の食糧が数か月はもつ」
「そりゃ助かるな」
平成は顎をさすりながら呟く。令和が困惑する。
「ほ、本当に頂いてもいいのですか?」
「いいぞ、どうかしたのか?」
「な、なかなかゾウを食べるというのは抵抗があると言いますか……」
「狩ってしまったんだ。食べるのがせめてもの償いだろう」
「そ、そうかもしれませんが……」
「あまり難しいことを考えていたら飢え死にするぞ……うん、美味い」
旧石器はゾウの肉を豪快に食べる。令和もおそるおそる口にする。
「おおっ、令和ちゃん行ったな! どうだ?」
「……うん、なんとも形容しがたいですね」
「なんだよそれ」
「平成さんも食べてみて下さいよ」
「……うむ……なんというか、大味だな」
「なんだ、気に入らなかったか?」
「良い経験にはなりました」
旧石器の問いに平成は無難に答える。旧石器は首を捻る。
「せっかく美味しい部位を分けてやったのに……」
「お、美味しい部位とかあるのですか?」
「そうだぞ、令和が食べたのが、お前が槍を突き刺した臀部だ」
「⁉ そ、そうですか……」
「お、俺が食べているのは?」
「鼻だ」
「は、鼻⁉ 食べられるんですか⁉」
「現に食べているだろう、ちなみに足も美味だぞ、古代ローマ人のお墨付きだ」
「こ、古代ローマ人が言っているなら間違いないか!」
「掌を返しましたね……欧米に弱いんだから……」
令和はナウマンゾウの鼻にかぶりつく平成を冷ややかに見つめる。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【18禁】「巨根と牝馬と人妻」 ~ 古典とエロのコラボ ~
糺ノ杜 胡瓜堂
歴史・時代
古典×エロ小説という無謀な試み。
「耳嚢」や「甲子夜話」、「兎園小説」等、江戸時代の随筆をご紹介している連載中のエッセイ「雲母虫漫筆」
実は江戸時代に書かれた随筆を読んでいると、面白いとは思いながら一般向けの方ではちょっと書けないような18禁ネタもけっこう存在します。
そんな面白い江戸時代の「エロ奇談」を小説風に翻案してみました。
下級旗本(町人という説も)から驚異の出世を遂げ、勘定奉行、南町奉行にまで昇り詰めた根岸鎮衛(1737~1815)が30年余にわたって書き記した随筆「耳嚢」
世の中の怪談・奇談から噂話等々、色んな話が掲載されている「耳嚢」にも、けっこう下ネタがあったりします。
その中で特に目を引くのが「巨根」モノ・・・根岸鎮衛さんの趣味なのか。
巨根の男性が妻となってくれる人を探して遊女屋を訪れ、自分を受け入れてくれる女性と巡り合い、晴れて夫婦となる・・・というストーリーは、ほぼ同内容のものが数話見られます。
鎮衛さんも30年も書き続けて、前に書いたネタを忘れてしまったのかもしれませんが・・・。
また、本作の原話「大陰の人因の事」などは、けっこう長い話で、「名奉行」の根岸鎮衛さんがノリノリで書いていたと思うと、ちょっと微笑ましい気がします。
起承転結もしっかりしていて読み応えがあり、まさに「奇談」という言葉がふさわしいお話だと思いました。
二部構成、計六千字程度の気軽に読める短編です。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
和ませ屋仇討ち始末
志波 連
歴史・時代
山名藩家老家次男の三沢新之助が学問所から戻ると、屋敷が異様な雰囲気に包まれていた。
門の近くにいた新之助をいち早く見つけ出した安藤久秀に手を引かれ、納戸の裏を通り台所から屋内へ入っる。
久秀に手を引かれ庭の見える納戸に入った新之助の目に飛び込んだのは、今まさに切腹しようとしている父長政の姿だった。
父が正座している筵の横には変わり果てた長兄の姿がある。
「目に焼き付けてください」
久秀の声に頷いた新之助だったが、介錯の刀が振り下ろされると同時に気を失ってしまった。
新之助が意識を取り戻したのは、城下から二番目の宿場町にある旅籠だった。
「江戸に向かいます」
同行するのは三沢家剣術指南役だった安藤久秀と、新之助付き侍女咲良のみ。
父と兄の死の真相を探り、その無念を晴らす旅が始まった。
他サイトでも掲載しています
表紙は写真ACより引用しています
R15は保険です
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる