【第1章完】スキル【編集】を駆使して異世界の方々に小説家になってもらおう!

阿弥陀乃トンマージ

文字の大きさ
上 下
19 / 50
第1集

第5話(2)溢れちゃう

しおりを挟む
「あ……お、お願いします……」

「あ、すみません。初めまして……」

「は、初めまして……」

 女性が露骨に戸惑っている。

「失礼しました、どうぞおかけ下さい……」

 私は座るように促す。

「は、はい……」

「お名前をお伺いしても?」

「ヘレンです……」

「お住まいはどちらに?」

「一応、この街です」

「……はい、確認しました。えっと、ヘレンさんは……」

「はい」

「えっと……」

 私はどうにももぞもぞしてしまう。なんとも言えない気持ちになって落ち着かないのだ。

「ごめんなさい、力は抑えているつもりなのだけど……」

 女性は長いまつ毛が特徴的な目を伏せる。どうせなら、その大胆に開いた胸元やおへそ、太ももの露出を抑えて欲しいものだ。豊満な身体と美しい顔立ちに目を、妖艶な雰囲気に心を奪われてしまう。

「えっと……力というのは……?」

「サキュバスの持つ魔力よ」

「サ、サキュバス……」

 そう、今私の目の前に座っているのは背中に黒く短い翼を、頭に短い角を生やし、全身を下着同然の恰好――ニッポンにいた時の記憶を思い起こすと、ボンテージという種類のようだ――に身を包んだ悪魔的存在である。

「どうしても溢れちゃうのよね……」

「え?」

「魔力」

「あ、ああ……」

「ごめんなさいね」

「い、いえ、別に、全然構いませんよ……」

「そう?」

「ええ」

「でもあなた、もぞもぞしちゃっているじゃない」

「え?」

「なんだか落ち着かない感じよ?」

 ヘレンさんが私のことを指差す。

「い、いや、こ、これはいつものことですから」

「いつものこと?」

「ええ、発作のようなものです」

「だ、大丈夫なの?」

「じ、直に治まりますから……」

「そ、そうなの?」

「そ、そうです……」

「それなら良いけど……」

「あ、失礼、順序が逆になりました……」

 席に着く前に私は名刺をヘレンさんに渡す。

「モリ=ペガサスちゃん……」

「ええ、モリとお呼び下さい」

「……ひとつ聞いても良いかしら?」

「どうぞ」

「……モリちゃんはニッポンからの転移者っていうのは本当?」

「ああ、はい」

 すっかり慣れたことなので、私は頷く。

「へえ……。アタシ、転移者の方を初めて見たかもしれないわ」

 ヘレンさんはこちらを興味深そうに見てくる。その視線がどうにも艶めかしい。

「そ、そうですか……サキュバスの方にも知られているとは……」

「ええ、結構な噂になっているわよ、カクヤマ書房さんにそういう編集さんがいらっしゃるって。サキュバスは珍しいものが好きだから」

 ヘレンさんはそう言って笑う。微笑みひとつとっても妖艶だ。

「そ、そうですか……で、あればですね……ごほん」

 私は咳払いをひとつ入れる。ヘレンさんが首を傾げる。

「?」

「ここがカクカワ書店ではなく、カクヤマ書房だということはご承知なのですね?」

「それはもちろんよ」

 もはや毎回のこととなりつつあるが、後で知らなかったと言われても、こちらとしても困ってしまうので、このことに関してはきちんと確認をとっておかなければならない。私は重ねて尋ねる。

