【第1章完】スキル【編集】を駆使して異世界の方々に小説家になってもらおう!

阿弥陀乃トンマージ

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第1集

第10話(4)恥ずかしながら……

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                   ♢

「うう……」

 私、森天馬は半泣きというか、ほとんど泣きながら会社の倉庫を掃除していた。小説でヒットを飛ばせと言っていたのに、肝心の小説が一作品も出来上がってこないのはどういうことだと編集長に詰められ、大事な大事な小説家志望を七名全員、カクカワ書店に引き抜かれてしまいましたと素直に白状した。 

 編集長の怒りは、それはそれは相当なもので、私は正直クビを覚悟したのだが、これまでそれなりに積み重ねた実績と、同僚たちのとりなしもあって、とりあえずクビは回避した。だが、編集の前線にすぐ戻ることは許されず、倉庫の掃除でもしておけと言われた。いつまでかは分からない。編集長の怒りが解けるまでだろうか? つまりずっとこのような状態なのかもしれない。私は絶望的な気持ちになっていた。

「……さん」

「はあ……ん? これは?」

 私は倉庫の棚に置いてあった何枚かのイラストに目を留める。どれも見事な出来栄えだ。

「モリ……」

「これらのイラスト……テイストは違うが、サインは同じだな?」

 私は首を傾げる。

「モリさん!」

「うわっ⁉ び、びっくりした!」

 倉庫の出入り口から女性の同僚が声をかけてきた。なんだろう、重いものを運んでくれとかそういうことであろうか。私はほうきを棚に立てかける。

「モリさん、お客さんですよ。女性が七名ほど……会議室で待ってもらっていますが……」

「!」

 私は倉庫を飛び出し、会議室に走る。一分もかからなかったのではないだろうか。あっという間に会議室に着いた私は、ノックするのも忘れて会議室へ入った。

「‼」

 皆さんの視線が集中する。エルフのルーシーさん、獣人のアンジェラさん、スライムのマルガリータさん、人魚のヨハンナさん、サキュバスのヘレンさん、女騎士のザビーネさん、魔族のクラウディアさんだ。

「はあ、はあ、はあ……」

 私は乱れた呼吸を落ち着かせる。その呼吸が落ち着いたころを見計らって、ルーシーさんが頭を下げてきた。

「モリさん、申し訳ありませんでした!」

「え……」

 ルーシーさんに合わせて、他の六名もそれぞれ申し訳なさそうな表情を浮かべてこちらに頭を下げてきている。ルーシーさんが口を開く。

「ワタシたち全員、甘い誘いに乗り、カクカワ書店さんにふらふら行ってしまいました……」

「ああ……」

「とりあえず話を聞くだけと思っていたのですが、あれよあれよという間に、打ち合わせが始まってしまって……」

「はあ……」

 さすが大手はやることが早いな、などと妙に感心してしまった。

「しかし、その……打ち合わせをしてみて、あ、これ、なにか違うなって感じになって……」

「……」

 俯き加減だったルーシーさんがバッと顔を上げ、こちらを見つめてくる。

「もう一度、モリさんとお仕事をさせてもらえないでしょうか⁉」

「え?」

「随分と虫の良い話だとは自分たちでも思っています。ですが、やはりモリさんじゃないと駄目なんです。お願いします‼」

「……‼」

 ルーシーさんに合わせて皆が頭を下げてくる。私は一呼吸置いて答える。

「ふう……皆さん、どうぞ顔を上げて下さい」

「! ……」

 ルーシーさんたちが揃って顔を上げる。私は笑顔を浮かべる。

「皆さん、またご一緒出来ることを嬉しく思います」

「! お、怒っていないのですか?」

「そりゃあまあ、まったくなんとも……と言ったら嘘になりますが、とにもかくにも作品を完成させることが、今の私……そしてこの会社、カクヤマ書房にとって大事なことです。そのことは水に流して、また作品をともに作りましょう」

「あ、ありがとうございます!」

「……!」

 ルーシーさんたちが揃って頭を下げる。

「ちょうどいいですから、雑談がてら、軽く合同打ち合わせでもしましょうか? 皆さん、どうぞ席について下さい。お茶とお菓子を持ってきます」

 私は一旦、会議室を離れ、お茶とお菓子を用意し、席についた皆さんと雑談を始めた。皆さん緊張気味だったが、すぐにリラックスしてきた。ルーシーさんが苦笑する。

「……それでワタシは壮大なファンタジーを書けと言われたんです」

「壮大なファンタジーですか、それは書けるものならみんな書きたいですよね……」

 アンジェラさんがお茶をフーフーとしながら言う。

「……オレは涙涙の感動巨編を書けって言われたっす!」

「それも書けるものなら書きたいですよね……」

「オレにはちょっと無茶ぶりっす!」

 マルガリータさんが口を開く。

「ボクは『無色転生』という転生ものを書けと言われました……」

「正直タイトルには惹かれるものがありますね……」

「でも、無色と言われても……ボクは水色ですから!」

 引っかかるのそこなんだと思っていたら、ヨハンナさんが困り顔で語る。

「ワタクシは『オタクに優しい人魚姫』というのを提案されて……」

「それも異文化コミュニケーションの一つの形ですね……」

「ですが……オタクの方に優しい人魚なんて実在しませんよ?」

 それは聞きたくなかったなと思っていると、ヘレンさんが憮然とした表情で語る。

「アタシなんか『家族で読めるエロ本』を書けって言われたのよ?」

「そ、それはまた……」

「どうしろって言うのよ? ほとんど全部伏せ字になっちゃうわよ」

 出来るものならば正直読んでみたいと思ったが、黙っていた。ザビーネさんが口を開く。

「自分は……『非干渉系』の話を書けと言われた」

「非干渉系?」

「個人主義の騎士団が主人公だと……まったく矛盾している」

 ザビーネさんがため息をつく。クラウディアさんが口を開く。

「我は魔王を倒す魔族の話を書けと言われた……」

「そ、それは……」

「さすがに承服しかねた。それで恥ずかしながらここに戻ってきたというわけだ」

「……まあ、それはそれとして、私たちは従来の方針通りに作品作りを進めていきましょう」

「はい!」

 ルーシーさんを筆頭に全員が笑顔で頷いてくれた。

「それでは……ん?」

 その時、私は自分の頭に何かが閃いたような感覚を感じる。またこの感覚だ。

「どうかされましたか?」

「い、いえ、ちょ、ちょっとお待ちください! ……すみません! シエさん!」

 会議室を出た私はシエさんという女性の同僚に声をかける。

「なにか?」

「あの倉庫にある何枚かのイラストなんですが……」

「ああ、さっきご覧になっていましたね。全部私が描いたものです」

「! た、例えばですが、小説の挿絵をお願いすることは……」

「良いですよ、私で良ければ」

「や、やった!」

 小説の売り上げの何割かは挿し絵に懸かっていると言っても過言ではない。思わぬ形で神絵師ゲットとなった。
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