【第1章完】スキル【編集】を駆使して異世界の方々に小説家になってもらおう!

阿弥陀乃トンマージ

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第1集

第5話(1)マニアックなプレイ

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「はあ……」

 私はとある建物の中の部屋でため息をつく。おじさんが話しかけてくる。

「どうしたんだい、モリ君? ため息なんかついちゃってさ~」

「いや……」

「僕には理解出来ないな~」

「そうですか……」

「そうだよ、こういう状況、男ならば心が躍って躍って仕方がない状況だろう?」

「う、う~ん……」

 私は首を傾げる。

「なんだい、なんだい、随分と不安そうだね~?」

「それは不安にもなるでしょう……」

「おや、なんでまた? こういうところでのプレイは初めてかい?」

「それについてはノーコメントです……」

「ということは経験ありってことだね?」

「ご想像にお任せします……」

「それではなんで沈んでいるんだい?」

「ほぼ初対面の方と一緒に夜のサービスを受けるなんて初めてだからですよ!」

 そう、私は今、街の表通りから少し外れた通りに建つ妖しげな建物の中の部屋にいる。いわゆる風俗店の控室という奴だ。スーツ姿で。おじさんと二人で。

「大丈夫だよ、もっとリラックスして」

「そう言われましても……」

「優しくするからさ……」

「私にそれを言われても困るんですよ……」

「はっはっは! それもそうだね!」

「まったく……」

 この適当なことをおっしゃる、もじゃもじゃ頭でひげ面の中年男性はロイエ先生という方で、かなり名の知られたノンフィクションライターだ。先生の書く本には大変熱狂的な読者が多く、発売する本はベストセラーの常連である。

 それがこの度、我がカクヤマ書房から本を出版するということになった。何故にしてマイナー出版社である我が社が、人気ノンフィクションライターのロイエ先生とこうして仕事が出来ることになったのか。

「……どうぞ」

 黒服を着た男性が席まで呼びに来る。

「ああ」

 ロイエ先生は慣れた様子で席を立ち、黒服さんが指し示す方へ向かって歩いていく。

「あ……」

「ほら、君も早く……」

先生は振り返って、私についてくるように促す。私は慌てて立ち上がり、先生に続く。黒服さんが奥の突き当たりの部屋の手前にある部屋を開ける。

「……こちらでお着替えください」

「ふむ……」

「先生、これは……?」

「どうかしたかい?」

「着替えるというのは?」

「なにかおかしいかい?」

「い、いや、裸になるんじゃないですか?」

「! はっはっは! 君は一体何をしに来たんだい?」

「い、いや……」

 何をしに来たかと言わてたら、ナニをしにきたかと思うんだが……。

「ここで衣装に着替えるんだよ」

「衣装ですか……」

 い、いわゆるコスチュームプレイというやつだろうか。ただでさえ、男女三人という状況に慣れていないのに、こんなことになるとは……。

「まあ、そう硬くならずに。嬢、お姉さんたちの方が慣れているからね、彼女らに全てを委ねればいい」

「は、はあ……」

「……お着替えは終わりましたか」

「ああ」

 黒服さんの問いに先生が答える。

「では、どうぞ……」

 私たちは部屋を出て、あらためて奥の突き当たりの部屋に通される。

「?」

 私はキョロキョロしてしまう。部屋に誰もいなかったからだ。

「……モリ君! モリ君!」

 先生が小声で私を呼ぶ、

「は、はい?」

「君はそこの大きなかばんの前の椅子に座っていたまえ……私はカウンターの中に立っているから」

「あ、はい……」

 立ち位置なども細かく指定されるのか。戸惑っていると、女性が入ってくる。二人……え、二人⁉ 多くない⁉ 女性の中の一人、男装をした女性が口を開く。

「亭主、チェックアウトをしたいのだが……」

「はい! ……になります」

 カウンターの中に立っていたロイエ先生が元気よく答える。

「それでは、これで……」

「はい、ちょうどお預かりします! 夕べはお楽しみでしたね……」

「あらやだ……」

 可愛らしい恰好をした女性がポッと顔を赤らめる。

「ぶはっはっは!」

 その様子を見て、ロイエ先生が大笑いし、満足気に頷く。なにがなんやらと戸惑っていると、女性二人が私の前で立ち止まる。男装の方が尋ねてくる。

「貴方は旅の行商人の方かな?」

「え? あ、は、はい!」

 私は今さらながら自分の着替えた衣装を確認する。なるほど、行商人の方が来ていそうな服を着ている。つまり、今私は宿屋で休んでいる行商人の役をしなければならないのか。

「なにか良いものはあるかい?」

「えっと……」

 私はかばんの中をあさってみる。小袋を取り出す。

「それは?」

「えっと、毒消しです。こいつさえあれば毒サソリに刺されても安心です」

「そうか。それは間に合っているな、また機会があれば頼むよ」

「ああ、はい……」

 女性たちは別の出口から出ていく。ロイエ先生が頷く。

「いや~これだよ、これ!」

「え⁉ い、今ので終わりですか⁉」

「そうだよ、ロールプレイの店だからね。今日は宿屋で勇者たちを見送る親父役をプレイしたんだ。いや~興奮したな~」

「そ、そうですか……プレイってそういうこと?」

 このロイエ先生のノンフィクションは発売され、そのシュールな内容は話題を呼んだ。編集長も喜んでいる。早くも第二弾を出せという話が出てきたが、私ははぐらかした。どこに連れていかれるか、何をさせられるか分かったものではないから――いやむしろ、ナニかがあって欲しかったくらい――である。アポなしの取材を行うとは聞いていたが、編集まで巻き込むとは……マイナーな我が社と仕事をする理由が分かった気がする。それはそれとして私が主に任されているのは、小説でヒット作を出すことだ。今日も打ち合わせだ。

「あら、こんにちは……」

「⁉ お、お願いします!」

 妖艶な雰囲気を身にまとった女性が入ってきたので、私は思わずお願いをしてしまった。
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