【第1章完】スキル【編集】を駆使して異世界の方々に小説家になってもらおう!

阿弥陀乃トンマージ

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第1集

第3話(4)転スラ

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「どうかしましたか?」

「マルさん……」

「はい?」

「もう少し柔軟に考えてみませんか?」

「柔軟に?」

「ええ」

「……硬いのはダメですか?」

 マルさんは俯く。体がぷるんぷるんと揺れる。

「ダメとは言いませんが、一般の読者に受けるとはとても思えません」

「好きなものを書くのはそんなにダメなんですか?」

「その場合、ご自分だけが満足している状態になりかねません」

「自分だけ……」

「大半の読者が置いてけぼりです。ほとんどついてきてくれないでしょう」

「むう……」

「ただ……」

「ただ?」

「そういった問題を解決する方法があります」

「ほ、本当ですか⁉」

 マルさんが立ち上がる。

「……落ち着いてください」

「す、すみません……」

 マルさんが席に座る。

「その方法ですが……」

「はい」

「流行りのものを書くということです」

「え?」

「流行に乗っかるのです」

「そ、それは分かります。ですが……」

「ですが?」

「それが解決方法なんですか?」

 マルさんが首を傾げる。

「流行りのものを書くことのメリットはまず……それだけで手に取ってくれる読者が増えるということ。これはとても大きなメリットです」

「そ、それでも!」

 私の説明にマルさんは不満そうな顔になる。私は尋ねる。

「なにか?」

「安易に流行に乗っかっても埋もれてしまうだけだと思います」

「そうですね」

「そ、そうですねって……」

「要は乗り方の問題です」

「乗り方?」

「ええ、他作品との違いをアピールするのです」

「違いですか?」

「そうです、読者の方に『これは他とは違うな』と思わせれば良いのです」

「そ、それはなかなか難しいような……」

「いや、マルさんならば可能です」

「ええ?」

「マルさんの書かれる文章、硬さは多少否めませんが、文章力の高さは随所に伺えます」

「は、はあ……」

「これだけでも他と一線を画すことが出来ます」

「そ、そうでしょうか?」

「はい、この硬さを逆に利用するのもありかもしれませんね……」

 私は顎をさすりながら呟く。

「硬さを逆に利用?」

「そうです。何か思いつかないですか?」

「う~ん」

 マルさんが腕を組んで考え込む。

「思い付きませんか?」

「い、いやあ、そう言われても……」

「この硬い……真面目な文章に似つかわしくない設定を作るのです」

「似つかわしくない設定?」

「とことんおバカな方向、ありえない方向に振り切ることですかね?」

「お、おバカ……ありえない……」

「それでいて流行を外さない……」

「む、難しくないですか?」

「まあ、ちょっと考えてみましょう。現在の流行はなんですか?」

「え、や、やっぱり……異世界への転生・転移ものですかね」

「そうです」

 私は頷く。マルさんが戸惑う。

「い、いや、流行しているのは重々分かっているつもりですが、ボクはああいうジャンルにはどうしても苦手意識がありまして……」

「あえて向き合うことで見えてくるものもあります」

「!」

 私の言葉にマルさんが目を丸くする。

「流行に目を背けるだけでなく、トライしてみることも必要なことだと思います」

「ふ、ふむ……」

「マルさんの作家としての引き出しが増えると思うのです。いかがです?」

「……た、例えば、どういう転生・転移が良いでしょうかね」

「……」

「い、いえ、すみません、それをボクが考えるんですよね……」

 私は右手の人差し指を立てる。

「……ひとつ、思い付いています」

「え⁉」

「スライムがニッポンに転移するのです」

「ええ⁉」

「転移して、プロレスラーになります」

「プ、プロレスラー⁉」

「『転移したらプロレスラーになった件』略して『転スラ』です」

「りゃ、略称まで⁉」

「ええ、ピンときました」

「で、でも、スライムである必要性が感じられませんが?」

「スライムの方は体が柔らかい、形状も自由に変化することが出来る……」

「あっ……」

「その特性を活かして無双します。俺TUEEE好きな方もにっこり」

 私は笑顔を浮かべます。マルさんが考え込む。

「意外性はあると思うんですけど……」

「何か気になることが?」

「ボクの好きな要素を少しでも盛り込めればと思ったんですが、無理そうですね」

「出来ますよ」

「えっ⁉」

「ニッポンのプロレスの歴史を紐解くと――私もよく分からなかったのですが、先日プロレスジムに取材する機会に恵まれました――各団体が林立、それぞれが時には手を組み、時には争い、隆盛・衰退を繰り返すその様はさながら戦国時代です!」

 私はビシっとマルさんを指差す。マルさんが息を呑んで呟く。

「少し、いや、かなり興味が湧いてきました。なるほど、団体間の争いなどを戦記風に描けるかもしれませんね……分かりました。それでちょっと考えてみます」

「よろしくお願いします」

 私は頭を下げる。打ち合わせはなんとかうまくいったようだ。
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