34 / 50
第一章
第9話(1)凛々しさと美しさと力強さと
しおりを挟む
9
「はあ、はあ……」
カンナが馬を走らせる。大分走ったところで馬を止め、振り返る。
「ここまで逃げればとりあえずはひと安心ですか……」
そう呟いた後、自らの呟きを自嘲する。
「ふっ、大体どこまで逃げるつもりなのですか、当ても無い癖に……」
カンナは後方だけでなく、周囲を見渡す。
「わたくしについてきた者はどうやら誰もいませんか……まあ、それも止むを得ません。敗軍の将についていくより投降した方が賢明な判断ですからね……!」
「⁉」
カンナは薙刀を地面に勢い良く突き刺す。馬が少し驚く。馬の背中を優しく撫でながら、カンナが苦笑交じりに話しかける。
「いよいよ命運が尽きたということでしょうかね?」
「?」
馬が不思議そうなに首を傾げる。カンナは笑う。
「ふふっ、サツキみたいに貴方と色々とお話が出来たら良かったのだけど……そういうわけにも参りませんよね……」
「……」
「……少し疲れました。どこかで横になりたいですね……」
カンナはあらためて周囲を見回す。少し離れたところに小さな洞窟を見つける。
「ああ、あそこは良さそうですね……」
カンナは薙刀を地面から抜き取って、洞窟へと馬を進ませる。洞窟の入口に着くと、カンナは馬を降り、馬具を外そうとする。
「……!」
馬が抵抗する。カンナが首を傾げる。
「どうして? もう自由になって良いのですよ?」
「……‼」
カンナが馬具を外そうとするが、馬はなおも抵抗する。カンナは悲しくもあり、嬉しくもある、複雑な笑みを浮かべて呟く。
「……仕方ありませんね、勝手になさい」
カンナは洞窟に入っていく。入口は狭いが奥に進むと、それなりの広さがあった。
「ほう……これなら足を伸ばせて眠れそうですね。ただ……」
カンナは入口の方を振り返る。馬の足が見える。どこかに繋いだわけでもないのだが、そこから離れようとしない。カンナは苦笑する。
「あの子があそこにいたらすぐに見つかってしまいそうですね。ただ……」
カンナは鎧を外して、地面に腰かけてから、ゆっくりと横になる。
「今はとにかく休みたい、流石に疲れました……」
カンナが目を閉じる。
「ヒヒーン!」
「!」
カンナが目を開ける。追手が来たか。カンナはゆっくりと起き上がり、鎧を素早く身に着け、薙刀をそっと手に取る。そこに意外な人物が現れる。
「よっ」
「タイヘイ殿……」
「元気か?」
「……そう見えます?」
「そうだな、悪かった」
タイヘイが苦笑しながら後頭部をポリポリと掻く。カンナが薙刀を持つ手に力を込めながら尋ねる。
「わたくしの首を取りに来たのですか?」
「は? なんでそうなるんだ?」
タイヘイが目を丸くする。
「なんでもなにもないでしょう」
「あのなあ、俺たち一応同盟関係だろう?」
「……今のわたくしは単なる一人の女……国を追われた者です」
「単なる?」
「ええ」
「う~ん……」
タイヘイが頭を片手で抑える。
「わたくしの首を差し出した方が、意味があるでしょう」
「差し出すってどこにだよ?」
「知れたこと、わたくしが元いたあの国です」
「ああ、なるほどなあ……」
タイヘイが顎をさすりながら頷く。カンナが続ける。
「もしくは妖どもの国へ持っていくのもありかもしれませんね……」
「挨拶ついでの手土産ってやつか」
「そういうことです」
「それは嫌な手土産だな」
タイヘイが苦笑を浮かべる。カンナが地面にドカッと座り、目を閉じる。
「さあ、どうぞ……」
「……」
「………」
「…………」
「? 何をしているのです?」
カンナが目を開いて尋ねる。タイヘイが答える。
「……アンタの首には価値がない」
「なっ⁉」
カンナが愕然とする。
「だから……」
「くっ!」
カンナが懐から小刀を取り出し、自らの喉元を掻き切ろうとする。
「待て!」
「うっ!」
タイヘイが素早く手刀を繰り出し、カンナの手から小刀を叩き落とす。
「バカなことをすんじゃねえ……!」
「価値がないとまで言われて、生きる意味があるのでしょうか⁉」
「……言葉が足りなかったな」
「え?」
「今のアンタの首には価値がない」
「今の?」
「ああ、そうだ……よっと!」
「きゃっ⁉」
タイヘイが右手でカンナの背中を、左手でカンナの両脚を抱え、持ち上げる。
「……重いな、いや、鎧の分か」
「な、何をするのです!」
「まあ、そう暴れるなよ。良いとこに連れていってやるから」
「い、良いとこって……お、下ろしなさい!」
カンナは抵抗するが、タイヘイはびくともしない。ああ、そうか、こういう末路か、出来れば想像はしたくなかったが、十分考えられることであった。敗軍の将、もとい姫というのはみじめなものだなとカンナは思った。それでもしばらく抵抗は続けたが、タイヘイは自分の体をがっしりと掴んで離さない。暴れ疲れたカンナはタイヘイの腕の中で眠りにつく。
「……おい、着いたぜ」
「……⁉」
目を覚めたカンナが驚いて目を丸くする。小高い丘の上から、シモツキら三将を初め、多くの兵士たちが揃っているのが見えたからである。タイヘイはカンナを下ろして告げる。
「同盟関係は継続だ。国を取り戻して、自分の首に価値を取り戻そうじゃねえか」
「! ……分かりました!」
カンナが頷く。その目には凛々しさと美しさと力強さが戻っていた。
「はあ、はあ……」
カンナが馬を走らせる。大分走ったところで馬を止め、振り返る。
「ここまで逃げればとりあえずはひと安心ですか……」
そう呟いた後、自らの呟きを自嘲する。
「ふっ、大体どこまで逃げるつもりなのですか、当ても無い癖に……」
カンナは後方だけでなく、周囲を見渡す。
「わたくしについてきた者はどうやら誰もいませんか……まあ、それも止むを得ません。敗軍の将についていくより投降した方が賢明な判断ですからね……!」
「⁉」
カンナは薙刀を地面に勢い良く突き刺す。馬が少し驚く。馬の背中を優しく撫でながら、カンナが苦笑交じりに話しかける。
「いよいよ命運が尽きたということでしょうかね?」
「?」
馬が不思議そうなに首を傾げる。カンナは笑う。
「ふふっ、サツキみたいに貴方と色々とお話が出来たら良かったのだけど……そういうわけにも参りませんよね……」
「……」
「……少し疲れました。どこかで横になりたいですね……」
カンナはあらためて周囲を見回す。少し離れたところに小さな洞窟を見つける。
「ああ、あそこは良さそうですね……」
カンナは薙刀を地面から抜き取って、洞窟へと馬を進ませる。洞窟の入口に着くと、カンナは馬を降り、馬具を外そうとする。
「……!」
馬が抵抗する。カンナが首を傾げる。
「どうして? もう自由になって良いのですよ?」
「……‼」
カンナが馬具を外そうとするが、馬はなおも抵抗する。カンナは悲しくもあり、嬉しくもある、複雑な笑みを浮かべて呟く。
「……仕方ありませんね、勝手になさい」
カンナは洞窟に入っていく。入口は狭いが奥に進むと、それなりの広さがあった。
「ほう……これなら足を伸ばせて眠れそうですね。ただ……」
カンナは入口の方を振り返る。馬の足が見える。どこかに繋いだわけでもないのだが、そこから離れようとしない。カンナは苦笑する。
「あの子があそこにいたらすぐに見つかってしまいそうですね。ただ……」
カンナは鎧を外して、地面に腰かけてから、ゆっくりと横になる。
「今はとにかく休みたい、流石に疲れました……」
カンナが目を閉じる。
「ヒヒーン!」
「!」
カンナが目を開ける。追手が来たか。カンナはゆっくりと起き上がり、鎧を素早く身に着け、薙刀をそっと手に取る。そこに意外な人物が現れる。
「よっ」
「タイヘイ殿……」
「元気か?」
「……そう見えます?」
「そうだな、悪かった」
タイヘイが苦笑しながら後頭部をポリポリと掻く。カンナが薙刀を持つ手に力を込めながら尋ねる。
「わたくしの首を取りに来たのですか?」
「は? なんでそうなるんだ?」
タイヘイが目を丸くする。
「なんでもなにもないでしょう」
「あのなあ、俺たち一応同盟関係だろう?」
「……今のわたくしは単なる一人の女……国を追われた者です」
「単なる?」
「ええ」
「う~ん……」
タイヘイが頭を片手で抑える。
「わたくしの首を差し出した方が、意味があるでしょう」
「差し出すってどこにだよ?」
「知れたこと、わたくしが元いたあの国です」
「ああ、なるほどなあ……」
タイヘイが顎をさすりながら頷く。カンナが続ける。
「もしくは妖どもの国へ持っていくのもありかもしれませんね……」
「挨拶ついでの手土産ってやつか」
「そういうことです」
「それは嫌な手土産だな」
タイヘイが苦笑を浮かべる。カンナが地面にドカッと座り、目を閉じる。
「さあ、どうぞ……」
「……」
「………」
「…………」
「? 何をしているのです?」
カンナが目を開いて尋ねる。タイヘイが答える。
「……アンタの首には価値がない」
「なっ⁉」
カンナが愕然とする。
「だから……」
「くっ!」
カンナが懐から小刀を取り出し、自らの喉元を掻き切ろうとする。
「待て!」
「うっ!」
タイヘイが素早く手刀を繰り出し、カンナの手から小刀を叩き落とす。
「バカなことをすんじゃねえ……!」
「価値がないとまで言われて、生きる意味があるのでしょうか⁉」
「……言葉が足りなかったな」
「え?」
「今のアンタの首には価値がない」
「今の?」
「ああ、そうだ……よっと!」
「きゃっ⁉」
タイヘイが右手でカンナの背中を、左手でカンナの両脚を抱え、持ち上げる。
「……重いな、いや、鎧の分か」
「な、何をするのです!」
「まあ、そう暴れるなよ。良いとこに連れていってやるから」
「い、良いとこって……お、下ろしなさい!」
カンナは抵抗するが、タイヘイはびくともしない。ああ、そうか、こういう末路か、出来れば想像はしたくなかったが、十分考えられることであった。敗軍の将、もとい姫というのはみじめなものだなとカンナは思った。それでもしばらく抵抗は続けたが、タイヘイは自分の体をがっしりと掴んで離さない。暴れ疲れたカンナはタイヘイの腕の中で眠りにつく。
「……おい、着いたぜ」
「……⁉」
目を覚めたカンナが驚いて目を丸くする。小高い丘の上から、シモツキら三将を初め、多くの兵士たちが揃っているのが見えたからである。タイヘイはカンナを下ろして告げる。
「同盟関係は継続だ。国を取り戻して、自分の首に価値を取り戻そうじゃねえか」
「! ……分かりました!」
カンナが頷く。その目には凛々しさと美しさと力強さが戻っていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる