28 / 50
第1集
第7話(3)人の世を案じる
しおりを挟む
「ウケません」
私は繰り返す。
「ウ、ウケない……」
「はい」
「い、今、面白いと言っただろう?」
「はい、言いました」
「ならばウケているではないか?」
「いえ、私個人だけにウケても意味がないです」
「意味がないだと?」
「そうです」
「どういうことだ?」
「……広く世間に受け入れられる可能性は薄いです」
私は両手を大げさに広げる。
「何故そう思う?」
「この小説ですが……」
私は原稿を指差す。
「うむ」
「魔族が勇者を倒すというストーリーですね」
「ああ、そうだ」
クラウディアさんが頷く。
「いわゆるアンチヒーローものというジャンルにカテゴライズされると思いますが……」
「……」
「これを面白いと感じる人は少ないと思います」
「そ、そうか?」
「ええ」
「つまりあれか? 世間は勧善懲悪を好むということか?」
「それも大きいです」
「それも?」
クラウディアさんが首を傾げる。
「もう一点気になったことがありまして……」
「もう一点?」
「はい……」
「そ、それはなんだ?」
「……なんというか」
「はっきり言ってくれ!」
「……よろしいのですか?」
「ああ、構わん!」
「……話が単純過ぎます」
「た、単純⁉」
クラウディアさんが再び驚く。
「ええ、単純です」
「こういうのは単純明快な方が良いのではないか⁉」
「ふむ、そういう考え方もありますが……」
「そうだろう! 変にこねくり回すよりも良いはずだ」
「ただ、それにしても……」
「それにしても?」
「もう少しこう……なにか欲しいですね」
「なにかってなんだ⁉」
クラウディアさんが立ち上がる。
「落ち着いて下さい」
「う、うむ……」
クラウディアさんが椅子に座り直す。
「……捻りが欲しいですね」
「捻り⁉」
「そうです」
「捻りとは……」
クラウディアさんが首を捻る。
「まあ、ちょっと話を整理してみましょうか」
「あ、ああ……」
「魔王が勇者を倒すという話……単純で分かりやすいですが、どうも……」
「駄目なのか?」
「駄目というわけではありませんが、言ってみればこれは勇者が魔王を倒すという構図を逆にしただけですよね?」
「ま、まあ、そう言われると……そうかもしれんな」
クラウディアさんが腕を組み直して頷く。
「それではありふれています」
「ありふれている?」
「はい、勧善懲悪が勧悪懲善になっただけですから」
「か、勧悪懲善?」
「ええ、そうです」
「懲らしめられている時点で悪だと思うが……まあ、魔族の我が言うことではないか……」
「とにかく、ありふれています」
「勧悪懲善がありふれているか?」
「はい」
クラウディアさんの問いに私は頷く。
「……そうだろうか?」
「世の中全体の話です。良い人が泣きを見て、悪い奴が笑うというのはよく聞く話です」
「そ、そうなのか?」
「残念ながら……」
私は悲し気に目を伏せる。
「ひ、人の世も色々と荒んでいるのだな……この場合、魔族の我はなんと言えば良いのか分からないが……」
クラウディアさんが複雑な表情を浮かべる。
「……人の世が荒んでいるのだから……」
「うん?」
「喜べば良いんじゃないですか?」
「馬鹿なことを言うな、そこまで堕ちてはいない」
「す、すみません……」
私は慌てて頭を下げる。
「人の世がある程度平穏でなくては困るのだ」
「困る?」
「ああ、小説を出すどころの話ではなくなるだろう?」
「それはまあ……そうですね……」
「そういうことだ」
「えっと……クラウディアさんは……」
「なんだ?」
「人の世の安寧を祈っているのですか?」
「安寧とまで言うと語弊がある気もするが……元気にやってくれていればそれでいい」
「げ、元気にですか?」
「ああ、元気でなければ魔王城にも攻めてこないだろう?」
「だ、だろう?と言われても……」
「退屈なのだ」
「か、簡単に征服出来た方が良いんじゃないですか?」
「多少なりとも歯ごたえが無ければつまらん」
「そ、そういうものですか……」
「そういうものだ」
「はあ……ん?」
その時、私は自分の頭に何かが閃いたような感覚を感じる。またまたまたまたこの感覚だ。
私は繰り返す。
「ウ、ウケない……」
「はい」
「い、今、面白いと言っただろう?」
「はい、言いました」
「ならばウケているではないか?」
「いえ、私個人だけにウケても意味がないです」
「意味がないだと?」
「そうです」
「どういうことだ?」
「……広く世間に受け入れられる可能性は薄いです」
私は両手を大げさに広げる。
「何故そう思う?」
「この小説ですが……」
私は原稿を指差す。
「うむ」
「魔族が勇者を倒すというストーリーですね」
「ああ、そうだ」
クラウディアさんが頷く。
「いわゆるアンチヒーローものというジャンルにカテゴライズされると思いますが……」
「……」
「これを面白いと感じる人は少ないと思います」
「そ、そうか?」
「ええ」
「つまりあれか? 世間は勧善懲悪を好むということか?」
「それも大きいです」
「それも?」
クラウディアさんが首を傾げる。
「もう一点気になったことがありまして……」
「もう一点?」
「はい……」
「そ、それはなんだ?」
「……なんというか」
「はっきり言ってくれ!」
「……よろしいのですか?」
「ああ、構わん!」
「……話が単純過ぎます」
「た、単純⁉」
クラウディアさんが再び驚く。
「ええ、単純です」
「こういうのは単純明快な方が良いのではないか⁉」
「ふむ、そういう考え方もありますが……」
「そうだろう! 変にこねくり回すよりも良いはずだ」
「ただ、それにしても……」
「それにしても?」
「もう少しこう……なにか欲しいですね」
「なにかってなんだ⁉」
クラウディアさんが立ち上がる。
「落ち着いて下さい」
「う、うむ……」
クラウディアさんが椅子に座り直す。
「……捻りが欲しいですね」
「捻り⁉」
「そうです」
「捻りとは……」
クラウディアさんが首を捻る。
「まあ、ちょっと話を整理してみましょうか」
「あ、ああ……」
「魔王が勇者を倒すという話……単純で分かりやすいですが、どうも……」
「駄目なのか?」
「駄目というわけではありませんが、言ってみればこれは勇者が魔王を倒すという構図を逆にしただけですよね?」
「ま、まあ、そう言われると……そうかもしれんな」
クラウディアさんが腕を組み直して頷く。
「それではありふれています」
「ありふれている?」
「はい、勧善懲悪が勧悪懲善になっただけですから」
「か、勧悪懲善?」
「ええ、そうです」
「懲らしめられている時点で悪だと思うが……まあ、魔族の我が言うことではないか……」
「とにかく、ありふれています」
「勧悪懲善がありふれているか?」
「はい」
クラウディアさんの問いに私は頷く。
「……そうだろうか?」
「世の中全体の話です。良い人が泣きを見て、悪い奴が笑うというのはよく聞く話です」
「そ、そうなのか?」
「残念ながら……」
私は悲し気に目を伏せる。
「ひ、人の世も色々と荒んでいるのだな……この場合、魔族の我はなんと言えば良いのか分からないが……」
クラウディアさんが複雑な表情を浮かべる。
「……人の世が荒んでいるのだから……」
「うん?」
「喜べば良いんじゃないですか?」
「馬鹿なことを言うな、そこまで堕ちてはいない」
「す、すみません……」
私は慌てて頭を下げる。
「人の世がある程度平穏でなくては困るのだ」
「困る?」
「ああ、小説を出すどころの話ではなくなるだろう?」
「それはまあ……そうですね……」
「そういうことだ」
「えっと……クラウディアさんは……」
「なんだ?」
「人の世の安寧を祈っているのですか?」
「安寧とまで言うと語弊がある気もするが……元気にやってくれていればそれでいい」
「げ、元気にですか?」
「ああ、元気でなければ魔王城にも攻めてこないだろう?」
「だ、だろう?と言われても……」
「退屈なのだ」
「か、簡単に征服出来た方が良いんじゃないですか?」
「多少なりとも歯ごたえが無ければつまらん」
「そ、そういうものですか……」
「そういうものだ」
「はあ……ん?」
その時、私は自分の頭に何かが閃いたような感覚を感じる。またまたまたまたこの感覚だ。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

友人Aの俺は女主人公を助けたらハーレムを築いていた
山田空
ファンタジー
友人Aに転生した俺は筋肉で全てを凌駕し鬱ゲー世界をぶち壊す
絶対に報われない鬱ゲーというキャッチコピーで売り出されていたゲームを買った俺はそのゲームの主人公に惚れてしまう。
ゲームの女主人公が報われてほしいそう思う。
だがもちろん報われることはなく友人は死ぬし助けてくれて恋人になったやつに裏切られていじめを受ける。
そしてようやく努力が報われたかと思ったら最後は主人公が車にひかれて死ぬ。
……1ミリも報われてねえどころかゲームをする前の方が報われてたんじゃ。
そう考えてしまうほど報われない鬱ゲーの友人キャラに俺は転生してしまった。
俺が転生した山田啓介は第1章のラストで殺される不幸の始まりとされるキャラクターだ。
最初はまだ楽しそうな雰囲気があったが山田啓介が死んだことで雰囲気が変わり鬱ゲーらしくなる。
そんな友人Aに転生した俺は半年を筋トレに費やす。
俺は女主人公を影で助ける。
そしたらいつのまにか俺の周りにはハーレムが築かれていて

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~
ma-no
ファンタジー
神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。
その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。
世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。
そして何故かハンターになって、王様に即位!?
この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。
注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。
R指定は念の為です。
登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。
「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。
一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~
さとう
ファンタジー
町の電気工事士であり、なんでも屋でもある織田玄徳は、仕事をそこそこやりつつ自由な暮らしをしていた。
結婚は人生の墓場……父親が嫁さんで苦労しているのを見て育ったため、結婚して子供を作り幸せな家庭を作るという『呪いの言葉』を嫌悪し、生涯独身、自分だけのために稼いだ金を使うと決め、独身生活を満喫。趣味の釣り、バイク、キャンプなどを楽しみつつ、人生を謳歌していた。
そんなある日。電気工事の仕事で感電死……まだまだやりたいことがあったのにと嘆くと、なんと異世界転生していた!!
これは、異世界で工務店の仕事をしながら、異世界で独身生活を満喫するおじさんの物語。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる