24 / 50
第1集
第6話(3)ふっわふっわナイト
しおりを挟む
「なんというか、文章全体からにじみ出てきています。嘘っぽさが」
私は説明する。
「う、嘘っぽさ……」
「はい」
「そ、それはなにか問題があるのか?」
「え?」
ザビーネさんの問いに私は首を捻る。
「小説とはいわばフィクションだろう?」
「まあ、そうですね」
私は頷く。
「であれば、嘘っぽくても良いのではないか?」
「それは確かにそうかもしれません。ですが……」
「ですが?」
「多少なりともリアリティというものは欲しいです」
「多少なりとも……」
「そうです。読み手、読者はそういうものを敏感に察知します。『ああ、この作者はほぼ想像で書いているな』と……」
「そ、想像の翼をいくらでも広げられるのが、小説の良いところではないのか⁉」
ザビーネさんが両手を広げて声を上げる。
「いくらでもと言っても、限度というものがあります」
「限度?」
「はい。少し本当のこと、あるいは本当っぽいことを混ぜ込んでおかないとおかしなことになってしまいます」
「む……」
「例えば、ザビーネさん……」
「な、なんだ……」
「その剣……」
私はザビーネさんの腰にある剣を指差す。
「こ、これがどうかしたのか?」
「剣というものを扱うのには技術が要りますよね?」
「あ、ああ、剣術だな」
「そう。剣術には基礎となる型というものがありますよね?」
「そ、そうだな……」
「その基礎をベースにして、騎士の方、または勇者や剣士の方はそれぞれの戦い方を見出していくわけではないですか?」
「ま、まあ、概ねそうだな……」
「だけど、基礎がなっていないと戦い方を磨き上げられない……強くはなれない」
「う、うむ……」
「それと同じです」
「お、同じだろうか?」
私の言葉にザビーネさんは腕を組む。
「大体ですけどね」
「だ、大体って……」
「まあ、結局私がなにを言いたいのかというと……」
「む……」
「こちらの原稿には……」
私はザビーネさんの原稿を指差す。
「原稿には?」
「その基礎がなっていないため、ふわふわしています」
「ふ、ふわふわしている⁉」
「はい、もう、ふっわふっわです」
「ふっわふっわ⁉」
ザビーネさんは私の言葉を反芻する。
「申し上げにくいですが……これではとても……」
「……では」
「はい?」
「どうすれば良いのだ⁉」
ザビーネさんが立ち上がる。鎧がカチャカチャと鳴る。
「ちょっと、落ち着いて下さい……」
「これが落ち着いていられようか!」
「そこをなんとか……どうぞお座り下さい」
「……」
私はザビーネさんを座らせる。少し間を空けてから話を再開する。
「問題点を洗い出しながら解決していきましょう」
「洗い出す?」
「はい、まずはこの嘘っぽさがどこから来るのか……」
「ふむ……」
「それが一番難しいのですが……」
私は思わず苦笑を浮かべる。ザビーネさんは再び腕を組む。
「うむ……」
「この小説は……主人公がパーティーをクビになるところから始まりますね」
「ああ、そうだ」
「いわゆる『追放系』というジャンルにカテゴライズされるものですね」
「そうなるな……」
「……ザビーネさん」
私はザビーネさんをじっと見つめる。ザビーネさんが戸惑う。
「な、なんだ……」
「追放されたご経験は?」
「あるわけないだろう!」
「ふっわふっわナイト!」
私はザビーネさんを指差す。ザビーネさんが再度驚く。
「ええっ⁉」
「失礼しました……」
私は人差し指を静かに引っ込める。ザビーネさんが不思議そうに尋ねてくる。
「ふっわふっわナイトとは……?」
「それは忘れて下さい……しかし、問題点が早速ですが明らかになりました」
「ええ……?」
「ザビーネさん、騎士団にはいつから……?」
「十の誕生日を迎えるころには在籍していた。正式な団員になったのは十三の誕生日か」
「……剣術の腕には相当な自信が?」
「当たり前だ。月に一回模擬戦を行うが、ここ数年は負けた記憶が無いな」
「それはすごいですね……そのお若さで部隊長を任せられるということはかなり優秀な頭脳を持っていらっしゃるのではと推察しますが……」
「自慢ではないが、騎士団内にとどまらず、文官たちの養成学校の試験を受けたことがあるが、どの教科もほぼ満点だったな」
「……ここだけの話、部隊長とは具体的にどの部隊を任せられることになるのですか?」
「機密事項なのだが……人の口に戸は立てられぬだろうな。どうせすぐに分かることだろう。王女様の護衛部隊を仰せつかった」
「ハイスペック! 追放云々とは無縁過ぎる!」
私はたまらず天を仰いで声を上げる。ザビーネさんは戸惑う。
「えっ⁉ な、なんだって……」
「いえ、こちらの話です……しかし、あれですね」
「あれとは?」
ザビーネさんが首を傾げる。
「ザビーネさんは追放系を書くのを止めた方がよろしいです」
「そ、そんな! それではどうすれば良いのだ?」
「う~ん、文体はソフトなんですよね……ん?」
その時、私は自分の頭に何かが閃いたような感覚を感じる。またまたまたこの感覚だ。
私は説明する。
「う、嘘っぽさ……」
「はい」
「そ、それはなにか問題があるのか?」
