2 / 26
第一章
第1話(1)週休五日制
しおりを挟む
壱
「い、いや、後は任せるって言われてもよお……」
晴明が部屋から退出した後、横一列だった五人は円座になって座っている。栞が自らの頭を撫でながらぼやく。栞から見て、右斜め前に座っている金が胸を張る。
「晴明殿からの信頼を勝ち得たことを嬉しく思うべきです」
「……果たしてそうかな?」
「な、なにがですか?」
金が自らの右隣に座る基に視線を向ける。基が話を続ける。
「体よく押し付けられたような……」
「せ、晴明殿に限ってそのようなことはありません!」
金が声を上げる。基の右隣、栞の左隣に座る焔が口を開く。
「いやあ、案外そんなもんだと思うよ~金ちゃん?」
「焔さんまで! 何を根拠にそう思われるのですか?」
「う~ん……勘?」
「勘って!」
「それは半分冗談だけどさ……」
「じょ、冗談を言っている場合ではありません!」
「これまでの積み重ねっていうもんがあるからね~」
「積み重ね……」
金が思いを巡らせる。
「恐らく、十中八九は焔の言う通りだろうね。要は面倒になったんだ」
「……だろうな」
焔の言葉に、基と栞が同調する。金が反論しようとする。
「そ、そんなことは……!」
「ちょ、ちょっとお待ちください……! こちらを……」
金の左隣に座る泉が紙を持ち出す。金が尋ねる。
「泉さん、それは?」
「退出の際に渡されました。今回の詳細については面倒だから、これに記してあると……」
「口頭でさっさと伝えちまった方が、面倒が少ないと思うんだけどな……」
泉の説明に栞が苦笑する。焔が尋ねる。
「それで~? なんて書いてあるの~?」
「は、はい、えっと……『疲れた』と……」
「さ、三文字⁉ たったの⁉」
金が愕然とする。
「……それはこちらが言いたいくらいなのだけれどね……」
基が顎に手を当てて、呆れ気味に呟く。
「さすがに説明不足が過ぎるぜ」
「まあ、いつものことといえばそれまでだしね~」
栞の言葉に焔が笑う。栞が頭を軽く抑える。
「そうは言ってもだな……」
「とりあえずは情報の整理に努めるべきです」
「与えられた情報が余りにも少な過ぎるよ……」
泉の発言に基が肩をすくめる。
「ごぼう大臣がなんとかとか言ってやがったか?」
「弘法大師です」
栞の適当な発言を、落ち着きを取り戻した金が訂正する。
「それだ、七輪がどうとか言っていたよな?」
「七曜です。煮炊きをしてどうするのですか」
「それだ……なんだっけ?」
栞が首を傾げる。基が口を開く。
「七曜……古より、唐土などで用いられている天文についての考え方……木星、火星、土星、金星、水星に、日と月を加えてひとまとめにしたものだよ」
「なるほど……それで?」
栞が腕を組んでさらに首を傾げる。基が続ける。
「晴明くんはこう言った……『七日の内、二日だけ働いて後は休ませてもらうよ』と……」
「うん? つまり……」
「どうやら七日間を『週』という単位でくくるという考え方もあるらしい……二日だけ働いて、五日間は休む……さしずめ『週休五日制』と言ったところだな」
「や、休み過ぎじゃねえか⁉」
栞が基に向かって声を上げる。
「ぼくに言われても困るな……」
「連日連夜の物の怪退治でお疲れになったのでしょう……」
「昼間も陰陽寮での公務がおありですしね。それも若干サボりがちではありますが……」
泉と金がうんうんと頷く。
「それにしても羨ましいよね~アタシもそれくらい休みたいよ~」
「オレもだぜ……」
焔の言葉に栞が同調する。
「そういうわけにもいかないだろう。ぼくらと晴明くんは弟子と師匠の間柄……それぞれ恩義もある。意向には従わないというわけにはいかない……良い服を着せてもらって――殿方が着る狩衣だが――立派な屋敷に住まわせてもらい、豪華な食事を頂いているからね」
「ふむ……」
基の話に金が頷く。
「というわけで、今後の方針を決めておかなければならない」
「今後の方針ねえ……」
「何を決めれば良いのか……」
栞と焔が揃って腕を組み、首を捻る。
「やはりお困りのようですね……」
「説明不足の補足に参りました……」
「うわっ⁉ び、びっくりした……」
栞と焔の後方におかっぱ頭の双子が立っている。それぞれ頭髪の半分が白髪である。
「も~う、音もなく現れないでよ~朧ちゃん」
焔が頭髪の右半分が白髪の子どもに声をかける。子どもが首を左右に振る。
「われは旭(あさひ)です。朧(おぼろ)はこちら……」
旭と名乗った子どもは、頭髪の左半分が白髪の子どもの方をを指差す。
「あ、そっか~ごめん、ごめん」
焔が謝る。朧が口を開く。
「あらためて、説明をいたします……晴明さまが申すには、『君たち五人には教えることはもうほとんど何もない』と……」
「いや~それほどでも~」
「ありますわね……」
「ちょっと照れちまうぜ……」
「ああ」
「ええ⁉ 誰一人として否定しない⁉」
焔と金と栞と基の反応に泉が驚く。朧が話を続ける。
「……続けます。『例えばこの五日間の間に物の怪の類が現れたとしても、五人全員で揃って出動する必要はない。つーまんせるで動くように』と」
