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第1集
第5話(2)溢れちゃう
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「あ……お、お願いします……」
「あ、すみません。初めまして……」
「は、初めまして……」
女性が露骨に戸惑っている。
「失礼しました、どうぞおかけ下さい……」
私は座るように促す。
「は、はい……」
「お名前をお伺いしても?」
「ヘレンです……」
「お住まいはどちらに?」
「一応、この街です」
「……はい、確認しました。えっと、ヘレンさんは……」
「はい」
「えっと……」
私はどうにももぞもぞしてしまう。なんとも言えない気持ちになって落ち着かないのだ。
「ごめんなさい、力は抑えているつもりなのだけど……」
女性は長いまつ毛が特徴的な目を伏せる。どうせなら、その大胆に開いた胸元やおへそ、太ももの露出を抑えて欲しいものだ。豊満な身体と美しい顔立ちに目を、妖艶な雰囲気に心を奪われてしまう。
「えっと……力というのは……?」
「サキュバスの持つ魔力よ」
「サ、サキュバス……」
そう、今私の目の前に座っているのは背中に黒く短い翼を、頭に短い角を生やし、全身を下着同然の恰好――ニッポンにいた時の記憶を思い起こすと、ボンテージという種類のようだ――に身を包んだ悪魔的存在である。
「どうしても溢れちゃうのよね……」
「え?」
「魔力」
「あ、ああ……」
「ごめんなさいね」
「い、いえ、別に、全然構いませんよ……」
「そう?」
「ええ」
「でもあなた、もぞもぞしちゃっているじゃない」
「え?」
「なんだか落ち着かない感じよ?」
ヘレンさんが私のことを指差す。
「い、いや、こ、これはいつものことですから」
「いつものこと?」
「ええ、発作のようなものです」
「だ、大丈夫なの?」
「じ、直に治まりますから……」
「そ、そうなの?」
「そ、そうです……」
「それなら良いけど……」
「あ、失礼、順序が逆になりました……」
席に着く前に私は名刺をヘレンさんに渡す。
「モリ=ペガサスちゃん……」
「ええ、モリとお呼び下さい」
「……ひとつ聞いても良いかしら?」
「どうぞ」
「……モリちゃんはニッポンからの転移者っていうのは本当?」
「ああ、はい」
すっかり慣れたことなので、私は頷く。
「へえ……。アタシ、転移者の方を初めて見たかもしれないわ」
ヘレンさんはこちらを興味深そうに見てくる。その視線がどうにも艶めかしい。
「そ、そうですか……サキュバスの方にも知られているとは……」
「ええ、結構な噂になっているわよ、カクヤマ書房さんにそういう編集さんがいらっしゃるって。サキュバスは珍しいものが好きだから」
ヘレンさんはそう言って笑う。微笑みひとつとっても妖艶だ。
「そ、そうですか……で、あればですね……ごほん」
私は咳払いをひとつ入れる。ヘレンさんが首を傾げる。
「?」
「ここがカクカワ書店ではなく、カクヤマ書房だということはご承知なのですね?」
「それはもちろんよ」
もはや毎回のこととなりつつあるが、後で知らなかったと言われても、こちらとしても困ってしまうので、このことに関してはきちんと確認をとっておかなければならない。私は重ねて尋ねる。
「それでは、ヘレンさんは我が社のレーベルから小説を出版することになっても構わないということですね?」
「ええ。原稿を間違って送っちゃったのはこちらの手違いなわけだから。こうして声をかけてもらったのも一つのご縁なのかなと思って」
「ふむ、そうですか……」
「はい」
前向きに捉えてくれているのはこちらとしても本当にありがたいことだ。私はヘレンさんの送ってきた原稿を取り出して、机の上に置く。
「……それでは早速になりますが、打ち合わせを始めましょう」
「ええ、お願いするわ」
ヘレンさんが長い脚を組み替える。目を奪われそうになるが、グッと堪えて話を始める。
「えっと、原稿を読ませて頂いたのですが……」
「ええ……」
「なんというか……」
「?」
「率直に言いまして……」
「……」
「なかなか面白かったです」
「本当?」
「はい」
「それは良かったわ……」
ヘレンさんがほっとしたように胸をなでおろす。指先が胸に振れ、下着からこぼれ落ちそうになるのに目が釘付けになりそうになるが、すぐに目を逸らす。
「テンポが良くて、とても読みやすかったです」
「そう」
「ただですね……」
「ただ?」
「う~ん、なんと言ったら良いのか……」
「………」
「…………」
「……………」
「……どうぞ、遠慮なく言ってちょうだい」
ヘレンさんが話しの続きを促してくる。私は尋ねる。
「遠慮なくですか?」
「ええ、もちろんよ」
