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第一章

第2話(3)大きな人形

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「な、なんだ⁉」

「大入道?」

「……」

 大柄なものが栞たちの方に向かって歩いてくる。

「どうやら男ではあるようだが……」

「………」

「なにかが軋むような音がするね?」

 耳を澄ましながら焔が呟く。

「これは……金物か?」

「それと木……かな」

「なんだよ、それは……」

「あいつから聞こえてくるよ」

 焔が大柄なものを指差す。

「…………」

「ほら、一歩歩くごとに」

「確かに……ガシャガシャ言っているな……」

「いや……」

「うん?」

 栞が焔を見る。

「どちらかというと……ガッシャガッシャじゃない?」

「はあ?」

「いや、ガッシャンガッシャンかな……」

 焔が顎に手を当てながら首を傾げる。

「別に音の種類はこの際どうだっていいんだよ」

「いやいや、大事なことでしょ」

「そうか?」

「そうだよ」

「まあいいや、それよりあいつはなんなんだ?」

 栞が大柄なものを指差す。

「さあ?」

 焔が首を傾げる。

「さあってお前……」

「人の形をしたなにかかな?」

「それはなんとなく分かるけれどよ……」

「人の形……」

 焔が自らの発言にハッとなる。栞が尋ねる。

「どうかしたか?」

「いや、あれは人形なんじゃないかなって……」

「人形だと?」

「うん」

 焔が首を縦に振る。

「人形って、あれか? 傀儡師とか、戎回しとかが道中で披露している……」

「そう、それそれ」

「あれは木箱の中に入った小さなもんじゃねえか」

「それはそうだね……」

「あんな大きい人形は見たことがねえぞ?」

「うん、こんな大きいのはないね……」

「え? こんな?」

「……!」

「うおっ⁉」

 大柄なものが太い腕を振るい、攻撃してきたため、栞は慌てて後ろに飛んでかわす。

「接近していたね、気をつけて!」

 横に飛んだ焔が声をかける。栞が声を上げる。

「声をかけるのが遅えよ!」

「気がついているのかと思って……」

 焔が後頭部をポリポリと掻く。

「お前との会話にすっかり気を取られていたんだよ!」

「ごめんごめん」

「ったく……」

 体勢を立て直した栞は大柄なものをじっと見つめる。

「……………」

「なんだってんだ、こいつは……昨日みたいに腐った死体かなにかなのか? それにしては顔が変に青白いというか……」

 栞が顎をさすりながら呟く。

「こんな美人を目の前にして、顔を赤らめないなんて失礼だね」

「い、いきなり何を言ってんだよ、お前は……!」

 焔の発言に栞が顔を赤らめる。

「え、アタシのことだけど? どうかした?」

 焔が自らを指し示す。

「お前のことかよ!」

「………!」

「どおっ⁉」

 大柄なものの攻撃が再度行われる。栞はまたもなんとかかわす。大柄なものの拳が地面を深くえぐる。焔が驚きながら呟く。

「なんて威力だ。食らったらひとたまりもないね……」

「ほ、焔! 変なことを言って、オレの集中を乱すな!」

「ええ? 変なことを言ったつもりはないけれど……」

「まあいい……とにかくこいつをなんとかする!」

「栞ちゃんも馬鹿力だけど、さすがに分が悪いよ!」

「馬鹿力って言うな!」

「じゃあどうするの?」

「なに、やりようはあるさ……『木枝の剣』!」

「……‼」

 栞は尖った木の枝をより鋭利にしたものを生じさせて、それを手に取って、斬りかかり、大柄なものの右腕を斬り落とす。

「どうだ!」

「お見事!」

 焔が拍手を送る。栞は素早く振り返って、冷静に大柄なものの様子を伺う。

「血は流れていねえ、かといって霧消するわけでもねえか……それにしても……」

「………………」

「腕が斬り落とされたってのに、うめき声のひとつも上げねえとは……不気味だな」

「やせ我慢しているんじゃない?」

「だと良いんだが……」

「…………………」

 大柄なものが栞の方に振り返る。

「まだやる気みたいだね!」

「腕じゃなく、腹が胸を斬る! そうすりゃくたばるだろ!」

 栞が再び勢いよく斬りかかり、木枝の剣を横に思い切り薙ぐ。

「……‼」

 栞の攻撃を大柄なものは身を屈めてかわす。

「か、かわされた⁉ しゃがんだのか⁉」

「………‼」

 大柄なものが斬り落とされた右腕を拾い、切断跡にくっつけてみせる。すると、その右腕がまたも動き出す。それを見た栞が大いに驚く。

「はあっ⁉ くっつけただと⁉」

「…………‼」

「がはあっ⁉」

 大柄なものが右腕を振るう。しおりはその拳をもろに食らってしまう。
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