「つーまんせるってなに?」
「二人一組で行動しろということだそうです」
焔の問いかけに旭が答える。基が頷く。
「なるほど、二人組か……単独は危険……三人以上だと小回りがやや利かない……まあ、それくらいが適当なのだろうね……それでは組み合わせを決めるとしようか」
基が四人に声をかける。話し合いは意外と長引いたが、夕暮れには決まった。旭が頷く。
「……お決まりのようですね」
「それでは、早速そちらのお二人から出動して頂きます。物の怪らしきものが現れたという報告がありました」
「!」
朧の言葉を受け、五人の顔に緊張が走る。
「い、いや、後は任せるって言われてもよお……」
晴明が部屋から退出した後、横一列だった五人は円座になって座っている。栞が自らの頭を撫でながらぼやく。栞から見て、右斜め前に座っている金が胸を張る。
「晴明殿からの信頼を勝ち得たことを嬉しく思うべきです」
「……果たしてそうかな?」
「な、なにがですか?」
金が自らの右隣に座る基に視線を向ける。基が話を続ける。
「体よく押し付けられたような……」
「せ、晴明殿に限ってそのようなことはありません!」
金が声を上げる。基の右隣、栞の左隣に座る焔が口を開く。
「いやあ、案外そんなもんだと思うよ~金ちゃん?」
「焔さんまで! 何を根拠にそう思われるのですか?」
「う~ん……勘?」
「勘って!」
「それは半分冗談だけどさ……」
「じょ、冗談を言っている場合ではありません!」
「これまでの積み重ねっていうもんがあるからね~」
「積み重ね……」
金が思いを巡らせる。
「恐らく、十中八九は焔の言う通りだろうね。要は面倒になったんだ」
「……だろうな」
焔の言葉に、基と栞が同調する。金が反論しようとする。
「そ、そんなことは……!」
「ちょ、ちょっとお待ちください……! こちらを……」
金の左隣に座る泉が紙を持ち出す。金が尋ねる。
「泉さん、それは?」
「退出の際に渡されました。今回の詳細については面倒だから、これに記してあると……」
「口頭でさっさと伝えちまった方が、面倒が少ないと思うんだけどな……」
泉の説明に栞が苦笑する。焔が尋ねる。
「それで~? なんて書いてあるの~?」
「は、はい、えっと……『疲れた』と……」
「さ、三文字⁉ たったの⁉」
金が愕然とする。
「……それはこちらが言いたいくらいなのだけれどね……」
基が顎に手を当てて、呆れ気味に呟く。
「さすがに説明不足が過ぎるぜ」
「まあ、いつものことといえばそれまでだしね~」
栞の言葉に焔が笑う。栞が頭を軽く抑える。
「そうは言ってもだな……」
「とりあえずは情報の整理に努めるべきです」
「与えられた情報が余りにも少な過ぎるよ……」
泉の発言に基が肩をすくめる。
「ごぼう大臣がなんとかとか言ってやがったか?」
「弘法大師です」
栞の適当な発言を、落ち着きを取り戻した金が訂正する。
「それだ、七輪がどうとか言っていたよな?」
「七曜です。煮炊きをしてどうするのですか」
「それだ……なんだっけ?」
栞が首を傾げる。基が口を開く。
「七曜……古より、唐土などで用いられている天文についての考え方……木星、火星、土星、金星、水星に、日と月を加えてひとまとめにしたものだよ」
「なるほど……それで?」
栞が腕を組んでさらに首を傾げる。基が続ける。
「晴明くんはこう言った……『七日の内、二日だけ働いて後は休ませてもらうよ』と……」
「うん? つまり……」
「どうやら七日間を『週』という単位でくくるという考え方もあるらしい……二日だけ働いて、五日間は休む……さしずめ『週休五日制』と言ったところだな」
「や、休み過ぎじゃねえか⁉」
栞が基に向かって声を上げる。
「ぼくに言われても困るな……」
「連日連夜の物の怪退治でお疲れになったのでしょう……」
「昼間も陰陽寮での公務がおありですしね。それも若干サボりがちではありますが……」
泉と金がうんうんと頷く。
「それにしても羨ましいよね~アタシもそれくらい休みたいよ~」
「オレもだぜ……」
焔の言葉に栞が同調する。
「そういうわけにもいかないだろう。ぼくらと晴明くんは弟子と師匠の間柄……それぞれ恩義もある。意向には従わないというわけにはいかない……良い服を着せてもらって――殿方が着る狩衣だが――立派な屋敷に住まわせてもらい、豪華な食事を頂いているからね」
「ふむ……」
基の話に金が頷く。
「というわけで、今後の方針を決めておかなければならない」
「今後の方針ねえ……」
「何を決めれば良いのか……」
栞と焔が揃って腕を組み、首を捻る。
「やはりお困りのようですね……」
「説明不足の補足に参りました……」
「うわっ⁉ び、びっくりした……」
栞と焔の後方におかっぱ頭の双子が立っている。それぞれ頭髪の半分が白髪である。
「も~う、音もなく現れないでよ~朧ちゃん」
焔が頭髪の右半分が白髪の子どもに声をかける。子どもが首を左右に振る。
「われは旭(あさひ)です。朧(おぼろ)はこちら……」