「では、ストレートに言いますが……」
「うん」
「エロ過ぎます」
「はっ⁉」
ヘレンさんは驚く。
「あ、すみません。初めまして……」
「は、初めまして……」
女性が露骨に戸惑っている。
「失礼しました、どうぞおかけ下さい……」
私は座るように促す。
「は、はい……」
「お名前をお伺いしても?」
「ヘレンです……」
「お住まいはどちらに?」
「一応、この街です」
「……はい、確認しました。えっと、ヘレンさんは……」
「はい」
「えっと……」
私はどうにももぞもぞしてしまう。なんとも言えない気持ちになって落ち着かないのだ。
「ごめんなさい、力は抑えているつもりなのだけど……」
女性は長いまつ毛が特徴的な目を伏せる。どうせなら、その大胆に開いた胸元やおへそ、太ももの露出を抑えて欲しいものだ。豊満な身体と美しい顔立ちに目を、妖艶な雰囲気に心を奪われてしまう。
「えっと……力というのは……?」
「サキュバスの持つ魔力よ」
「サ、サキュバス……」
そう、今私の目の前に座っているのは背中に黒く短い翼を、頭に短い角を生やし、全身を下着同然の恰好――ニッポンにいた時の記憶を思い起こすと、ボンテージという種類のようだ――に身を包んだ悪魔的存在である。
「どうしても溢れちゃうのよね……」
「え?」
「魔力」
「あ、ああ……」
「ごめんなさいね」
「い、いえ、別に、全然構いませんよ……」
「そう?」
「ええ」
「でもあなた、もぞもぞしちゃっているじゃない」
「え?」
「なんだか落ち着かない感じよ?」
ヘレンさんが私のことを指差す。
「い、いや、こ、これはいつものことですから」
「いつものこと?」
「ええ、発作のようなものです」
「だ、大丈夫なの?」
「じ、直に治まりますから……」
「そ、そうなの?」
「そ、そうです……」
「それなら良いけど……」
「あ、失礼、順序が逆になりました……」
席に着く前に私は名刺をヘレンさんに渡す。
「モリ=ペガサスちゃん……」
「ええ、モリとお呼び下さい」
「……ひとつ聞いても良いかしら?」
「どうぞ」
「……モリちゃんはニッポンからの転移者っていうのは本当?」
「ああ、はい」
すっかり慣れたことなので、私は頷く。
「へえ……。アタシ、転移者の方を初めて見たかもしれないわ」
ヘレンさんはこちらを興味深そうに見てくる。その視線がどうにも艶めかしい。
「そ、そうですか……サキュバスの方にも知られているとは……」
「ええ、結構な噂になっているわよ、カクヤマ書房さんにそういう編集さんがいらっしゃるって。サキュバスは珍しいものが好きだから」
ヘレンさんはそう言って笑う。微笑みひとつとっても妖艶だ。
「そ、そうですか……で、あればですね……ごほん」
私は咳払いをひとつ入れる。ヘレンさんが首を傾げる。
「?」
「ここがカクカワ書店ではなく、カクヤマ書房だということはご承知なのですね?」
「それはもちろんよ」
もはや毎回のこととなりつつあるが、後で知らなかったと言われても、こちらとしても困ってしまうので、このことに関してはきちんと確認をとっておかなければならない。私は重ねて尋ねる。
「それでは、ヘレンさんは我が社のレーベルから小説を出版することになっても構わないということですね?」
「ええ。原稿を間違って送っちゃったのはこちらの手違いなわけだから。こうして声をかけてもらったのも一つのご縁なのかなと思って」
「ふむ、そうですか……」
「はい」
前向きに捉えてくれているのはこちらとしても本当にありがたいことだ。私はヘレンさんの送ってきた原稿を取り出して、机の上に置く。
「……それでは早速になりますが、打ち合わせを始めましょう」
「ええ、お願いするわ」
ヘレンさんが長い脚を組み替える。目を奪われそうになるが、グッと堪えて話を始める。
「えっと、原稿を読ませて頂いたのですが……」
「ええ……」
「なんというか……」
「?」
「率直に言いまして……」
「……」
「なかなか面白かったです」
「本当?」
「はい」
「それは良かったわ……」
ヘレンさんがほっとしたように胸をなでおろす。指先が胸に振れ、下着からこぼれ落ちそうになるのに目が釘付けになりそうになるが、すぐに目を逸らす。
「テンポが良くて、とても読みやすかったです」
「そう」
「ただですね……」
「ただ?」
「う~ん、なんと言ったら良いのか……」
「………」
「…………」
「……………」
「……どうぞ、遠慮なく言ってちょうだい」
ヘレンさんが話しの続きを促してくる。私は尋ねる。
「遠慮なくですか?」
「ええ、もちろんよ」
「では、ストレートに言いますが……」
「うん」
「エロ過ぎます」
「はっ⁉」
ヘレンさんは驚く。
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