「え?」
ザビーネさんの問いに私は首を捻る。
「小説とはいわばフィクションだろう?」
「まあ、そうですね」
私は頷く。
「であれば、嘘っぽくても良いのではないか?」
「それは確かにそうかもしれません。ですが……」
「ですが?」
「多少なりともリアリティというものは欲しいです」
「多少なりとも……」
「そうです。読み手、読者はそういうものを敏感に察知します。『ああ、この作者はほぼ想像で書いているな』と……」
「そ、想像の翼をいくらでも広げられるのが、小説の良いところではないのか⁉」
ザビーネさんが両手を広げて声を上げる。
「いくらでもと言っても、限度というものがあります」
「限度?」
「はい。少し本当のこと、あるいは本当っぽいことを混ぜ込んでおかないとおかしなことになってしまいます」
「む……」
「例えば、ザビーネさん……」
「な、なんだ……」
「その剣……」
私はザビーネさんの腰にある剣を指差す。
「こ、これがどうかしたのか?」
「剣というものを扱うのには技術が要りますよね?」
「あ、ああ、剣術だな」
「そう。剣術には基礎となる型というものがありますよね?」
「そ、そうだな……」
「その基礎をベースにして、騎士の方、または勇者や剣士の方はそれぞれの戦い方を見出していくわけではないですか?」
「ま、まあ、概ねそうだな……」
「だけど、基礎がなっていないと戦い方を磨き上げられない……強くはなれない」
「う、うむ……」
「それと同じです」
「お、同じだろうか?」
私の言葉にザビーネさんは腕を組む。
「大体ですけどね」
「だ、大体って……」
「まあ、結局私がなにを言いたいのかというと……」
「む……」
「こちらの原稿には……」
私はザビーネさんの原稿を指差す。
「原稿には?」
「その基礎がなっていないため、ふわふわしています」
「ふ、ふわふわしている⁉」
「はい、もう、ふっわふっわです」
「ふっわふっわ⁉」
ザビーネさんは私の言葉を反芻する。
「申し上げにくいですが……これではとても……」
「……では」
「はい?」
「どうすれば良いのだ⁉」
ザビーネさんが立ち上がる。鎧がカチャカチャと鳴る。
「ちょっと、落ち着いて下さい……」
「これが落ち着いていられようか!」
「そこをなんとか……どうぞお座り下さい」
「……」
私はザビーネさんを座らせる。少し間を空けてから話を再開する。
「問題点を洗い出しながら解決していきましょう」
「洗い出す?」
「はい、まずはこの嘘っぽさがどこから来るのか……」
「ふむ……」
「それが一番難しいのですが……」
私は思わず苦笑を浮かべる。ザビーネさんは再び腕を組む。
「うむ……」
「この小説は……主人公がパーティーをクビになるところから始まりますね」
「ああ、そうだ」
「いわゆる『追放系』というジャンルにカテゴライズされるものですね」
「そうなるな……」
「……ザビーネさん」
私はザビーネさんをじっと見つめる。ザビーネさんが戸惑う。
「な、なんだ……」
「追放されたご経験は?」
「あるわけないだろう!」
「ふっわふっわナイト!」
私はザビーネさんを指差す。ザビーネさんが再度驚く。
「ええっ⁉」
「失礼しました……」
私は人差し指を静かに引っ込める。ザビーネさんが不思議そうに尋ねてくる。
「ふっわふっわナイトとは……?」
「それは忘れて下さい……しかし、問題点が早速ですが明らかになりました」
「ええ……?」
「ザビーネさん、騎士団にはいつから……?」
「十の誕生日を迎えるころには在籍していた。正式な団員になったのは十三の誕生日か」
「……剣術の腕には相当な自信が?」
「当たり前だ。月に一回模擬戦を行うが、ここ数年は負けた記憶が無いな」
「それはすごいですね……そのお若さで部隊長を任せられるということはかなり優秀な頭脳を持っていらっしゃるのではと推察しますが……」
「自慢ではないが、騎士団内にとどまらず、文官たちの養成学校の試験を受けたことがあるが、どの教科もほぼ満点だったな」
「……ここだけの話、部隊長とは具体的にどの部隊を任せられることになるのですか?」
「機密事項なのだが……人の口に戸は立てられぬだろうな。どうせすぐに分かることだろう。王女様の護衛部隊を仰せつかった」
「ハイスペック! 追放云々とは無縁過ぎる!」
私はたまらず天を仰いで声を上げる。ザビーネさんは戸惑う。
「えっ⁉ な、なんだって……」
「いえ、こちらの話です……しかし、あれですね」
「あれとは?」
ザビーネさんが首を傾げる。
「ザビーネさんは追放系を書くのを止めた方がよろしいです」
「そ、そんな! それではどうすれば良いのだ?」
「う~ん、文体はソフトなんですよね……ん?」
その時、私は自分の頭に何かが閃いたような感覚を感じる。またまたまたこの感覚だ。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
友人Aの俺は女主人公を助けたらハーレムを築いていた
山田空
ファンタジー
友人Aに転生した俺は筋肉で全てを凌駕し鬱ゲー世界をぶち壊す
絶対に報われない鬱ゲーというキャッチコピーで売り出されていたゲームを買った俺はそのゲームの主人公に惚れてしまう。
ゲームの女主人公が報われてほしいそう思う。
だがもちろん報われることはなく友人は死ぬし助けてくれて恋人になったやつに裏切られていじめを受ける。
そしてようやく努力が報われたかと思ったら最後は主人公が車にひかれて死ぬ。
……1ミリも報われてねえどころかゲームをする前の方が報われてたんじゃ。
そう考えてしまうほど報われない鬱ゲーの友人キャラに俺は転生してしまった。
俺が転生した山田啓介は第1章のラストで殺される不幸の始まりとされるキャラクターだ。
最初はまだ楽しそうな雰囲気があったが山田啓介が死んだことで雰囲気が変わり鬱ゲーらしくなる。
そんな友人Aに転生した俺は半年を筋トレに費やす。
俺は女主人公を影で助ける。
そしたらいつのまにか俺の周りにはハーレムが築かれていて
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
一級警備員の俺が異世界転生したら一流警備兵になったけど色々と勧誘されて鬱陶しい
司真 緋水銀
ファンタジー
【あらすじ】
一級の警備資格を持つ不思議系マイペース主人公、石原鳴月維(いしはらなつい)は仕事中トラックに轢かれ死亡する。
目を覚ました先は勇者と魔王の争う異世界。
『職業』の『天職』『適職』などにより『資格(センス)』や『技術(スキル)』が決まる世界。
勇者の力になるべく喚ばれた石原の職業は……【天職の警備兵】
周囲に笑いとばされ勇者達にもつま弾きにされた石原だったが…彼はあくまでマイペースに徐々に力を発揮し、周囲を驚嘆させながら自由に生き抜いていく。
--------------------------------------------------------
※基本主人公視点ですが別の人視点も入ります。
改修した改訂版でセリフや分かりにくい部分など変更しました。
小説家になろうさんで先行配信していますのでこちらも応援していただくと嬉しいですっ!
https://ncode.syosetu.com/n7300fi/
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
ヴァイオリン辺境伯の優雅で怠惰なスローライフ〜悪役令息として追放された魔境でヴァイオリン練習し
西園寺わかば🌱
ファンタジー
「お前を追放する——!」
乙女のゲーム世界に転生したオーウェン。成績優秀で伯爵貴族だった彼は、ヒロインの行動を咎めまったせいで、悪者にされ、辺境へ追放されてしまう。
隣は魔物の森と恐れられ、冒険者が多い土地——リオンシュタットに飛ばされてしまった彼だが、戦いを労うために、冒険者や、騎士などを森に集め、ヴァイオリンのコンサートをする事にした。
「もうその発想がぶっ飛んでるんですが——!というか、いつの間に、コンサート会場なんて作ったのですか!?」
規格外な彼に戸惑ったのは彼らだけではなく、森に住む住民達も同じようで……。
「なんだ、この音色!透き通ってて美味え!」「ほんとほんと!」
◯カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました。
◯この話はフィクションです。
◯未成年飲酒する場面がありますが、未成年飲酒を容認・推奨するものでは、ありません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ライカ
こま
ファンタジー
昔懐かしいRPGをノベライズしたような物語。世界がやばいとなったら動かずにいられない主人公がいるものです。
こんな時には再び降臨して世界を救うとの伝承の天使が一向に現れない!世界を救うなんて力はないけど、何もせずに救いを祈るあんて性に合わないから天使を探すことしました!
困っているひとがいれば助けちゃうのに、他者との間に壁があるライカ。彼女の矛盾も原動力も、世界を襲う災禍に迫るほどに解き明かされていきます。
ゲーム一本遊んだ気になってくれたら本望です!
書いた順でいうと一番古い作品です。拙い面もあるでしょうが生温かく見守ってください。
また、挿話として本編を書いた当時には無かった追加エピソードをだいたい時系列に沿って入れています。挿話は飛ばしても本編に影響はありません。
宇宙戦争時代の科学者、異世界へ転生する【創世の大賢者】
赤い獅子舞のチャァ
ファンタジー
主人公、エリー・ナカムラは、3500年代生まれの元アニオタ。
某アニメの時代になっても全身義体とかが無かった事で、自分で開発する事を決意し、気付くと最恐のマッドになって居た。
全身義体になったお陰で寿命から開放されていた彼女は、ちょっとしたウッカリからその人生を全うしてしまう事と成り、気付くと知らない世界へ転生を果たして居た。
自称神との会話内容憶えてねーけど科学知識とアニメ知識をフルに使って異世界を楽しんじゃえ!
宇宙最恐のマッドが異世界を魔改造!
異世界やり過ぎコメディー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる