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第1集
第1話(1)強引な勧誘
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1
「さあ、こちらにどうぞ、散らかっておりますが……」
「はあ……」
私が連絡を取った方の中から、最初の女性が来社した。私は女性に座るように促し、自らも席についた。
「え~お名前はルーシーさん」
「は、はい……」
「えっと……」
私はルーシーさんの顔をじろじろと見てしまう。金髪碧眼に透き通るような白い肌、尖がった長い耳……『エルフ』である。
「あ、あの……」
「あ、こ、これは失礼! エルフの方と実際にこうしてお話するのは初めてだったもので!」
私は頭を下げる。ルーシーさんは笑う。
「ふふっ、確かにこの辺では珍しいかもしれません……」
「す、すみません……」
「いえ、大丈夫です」
私は胸をなでおろす。いきなり気分を害され、帰ってしまったらたまったものではない。私は早速本題に入る。
「それで、原稿を拝見したのですが……」
「あ、あの、それなのですが……?」
「なにか?」
ルーシーさんは言い辛そうに口を開く。
「ワタシったらうっかりしていて……」
「うっかり?」
「ええ、カクカワ書店さんに送るはずだった原稿をこちらに間違って送ってしまって……」
「ああ、それなら問題ありません」
「え?」
「それではですね……」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
「はい?」
「い、いえ、で、ですから……こちらに送ったのは間違いで……」
「こちらは気にしません」
「ワタシが気にします」
「では?」
「原稿を返して頂けないかと……」
「ふむ……」
私は原稿を置き、腕を組む。ルーシーさんがこちらを伺う。
「あ、あの……?」
「……カクカワさんでは埋もれてしまいますよ、せっかくの才能……」
「え?」
私の言葉にルーシーさんの顔色が変わる。
「知っての通り、カクカワさんから多数のヒット小説が出ています。カクカワさんに原稿を送るのが賢明な判断でしょう」
「は、はい……」
「しかし、毎月、毎週、いや、毎日、膨大な数の原稿がカクカワさんの編集部には届けられている。それら全てに時間をかけて目を通すのは困難……その中から抜きんでようとするのはとても大変です」
「は、はあ……」
「分かりますか?」
「はい?」
「いくら才能や実力があっても、“運”が無ければ、小説家にはなれないのです」
「!」
「例えば、今この原稿をカクカワさんに持っていっても、机に積み重ねられるだけでしょう。……誰かの目に留まるとは考えにくい」
「そ、そんな……」
「……ですが、ご安心ください」
「え?」
「貴女は運が良い……」
「ど、どういうことですか?」
「このカクヤマ書房に来たからですよ」
私は大げさに両手を広げてみせる。ルーシーさんが周りを見渡しながら首を傾げる。
「えっと……」
「我が社ならば、すぐにでも小説家になれます」
「ええっ⁉」
「原稿から光るものを感じました……」
「そ、そうですか……」
「もちろん、このままというわけにはいきませんが、打ち合わせを重ねて、良い小説を作りましょう。貴女には間違いなく才能がある」
「才能……」
「これも何かの縁です……我が社で挑戦してみませんか?」
「が、頑張ってみます……」
ルーシーさんが頷く。作家候補、一名確保。
「さあ、こちらにどうぞ、散らかっておりますが……」
「はあ……」
私が連絡を取った方の中から、最初の女性が来社した。私は女性に座るように促し、自らも席についた。
「え~お名前はルーシーさん」
「は、はい……」
「えっと……」
私はルーシーさんの顔をじろじろと見てしまう。金髪碧眼に透き通るような白い肌、尖がった長い耳……『エルフ』である。
「あ、あの……」
「あ、こ、これは失礼! エルフの方と実際にこうしてお話するのは初めてだったもので!」
私は頭を下げる。ルーシーさんは笑う。
「ふふっ、確かにこの辺では珍しいかもしれません……」
「す、すみません……」
「いえ、大丈夫です」
私は胸をなでおろす。いきなり気分を害され、帰ってしまったらたまったものではない。私は早速本題に入る。
「それで、原稿を拝見したのですが……」
「あ、あの、それなのですが……?」
「なにか?」
ルーシーさんは言い辛そうに口を開く。
「ワタシったらうっかりしていて……」
「うっかり?」
「ええ、カクカワ書店さんに送るはずだった原稿をこちらに間違って送ってしまって……」
「ああ、それなら問題ありません」
「え?」
「それではですね……」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
「はい?」
「い、いえ、で、ですから……こちらに送ったのは間違いで……」
「こちらは気にしません」
「ワタシが気にします」
「では?」
「原稿を返して頂けないかと……」
「ふむ……」
私は原稿を置き、腕を組む。ルーシーさんがこちらを伺う。
「あ、あの……?」
「……カクカワさんでは埋もれてしまいますよ、せっかくの才能……」
「え?」
私の言葉にルーシーさんの顔色が変わる。
「知っての通り、カクカワさんから多数のヒット小説が出ています。カクカワさんに原稿を送るのが賢明な判断でしょう」
「は、はい……」
「しかし、毎月、毎週、いや、毎日、膨大な数の原稿がカクカワさんの編集部には届けられている。それら全てに時間をかけて目を通すのは困難……その中から抜きんでようとするのはとても大変です」
「は、はあ……」
「分かりますか?」
「はい?」
「いくら才能や実力があっても、“運”が無ければ、小説家にはなれないのです」
「!」
「例えば、今この原稿をカクカワさんに持っていっても、机に積み重ねられるだけでしょう。……誰かの目に留まるとは考えにくい」
「そ、そんな……」
「……ですが、ご安心ください」
「え?」
「貴女は運が良い……」
「ど、どういうことですか?」
「このカクヤマ書房に来たからですよ」
私は大げさに両手を広げてみせる。ルーシーさんが周りを見渡しながら首を傾げる。
「えっと……」
「我が社ならば、すぐにでも小説家になれます」
「ええっ⁉」
「原稿から光るものを感じました……」
「そ、そうですか……」
「もちろん、このままというわけにはいきませんが、打ち合わせを重ねて、良い小説を作りましょう。貴女には間違いなく才能がある」
「才能……」
「これも何かの縁です……我が社で挑戦してみませんか?」
「が、頑張ってみます……」
ルーシーさんが頷く。作家候補、一名確保。
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