「それでは、ヘレンさんは我が社のレーベルから小説を出版することになっても構わないということですね?」

「ええ。原稿を間違って送っちゃったのはこちらの手違いなわけだから。こうして声をかけてもらったのも一つのご縁なのかなと思って」

「ふむ、そうですか……」

「はい」

 前向きに捉えてくれているのはこちらとしても本当にありがたいことだ。私はヘレンさんの送ってきた原稿を取り出して、机の上に置く。

「……それでは早速になりますが、打ち合わせを始めましょう」

「ええ、お願いするわ」

 ヘレンさんが長い脚を組み替える。目を奪われそうになるが、グッと堪えて話を始める。

「えっと、原稿を読ませて頂いたのですが……」

「ええ……」

「なんというか……」

「?」

「率直に言いまして……」

「……」

「なかなか面白かったです」

「本当?」

「はい」

「それは良かったわ……」

 ヘレンさんがほっとしたように胸をなでおろす。指先が胸に振れ、下着からこぼれ落ちそうになるのに目が釘付けになりそうになるが、すぐに目を逸らす。

「テンポが良くて、とても読みやすかったです」

「そう」

「ただですね……」

「ただ?」

「う~ん、なんと言ったら良いのか……」

「………」

「…………」

「……………」

「……どうぞ、遠慮なく言ってちょうだい」

 ヘレンさんが話しの続きを促してくる。私は尋ねる。

「遠慮なくですか?」

「ええ、もちろんよ」

「では、ストレートに言いますが……」

「うん」

「エロ過ぎます」

「はっ⁉」

 ヘレンさんは驚く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友人Aの俺は女主人公を助けたらハーレムを築いていた

山田空
ファンタジー
友人Aに転生した俺は筋肉で全てを凌駕し鬱ゲー世界をぶち壊す 絶対に報われない鬱ゲーというキャッチコピーで売り出されていたゲームを買った俺はそのゲームの主人公に惚れてしまう。 ゲームの女主人公が報われてほしいそう思う。 だがもちろん報われることはなく友人は死ぬし助けてくれて恋人になったやつに裏切られていじめを受ける。 そしてようやく努力が報われたかと思ったら最後は主人公が車にひかれて死ぬ。 ……1ミリも報われてねえどころかゲームをする前の方が報われてたんじゃ。 そう考えてしまうほど報われない鬱ゲーの友人キャラに俺は転生してしまった。 俺が転生した山田啓介は第1章のラストで殺される不幸の始まりとされるキャラクターだ。 最初はまだ楽しそうな雰囲気があったが山田啓介が死んだことで雰囲気が変わり鬱ゲーらしくなる。 そんな友人Aに転生した俺は半年を筋トレに費やす。 俺は女主人公を影で助ける。 そしたらいつのまにか俺の周りにはハーレムが築かれていて

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~

さとう
ファンタジー
 町の電気工事士であり、なんでも屋でもある織田玄徳は、仕事をそこそこやりつつ自由な暮らしをしていた。  結婚は人生の墓場……父親が嫁さんで苦労しているのを見て育ったため、結婚して子供を作り幸せな家庭を作るという『呪いの言葉』を嫌悪し、生涯独身、自分だけのために稼いだ金を使うと決め、独身生活を満喫。趣味の釣り、バイク、キャンプなどを楽しみつつ、人生を謳歌していた。  そんなある日。電気工事の仕事で感電死……まだまだやりたいことがあったのにと嘆くと、なんと異世界転生していた!!  これは、異世界で工務店の仕事をしながら、異世界で独身生活を満喫するおじさんの物語。

ライカ

こま
ファンタジー
昔懐かしいRPGをノベライズしたような物語。世界がやばいとなったら動かずにいられない主人公がいるものです。 こんな時には再び降臨して世界を救うとの伝承の天使が一向に現れない!世界を救うなんて力はないけど、何もせずに救いを祈るあんて性に合わないから天使を探すことしました! 困っているひとがいれば助けちゃうのに、他者との間に壁があるライカ。彼女の矛盾も原動力も、世界を襲う災禍に迫るほどに解き明かされていきます。 ゲーム一本遊んだ気になってくれたら本望です! 書いた順でいうと一番古い作品です。拙い面もあるでしょうが生温かく見守ってください。 また、挿話として本編を書いた当時には無かった追加エピソードをだいたい時系列に沿って入れています。挿話は飛ばしても本編に影響はありません。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

処理中です...