【第1章完】スキル【編集】を駆使して異世界の方々に小説家になってもらおう!

阿弥陀乃トンマージ

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第1集

第5話(4)サキュバスの考え

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 私は頷く。

「うん、それが良いかと思います」

「良くないわよ!」

 ヘレンさんが声を上げる。私は訂正する。

「断言するのは言い過ぎました。しかし、検討の余地はあると思います」

「検討の余地って……」

「見方や考え方を変えると、また違ったアイディアが浮かんでくるかなと……」

「違ったアイディア? 例えば何かあるの?」

「そうですね……」

 私は腕を組んで考える。

「……」

「ホラーとかどうでしょうか?」

「嫌よ」

「どうして?」

「アタシ怖いの苦手だもの。夜とか一人で出歩きたくないわ」

 悪魔なのに?という言葉を飲み込んで提案を続ける。

「……昼間のホラーというのはどうですか? 明るいところに忍び寄る恐怖というか……」

「怖いの苦手だって言ったでしょ」

「そこをなんとか」

「なんとかって言われても無理よ」

「むう……」

「それにそれはなかなか難しいじゃない。それなら素直に夜の話にした方が良いわ」

「いや、やっぱり夜は避けましょう」

「どうしてよ?」

「エロくなってしまう恐れがあるからです」

「どんな恐れよ!」

「とにかくホラーは無しです」

「自分から言っておいて……」

「すみません。ヘレンさんは何かありませんか?」

「え?」

「ご自分の興味のあるジャンルとか……」

「そうね……」

 ヘレンさんが考え込む。私も黙る。

「………」

「……ファンタジーとか?」

「ファンタジー?」

「ええ、壮大な冒険譚とか、良い感じじゃない?」

「なるほど、若い層にアピール出来そうですね……」

「でしょ?」

「ただ、ちょっと待って下さい……」

「なによ?」

「多くの種族が出てきますよね?」

「まあ、そうなるでしょうね……」

「異種族間の交流も生まれると……」

「そういうシーンも出てくるかもね……」

「やっぱり、ちょっと、エロいですね、それは……」

「考えすぎなのよ!」

「ファンタジーは無し……と」

「話を進めないでよ!」

「では……ミステリーなどはどうでしょうか?」

「ミステリー?」

「名探偵が殺人事件などを解決していくのです」

「怖いの嫌って言ったでしょ」

「しかし、人気のジャンルということはご存知でしょう?」

「それはまあね……」

「一作ヒットすれば、名探偵をレギュラー主人公にしてシリーズ化も見込めます!」

「ああ、それは良いかもしれないわね……」

 ヘレンさんが興味を示す。私は頷く。

「良いでしょう?」

「でも……ああいうのってトリックを考えないといけないじゃない。そういうのアタシには無理よ、ハードルが高すぎるわ」

「細かいところは犯人が魔力でどうにかしたっていうことにすれば良いんですよ」

「そ、そんな適当で良いの⁉」

「大胆な省略をすることも時には必要ですよ」

「大胆過ぎないかしら?」

「まあ、ちょっと考えてみましょう……外界との連絡手段が遮断された海に浮かぶ小島」

「怖そうね……」

「最初の事件が起こり、自分たちの中に犯人がいるということを推理した主人公は広いリビングで皆一緒になって一晩を過ごそうと提案します」

「ああ、なんか良く聞く展開かも?」

「『犯人と一晩過ごすなんて冗談じゃない! 私は部屋に戻らせてもらう!』と言って、自分の部屋に戻った男……翌朝、その男も死体となっていて……」

「ああ、ありがちな展開!」

「ここからちょっと一捻り……」

「ちょっとって何よ!」

「そこら辺はお任せします」

「考えるのが面倒になったんでしょう!」

「ただ、やっぱりこれも無しですかね……」

「ええ?」

「夜の密室、複数の男女、何も起こらないはずがなく……」

「無理やりエロい方向に持っていかなくて良いのよ!」

「いや~やっぱりどうしても……」

「どうしてもじゃないのよ!」

「ミステリーも無しですね~これは参った!」

 私は頭を抱える。ヘレンさんが口を開く。

「う~ん、空想科学は?」

「空想科学ですか?」

「ええ、魔女とも呼ばれるアタシが科学を題材にするの、面白い化学反応が期待出来そうじゃないかしら? どう?」

「う~ん、却下!」

「そ、即答! なんで⁉」

「空想科学……SFですよね」

「そ、そうね……」

「どうしてもSMがちらついてしまうのでダメです!」

「あなた発想がエロガキ過ぎるのよ!」

「ガキ? 子供? そうだ! これだ!」

「な、なによ……」

「エロ本! もとい絵本です!」

「え、絵本⁉」

「心温まるようなハートウォーミングな話を書くんです。そこにはエロが介在する余地はほとんどありません!」

「そ、そうかしら……でも子供向きでしょう?」

「子供向きだからと言って侮るなかれ! 子供はしょうもないものはすぐ見抜く、非常にシビアな読者です! 逆に言えば、思っている以上に読み込んでくれます。ヘレンさんが望む、登場キャラ同士の心の交流や、キャラの心の機微も読み取ってくれるかと思います!」

「ふ、ふ~ん……まあ、絵本でひとつチャレンジしてみるわ」

「よろしくお願いします」

 私は頭を下げる。打ち合わせはどうにかこうにかうまくいったようだ。

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