【第1章完】スキル【編集】を駆使して異世界の方々に小説家になってもらおう!

阿弥陀乃トンマージ

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第1集

プロローグ

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                  プロローグ

「だーかーらー! それがワンパターンなんですよ!」

「!」

 私の発言に金髪碧眼の女性はビクッとなる。ああ、しまった、萎縮させてしまった……。私は咳払いをひとつ入れて、笑顔を浮かべながら話す。

「他のパターンを考えてみませんか?」

「う~ん、でもですね……」

「でも?」

「やっぱり他の皆さん、そうされているじゃないですか?」

「ああ、まあ、そうですね……」

「それがやっぱり王道、正しいってことなんじゃないかなと思っているんです」

「いやね……」

「やっぱり読者の方もそれを望んでおられると思うんです!」

「落ち着いてください!」

 私は女性を落ち着かせる。

「はあ……」

「百歩譲って転生は良いとしましょう」

「はい」

「問題はその経緯です」

「経緯?」

「そう、馬車に轢かれて死んでしまった主人公……もうありふれています」

「まあ、お約束なようなものですから……」

「お約束って! 馬車に轢かれた方、現実にご覧になったことありますか?」

「ないですけど」

「そうでしょう?」

「そこはフィクションだから良いじゃないですか」

「フィクションって……」

 私は額を軽く抑える。

「他作品との違いを出すのはそこからでも……」

「ストップ! そこなんですよ!」

 私は手のひらを女性に向ける。女性が首を傾げる。

「え?」

「千歩譲って転生は良いとしましょう」

「十倍になりましたね」

「……なんで皆、揃いも揃って同じような世界に転生または転移するんですか?」

「はい?」

「いや、だから、なんですか、この『ニッポン』って!」

 私は机の上に置かれた原稿を拾い、トントンと指で叩く。

「皆さんがイメージしやすい異世界なんでしょうね……」

「憧れなんですか?」

「憧れ……まあ、そういう気持ちを抱いている読者さんも中にはいらっしゃるんじゃないでしょうか」

「憧れますか⁉ スーツを着て、毎日死んだような目をしながら『カイシャ』という場所に出勤し、朝から晩まで働く『シャチク』と呼ばれるような生活に⁉」

 私は素直な疑問を口にする。

「う~ん、そう言われると、どうしてなんでしょうね……?」

 女性は腕を組んで考え込む。私は軽く天井を仰いで呟く。

「どうしてこうなった……」

 かくいう私、森天馬(もりペガサス)も異世界転移者である。この世界では浮いている、スーツ姿で日々を過ごしているのがその証拠らしい。ただ、いわゆる前にいた世界の記憶はほとんどない。医者によれば、転移の際に受けたショックで、記憶を失ってしまったのだろうということだ。では、何故名前が分かるのか? スーツの内ポケットに入っていた複数枚の紙に、この名前が書いてあったからだ。なんだかキラキラしているような気がするが、『名無し』で通すのも何かと不便なので、その名前を名乗っている。

 私自身も転移してきた当初は結構なパニック状態だったが、その後幾分落ち着きを取り戻し、現状の把握に努めた。当初世話になった集落の長老によれば、転移してくる者はそう珍しくないという。その者たちの話を聞くと、なんらかの事故や病気で命を落とした者がこちらの世界にやってくるというケースが多いようだ。残念ながら――幸いにもというべきか――私にはそのような記憶がない。だが、恐らくは似たようなきっかけでこの世界に来たのだろうと結論づけた。

 問題なのは、転移した者が元の世界に戻る術はないのではないかという長老の言葉だった。私はその言葉に軽く絶望したが、わりとすぐに気持ちを切り替えた。ならば、この世界で生きていくしかないだろう。でもどうやって? 長老がヒントをくれた。異世界からやってきた者たちは珍しい『スキル』を持っていることが多い。そのスキルを駆使して、この世界でも活躍しているという。私はスキルを見極めることが出来る不思議な水晶玉の置いてある宮殿に招かれ、『スキル鑑定』なるものを受けた。結果、私が所持しているスキルは。…【編集】だった。私も含め、全員の頭に「?」という文字が浮かんだ。

 とはいえ、物は試しだということで、私は『パーティー』というものに加えられた。幹事の類は苦手だから避けてきたな……というおぼろげな記憶を思い出しながら、私は『クエスト』なるものに参加させられた。これが大変だった。元の世界ではお目にかかることがなかったであろう猛獣や、奇妙な生物が次々と襲い掛かってくるのだ。街からちょっと離れるだけでこれである。治安はどうなっているのだ――まあ、クエストというのがいわゆる治安維持の一環なのだろうが――とにかく、私はそういった状況においては全くと言っていいほど無力であった。見事な剣技を発揮する『勇者』の男性、火や雷を自在に発生させることが出来る『魔法使い』の女性、爪や牙で勇敢に戦う『獣人』の方の陰に隠れたり、逃げ回ったりすることしか出来なかった。

 自分の情けなさにほとほと嫌気がさした頃に、パーティーからの離脱をやんわりと勧められた。要はクビだということである。少し心が痛んだが、パーティー側からの、「無理やり参加させた連中が悪いよ」、「あなたのスキルが活かせる場所がきっとあるはずだわ」、「……幸運を祈る」という言葉には救われた。

 街に戻った私は職を探すことになった。しかし、自分に一体何が出来るのかが分からない……迷いながらも、とにかく私は色々と動いた。酒場の給仕、市場の手伝い、土木工事作業員などを転々とした……しかし、心はスッキリと晴れなかった。

 そんな中、初めに私を保護してくれた集落の女性と、街中で偶然再会した。女性に相談してみると、そういえば長老が伝え忘れていたことがあるという。なんでも、スーツを着ている転移者は、街の『オフィス』が立ち並ぶエリアなら働き口があるのではないかということであった。そういうことは最初に言ってくれないか。

 私はオフィスエリアに足を運んでみた。そう簡単にことは運ばなかったが、なんとか私は会社に入社することが出来た。社名は『カクヤマ書房』。業種は出版だという。面接では、私の所持スキルが<編集>であるということを告げると、「君のような人材を待っていた!」という言葉を頂き、入社が決まった。

 入社したのは良いものの、私はすぐさま困難に直面した。このカクヤマ書房はいわゆる『弱小』企業だということだ。経営は常に火の車、給料がきちんと支払われるかどうかも怪しいという。何故であるか? それは強力な競合他社の存在だ。カクヤマ書房のみすぼらしい社屋の斜め前に立つ、立派な建物……『カクカワ書店』である。この会社が多くのヒットを飛ばしている。この世界では『小説』というジャンルが人気を集め、一大娯楽にまで成長しているようである。カクカワはこの小説にめっぽう強かった。

 我が社の社長は露骨にイライラしながら、会議の場で、「うちも小説でなにかヒットを出せ!」と無茶ぶりをしてきた。狙ってヒットを出せたら誰も苦労はしないだろう。それに小説家志望者はみな、カクカワに原稿を送っている。信頼と実績をなによりも重視するのは、皆同じようだ。頭を抱えていたその時……。

「郵便でーす」、我が社には珍しく応募原稿が大量に送られてきた。なんだこれは? 私はすぐにピンときた。そうだ、カクカワが大規模な小説コンテストを開催するとか言っていたな、つまりこれらは、間違って我が社に送ってきてしまった原稿だろう。

「……!」

 私の中でひらめいた。これも何かの縁だ。この応募原稿の中から、光るものを感じた方と連絡を取り、小説を書いてもらおう。背に腹は代えられない。間違った方が悪いのだ。

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