旭と名乗った子どもは、頭髪の左半分が白髪の子どもの方をを指差す。
「あ、そっか~ごめん、ごめん」
焔が謝る。朧が口を開く。
「あらためて、説明をいたします……晴明さまが申すには、『君たち五人には教えることはもうほとんど何もない』と……」
「いや~それほどでも~」
「ありますわね……」
「ちょっと照れちまうぜ……」
「ああ」
「ええ⁉ 誰一人として否定しない⁉」
焔と金と栞と基の反応に泉が驚く。朧が話を続ける。
「……続けます。『例えばこの五日間の間に物の怪の類が現れたとしても、五人全員で揃って出動する必要はない。つーまんせるで動くように』と」
「つーまんせるってなに?」
「二人一組で行動しろということだそうです」
焔の問いかけに旭が答える。基が頷く。
「なるほど、二人組か……単独は危険……三人以上だと小回りがやや利かない……まあ、それくらいが適当なのだろうね……それでは組み合わせを決めるとしようか」
基が四人に声をかける。話し合いは意外と長引いたが、夕暮れには決まった。旭が頷く。
「……お決まりのようですね」
「それでは、早速そちらのお二人から出動して頂きます。物の怪らしきものが現れたという報告がありました」
「!」
朧の言葉を受け、五人の顔に緊張が走る。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
合魂‼
阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
静岡県生まれのごく普通の少年、優月超慈は猛勉強の末、難関と言われる愛知県の『愛京大付属愛京高校』に合格する。
彼を突き動かす理由……それは『彼女をつくること』であった。そしてこの愛京高校にはなんと『合コン部』なるものがあることを聞きつけた彼は、見事に入学試験を突破した。 喜び勇んで学校の門をくぐった超慈を待ち構えていたものは……?
大規模な学園都市を舞台に繰り広げられるドキドキワクワク、常識外れの青春ハイスクールライフ、ここにスタート!
2年微能力組!~微妙な能力で下克上!~
阿弥陀乃トンマージ
ライト文芸
栃木県のとある学園に仁子日光と名乗る一人の少年が転校してきた。高二にしてはあまりにも痛々し過ぎるその言動に2年B組のクラス長、東照美は眉をひそめる。しかし自身の立場上、関わり合いを持たざるを得なくなる……。
一人の転校生が微妙な能力、『微能力』で能力至上主義の学園に旋風を巻き起こしていく、スクールコメディー、ここに開幕!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
生贄の花嫁~鬼の総領様と身代わり婚~
硝子町玻璃
キャラ文芸
旧題:化け猫姉妹の身代わり婚
多くの人々があやかしの血を引く現代。
猫又族の東條家の長女である霞は、妹の雅とともに平穏な日々を送っていた。
けれどある日、雅に縁談が舞い込む。
お相手は鬼族を統べる鬼灯家の次期当主である鬼灯蓮。
絶対的権力を持つ鬼灯家に逆らうことが出来ず、両親は了承。雅も縁談を受け入れることにしたが……
「私が雅の代わりに鬼灯家に行く。私がお嫁に行くよ!」
妹を守るために自分が鬼灯家に嫁ぐと決心した霞。
しかしそんな彼女を待っていたのは、絶世の美青年だった。
ポムポムスライム☆キュルキュルハートピースは転生しないよ♡
あたみん
キャラ文芸
自分でも良くわかんないけど、私には周りのものすべてにハート型のスライムが引っ付いてんのが見えんの。ドンキのグミみたいなものかな。まあ、迷惑な話ではあるんだけど物心ついてからだから慣れていることではある。そのスライムはモノの本質を表すらしくて、見たくないものまで見せられちゃうから人間関係不信街道まっしぐらでクラスでも浮きまくりの陰キャ認定されてんの。そんなだから俗に言うめんどいイジメも受けてんだけどそれすらもあんま心は動かされない現実にタメ息しか出ない。そんな私でも迫りくる出来事に変な能力を駆使して対峙するようになるわけで、ここに闇落ちしないで戦うことを誓いま~す♡
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
令和ちゃんと平成くん~新たな時代、創りあげます~
阿弥陀乃トンマージ
歴史・時代
どこかにあるという、摩訶不思議な場所『時代管理局』。公的機関なのか私的組織なのかは全く不明なのだが、その場所ではその名の通り、時代の管理に関する様々な業務を行っている。
そんな管理局に新顔が現れる。ほどよい緊張と確かな自信をみなぎらせ、『管理局現代課』の部屋のドアをノックする……。
これは時代管理局に務める責任感の強い後輩『令和』とどこか間の抜けた先輩『平成』がバディを組み、様々な時代を巡ることによって、時代というものを見つめ直し、新たな時代を創りあげていくストーリーである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる