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第一章
第2話(4) 石器グルメ
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「……」
旧石器が黒曜石の石器を用いて肉を切る。平成が呟く。
「黒曜石使っているじゃないですか、珍しいんじゃなかったんですか?」
「ああ、この辺では取れない石だからな」
「取れないのですか?」
「ああ、いくつかある産地まで取りに行かないとならない。場所によっては舟をこいで、海を渡って取りに行っている奴らもいるぞ」
令和の問いに旧石器が答える。令和は顎に手をやって呟く。
「黒曜石を追い求めて各地から人々が……当時の交易範囲や交通事情の一端も伺いしれますね……」
「交易か……思い出すな、俺もドラゴンの鱗やフェニックスの爪、ユニコーンの角なんかを交易に用いたもんだよ……」
「……だからゲームからいい加減現実に戻ってきて下さい」
令和が平成に冷たい視線を向ける。一方、旧石器が焼いた石の上に草や葉で包んだ肉を置く。平成が呟く。
「蒸し焼きにするのか」
「……焼き上がったな……さあ、食べろ」
旧石器が肉を取り上げ、平成たちに渡す。
「これは何の肉ですか?」
「別の場所で獲れたシカの肉だ。モモの辺りが旨いぞ」
「い、いただきます……おおっ、すごいジューシーな味わい……」
平成はホクホク顔である。令和が問う。
「旧石器さん、こちらは何のお肉でしょう?」
「それも別の場所で獲れたイノシシだ。旨いぞ、脂身の多いバラ肉なんかどうだ?」
「い、いただきます……うん、美味しい。豚肉に似た味わいですね」
令和もホクホク顔である。
「うん、これも旨いぞ、令和ちゃん! 食べてごらんよ」
平成がある肉を指し示す。令和が尋ねる。
「……何のお肉なんですか?」
「知らん」
「知らないのですか……」
「まあ、とにかく食べてみなよ」
「何事も経験、頂きます……うん、しっとりとして甘い味わいですね」
「ああ、それは野ウサギだ」
「⁉」
旧石器の言葉にウサギをもしゃもしゃ食べながら令和は悲しそうな目になる。
「それも自然の摂理だ」
「むう……」
「ちょ、ちょっと口直しって言ったら失礼ですが、肉の他には何かありますか?」
令和の気分を変えるように平成が旧石器に問う。
「まあ、確かに肉ばかりというのもな……ちょっと待っていろ」
旧石器が平たい石器を持ってくる。平成が問う。
「それは?」
「石皿(いしざら)だ」
「そ、そのままのネーミングですね……」
「他に言いようがないだろう」
「それもそうですね……それをどうやって使うんですか?」
「こうやって……!」
「!」
旧石器は石皿に松ぼっくりを何個か置き、別の石器でおもむろに叩き割る。
「この石は敲石(たたきいし)という。大体丸い手ごろな石を使う。石器を作る時にも便利だな」
「石器を作る時も石器を使うんですか……」
「他に道具が無いからな」
「な、なるほど……」
「叩き割ったものをこの磨石(すりいし)というものを使って……磨り潰す」
旧石器は円形状の石器で松ぼっくりをすり潰し、粉状にする。令和が尋ねる。
「その磨石は皆さん同じようなものを使うのですか?」
「いや、球状に近いものもあれば、他にも様々な形状があるな。ほら食べろ」
平成が皿を受けとりながら呟く。
「ふ~ん、肉の他には木の実が主食ですか」
「後は果物だな、ブドウやイチゴなどがあるぞ」
「おおっ、フルーツか」
「地域によって食するものが微妙に異なっているけどな」
「そうなのですか?」
イチゴを口にくわえながら令和が首を傾げる。
「ああ、東日本は針葉樹、西日本は落葉樹が多く生えていたからな」
「なるほど、木の実の種類も変わってきますからね」
「関東と関西でうどんつゆや出汁が違うみたいなもんだな」
「それは微妙に違うと思います」
令和は平成の言葉を切り捨てながら食事を続ける。旧石器が笑う。
「さて、ごちそうといくか」
「ごちそう?」
旧石器が大きい肉を焼き、平成たちに渡す。
「こ、これは……?」
「ナウマンゾウだ」
「こ、こんなに頂いても良いのですか?」
「気にするな。ナウマンゾウ一頭で、集団の食糧が数か月はもつ」
「そりゃ助かるな」
平成は顎をさすりながら呟く。令和が困惑する。
「ほ、本当に頂いてもいいのですか?」
「いいぞ、どうかしたのか?」
「な、なかなかゾウを食べるというのは抵抗があると言いますか……」
「狩ってしまったんだ。食べるのがせめてもの償いだろう」
「そ、そうかもしれませんが……」
「あまり難しいことを考えていたら飢え死にするぞ……うん、美味い」
旧石器はゾウの肉を豪快に食べる。令和もおそるおそる口にする。
「おおっ、令和ちゃん行ったな! どうだ?」
「……うん、なんとも形容しがたいですね」
「なんだよそれ」
「平成さんも食べてみて下さいよ」
「……うむ……なんというか、大味だな」
「なんだ、気に入らなかったか?」
「良い経験にはなりました」
旧石器の問いに平成は無難に答える。旧石器は首を捻る。
「せっかく美味しい部位を分けてやったのに……」
「お、美味しい部位とかあるのですか?」
「そうだぞ、令和が食べたのが、お前が槍を突き刺した臀部だ」
「⁉ そ、そうですか……」
「お、俺が食べているのは?」
「鼻だ」
「は、鼻⁉ 食べられるんですか⁉」
「現に食べているだろう、ちなみに足も美味だぞ、古代ローマ人のお墨付きだ」
「こ、古代ローマ人が言っているなら間違いないか!」
「掌を返しましたね……欧米に弱いんだから……」
令和はナウマンゾウの鼻にかぶりつく平成を冷ややかに見つめる。
旧石器が黒曜石の石器を用いて肉を切る。平成が呟く。
「黒曜石使っているじゃないですか、珍しいんじゃなかったんですか?」
「ああ、この辺では取れない石だからな」
「取れないのですか?」
「ああ、いくつかある産地まで取りに行かないとならない。場所によっては舟をこいで、海を渡って取りに行っている奴らもいるぞ」
令和の問いに旧石器が答える。令和は顎に手をやって呟く。
「黒曜石を追い求めて各地から人々が……当時の交易範囲や交通事情の一端も伺いしれますね……」
「交易か……思い出すな、俺もドラゴンの鱗やフェニックスの爪、ユニコーンの角なんかを交易に用いたもんだよ……」
「……だからゲームからいい加減現実に戻ってきて下さい」
令和が平成に冷たい視線を向ける。一方、旧石器が焼いた石の上に草や葉で包んだ肉を置く。平成が呟く。
「蒸し焼きにするのか」
「……焼き上がったな……さあ、食べろ」
旧石器が肉を取り上げ、平成たちに渡す。
「これは何の肉ですか?」
「別の場所で獲れたシカの肉だ。モモの辺りが旨いぞ」
「い、いただきます……おおっ、すごいジューシーな味わい……」
平成はホクホク顔である。令和が問う。
「旧石器さん、こちらは何のお肉でしょう?」
「それも別の場所で獲れたイノシシだ。旨いぞ、脂身の多いバラ肉なんかどうだ?」
「い、いただきます……うん、美味しい。豚肉に似た味わいですね」
令和もホクホク顔である。
「うん、これも旨いぞ、令和ちゃん! 食べてごらんよ」
平成がある肉を指し示す。令和が尋ねる。
「……何のお肉なんですか?」
「知らん」
「知らないのですか……」
「まあ、とにかく食べてみなよ」
「何事も経験、頂きます……うん、しっとりとして甘い味わいですね」
「ああ、それは野ウサギだ」
「⁉」
旧石器の言葉にウサギをもしゃもしゃ食べながら令和は悲しそうな目になる。
「それも自然の摂理だ」
「むう……」
「ちょ、ちょっと口直しって言ったら失礼ですが、肉の他には何かありますか?」
令和の気分を変えるように平成が旧石器に問う。
「まあ、確かに肉ばかりというのもな……ちょっと待っていろ」
旧石器が平たい石器を持ってくる。平成が問う。
「それは?」
「石皿(いしざら)だ」
「そ、そのままのネーミングですね……」
「他に言いようがないだろう」
「それもそうですね……それをどうやって使うんですか?」
「こうやって……!」
「!」
旧石器は石皿に松ぼっくりを何個か置き、別の石器でおもむろに叩き割る。
「この石は敲石(たたきいし)という。大体丸い手ごろな石を使う。石器を作る時にも便利だな」
「石器を作る時も石器を使うんですか……」
「他に道具が無いからな」
「な、なるほど……」
「叩き割ったものをこの磨石(すりいし)というものを使って……磨り潰す」
旧石器は円形状の石器で松ぼっくりをすり潰し、粉状にする。令和が尋ねる。
「その磨石は皆さん同じようなものを使うのですか?」
「いや、球状に近いものもあれば、他にも様々な形状があるな。ほら食べろ」
平成が皿を受けとりながら呟く。
「ふ~ん、肉の他には木の実が主食ですか」
「後は果物だな、ブドウやイチゴなどがあるぞ」
「おおっ、フルーツか」
「地域によって食するものが微妙に異なっているけどな」
「そうなのですか?」
イチゴを口にくわえながら令和が首を傾げる。
「ああ、東日本は針葉樹、西日本は落葉樹が多く生えていたからな」
「なるほど、木の実の種類も変わってきますからね」
「関東と関西でうどんつゆや出汁が違うみたいなもんだな」
「それは微妙に違うと思います」
令和は平成の言葉を切り捨てながら食事を続ける。旧石器が笑う。
「さて、ごちそうといくか」
「ごちそう?」
旧石器が大きい肉を焼き、平成たちに渡す。
「こ、これは……?」
「ナウマンゾウだ」
「こ、こんなに頂いても良いのですか?」
「気にするな。ナウマンゾウ一頭で、集団の食糧が数か月はもつ」
「そりゃ助かるな」
平成は顎をさすりながら呟く。令和が困惑する。
「ほ、本当に頂いてもいいのですか?」
「いいぞ、どうかしたのか?」
「な、なかなかゾウを食べるというのは抵抗があると言いますか……」
「狩ってしまったんだ。食べるのがせめてもの償いだろう」
「そ、そうかもしれませんが……」
「あまり難しいことを考えていたら飢え死にするぞ……うん、美味い」
旧石器はゾウの肉を豪快に食べる。令和もおそるおそる口にする。
「おおっ、令和ちゃん行ったな! どうだ?」
「……うん、なんとも形容しがたいですね」
「なんだよそれ」
「平成さんも食べてみて下さいよ」
「……うむ……なんというか、大味だな」
「なんだ、気に入らなかったか?」
「良い経験にはなりました」
旧石器の問いに平成は無難に答える。旧石器は首を捻る。
「せっかく美味しい部位を分けてやったのに……」
「お、美味しい部位とかあるのですか?」
「そうだぞ、令和が食べたのが、お前が槍を突き刺した臀部だ」
「⁉ そ、そうですか……」
「お、俺が食べているのは?」
「鼻だ」
「は、鼻⁉ 食べられるんですか⁉」
「現に食べているだろう、ちなみに足も美味だぞ、古代ローマ人のお墨付きだ」
「こ、古代ローマ人が言っているなら間違いないか!」
「掌を返しましたね……欧米に弱いんだから……」
令和はナウマンゾウの鼻にかぶりつく平成を冷ややかに見つめる。
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