【第1章完】スキル【編集】を駆使して異世界の方々に小説家になってもらおう!

阿弥陀乃トンマージ

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第1集

第1話(2)ありふれている転生もの

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「だーかーらー! それがワンパターンなんですよ!」

「!」

 私の発言にルーシーさんはビクッとなる。ああ、しまった、萎縮させてしまった……。私は咳払いをひとつ入れて、笑顔を浮かべながら話す。

「他のパターンを考えてみませんか?」

「う~ん、でもですね……」

「でも?」

「やっぱり他の皆さん、そうされているじゃないですか?」

「ああ、まあ、そうですね……」

「それがやっぱり王道、正しいってことなんじゃないかなと思っているんです」

「いやね……」

「やっぱり読者の方もそれを望んでおられると思うんです!」

「落ち着いてください!」

 私はルーシーさんを落ち着かせる。

「はあ……」

「百歩譲って転生は良いとしましょう」

「はい」

「問題はその経緯です」

「経緯?」

「そう、馬車に轢かれて死んでしまった主人公……もうありふれています」

「まあ、お約束なようなものですから……」

「お約束って! 馬車に轢かれた方、現実にご覧になったことありますか?」

「ないですけど」

「そうでしょう?」

「そこはフィクションだから良いじゃないですか」

「フィクションって……」

 私は額を軽く抑える。

「他作品との違いを出すのはそこからでも……」

「ストップ! そこなんですよ!」

 私は手のひらをルーシーさんに向ける。ルーシーさんが首を傾げる。

「え?」

「千歩譲って転生は良いとしましょう」

「十倍になりましたね」

「……なんで皆、揃いも揃って同じような世界に転生または転移するんですか?」

「はい?」

「いや、だから、なんですか、この『ニッポン』って!」

 私は机の上に置かれた原稿を拾い、トントンと指で叩く。

「皆さんがイメージしやすい異世界なんでしょうね……」

「憧れなんですか?」

「憧れ……まあ、そういう気持ちを抱いている読者さんも中にはいらっしゃるんじゃないでしょうか」

「憧れますか⁉ スーツを着て、毎日死んだような目をしながら『カイシャ』という場所に出勤し、朝から晩まで働く『シャチク』と呼ばれるような生活に⁉」

 私は素直な疑問を口にする。

「う~ん、そう言われると、どうしてなんでしょうね……?」

 ルーシーさんは腕を組んで考え込む。私は軽く天井を仰いで呟く。

「どうしてこうなった……」

「え?」

「い、いえ、なんでもありません、打ち合わせを続けましょう」

 私の半ば強引な勧誘の――自覚はしている――結果、ルーシーさんは我がカクヤマ書房での作家デビューを決意してくれた。カクカワ書店という大手出版社やその他中堅出版社では、競争率が激しい。デビューの確率を少しでも上げるには、弱小――自分で言っていて悲しくなってきたので、マイナーと言いかえる――マイナーレーベルで勝負するのも悪くない判断だと思う。そういった流れで、早速打ち合わせ初日を迎えたわけだが……。

「う~ん、ワンパターンですか……」

 ルーシーさんがなおも腕を組んで考え込む。そう、この世界の小説では、今は『異世界転生』ものが流行している。ベストセラーのほとんどが『転生もの』だ。大体、『ニッポン』という国へ行き――『二ホン』という場合もある――そこでカイシャに務め、働くという内容だ。内容にほぼ差はない。いわゆる『ガワ』だけ変えて、中身はほとんど区別がつかない。しかし、それが……売れる。なので、猫も杓子も『転生もの』ばかりというわけだ。

 ただ、いくら売れるといっても、出版社側でも危機感のようなものは抱いている。『内容は問わない、書きたいものを自由に』という趣旨の文を募集文面に盛り込んで、コンテストなどを開いてみるのだが、どうしても転生ものばかりに内容が偏ってしまう……と、カクカワの社員が嘆いていた……のを、酒場で耳にした。

 流行しているから、それに乗るのが正解、ニーズに応えるのがプロ、という考え方もあるのだが、我がカクヤマ書房はマイナーレーベルであり、いわば後追いだ。同じようなことをしても、大手、メジャーレーベルには勝てないだろうし、そもそも追いつけないだろう……。だが、このことを馬鹿正直に目の前のルーシーさんに伝える必要はない。どうオブラートに包んで伝えればいいものかと……私は頭を抱える。

「……」

「あの……」

「は、はい、なんでしょうか?」

「ワタシなりに考えてみました」

「え?」

「異世界転生ものの魅力を」

「ああ……」

「す、すみません、分析も必要かなと思いまして……」

 ルーシーさんが申し訳なさそうに頭を下げる。私は手を左右に振る。

「い、いえ、大丈夫ですよ……」

 ルーシーさんが頭を上げる。

「よろしいですか?」

「伺いましょう」

 私は身を乗り出し、メモを取る用意をする。

「転生・転移もののほとんどは現在の記憶を保持したまま、転生・転移するケースが極めて多いです……」

「ああ、そうですね」

「そこでカイシャインとして働いたり、時間に追われて忙しく過ごすようないわゆるファーストライフ……そういった話の展開がほとんどですね……」

「はい」

「主人公の設定はもちろん、作品によって異なりますが……」

「それはそうですね」

「その多くは等身大の人々です……」

「うん」

「読者に近い設定がなされています……」

「ふむ」

「それによって感情移入しやすい点が魅力なのではないでしょうか?」

「はあ……」

「ど、どうでしょうか?」

「えっと……」

 私はメモを置いて、腕を組む。

「ま、的外れな分析でしたか?」

「いえ、大変興味深い内容でした……ですが」

「ですが?」

「そんなに良いですかね? 転生・転移って」

「え?」

「経験者としては苦労の方が多いのですが……」

「ええっ⁉」

 私の発言にルーシーさんが驚いて立ち上がる。
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