12 / 50
第一章
第3話(3)糸を巻きつけてからのキック
しおりを挟む
「お、お前は……!」
「パイスーのあねご!」
「姉御が来てくれた!」
「アネゴ……これで勝てる!」
「……こいつらの親分ってことか」
「親分とかなんかダサいからボスって言ってよ~」
パイスーと呼ばれた女が指で髪をくるくるとさせる。その指先から少し飛び出した白い糸がわずかに揺れる。タイヘイが目を細める。
「……蜘蛛の糸か?」
「そう」
「お前さん、人と蜘蛛を受け継ぐ『人虫』か?」
「は? 全然違うんだけど」
笑みを浮かべていたパイスーの顔つきが変わる。
「そ、その女は、人と蜘蛛の妖怪のハーフ、『人妖』です……」
「知っているのか、モリコ⁉」
「う、噂レベルですが……」
「蜘蛛……」
「油断しました……『オニグモ団』のボスが蜘蛛の流れを受け継ぐ者で、こうして蜘蛛の糸を自由自在に使えるとは……」
「……オニグモ団からある程度推測できないか?」
蜘蛛の巣でもがくモリコをタイヘイはやや呆れた視線で見上げる。パイスーが呟く。
「アホコウモリはとりあえず放っておいて……」
「だ、誰がアホコウモリよ!」
パイスーはモリコの声を無視し、タイヘイを見つめる。
「うちのかわいい鬼たちを随分とかわいがってくれたみたいじゃないの?」
「いきなり向かってきたからな、自己防衛をしたまでだ」
「ふん、いずれにせよ、お礼はさせてもらうよ……」
「む……」
パイスーが身構えたため、タイヘイも身構える。パイスーがぶつぶつと呟く。
「見た感じ、石頭の超人であり……かまいたちの斬撃も使える……ってことは、超人と妖のハーフ? あまり聞いたことがないんだけど……」
「?」
「接近するのは愚策だし、距離を取ってもヤバい……」
「さっきから何をぶつぶつと言っている?」
「……となると、やっぱりこれっしょ!」
「うおっ⁉」
パイスーが両手で銃の形を作り、その指先から大量の糸が吐き出される。大量の白い糸はあっという間にタイヘイの頭部を覆ってしまう。パイスーが笑う。
「ふふっ、うまくいった!」
「くっ、視界が……」
タイヘイが糸をほどこうとする。
「その糸はなかなかほどけないよ!」
「なに?」
「むしろほどこうとしたら余計に絡まる感じかな?」
タイヘイの頭部を覆っていた糸がさらにこんがらがる。
「~~ぐっ!」
「あ~あ、言わんこっちゃない」
パイスーがクスリと笑う。
「ならば!」
「え⁉」
タイヘイが両腕を鋭く尖らせて糸を切ろうとする。
「これなら!」
「させるかっての!」
「ぬおっ⁉」
パイスーが右手を横に振り、タイヘイの両腕と二本の大木を糸で縛り、タイヘイは両手を磔にされたようになる。パイスーが呆れ気味に苦笑する。
「かまいたちの力をハサミ扱いする奴は初めて見たわ……」
「う、腕が動かん!」
「これで、アンタは視界も奪われ、石頭も斬撃も使えない……アンタの力は抑えたよ」
「……」
「そこで黙る? 嫌な感じだね……一応、念の為……!」
「ぬ!」
パイスーは先ほどと同じ要領でタイヘイの両足を二本の大木と糸で縛りつける。タイヘイは立ったまま、大の字状態になる。
「足の自由もこれで奪った……」
「ど、どうするつもりだ⁉」
「こうするつもり!」
パイスーは自らの真後ろにそびえる大木の太い枝に糸を巻き付け、上に勢いよく舞い上がる。そのまま太い枝を支点にして何回か回転し、さらに糸を伸ばして、勢いに乗った状態でタイヘイに向かって飛び込む。モリコが声を上げる。
「タイヘイ殿!」
「な、なんだ⁉」
「パイスーキック‼」
「ぐほっ⁉」
パイスーのキックがタイヘイの腹にめり込む。
「ふふっ、勝負ありでしょ?」
「くっ……な、なんの!」
「あらまだ元気があるの? そんじゃあ、もう一丁!」
パイスーが糸を伸ばして高い木の枝に結び付け、飛び立つ。
「糸の伸縮が自在とは……!」
「それくらい出来ないとね!」
パイスーがモリコの言葉に応える余裕を見せつつ、また何回か回転する。素早い回転で、その音がタイヘイにも聞こえる。
「な、なんだ、このビュンビュンとした音は⁉」
「それを知る必要はないよ!」
パイスーが再び、回転の勢いを利用した鋭いキックを繰り出す。強烈なキックがタイヘイの腹に当たる。モリコが叫ぶ。
「タイヘイ殿‼」
「ふっ……」
「効かん!」
タイヘイがパイスーの蹴りをはね返す。パイスーが驚きながら、着地する。
「なっ……⁉」
「来ると分かっていれば、耐えられる!」
タイヘイが腹を突き出す。パイスーが首を傾げながら呟く。
「頭だけでなく、体も硬いってこと? いや、そんなことはまずありえない……全身が強化されているなんて、そんなの超人でも滅多にいないはず……」
「ぶつぶつ言っている暇があるなら、遠慮なく反撃するぞ! うおおおおっ!」
「はっ⁉」
パイスーが驚く。タイヘイが糸に結ばれたまま、両腕を動かし、大木を引き抜こうとしたからである。タイヘイがさらに声を上げる。
「うおおおおっ!」
「た、大木を引き抜く⁉ なんていう怪力よ! 一旦離れる!」
パイスーが糸を伸ばして、上方に逃れる。モリコが告げる。
「タイヘイ殿! 蜘蛛女は上に逃れました!」
「何時の方向だ⁉」
「えっと……2時の方向です!」
「そうか! ……って、聞いてはみたが、よく分からん……斜め上ら辺にいるんだな!」
タイヘイがニヤリと笑う。
「パイスーのあねご!」
「姉御が来てくれた!」
「アネゴ……これで勝てる!」
「……こいつらの親分ってことか」
「親分とかなんかダサいからボスって言ってよ~」
パイスーと呼ばれた女が指で髪をくるくるとさせる。その指先から少し飛び出した白い糸がわずかに揺れる。タイヘイが目を細める。
「……蜘蛛の糸か?」
「そう」
「お前さん、人と蜘蛛を受け継ぐ『人虫』か?」
「は? 全然違うんだけど」
笑みを浮かべていたパイスーの顔つきが変わる。
「そ、その女は、人と蜘蛛の妖怪のハーフ、『人妖』です……」
「知っているのか、モリコ⁉」
「う、噂レベルですが……」
「蜘蛛……」
「油断しました……『オニグモ団』のボスが蜘蛛の流れを受け継ぐ者で、こうして蜘蛛の糸を自由自在に使えるとは……」
「……オニグモ団からある程度推測できないか?」
蜘蛛の巣でもがくモリコをタイヘイはやや呆れた視線で見上げる。パイスーが呟く。
「アホコウモリはとりあえず放っておいて……」
「だ、誰がアホコウモリよ!」
パイスーはモリコの声を無視し、タイヘイを見つめる。
「うちのかわいい鬼たちを随分とかわいがってくれたみたいじゃないの?」
「いきなり向かってきたからな、自己防衛をしたまでだ」
「ふん、いずれにせよ、お礼はさせてもらうよ……」
「む……」
パイスーが身構えたため、タイヘイも身構える。パイスーがぶつぶつと呟く。
「見た感じ、石頭の超人であり……かまいたちの斬撃も使える……ってことは、超人と妖のハーフ? あまり聞いたことがないんだけど……」
「?」
「接近するのは愚策だし、距離を取ってもヤバい……」
「さっきから何をぶつぶつと言っている?」
「……となると、やっぱりこれっしょ!」
「うおっ⁉」
パイスーが両手で銃の形を作り、その指先から大量の糸が吐き出される。大量の白い糸はあっという間にタイヘイの頭部を覆ってしまう。パイスーが笑う。
「ふふっ、うまくいった!」
「くっ、視界が……」
タイヘイが糸をほどこうとする。
「その糸はなかなかほどけないよ!」
「なに?」
「むしろほどこうとしたら余計に絡まる感じかな?」
タイヘイの頭部を覆っていた糸がさらにこんがらがる。
「~~ぐっ!」
「あ~あ、言わんこっちゃない」
パイスーがクスリと笑う。
「ならば!」
「え⁉」
タイヘイが両腕を鋭く尖らせて糸を切ろうとする。
「これなら!」
「させるかっての!」
「ぬおっ⁉」
パイスーが右手を横に振り、タイヘイの両腕と二本の大木を糸で縛り、タイヘイは両手を磔にされたようになる。パイスーが呆れ気味に苦笑する。
「かまいたちの力をハサミ扱いする奴は初めて見たわ……」
「う、腕が動かん!」
「これで、アンタは視界も奪われ、石頭も斬撃も使えない……アンタの力は抑えたよ」
「……」
「そこで黙る? 嫌な感じだね……一応、念の為……!」
「ぬ!」
パイスーは先ほどと同じ要領でタイヘイの両足を二本の大木と糸で縛りつける。タイヘイは立ったまま、大の字状態になる。
「足の自由もこれで奪った……」
「ど、どうするつもりだ⁉」
「こうするつもり!」
パイスーは自らの真後ろにそびえる大木の太い枝に糸を巻き付け、上に勢いよく舞い上がる。そのまま太い枝を支点にして何回か回転し、さらに糸を伸ばして、勢いに乗った状態でタイヘイに向かって飛び込む。モリコが声を上げる。
「タイヘイ殿!」
「な、なんだ⁉」
「パイスーキック‼」
「ぐほっ⁉」
パイスーのキックがタイヘイの腹にめり込む。
「ふふっ、勝負ありでしょ?」
「くっ……な、なんの!」
「あらまだ元気があるの? そんじゃあ、もう一丁!」
パイスーが糸を伸ばして高い木の枝に結び付け、飛び立つ。
「糸の伸縮が自在とは……!」
「それくらい出来ないとね!」
パイスーがモリコの言葉に応える余裕を見せつつ、また何回か回転する。素早い回転で、その音がタイヘイにも聞こえる。
「な、なんだ、このビュンビュンとした音は⁉」
「それを知る必要はないよ!」
パイスーが再び、回転の勢いを利用した鋭いキックを繰り出す。強烈なキックがタイヘイの腹に当たる。モリコが叫ぶ。
「タイヘイ殿‼」
「ふっ……」
「効かん!」
タイヘイがパイスーの蹴りをはね返す。パイスーが驚きながら、着地する。
「なっ……⁉」
「来ると分かっていれば、耐えられる!」
タイヘイが腹を突き出す。パイスーが首を傾げながら呟く。
「頭だけでなく、体も硬いってこと? いや、そんなことはまずありえない……全身が強化されているなんて、そんなの超人でも滅多にいないはず……」
「ぶつぶつ言っている暇があるなら、遠慮なく反撃するぞ! うおおおおっ!」
「はっ⁉」
パイスーが驚く。タイヘイが糸に結ばれたまま、両腕を動かし、大木を引き抜こうとしたからである。タイヘイがさらに声を上げる。
「うおおおおっ!」
「た、大木を引き抜く⁉ なんていう怪力よ! 一旦離れる!」
パイスーが糸を伸ばして、上方に逃れる。モリコが告げる。
「タイヘイ殿! 蜘蛛女は上に逃れました!」
「何時の方向だ⁉」
「えっと……2時の方向です!」
「そうか! ……って、聞いてはみたが、よく分からん……斜め上ら辺にいるんだな!」
タイヘイがニヤリと笑う。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
【第1章完】ゲツアサ!~インディーズ戦隊、メジャーへの道~
阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
『戦隊ヒーロー飽和時代』、滋賀県生まれの天津凛は京都への短大進学をきっかけに、高校時代出来なかった挑戦を始めようと考えていた。
しかし、その挑戦はいきなり出鼻をくじかれ……そんな中、彼女は新たな道を見つける。
その道はライバルは多く、抜きんでるのは簡単なことではない。それでも彼女は仲間たちとともに、メジャーデビューを目指す、『戦隊ヒーロー』として!
ガダンの寛ぎお食事処
蒼緋 玲
キャラ文芸
**********************************************
とある屋敷の料理人ガダンは、
元魔術師団の魔術師で現在は
使用人として働いている。
日々の生活の中で欠かせない
三大欲求の一つ『食欲』
時には住人の心に寄り添った食事
時には酒と共に彩りある肴を提供
時には美味しさを求めて自ら買い付けへ
時には住人同士のメニュー論争まで
国有数の料理人として名を馳せても過言では
ないくらい(住人談)、元魔術師の料理人が
織り成す美味なる心の籠もったお届けもの。
その先にある安らぎと癒やしのひとときを
ご提供致します。
今日も今日とて
食堂と厨房の間にあるカウンターで
肘をつき住人の食事風景を楽しみながら眺める
ガダンとその住人のちょっとした日常のお話。
**********************************************
【一日5秒を私にください】
からの、ガダンのご飯物語です。
単独で読めますが原作を読んでいただけると、
登場キャラの人となりもわかって
味に深みが出るかもしれません(宣伝)
外部サイトにも投稿しています。
幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~
しんいち
キャラ文芸
オカルト好きの少年、「しんいち」は、小学生の時、彼が通う合気道の道場でお婆さんにつれられてきた不思議な少女と出会う。
のちに「幽子」と呼ばれる事になる少女との始めての出会いだった。
彼女には「霊感」と言われる、人の目には見えない物を感じ取る能力を秘めていた。しんいちはそんな彼女と友達になることを決意する。
そして高校生になった二人は、様々な怪奇でミステリアスな事件に関わっていくことになる。 事件を通じて出会う人々や経験は、彼らの成長を促し、友情を深めていく。
しかし、幽子にはしんいちにも秘密にしている一つの「想い」があった。
その想いとは一体何なのか?物語が進むにつれて、彼女の心の奥に秘められた真実が明らかになっていく。
友情と成長、そして幽子の隠された想いが交錯するミステリアスな物語。あなたも、しんいちと幽子の冒険に心を躍らせてみませんか?
月宮殿の王弟殿下は怪奇話がお好き
星来香文子
キャラ文芸
【あらすじ】
煌神国(こうじんこく)の貧しい少年・慧臣(えじん)は借金返済のために女と間違えられて売られてしまう。
宦官にされそうになっていたところを、女と見間違うほど美しい少年がいると噂を聞きつけた超絶美形の王弟・令月(れいげつ)に拾われ、慧臣は男として大事な部分を失わずに済む。
令月の従者として働くことになったものの、令月は怪奇話や呪具、謎の物体を集める変人だった。
見えない王弟殿下と見えちゃう従者の中華風×和風×ファンタジー×ライトホラー
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
Millennium226 【軍神マルスの娘と呼ばれた女 6】 ― 皇帝のいない如月 ―
kei
歴史・時代
周囲の外敵をことごとく鎮定し、向かうところ敵なし! 盤石に見えた帝国の政(まつりごと)。
しかし、その政体を覆す計画が密かに進行していた。
帝国の生きた守り神「軍神マルスの娘」に厳命が下る。
帝都を襲うクーデター計画を粉砕せよ!
宮廷の九訳士と後宮の生華
狭間夕
キャラ文芸
宮廷の通訳士である英明(インミン)は、文字を扱う仕事をしていることから「暗号の解読」を頼まれることもある。ある日、後宮入りした若い妃に充てられてた手紙が謎の文字で書かれていたことから、これは恋文ではないかと噂になった。真相は単純で、兄が妹に充てただけの悪意のない内容だったが、これをきっかけに静月(ジンユェ)という若い妃のことを知る。通訳士と、後宮の妃。立場は違えど、後宮に生きる華として、二人は陰謀の渦に巻き込まれることになって――
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる