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第一章
第1話(4) 2000円札オンリー
しおりを挟む 南町奉行所には与力二五騎同心百二十人がいる。
だがその内、常時探索を行っているのは、三回り方の同心十四人だけである。
廻り方の御供中間を増員して、何とか五十人を確保している現状だ。
目明しとか岡っ引きと呼ばれる、御用聞きも二百人規模で総動員している。
昼夜風烈廻りの与力二騎同心四人に加え、普通は非常事件の事務を扱う非常取締掛の与力八騎同心十六人も、事務の合間に見回りをしている状態だ。
だがそれでも、蛇の弥五郎一味の行方は杳として知れない。
そこで御奉行の使った秘策とは、見習いとその家臣の活用だった。
本採用前の見習い与力が八騎いる。
同じく本採用前の同心が四十五人いる。
彼らと彼らの家臣を、交代制で見回りに投入するのだ。
例え蛇の弥五郎一味を逮捕できなくてもいい。
盗みに入れないようにして、江戸から追い払えれば町人が安心して暮らせる。
追い払えなくても、盗みを諦めさせる事ができれば、殺される人間がいなくなる。
御奉行はそう考えて、全見習いの投入を決断したが、これにも少々問題があった。
町奉行所の与力同心には、明らかな経済格差があった。
毎年三千両もの収入がある与力を筆頭に、五百石六百石の収入のある与力なら、見習い中の息子にも十分な家臣をつける事ができる。
だが付け届けのない閑職の与力には、息子にまで家臣を整える事は不可能だった。
それは同心も同じだった。
そんな事情をよく知る年番方与力と吟味方与力が御奉行に上申した。
御奉行の当初構想からは随分縮小されたが、余力のある与力家同心家の見習いが、市中見廻りに投入されることになった。
当然だが、その中に七右衛門が含まれていた。
いや、家臣が全て剣客であったので、大いに期待されていた。
「養父上。
申し訳ありませんが、本日より日中の出仕は控えさせていただきます」
「なんの。
何を謝る必要があろうか。
全ては御奉行の差配で行われた事。
堂々と御役目に励むがいい」
今日から七右衛門は、日暮れから夜明けまで江戸市中を見回ることになった。
正式な巡回なので、継裃で騎乗して、兵役の家臣を供にして巡回だ。
共侍の若党二人に、鉄芯入りの木刀を腰に差した中間が六人。
中間は役割によって、馬の口取り二人、槍持ち一人、草履取り一人、鋏箱持ち一人、合羽篭持ち一人であった。
風烈廻り昼夜廻りでの巡回なので、全員が十手を懐にしている。
だがこれでは、当主平八郎が奉行所に向かう時の供がいない。
そこで河内屋で修行中の元譜代中間が、平八郎の出仕に動員されることになった。
そのような状況はどこの与力家同心家でも同様で、出仕の供は口入屋から臨時雇いして、風烈廻り昼夜廻りに譜代家臣を使っていた。
経済的に厳しい家は、臨時御供中間を供にして巡回した。
だがその内、常時探索を行っているのは、三回り方の同心十四人だけである。
廻り方の御供中間を増員して、何とか五十人を確保している現状だ。
目明しとか岡っ引きと呼ばれる、御用聞きも二百人規模で総動員している。
昼夜風烈廻りの与力二騎同心四人に加え、普通は非常事件の事務を扱う非常取締掛の与力八騎同心十六人も、事務の合間に見回りをしている状態だ。
だがそれでも、蛇の弥五郎一味の行方は杳として知れない。
そこで御奉行の使った秘策とは、見習いとその家臣の活用だった。
本採用前の見習い与力が八騎いる。
同じく本採用前の同心が四十五人いる。
彼らと彼らの家臣を、交代制で見回りに投入するのだ。
例え蛇の弥五郎一味を逮捕できなくてもいい。
盗みに入れないようにして、江戸から追い払えれば町人が安心して暮らせる。
追い払えなくても、盗みを諦めさせる事ができれば、殺される人間がいなくなる。
御奉行はそう考えて、全見習いの投入を決断したが、これにも少々問題があった。
町奉行所の与力同心には、明らかな経済格差があった。
毎年三千両もの収入がある与力を筆頭に、五百石六百石の収入のある与力なら、見習い中の息子にも十分な家臣をつける事ができる。
だが付け届けのない閑職の与力には、息子にまで家臣を整える事は不可能だった。
それは同心も同じだった。
そんな事情をよく知る年番方与力と吟味方与力が御奉行に上申した。
御奉行の当初構想からは随分縮小されたが、余力のある与力家同心家の見習いが、市中見廻りに投入されることになった。
当然だが、その中に七右衛門が含まれていた。
いや、家臣が全て剣客であったので、大いに期待されていた。
「養父上。
申し訳ありませんが、本日より日中の出仕は控えさせていただきます」
「なんの。
何を謝る必要があろうか。
全ては御奉行の差配で行われた事。
堂々と御役目に励むがいい」
今日から七右衛門は、日暮れから夜明けまで江戸市中を見回ることになった。
正式な巡回なので、継裃で騎乗して、兵役の家臣を供にして巡回だ。
共侍の若党二人に、鉄芯入りの木刀を腰に差した中間が六人。
中間は役割によって、馬の口取り二人、槍持ち一人、草履取り一人、鋏箱持ち一人、合羽篭持ち一人であった。
風烈廻り昼夜廻りでの巡回なので、全員が十手を懐にしている。
だがこれでは、当主平八郎が奉行所に向かう時の供がいない。
そこで河内屋で修行中の元譜代中間が、平八郎の出仕に動員されることになった。
そのような状況はどこの与力家同心家でも同様で、出仕の供は口入屋から臨時雇いして、風烈廻り昼夜廻りに譜代家臣を使っていた。
経済的に厳しい家は、臨時御供中間を供にして巡回した。
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